5話 寄せられぬ感謝
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母さんと周囲の大人からの比較と、自分の地力の無さに苦痛を覚えた私は、ある日学校を休むようになった。
なんてことはない、2、3日だけ休んで、それで元気が出たら学校に行こうと思っていた。
そうしたらきっとまた頑張れる。
母さんに褒めてもらいたい。そんな不純な理由だけど、何にせよ目標を持って勉強を続けられる。だから少し休もう。
引きこもりだした当初の理由は、そんな安易なものだった。
私は3日を過ぎても学校に行けなかった。
仮病を使って母さんに休みたい旨を伝える。今まで然程休んだことのなかった私だったから、初めは疑われなかった。
学力・学歴重視の両親を説得できたのは奇跡といっていいだろう。
でも、今ではその奇跡すらも憎らしく感じる。
辛さを我慢して学校に行っていれば、劣等感はあっても普通の中学生としていられたかもしれないから。
4日目になっても行けなかった。
漸く危機感を覚え始めた私は、仕方なく自室で教科書を開いた。そして、すぐに異変に気がついた。
シャーペンを握れない。文字を直視できない。計算しようとするだけで目眩が治らない。
勉強すること自体が、怖くなってしまったのだ。
努力しても、成果が出ないことが多いのを私は知っていた。無力感が凄まじく、諦めてしまうようになったのだ。
当時私は、最大限努力していたつもりだったから。
兄さんに追いつけないのは、ひとえに才能がないからだと思っていた。
私の努力は足りていると信じていたかった。
次第に苛立っていく母さんたちに申し訳なく思いながらも、どうしても外に出ることも、勉強することも出来なくなっていた。
そんなことは恥ずかしいから到底誰にも言えなくて、尚のこと焦るばかりだった。
そうしているうちに、もう今更何食わぬ顔で学校に行くには無理があるほど時間が過ぎていて。
私はとうとう、必要最低限の勉強時間すらも放って棄てた。
時折課題はやるけれど、それはまだわかる範囲だったからだ。
おそらく今後の課程に突入すればわからない部分も増えるだろう。そんなことはわかっていたけれど、今に至るまで私は、学校も勉強も放棄していた。
もともと帰宅部だったから部活に対する負い目とかもなかった。習い事など言わずもがな。
「あんた本当に高校どうするの!? このままじゃどこにも行けないわよ!」
教育熱心な母さんは、いつも怒るようになった。
「お前、オレよりいい高校行くって言ってたよな?」
兄さんは……何も変わらなかった。
昔同様、正面から喧嘩を売ってくれた。
兄さんなりに私に発破をかけていたのだと気づいたのは、つい最近だったけれど。
「……せめて、高校は行けよ」
母さんよりもっと教育熱心だった筈の父さんは、私になんの期待もしなくなった。
焦れば焦るほど、私は後悔を繰り返した。
なんであのとき学校に行ってみようって思わなかったんだ。どうして学校をサボろうなんて考えたんだ。
全部自業自得で追い詰められた私は、嫌がる本心を無視して無理矢理行ってみることにした。
足が震えた。
真っ直ぐ立っていることすらできなくなって、頭痛が凄まじい。
自然と呼吸は荒くなって、私はお手洗いに駆け込んだ。
まさか学校に行くだけで吐くなんて、当時は思いもしなかった。
胃の中のものを全部戻す惨めさに涙が溢れた。
なんで私、こんな当たり前のことも他の人みたいにできないんだろう。
2年の春から、私はもうほとんど学校へ行っていない。
今更何になるとは思えるけど、それでも。
やはり私には、比較されることは耐えられないと思うけど──そもそもそんな私がくだらないのだと、ようやく割り切れたから。
学校にちゃんと通おう。
これ以上引きこもれば、私に変わるチャンスは来なくなる。
こんなゴミみたいな私にも、何かの価値があるかもしれない。
いや、あってほしい。
あると思いたいからこそ、頑張る私でいたい。
2年の秋、皮肉にも嫌悪していたトビのおかげで学校に行くことを決心した。
吐こうが泣こうが行ってやる。這いつくばってでも何をしてでも、今度こそ変わらなくちゃ。
────────────────────────
主人公が行くべきは学校より先にカウンセリングなのですが、誰にも内情を話す気がないのでそんなの考えてすらいません。
なんてことはない、2、3日だけ休んで、それで元気が出たら学校に行こうと思っていた。
そうしたらきっとまた頑張れる。
母さんに褒めてもらいたい。そんな不純な理由だけど、何にせよ目標を持って勉強を続けられる。だから少し休もう。
引きこもりだした当初の理由は、そんな安易なものだった。
私は3日を過ぎても学校に行けなかった。
仮病を使って母さんに休みたい旨を伝える。今まで然程休んだことのなかった私だったから、初めは疑われなかった。
学力・学歴重視の両親を説得できたのは奇跡といっていいだろう。
でも、今ではその奇跡すらも憎らしく感じる。
辛さを我慢して学校に行っていれば、劣等感はあっても普通の中学生としていられたかもしれないから。
4日目になっても行けなかった。
漸く危機感を覚え始めた私は、仕方なく自室で教科書を開いた。そして、すぐに異変に気がついた。
シャーペンを握れない。文字を直視できない。計算しようとするだけで目眩が治らない。
勉強すること自体が、怖くなってしまったのだ。
努力しても、成果が出ないことが多いのを私は知っていた。無力感が凄まじく、諦めてしまうようになったのだ。
当時私は、最大限努力していたつもりだったから。
兄さんに追いつけないのは、ひとえに才能がないからだと思っていた。
私の努力は足りていると信じていたかった。
次第に苛立っていく母さんたちに申し訳なく思いながらも、どうしても外に出ることも、勉強することも出来なくなっていた。
そんなことは恥ずかしいから到底誰にも言えなくて、尚のこと焦るばかりだった。
そうしているうちに、もう今更何食わぬ顔で学校に行くには無理があるほど時間が過ぎていて。
私はとうとう、必要最低限の勉強時間すらも放って棄てた。
時折課題はやるけれど、それはまだわかる範囲だったからだ。
おそらく今後の課程に突入すればわからない部分も増えるだろう。そんなことはわかっていたけれど、今に至るまで私は、学校も勉強も放棄していた。
もともと帰宅部だったから部活に対する負い目とかもなかった。習い事など言わずもがな。
「あんた本当に高校どうするの!? このままじゃどこにも行けないわよ!」
教育熱心な母さんは、いつも怒るようになった。
「お前、オレよりいい高校行くって言ってたよな?」
兄さんは……何も変わらなかった。
昔同様、正面から喧嘩を売ってくれた。
兄さんなりに私に発破をかけていたのだと気づいたのは、つい最近だったけれど。
「……せめて、高校は行けよ」
母さんよりもっと教育熱心だった筈の父さんは、私になんの期待もしなくなった。
焦れば焦るほど、私は後悔を繰り返した。
なんであのとき学校に行ってみようって思わなかったんだ。どうして学校をサボろうなんて考えたんだ。
全部自業自得で追い詰められた私は、嫌がる本心を無視して無理矢理行ってみることにした。
足が震えた。
真っ直ぐ立っていることすらできなくなって、頭痛が凄まじい。
自然と呼吸は荒くなって、私はお手洗いに駆け込んだ。
まさか学校に行くだけで吐くなんて、当時は思いもしなかった。
胃の中のものを全部戻す惨めさに涙が溢れた。
なんで私、こんな当たり前のことも他の人みたいにできないんだろう。
2年の春から、私はもうほとんど学校へ行っていない。
今更何になるとは思えるけど、それでも。
やはり私には、比較されることは耐えられないと思うけど──そもそもそんな私がくだらないのだと、ようやく割り切れたから。
学校にちゃんと通おう。
これ以上引きこもれば、私に変わるチャンスは来なくなる。
こんなゴミみたいな私にも、何かの価値があるかもしれない。
いや、あってほしい。
あると思いたいからこそ、頑張る私でいたい。
2年の秋、皮肉にも嫌悪していたトビのおかげで学校に行くことを決心した。
吐こうが泣こうが行ってやる。這いつくばってでも何をしてでも、今度こそ変わらなくちゃ。
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主人公が行くべきは学校より先にカウンセリングなのですが、誰にも内情を話す気がないのでそんなの考えてすらいません。