7話 不思議な君と意外な話
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
返された問いに、私は納得のようなものと高まる緊張による恐怖を覚えた。
やはり、その話か。
……いや、ひとまず落ち着こう。
今のトビは前みたいに怖い気配じゃない。それにわざわざ話を持ちかけてきた側だ。
この話をまたしたところで、いきなり手を出してくるなんてことは、ない。
ゆっくりと、一言一言しっかり考えた上で言葉を紡ぐ。
「私がなんで、トビさんが部屋を出ていったことに気がつけたのか、ですか?」
「そうだ」
幸いなことに、トビの声は特に変わらず落ち着いたままだったから、少しだけ安堵が湧いた。
心中で胸を撫で下ろしつつ、トビが再び語り出すのを黙って聞くことにした。
「以前にも言った通り、お前のそれは異常だ。
この平和な世界にいるお前にそんな人並外れた聴力があるのはな」
異常者呼ばわりされたようでむっとしかけるが、論点はそこではないので胸中に押し留める。
今重視すべきはトビの話を趣旨を理解すること。こいつの話し方が人に気を遣わないものだなんてこと、とっくに知っている。
「でも、私にもなんでトビさんの足音がわかったのかは、わからないんです。
凄く変な話だとは思うんですけど……私、集中して聞こうとするか、逆にぼんやりしてるかじゃないと、普通の人と同じくらいの聴力なんです」
それこそ、トビの一件とさっきの出来事を思い返せばわかりやすいだろうか。
さっきの私は、兄さんと大音量のゲームに熱中していたからトビの足音を気取れなかった。
恐らくゲームの音量が小さいか、もしくはゲームにそこまで関心がなくてぼんやりしているかだったら前みたいにわかった、と思う。確信はないけど。
あの一件の時は音楽をヘッドホンで聴いていたが、自分の不甲斐なさやトビの不思議さで悶々としており、音楽に没頭していなかった。
加えて、中学生が買うような安物のヘッドホンの遮音性は高くない。
これらの要因によって、私は音楽に集中できず、ぼんやりしている状態と言って差し支えなかった。
そして、日常生活では兄さんの方が耳が良いのも、私の奇妙な聴力の謎を深めている。
最小音量で鳴らされた着信音に気づいたり、車が側溝の鉄板を踏む音から母さんの帰宅に気づいたりするのは、大体兄さんのほうが先だった。普段の私の聴力は並程度と言えるだろう。
どうして場合によってここまで調子が変わるのか、私にもよくわからなかった。
トビは沈黙する。やはり荒唐無稽な話だから怪しんでしまったのだろうか。
おまけにじっと顔辺りを見つめられているような気がしたから、またもや怖くなってきて視線を足元に落とした。
……気のせい、だろうか。なんだか今までにないくらい、じーっと、睨まれている、ような……しかもなんとなく、視線を落とす前に赤色が見えた、ような……
空気がかなり張り詰めている。気がする。
もしかしたら、冗談抜きで本当に悲鳴あげる羽目になるのかもしれない。
あまり良いとは思えない未来を幻視して、私は内心泣きそうになった。
それから数秒後、トビはふっと空気を緩め、とんでもないことを呟いた。
「集中するか、気を抜いている状態か、か。
成る程、そういうことか……」
まるで何かを理解したかのようなトビの台詞に目を見開いてしまう。
さっきまでの彼への恐怖なんか完全に忘れて、えっ、と呟いてしまった。
「何か、ご存知なんですか!?」
まさか、これだけのやり取りと話だけで何かわかったのだろうか。
トビは変わらず静かなままだ。目を逸らしてしまいそうになるのは堪えて、頼み込むようにじっと見つめて答えを待った。
「順を追って話す。少し落ち着け」
「は、はい……」
身を乗り出しそうな勢いだったからだろう、少し鬱陶しそうにそういうので仕方なく頷き、口を閉じた。
私が平静を取り戻したのを確認してから、トビは淡々と前置きする。
「勿論オレにもわからない点は多い。推測が多くなることは理解しておけ」
「わかりました」
力強く首肯する。推測だろうと何だろうと、答えに近づけるのなら別にいい。
期待に胸を膨らませて話し出すのを待ったが、いざトビが語りだした内容は、あまりにも脈絡がなく感じられた。
「まず、オレの世界にある物質について説明する。
オレたち忍はチャクラという先天的なエネルギーを持っており、それを用いて忍術や幻術を行使する」
「……?」
なるほどわからん。何故にチャクラ講座が開講したのだ。
原作既読者としては復習できて楽しい!みたいな気持ちにはなるが、今このタイミングで話されてもなんで?という気持ちのほうが強い。
彼の理解できない行動に対してあからさまに不可解そうな反応をしてしまった。
しかしトビはそんな私を気にもせず、淡々と語り続ける。
「チャクラというのは、精神エネルギーと身体エネルギーを総称したものだ。お前にはわからんだろうがな」
「はい。エネルギーどうこういわれても、そんなの私……というより、この世界の誰にもないですし……」
一応知ってはいるけど、原作を読んだのも随分前になってしまったからあまり覚えていない。そういえば精神と身体のエネルギーだったかな、チャクラって。まあ私には関係ありませんけど。
しかしトビは、何故かかぶりを振った。
「お前にはない、というのは誤りだ。
お前にもチャクラはある」