8話 努力の果てに何を見る
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「お前、最近あいつと何してんの?」
興味がなさそうでいて、少し緊張に張り詰めた声。
兄さんからそう尋ねられたのは、コンビニにお菓子を買いに行こうとした彼に何か奢ってもらおうとついていった、その帰りの道でだった。
月明かりと僅かな街灯だけが道を照らす。
歩を止めぬまま前を見ている兄さんの表情はわからない。
車通りの少ない並木道で、私はアイスクリームを齧ったままの姿勢で固まってしまった。
突然すぎて何を聞かれているのかよくわからなかった。
思わず小さく首を捻れば兄さんは立ち止まり、振り返る。暗くてわかりづらかったが、少し苛立ったように眉根を寄せているのは見えた。
「だから、あの男と何してんの。最近中庭で何かしてるじゃん。縄跳びやってなかった、お前?」
なるほど、トビの話だったのか。
「あー……まあね」
思わず口籠ってしまう。
同じ家に住む者同士なわけだし、見られるかもなあとは思っていたが。
やはり、いざ見られると恥ずかしい。そして同じくらい、どう誤魔化そうか悩んでしまった。
かといって、兄さん相手に適当な誤魔化しは通じない。
チャクラ云々は伏せておきたいし、上手く誤魔化したい、けど……
「………………………………色々あって、あの人に縄跳び指導をしてもらうことになったんだよ」
「それロクにNARUTO見てなかった母さんでも信じないからな」
ですよね、なんて共感は胸の内に留めておく。
これで誤魔化されたら熱がないか心配していた。
……というか、もしかして。
兄さんはこの話をするために、普段なら奢らされるから嫌がるはずのコンビニへの同行を「いいぞ」と快諾したのか。
万が一トビに聞かれる可能性を考慮して。
……そうなると、かなり真剣に聞いているみたいだし、誤魔化すのは無理そうだ。
あまり気は進まないが、全て話してしまうことにした。
あの日呼ばれた後にトビから聞かされたこと。私の異常な聴力の原因、チャクラのこと、そしてそれを扱えるようにと指導してくれるトビのことを。
「……………………いや、うん。聞いたのはオレだけどさ……そんな話いきなり聞かされると逆に混乱するからやめてくれない?」
「理不尽!!」
案の定だが、兄さんはかなり困惑した様子で目を瞬かせていた。
「えーと、お前の耳の良さはチャクラが原因で、何故かお前にはチャクラがあって……」ぶつぶつと反復し、なんとか噛み砕こうとしているものの、中々非現実的すぎて時間がかかるようだった。
「あのさ、マジでお前にチャクラがある証拠とかあったの?」
「いや、それはないかな……ただ、写輪眼を使ってまで私にチャクラがあるか調べてたし。それに、あの人がこんな無意味なことで嘘はつかないと思う」
「それはまあ、そうだな」
どう考えても、こんな嘘をついたところで彼に益はない。
兄さんもそれはわかるからか、すぐに疑念は霧散したらしく、だからこそさらに難しそうな顔になった。
「なんでお前にマンガの世界の力とかあるんだ……いや、まあ、それはトビが実在してる時点で不毛か」
たしかに。いわれてみたらまずトビが存在していて喋っていることのほうがよっぽどおかしい。今更気がつくとは。
「って、それじゃお前忍術使えるの?」
「いや、なんかあり得んほどチャクラが少ないそうでそういうのは無理みたい。聴力の強化とかしかロクに機能してないらしいよ」
「あー……ドンマイ」
やめてくれ、そんな哀れむ目で見るのは。
兄さんと私は昔からNARUTOが結構好きだったし、よくごっこ遊びで原作キャラやオリジナルの忍になりきっていた。
私なんか、兄さん以上にその遊びにハマっていたからそれはもう熱を上げて忍術をバリバリ使う役を演じていた。
兄さんからしたら、そんな憧れていたものを力不足で扱えないのは哀れみを覚えるのだろう。ええ死ぬほど悔しいですがそれが何か。
「……え? てかさ、オレとか母さんとか父さんとかはチャクラねーの?」
「トビに聞いてはないけど、多分ないんじゃない?
多分私にあるってわかった時点で兄さん達も調べてそうだけど、何もいってこないし」
納得したらしく兄さんはそれもそっか、と頷いた。
それに、もし兄さん達がチャクラを持っていたら、私と同じように身体能力の一部を無意識に強化していたのではないか。
私以外の家族にはそういう特徴はないし、やはりチャクラはないのだろう。
「そうなると遺伝とかじゃねーのかな……いや、隔世遺伝っつーこともあり得るか」
「……え? いや、待ってよ。なんで私らの先祖が出てくるの?」
「あり得なくはないだろ。
トビはオレらの世界に意図せずやってきた。過去に同じようにこの世界に飛ばされたNARUTO世界の人間とかいないとは限らなくね?」
……それは、確かに。
家族にチャクラがあるかもという可能性は私も検討したのに、なんでそこまで頭が回らなかったんだろうか。悔しい。
兄さんは勉強する時みたいな真剣な顔のまま、並木道を歩いていく。横並びに歩きつつ、私は静かに耳を傾けた。
「あいつって時空間忍術を使うだろ。違う世界同士を繋げたり、飛んだりするような能力を持ってる。それに滅茶苦茶強い。
そんな奴だから帰る方法を見つけられただけで、普通の奴がここに飛ばされたら永住する羽目になりそうじゃね?」
それは、その通りだ。
恐らく彼が帰る手段として用いるのは時空間忍術なのだろうと私も考えていた。
得意な術として扱う彼だからこそなんとかできただけで、その手の忍術を使えない者、もしくは、チャクラを持っていてもただの一般人として生活している者ならば、この世界に飛ばされた場合帰るのは至難の業だろう。
……だが。
「……私はさ、トビみたいな時空間忍術の使い手だからこそ異世界トリップなんてものに巻き込まれたのかも、って思ってたんだ。
普通の人はそもそもこの世界に来ないんじゃないかって」
私の言葉に兄さんは沈黙する。そうして、それを吟味するかのように目を伏せた。
「それはあるかもな。というか、そっちのが濃厚かもしれない。
………………いや、やめた。こんなの考えても結局答え出ねーし、意味ないし」
「えー。一緒に考えようよ」
「嫌でーす、オレは面倒なことには関わりたくないんでーす」
ひらひらと手を振って、兄さんは歩くペースを行きと同じくらいにした。
既にアイスも食べきったので、私も慌てて小走りでついていく。
実際、私たちには何もわからない。
どれだけ推測したところで、確証を得る手段は持ち得ない。
トビのようにもっとチャクラや忍術についての知識があったりすれば──いやそもそも、トビがどういう状況で、どんな風にこの世界に飛ばされるのか、知ることができれば。
……そんなの、聞けるわけもないけど。
「あ、そうだ。オレNARUTOの63巻まで読んだんだけど、ネタバレしていいか?」
「ヤダヤダヤダヤダやめろ!!!!!!!!!!!! 聞いたらあいつのこともっと怖くなりそうだから聞きたくない!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「声デカ……」
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63巻は血まツリーの巻ですね。
興味がなさそうでいて、少し緊張に張り詰めた声。
兄さんからそう尋ねられたのは、コンビニにお菓子を買いに行こうとした彼に何か奢ってもらおうとついていった、その帰りの道でだった。
月明かりと僅かな街灯だけが道を照らす。
歩を止めぬまま前を見ている兄さんの表情はわからない。
車通りの少ない並木道で、私はアイスクリームを齧ったままの姿勢で固まってしまった。
突然すぎて何を聞かれているのかよくわからなかった。
思わず小さく首を捻れば兄さんは立ち止まり、振り返る。暗くてわかりづらかったが、少し苛立ったように眉根を寄せているのは見えた。
「だから、あの男と何してんの。最近中庭で何かしてるじゃん。縄跳びやってなかった、お前?」
なるほど、トビの話だったのか。
「あー……まあね」
思わず口籠ってしまう。
同じ家に住む者同士なわけだし、見られるかもなあとは思っていたが。
やはり、いざ見られると恥ずかしい。そして同じくらい、どう誤魔化そうか悩んでしまった。
かといって、兄さん相手に適当な誤魔化しは通じない。
チャクラ云々は伏せておきたいし、上手く誤魔化したい、けど……
「………………………………色々あって、あの人に縄跳び指導をしてもらうことになったんだよ」
「それロクにNARUTO見てなかった母さんでも信じないからな」
ですよね、なんて共感は胸の内に留めておく。
これで誤魔化されたら熱がないか心配していた。
……というか、もしかして。
兄さんはこの話をするために、普段なら奢らされるから嫌がるはずのコンビニへの同行を「いいぞ」と快諾したのか。
万が一トビに聞かれる可能性を考慮して。
……そうなると、かなり真剣に聞いているみたいだし、誤魔化すのは無理そうだ。
あまり気は進まないが、全て話してしまうことにした。
あの日呼ばれた後にトビから聞かされたこと。私の異常な聴力の原因、チャクラのこと、そしてそれを扱えるようにと指導してくれるトビのことを。
「……………………いや、うん。聞いたのはオレだけどさ……そんな話いきなり聞かされると逆に混乱するからやめてくれない?」
「理不尽!!」
案の定だが、兄さんはかなり困惑した様子で目を瞬かせていた。
「えーと、お前の耳の良さはチャクラが原因で、何故かお前にはチャクラがあって……」ぶつぶつと反復し、なんとか噛み砕こうとしているものの、中々非現実的すぎて時間がかかるようだった。
「あのさ、マジでお前にチャクラがある証拠とかあったの?」
「いや、それはないかな……ただ、写輪眼を使ってまで私にチャクラがあるか調べてたし。それに、あの人がこんな無意味なことで嘘はつかないと思う」
「それはまあ、そうだな」
どう考えても、こんな嘘をついたところで彼に益はない。
兄さんもそれはわかるからか、すぐに疑念は霧散したらしく、だからこそさらに難しそうな顔になった。
「なんでお前にマンガの世界の力とかあるんだ……いや、まあ、それはトビが実在してる時点で不毛か」
たしかに。いわれてみたらまずトビが存在していて喋っていることのほうがよっぽどおかしい。今更気がつくとは。
「って、それじゃお前忍術使えるの?」
「いや、なんかあり得んほどチャクラが少ないそうでそういうのは無理みたい。聴力の強化とかしかロクに機能してないらしいよ」
「あー……ドンマイ」
やめてくれ、そんな哀れむ目で見るのは。
兄さんと私は昔からNARUTOが結構好きだったし、よくごっこ遊びで原作キャラやオリジナルの忍になりきっていた。
私なんか、兄さん以上にその遊びにハマっていたからそれはもう熱を上げて忍術をバリバリ使う役を演じていた。
兄さんからしたら、そんな憧れていたものを力不足で扱えないのは哀れみを覚えるのだろう。ええ死ぬほど悔しいですがそれが何か。
「……え? てかさ、オレとか母さんとか父さんとかはチャクラねーの?」
「トビに聞いてはないけど、多分ないんじゃない?
多分私にあるってわかった時点で兄さん達も調べてそうだけど、何もいってこないし」
納得したらしく兄さんはそれもそっか、と頷いた。
それに、もし兄さん達がチャクラを持っていたら、私と同じように身体能力の一部を無意識に強化していたのではないか。
私以外の家族にはそういう特徴はないし、やはりチャクラはないのだろう。
「そうなると遺伝とかじゃねーのかな……いや、隔世遺伝っつーこともあり得るか」
「……え? いや、待ってよ。なんで私らの先祖が出てくるの?」
「あり得なくはないだろ。
トビはオレらの世界に意図せずやってきた。過去に同じようにこの世界に飛ばされたNARUTO世界の人間とかいないとは限らなくね?」
……それは、確かに。
家族にチャクラがあるかもという可能性は私も検討したのに、なんでそこまで頭が回らなかったんだろうか。悔しい。
兄さんは勉強する時みたいな真剣な顔のまま、並木道を歩いていく。横並びに歩きつつ、私は静かに耳を傾けた。
「あいつって時空間忍術を使うだろ。違う世界同士を繋げたり、飛んだりするような能力を持ってる。それに滅茶苦茶強い。
そんな奴だから帰る方法を見つけられただけで、普通の奴がここに飛ばされたら永住する羽目になりそうじゃね?」
それは、その通りだ。
恐らく彼が帰る手段として用いるのは時空間忍術なのだろうと私も考えていた。
得意な術として扱う彼だからこそなんとかできただけで、その手の忍術を使えない者、もしくは、チャクラを持っていてもただの一般人として生活している者ならば、この世界に飛ばされた場合帰るのは至難の業だろう。
……だが。
「……私はさ、トビみたいな時空間忍術の使い手だからこそ異世界トリップなんてものに巻き込まれたのかも、って思ってたんだ。
普通の人はそもそもこの世界に来ないんじゃないかって」
私の言葉に兄さんは沈黙する。そうして、それを吟味するかのように目を伏せた。
「それはあるかもな。というか、そっちのが濃厚かもしれない。
………………いや、やめた。こんなの考えても結局答え出ねーし、意味ないし」
「えー。一緒に考えようよ」
「嫌でーす、オレは面倒なことには関わりたくないんでーす」
ひらひらと手を振って、兄さんは歩くペースを行きと同じくらいにした。
既にアイスも食べきったので、私も慌てて小走りでついていく。
実際、私たちには何もわからない。
どれだけ推測したところで、確証を得る手段は持ち得ない。
トビのようにもっとチャクラや忍術についての知識があったりすれば──いやそもそも、トビがどういう状況で、どんな風にこの世界に飛ばされるのか、知ることができれば。
……そんなの、聞けるわけもないけど。
「あ、そうだ。オレNARUTOの63巻まで読んだんだけど、ネタバレしていいか?」
「ヤダヤダヤダヤダやめろ!!!!!!!!!!!! 聞いたらあいつのこともっと怖くなりそうだから聞きたくない!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「声デカ……」
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63巻は血まツリーの巻ですね。