8話 努力の果てに何を見る
あなたの名前は?
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トビは先日から、チャクラを有していることが判明した名前にその制御に関して指導を行っている。
それは彼の善意によるものなどではなく、万が一名前の異能──チャクラによる聴力強化が世間に露呈してしまえば、少々厄介なことになるためだった。
その時に己がこの世界にいないのならばまだいいが、いたとしたら話は別だ。
芋づる式に自分の存在が認知される可能性は高いし、その対応には手間がかかる。無用な面倒事は避けたかった。
このように、彼らしい理由は勿論あったが、その他にも説明するとすれば、完全に気まぐれによるものだった。
言うなればただの暇つぶしだ。本来の世界へ戻るまでの、実に無責任な授業。
この世界への転移を恒久的に防ぐための方法は未だ見つかっていないが、今回この世界でできる調査はほぼ終えていた。
トビが転移した場所──名前の家の前には、大量のチャクラが漂っている。恐らくトビを転移させた原因の残滓なのだろう。
しかしそれはトビが転移してから数日で薄れていき、1週間もすれば完全に霧散してしまう。
そのため、チャクラを調べることは既にできなくなっていた。これは1度目の転移の時も同様だったため、さほど驚きはなかったが。
今トビにできることは、集めたデータを元にあのチャクラがどういう質のもので、どのようにして彼を転移させているのかを考察し、防ぐための術式や方法を探ることだった。
とはいえ、ロクにチャクラの採取もできず、採取できたところで精密に調べる機器もない今の彼では、解決策を講じても仮説程度で終わってしまうだろうが。
結局、今はやや手詰まり気味だ。
休憩と煮詰まった状況への刺激として、名前への指導をしてやっているとすら言えた。実際、彼が1日のうち彼女に割く時間は1時間もない。
そして、チャクラコントロール講座は彼女の都合により放課後に行われた。
結果、トビは予想外にも名前に驚愕し、感心していた。
中々どうして、この子供は勘が鋭い。
トビが僅かにしか与えない情報を分析し、かなり正確な答えを見つけ出すのだ。
臆病で愚鈍なだけかと思っていたが、どうやら優れた点もあるようだ。
彼女の直感と思考力に関しては、トビも驚嘆に近しい感情を抱いていた。
そして、何より驚いた──というより、呆れたのは。
「ごほっごほっ、ごっふぅうお゛ぇ゛!!
あなんか視界がボヤけてきた割とヤバですねこれげほ!」
「ふざけたことを言ってないでさっさと跳べ」
「すみません! もうふざけないので久方ぶりの殺気は止めてください! 視線で焼き肉になりそうです!
でも一応止めたのには理由あるんです聞いてくださいすみません!!」
出会った初期の頃の、己に怯懦と微かな嫌悪の視線を向ける彼女の姿は影も形もなく、それはそれは命が惜しくなさそうにとぼけたことを言う名前。
どうやらこれの本来の性格は、年相応かそれ以上にふざけることが好きな剽軽なものらしいとわかったのは、つい最近だった。
以前見かけた名前と彼女の兄とのやり取りを思い返せば納得だったが、同時に意外でもあった。
いくら慣れてきたからといっても、何度も脅してきた相手にこうも気を抜くとは。
──まあ、自分のような人間に礼を言う辺り、ズレた人間だとは思っていたが……それにしてもだ。
想像していたよりもこの子供は陽気な質であることにトビは驚き、それと同じくらいの面倒臭さも感じていた。
嘆息を隠すことなく吐く辺りにその感情が滲み出ている。名前もそれはわかっているのか、困ったように表情を曇らせていた。
だが、名前もただふざけて時間を浪費したわけではないらしく、4日目にして漸く何かを掴めたらしい。
座り込んだまま息を整え、彼女は縄跳びを止めた理由を話し出す。
「やっとですが、そろそろ動けなくなりそうってところで耳をいつもみたいには澄ませてられなくなったんです。あと、同時に身体の中で何かがなくなる感じがした……ような?」
疑問形であることに少しの不安もあったが、トビは一度瞬きして写輪眼を発動した。
びくりと身じろぎしたものの大人しく黙ったままの名前を見れば、確かにただでさえ少ないチャクラは耳にも、そして身体全体にも、ほぼ完全に見えなくなっていた。
確かに、チャクラ切れと見て良いだろう。
「漸くか……まあいい。
今もその感覚は掴めているか?」
そうトビが問えば、彼女は何とも曖昧な顔つきで視線を落とした。
「何となくは、ですが。
ほぼ耳にも、あと身体にも感じませんし、それどころか消えかけてる感覚です。
でも……今更なんですけど、チャクラっていうのはスタミナとほぼ同義って、トビさんは前仰ってましたよね? なら、完全に消えるっていうのはおかしくないのかなって……」
亦ぞろ飛び出てきた、少し鋭い意見に彼は目を細めた。
確かにトビは、数日前の指導中そういう話をしてやった記憶がある。だがそれは彼女がまさに縄跳びをし続けて息を切らしている最中だったため、ロクに覚えているとは思わなかった。
数少ない情報と現状とを照らし合わせることを行うのは重要だ。
それを、体力不足でありながら二重跳びをロクに休まず100回以上跳び続けた人間がしたのであれば、驚嘆に値するだろう。
「確かにその通りだ。
だが、お前に流れるチャクラの少なさから鑑みて、お前の肉体にはチャクラは必ずしも必要というわけではないらしい。
確実ではないが……あくまで身体強化に使うエネルギーにしかなり得ないのやもしれんな」
「……えーっと、つまり?」
「お前の中のチャクラはスタミナではなく、言うなれば補助的な物質でしかない。
チャクラ切れを起こしても死に至らないのだから、ある意味メリットだろうがな」
だが、それはチャクラを自由には扱えないことと同義。
それではチャクラに形を持たせて体外へ現す──つまり、チャクラを用いて術を行使することなど、到底不可能だろう。仮に彼女のチャクラが大量にあったとしても。
あくまで推測ではあったし、制御の訓練をしていく中でどうなるかはわからないが。
改めて自らのチャクラの少なさを実感させられた名前は、明らかに落胆を表情に滲ませて落ち込んだ。
「やっぱりそうなるんですね……残念です。でも意識的にオンオフはできるようにしたいし、これからもご指導よろしくお願いします」
だが、すぐに切り替え真剣な眼差しで頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくていい。
……だが、これでチャクラを感じることは出来たようだな。ならば次の段階に入る」
「! わかりました! じゃあ早速──」
喜色満面で立ち上がる名前だったが、まるで力が抜けたかのようにがくりと再び座り込んでしまった。
何故か彼女自身がぽかんと間抜けな顔をする。
「あ、れ……おかしいな……?」
呆然としたまま、彼女はコンクリートに手をついて再度立とうとする。
だがどうにも力が入らないようで、名前の腕と足は微かに震えるものの、筋が隆起することはなかった。
「おい、どうした」
さしものトビも怪訝そうに問いかけた。
心配したわけではない。だが、彼女の突然見せた異変と、その顔色が悪くなっていることに驚かされたのだ。
もはや土気色ともいっていいほど、名前は青ざめている。
「いえ、その、立てなくて……なんでだろう……つっ!?」
途端、彼女は片手で頭を抑える。まるで頭痛でも催したかのように──否、実際頭痛に喘ぎ、堪えようと抱えてしまった。
「ぐ……っ……めっちゃ痛……!」
縄跳びを終えて暫く経つと言うのに未だ呼吸は荒く、寧ろ悪化しているようにすら見える。
トビは逡巡する間もなく、冷静なまま名前の前にしゃがんだ。
「……手を出せ」
「は、はい……」
有無を言わさぬ口調に、名前もおどけることなく従った。
トビはこの短時間でだいぶ憔悴した名前の脈を図る。予想通り、通常ではありえない早さだ。とうに100は超えているだろう。
手を離し立ち上がると、汗を滲ませて浅く呼吸を繰り返す名前を見下ろす。
殺気を帯びているようにすら感じる苛立ち混じりの視線に、彼女は逃げるように目を逸らした。
「この悪化具合からして、元々体調不良だとわかっていた筈だ。何故言わなかった」
「え? あ、いや……まさか、ここまでになるとは、思ってなくて……いや、大丈夫です」
それは決まりが悪そうに答え、名前は辛そうな表情のまま首を振り立ち上がった。
「もう、平気です。よくあることですし。無駄な時間をとらせてすみませんでした。また続きのご指導をお願いします」
「貴様は馬鹿か。今の体調で教えたところで非効率的だ。オレに無駄な時間を使わせるな」
頭の悪い発言をする名前に苛立ち、敢えて脅すように冷たく言い放つ。
しかし以前の名前からは信じられないことに彼女は必死に食い下がった。
「無駄にはしません。絶対に。
今諦めたら、それこそ全部無駄になっちゃいます。だからお願いします……!」
「……貴様、何が言いたい」
力強い、諦めを感じさせない声。あんなにも堕落していた、出会った当初の彼女と同じ人間とは思えないほどの変わり様だ。
その事実もトビには理解し難かった。
「もうすぐトビさんは帰られますし、できるうちにご指導を受けたいんです。それこそ半端で終わってしまったら、これまでかけて頂いた時間を無駄にしてしまう。それは嫌なんです、だから──」
「……ふざけているわけではないようだな。だが、熱のせいでイカれているか。
いいからさっさと部屋に戻れ。今日のお前には何を教えても無駄だ」
「そんなことは! 私、まだまだ大丈夫、ですか、ら……」
慌てて引き留めようとする彼女だったが、徐々に声は小さくなっていき、最後は呟くようにして途切れた。
そうして、崩れ落ちるようにして地面に倒れ伏した。今度は起き上がる気配もなく、ぐったりと倒れたままだった。
どうやらついに限界が来たらしく、取り繕えなくなった荒い呼吸音と微かな呻き声が聞こえる。
意識を完全に失ったようで、目は固く閉じられていた。
1つ舌打ちする。
自身の体調管理すらできない名前の愚かさと思考回路の歪さに、トビは苛立っていた。
──────────────────────
気がつかれたかもしれませんが心証が悪い時は「貴様」に戻ったり戻らなかったりしてます。
「お前」呼びになった回ですら1回「貴様」って読んでたし遅々として仲が深まらない。まあだいぶマシにはなってると思いますが……
それから、遅くなりましたがスキ押してくださった方々、ありがとうございました。大変励みになります。頑張ります。
それは彼の善意によるものなどではなく、万が一名前の異能──チャクラによる聴力強化が世間に露呈してしまえば、少々厄介なことになるためだった。
その時に己がこの世界にいないのならばまだいいが、いたとしたら話は別だ。
芋づる式に自分の存在が認知される可能性は高いし、その対応には手間がかかる。無用な面倒事は避けたかった。
このように、彼らしい理由は勿論あったが、その他にも説明するとすれば、完全に気まぐれによるものだった。
言うなればただの暇つぶしだ。本来の世界へ戻るまでの、実に無責任な授業。
この世界への転移を恒久的に防ぐための方法は未だ見つかっていないが、今回この世界でできる調査はほぼ終えていた。
トビが転移した場所──名前の家の前には、大量のチャクラが漂っている。恐らくトビを転移させた原因の残滓なのだろう。
しかしそれはトビが転移してから数日で薄れていき、1週間もすれば完全に霧散してしまう。
そのため、チャクラを調べることは既にできなくなっていた。これは1度目の転移の時も同様だったため、さほど驚きはなかったが。
今トビにできることは、集めたデータを元にあのチャクラがどういう質のもので、どのようにして彼を転移させているのかを考察し、防ぐための術式や方法を探ることだった。
とはいえ、ロクにチャクラの採取もできず、採取できたところで精密に調べる機器もない今の彼では、解決策を講じても仮説程度で終わってしまうだろうが。
結局、今はやや手詰まり気味だ。
休憩と煮詰まった状況への刺激として、名前への指導をしてやっているとすら言えた。実際、彼が1日のうち彼女に割く時間は1時間もない。
そして、チャクラコントロール講座は彼女の都合により放課後に行われた。
結果、トビは予想外にも名前に驚愕し、感心していた。
中々どうして、この子供は勘が鋭い。
トビが僅かにしか与えない情報を分析し、かなり正確な答えを見つけ出すのだ。
臆病で愚鈍なだけかと思っていたが、どうやら優れた点もあるようだ。
彼女の直感と思考力に関しては、トビも驚嘆に近しい感情を抱いていた。
そして、何より驚いた──というより、呆れたのは。
「ごほっごほっ、ごっふぅうお゛ぇ゛!!
あなんか視界がボヤけてきた割とヤバですねこれげほ!」
「ふざけたことを言ってないでさっさと跳べ」
「すみません! もうふざけないので久方ぶりの殺気は止めてください! 視線で焼き肉になりそうです!
でも一応止めたのには理由あるんです聞いてくださいすみません!!」
出会った初期の頃の、己に怯懦と微かな嫌悪の視線を向ける彼女の姿は影も形もなく、それはそれは命が惜しくなさそうにとぼけたことを言う名前。
どうやらこれの本来の性格は、年相応かそれ以上にふざけることが好きな剽軽なものらしいとわかったのは、つい最近だった。
以前見かけた名前と彼女の兄とのやり取りを思い返せば納得だったが、同時に意外でもあった。
いくら慣れてきたからといっても、何度も脅してきた相手にこうも気を抜くとは。
──まあ、自分のような人間に礼を言う辺り、ズレた人間だとは思っていたが……それにしてもだ。
想像していたよりもこの子供は陽気な質であることにトビは驚き、それと同じくらいの面倒臭さも感じていた。
嘆息を隠すことなく吐く辺りにその感情が滲み出ている。名前もそれはわかっているのか、困ったように表情を曇らせていた。
だが、名前もただふざけて時間を浪費したわけではないらしく、4日目にして漸く何かを掴めたらしい。
座り込んだまま息を整え、彼女は縄跳びを止めた理由を話し出す。
「やっとですが、そろそろ動けなくなりそうってところで耳をいつもみたいには澄ませてられなくなったんです。あと、同時に身体の中で何かがなくなる感じがした……ような?」
疑問形であることに少しの不安もあったが、トビは一度瞬きして写輪眼を発動した。
びくりと身じろぎしたものの大人しく黙ったままの名前を見れば、確かにただでさえ少ないチャクラは耳にも、そして身体全体にも、ほぼ完全に見えなくなっていた。
確かに、チャクラ切れと見て良いだろう。
「漸くか……まあいい。
今もその感覚は掴めているか?」
そうトビが問えば、彼女は何とも曖昧な顔つきで視線を落とした。
「何となくは、ですが。
ほぼ耳にも、あと身体にも感じませんし、それどころか消えかけてる感覚です。
でも……今更なんですけど、チャクラっていうのはスタミナとほぼ同義って、トビさんは前仰ってましたよね? なら、完全に消えるっていうのはおかしくないのかなって……」
亦ぞろ飛び出てきた、少し鋭い意見に彼は目を細めた。
確かにトビは、数日前の指導中そういう話をしてやった記憶がある。だがそれは彼女がまさに縄跳びをし続けて息を切らしている最中だったため、ロクに覚えているとは思わなかった。
数少ない情報と現状とを照らし合わせることを行うのは重要だ。
それを、体力不足でありながら二重跳びをロクに休まず100回以上跳び続けた人間がしたのであれば、驚嘆に値するだろう。
「確かにその通りだ。
だが、お前に流れるチャクラの少なさから鑑みて、お前の肉体にはチャクラは必ずしも必要というわけではないらしい。
確実ではないが……あくまで身体強化に使うエネルギーにしかなり得ないのやもしれんな」
「……えーっと、つまり?」
「お前の中のチャクラはスタミナではなく、言うなれば補助的な物質でしかない。
チャクラ切れを起こしても死に至らないのだから、ある意味メリットだろうがな」
だが、それはチャクラを自由には扱えないことと同義。
それではチャクラに形を持たせて体外へ現す──つまり、チャクラを用いて術を行使することなど、到底不可能だろう。仮に彼女のチャクラが大量にあったとしても。
あくまで推測ではあったし、制御の訓練をしていく中でどうなるかはわからないが。
改めて自らのチャクラの少なさを実感させられた名前は、明らかに落胆を表情に滲ませて落ち込んだ。
「やっぱりそうなるんですね……残念です。でも意識的にオンオフはできるようにしたいし、これからもご指導よろしくお願いします」
だが、すぐに切り替え真剣な眼差しで頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくていい。
……だが、これでチャクラを感じることは出来たようだな。ならば次の段階に入る」
「! わかりました! じゃあ早速──」
喜色満面で立ち上がる名前だったが、まるで力が抜けたかのようにがくりと再び座り込んでしまった。
何故か彼女自身がぽかんと間抜けな顔をする。
「あ、れ……おかしいな……?」
呆然としたまま、彼女はコンクリートに手をついて再度立とうとする。
だがどうにも力が入らないようで、名前の腕と足は微かに震えるものの、筋が隆起することはなかった。
「おい、どうした」
さしものトビも怪訝そうに問いかけた。
心配したわけではない。だが、彼女の突然見せた異変と、その顔色が悪くなっていることに驚かされたのだ。
もはや土気色ともいっていいほど、名前は青ざめている。
「いえ、その、立てなくて……なんでだろう……つっ!?」
途端、彼女は片手で頭を抑える。まるで頭痛でも催したかのように──否、実際頭痛に喘ぎ、堪えようと抱えてしまった。
「ぐ……っ……めっちゃ痛……!」
縄跳びを終えて暫く経つと言うのに未だ呼吸は荒く、寧ろ悪化しているようにすら見える。
トビは逡巡する間もなく、冷静なまま名前の前にしゃがんだ。
「……手を出せ」
「は、はい……」
有無を言わさぬ口調に、名前もおどけることなく従った。
トビはこの短時間でだいぶ憔悴した名前の脈を図る。予想通り、通常ではありえない早さだ。とうに100は超えているだろう。
手を離し立ち上がると、汗を滲ませて浅く呼吸を繰り返す名前を見下ろす。
殺気を帯びているようにすら感じる苛立ち混じりの視線に、彼女は逃げるように目を逸らした。
「この悪化具合からして、元々体調不良だとわかっていた筈だ。何故言わなかった」
「え? あ、いや……まさか、ここまでになるとは、思ってなくて……いや、大丈夫です」
それは決まりが悪そうに答え、名前は辛そうな表情のまま首を振り立ち上がった。
「もう、平気です。よくあることですし。無駄な時間をとらせてすみませんでした。また続きのご指導をお願いします」
「貴様は馬鹿か。今の体調で教えたところで非効率的だ。オレに無駄な時間を使わせるな」
頭の悪い発言をする名前に苛立ち、敢えて脅すように冷たく言い放つ。
しかし以前の名前からは信じられないことに彼女は必死に食い下がった。
「無駄にはしません。絶対に。
今諦めたら、それこそ全部無駄になっちゃいます。だからお願いします……!」
「……貴様、何が言いたい」
力強い、諦めを感じさせない声。あんなにも堕落していた、出会った当初の彼女と同じ人間とは思えないほどの変わり様だ。
その事実もトビには理解し難かった。
「もうすぐトビさんは帰られますし、できるうちにご指導を受けたいんです。それこそ半端で終わってしまったら、これまでかけて頂いた時間を無駄にしてしまう。それは嫌なんです、だから──」
「……ふざけているわけではないようだな。だが、熱のせいでイカれているか。
いいからさっさと部屋に戻れ。今日のお前には何を教えても無駄だ」
「そんなことは! 私、まだまだ大丈夫、ですか、ら……」
慌てて引き留めようとする彼女だったが、徐々に声は小さくなっていき、最後は呟くようにして途切れた。
そうして、崩れ落ちるようにして地面に倒れ伏した。今度は起き上がる気配もなく、ぐったりと倒れたままだった。
どうやらついに限界が来たらしく、取り繕えなくなった荒い呼吸音と微かな呻き声が聞こえる。
意識を完全に失ったようで、目は固く閉じられていた。
1つ舌打ちする。
自身の体調管理すらできない名前の愚かさと思考回路の歪さに、トビは苛立っていた。
──────────────────────
気がつかれたかもしれませんが心証が悪い時は「貴様」に戻ったり戻らなかったりしてます。
「お前」呼びになった回ですら1回「貴様」って読んでたし遅々として仲が深まらない。まあだいぶマシにはなってると思いますが……
それから、遅くなりましたがスキ押してくださった方々、ありがとうございました。大変励みになります。頑張ります。