4話 比べるべきは
あなたの名前は?
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昼過ぎ、私はのそのそと自室を出てリビングへ向かった。
冷蔵庫にあったご飯と有り合わせのものでお昼は凌いだ。
基本家にあるもので済ませるから、常備されているラーメンや素麺、スパゲッティなどの高カロリーな食事になりがちなのが悩みの種。
父さんももう仕事に行ってしまったから、今家にいるのは私とトビの2人だけらしい。
トビが何をしているのかは知らないが、部屋に引きこもってるようだ。外に出ようとするわけでもないし、この分なら無駄に警戒しても仕方ないだろう。
午前中は、適当に課題をこなした。
前に半日だけ登校した際に渡された課題プリントが溜まっていたので、少しだけでも終わらせておきたかった。
結果、渡された量の半分程度は完了。このペースならば明日中には終わらせられそうだ。
正直勉強すること自体気持ち悪くなるから、課題なんかもしたくはなかったけど。
……さて、では少し休憩するか。私は一年中休みみたいなものだが。
久方ぶりに漫画じゃなく評論か新書でも読みたい気分。
とはいっても、家にある粗方の本は読み終えてしまった。引きこもり生活とは存外暇なので。
私には読めないような難解な論文の乗った雑誌とかは流石に手をつけていないが、こんな状態の私が読んでも楽しくないので手に取る気もない。
どうしようかと迷う頭に浮かんできた名案は、パソコンでうちはオビトについて調べる、というものだった。
忌まわしい相手だが、気になるものは気になる。
彼が何故食物を必要としないのか、何故闇堕ちしたのか等々。知りたいことは事欠かない。
リビングに下りて、いざ! とテンションを上げたのに、パソコンは置かれていなかった。
我が家で私が使えるパソコンは共用のものだから、母さん辺りが職場に持って行ってしまったのだろう。少しばかり残念だ。
「ま、勝手に使われるよかマシか……」
独り言を呟くと、その気持ちはより強まった。
トビがもしパソコンに興味をもって勝手に使ったりして、何かの拍子でNARUTO関連を見つけてしまったらマズいし。確率としてはかなり低いけれど、あり得なくはない、筈。
そう考えたら仕方がないと思えた。やっぱりちょっとは不満だけど。
何とか自分を納得させて、手持ち無沙汰のままリビングの座椅子に座る。
テレビも明かりも付いていない部屋は物寂しく、考えに耽るには最適な場だった。
今私がすべきはうちはオビトの謎について考えることではなく、他の何かで気を紛らわすことだ。
これ以上奴のことを考えたところで、昨日の殺気を思い出して気持ち悪くなる。トラウマになってしまったらしく、少し昨日を思い出すだけで体が震える。
どの道、何の手がかりもない状態で考察しても妄想にしかなり得ない。
……うん、時間の無駄だな。
最近読んでいない小説でも読み直そうかと本棚にあった適当な本を取り、ぱらりと開く。
…………あーでも気になるなあ。なんか調べる方法ないかなあ。無いよなあ。
わざと音を立てて本を閉じる。やはり、動き出した好奇心は治まってくれなかった。
NARUTOの単行本は今朝方母さんが車に積んで持っていってくれたらしく(仕事帰りに売りにいってくれるそうだ)、影も形もなかった。
それに、私の持っていた巻数までではうちはオビトのことなどわかりはしない。
ああでも、気になる気持ちは収まらないなあ。
調べられないことを悔しがっていると、突然リビングの扉が開かれた。バッと振り返り確認した途端、私の体は硬直した。
「……あ、トビ、さん……」
無言のトビと目と目が合い、自分の声が裏返ったために冷や汗が吹き出る。こいつは気にもしないだろうが、恥をかいた私としては死にたくなる。
当然だが、今のあいつは写輪眼ではない。
だけど、やっぱり怖いものは怖い。目をすぐに逸らした私を許して頂きたい。
「……」
「……」
沈黙するのはやめろォ!
……いや、割りとマジで勘弁してください。あんたは喋っていても怖いけど、無言で見つめられるのはもっと怖いです。
ちょっとしたギャグでも言って場を和ませるか、いやこいつ相手に何考えてんだ馬鹿死ぬ気かとか、かなりどうでもいいことを考える。
しかし。
「おい」
「ひょえっ!? は、はい!」
突然の呼びかけに変な声が出た。
すぐに気を取り直して応えたが、恥ずかしいのは恥ずかしい。
ああもう馬鹿、普通に返事もできないのか。
トビは一瞬変なものを見るかのような雰囲気で黙ったが、すぐに何事もなかったかのように話始めた。
そのほうがありがたいから助かる。
本人の意図しない内での助け船に乗らせてもらい、私は平常心を保った。保ったんだってば。
「これからオレは、元の世界に帰る方法を探る。
お前もオレにさっさといなくなってほしいのなら協力しろ」
「へ? はい、勿論協力はさせて頂きたい、ですが……何を手伝えばいいんですか?」
思わず首を捻ってしまうくらいには戸惑い、思ったままに尋ねる。
自分で言うのも何だけど、私は何の戦力にもならないだろう。運動ができるできない以前に、チャクラが練れないんだし。
ちょっとトビの口の聞き方にムカッとしたけど、まあそこはスルーした。流石に慣れてきたし。
トビは少し思案した後、口を開いた。
「そうだな……オレがどこに落ちていたのかを教えてくれ」
なんだ、案外難しい質問でもないな。
予想よりは簡単な問いだったことにホッとして、私は軽い調子で答えた。
「それなら簡単です。家の前ですから、今すぐ行けます……でも」
ただ、一つ問題点を見つけてしまった。
意識しないうちに表情が曇っていくのを自覚し、どうしたものかと悩んでしまう。
「どうした。何かあるのか?」
怪訝そうにするトビに、私は仕方なくどもった理由を話した。
「いえ、その。トビさんの格好だと目立つし、万が一近所の人に見られたら、マズくって……」
「そんなことか。幻術をかければ問題ない」
なんでお前はすぐ暴力的な解決法でOKだと思うんだ。
なんてツッコミはため息と共に飲み込んだ。そんなことを言い出したら、私は両親に幻術をかける事を肯定したわけだし。
だが、全くの無関係の人々にまで手を出させるのは頂けない。
もっと安心安全な手段はないものか。
でもこいつに着替えて面取れってのも無理な話ではあるよね……替えの服だって父さんのを貸してあげてるだけだし(さらにその上に暁のコートを着ている)。
面なんて尚更取ってくれないだろう。
難儀なもんだ。所詮ここは異世界なのに、そこまでして顔も何も晒したくないのか。
そもそもお前のことを知る人間なんてこの世界にいない──本当は知られまくっているが、ややこしいので今は置いておく──と知っているだろうに。
とはいえ説得もできそうにないので、仕方なくわかりましたと応えた。
「では、一緒に行きますから少しお待ち下さい」
「場所は分かった。オレ一人で充分だ」
「うっ……それはそうです、が……
もしトビさんがいきなり消えたりしたら、ある意味不安になります、し。
ほら、その。行きと同じで突然帰ることになったりしたら、本当に帰られたのかわからなくて不安になるので」
「……成程。お前はオレが妙な真似をしないか監視したい訳か」
トビの鋭く尖った容赦無い一言に、私の困り顔は引きつった。
やっぱバレた? 幻術沙汰になったら嫌だから見ておこうと思ってたんだけど、私の台詞で分からないほど察しが悪くはないよなあ。
とりあえず、愛想笑いを浮かべて「そ、そんな大層なものじゃないですよ」と返しておいた。
「……まあいい、勝手にしろ。ただし怪しい行動を一度でもしたら、容赦はしない」
「こ、心得ております……」
またまた声が裏返り、背筋を伸ばしたまま固まってしまう。トビは鼻を鳴らし、マントを翻して部屋を出た。
良かった、正直一緒に行きたくなさすぎて泣きたいけれども。これも私の心の平穏のためだ、頑張ろう。
握りこぶしを強く握り、さらに意思を強固にした。