3話 如何にして理解を得るか
あなたの名前は?
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とはいえ、その後のことに特筆すべき内容はさしてなかった。
父さんが帰ってくるまで、トビには私の部屋で待機してもらうことにした。
リビングでは私と兄さんがほぼほぼ無意味な作戦会議をすることに。
無駄に尽きるかもだが、何かしているほうが気が楽だった。
「どうする、絶対父さんも母さんと同じ反応するぞ?」
ため息を零しつつ尋ねると、兄さんはげんなりと首を振った。
「いや、母さん以上だろ。父さん、アニメ漫画系一切見ねーし」
そう言って兄さんはキッチンへと目を向けた。釣られるように覗けば、母さんは晩御飯の支度をしている。
うーん、なんというか懐かしい。
基本引きこもりだから自分の部屋に篭りきりになってたし、リビングに長居すること自体珍しいから新鮮さすら感じる。あまりの情けなさに思わず苦笑い。
先程母さんに処置してもらった首の辺りを撫ぜる。ガーゼが大袈裟なくらい貼られていて、又もや苦笑を浮かべてしまう。
おまけに「怪我したらすぐ言いなさい」とお小言を貰ってしまった。
私を怪我させた張本人であるトビの存在に疑問を持たなくなった母さんは不気味ではあったが、まあ、仕方がない。
実際、一番迅速かつ平和に解決する手段ではある。となれば、ここは……
「……父さんにも幻術かけてもらおうか」
私の呟きに兄さんは汚物を見るような表情になる。ひどい。
「仕方ないじゃん、ほっときゃ父さん通報するでしょこんな状況」
「まあ……そうだけど……てかホントお前なんであいつをここに住まわせてやることにしたんだよ? 馬鹿なの?」
「逆に聞くけど、お前あんな危険物が目につかないとこにいても安心できるの? 家っていう限定された場所にいるってわかるだけまだ安心だろ」
「………………まあ、なあ。
代わりにオレらの心労はMAXだけどな」
ぐちぐちと嫌味は言ってくるものの、ある程度私の気持ちを理解してくれたらしい。それ以上は何も言わなかった。
兄さんとどうすべきか話し終えた後、私はトビに父親の存在を話した。母親よりも堅物なので騒ぐだろうし、同じ幻術をかけてくれないか、と。
腑に落ちない、と言いたげにトビは問うた。
曰く、何故家族に妙な術をかけることを推奨する、とのこと。
対する私の答えは明白だ。
父さんが騒げばトビにとっても不都合だし、それでもし父さんがトビに襲いかかるなんてことになれば、結果は見えている。
母さんの様子を見るにあの幻術は錯覚する以外の副作用は無いし、必要なことなら仕方ない。
「だから、お願いします。
本当は……その、あんまり幻術とかは使って欲しくない、けど。多分これが一番平和に済みますから」
ええ、恐怖とかその他諸々でどもってしまう私の情けなさを笑ってください。
目も合わせてない? それは当たり前でしょうちは相手に死ぬ気か。
幻術以外にも消えない炎とか完全防御のデカイ鎧とか出せるんだぞあの一族。
説明の結果、トビは了承してくれた。
ホッと一息ついて退室する。
うーん、自室なのに「失礼しました」って口にしちゃうこの違和感! 悲しい!
というわけで話もほぼ終わったので、私は早速トビの居室を設けるため、客室の掃除に取り掛かった。
半ば物置と化していたので、荷物の類はとりあえず隅に固めておく。
適当に掃除機をかけて、布団とかシーツ類を新品にしておいた。替えのシーツ類も予め見えるところに掛けておいたので、これで部屋について説明せずとも問題ないだろう。
よし、終わった。作業中首の傷が何度も痛んだが、傷は開いていないと思いたい。
何故そこまでして急ぐのか、との問いには非常に簡単に答えられる。
引きこもりなのに自室で過ごせないのは困りものなのだ。割と死活問題。
我ながらクズな答えだけど、こればかりはどうしようもない。
とまあ、そんなこんなで今日は終わった。
帰宅した父さんに対し、早々に幻術をかけてもらい形式的にトビを説明し、ご飯を食べて眠りにつく。
既にトビには客室に移ってもらったので、気がかりなことは無くなった。ホント、一息つけるというものだ。
ああ、でも。
もう1つ気になることがある。
トビは食事がいらないらしく、一応夕食について問うてみたが一切不要だと答えられた。
正直これが一番嬉しかった。万が一必要だったら、流石に病人だし気を遣わざるを得ない。
でも、なんで食事がいらないだろう、あいつ。
波風ミナトと闘りあってた時も腕がドロドローっと溶け落ちてたし、訳のわからない身体をしている奴だ。
いや、あの世界の人間は大概デタラメ人間の万国ビックリショーって感じだけども。
実は、私はNARUTOを60巻までしか持ってないので、トビについて詳しく知らない。
現在単行本は64、5巻辺りまで出ているそうだが、最近は不登校という負い目もあって漫画を買えなくなっていたのだ。
ただ先述の通り、インターネットでネタバレを踏んだ哀れな兄が呆然としたまま私にネタバレをかましてくれたため、トビの正体がうちはオビトだとは知っていた。
未だにネタバレされた悔しさは凄まじいが──寧ろ今はそんなことどうでも良くなって、友達思いな少年が何故こんな変貌を遂げたのか、その経緯と原因を知りたかった。
兄もそこまでの情報はネタバレを踏まずに済んだらしく、それは言ってこなかった。
きっと今はこんな状況だから、気になってスマホで調べているのだろうが(我が家は高校生になるまでスマホは買ってもらえない。まあ、私は不登校だし、仮に高校生だったとしても買ってもらえなかっただろう)。
で、ここで1つ問題発生。
万が一トビにNARUTOの単行本を見られでもしたら、非常にマズイ。
単行本自体は私のものだが、私の部屋に置ける量ではないので、1階の兄さんの部屋に置いてあった。不幸中の幸いか。
いつもは読むときわざわざ取りに行かなくちゃいけないし面倒だったけど、今回ばかりは助かった。
でも、このまま家にNARUTOを置いておくのは危なそうだし、明日まとめて母さんに売ってきてもらうことにした。
悲しいけど仕方がない。引きこもり風情が贅沢をした罪だろうと諦める。
そうして、夜は更けていった。
深夜になっても、すぐ近くの部屋にトビがいるという事実に不安を覚えてなかなか寝付けない。
が、奴が私を殺すメリットは恐らく無いし大丈夫だと言い聞かせて布団に入り目を瞑った。
明日は今日よりも、ずっと穏やかな1日を過ごせますようにと祈りながら。
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とりあえずひと段落です。
やっぱり逆トリモノの最難関は親理解してくれるかどうかですね。血の気の多い奴が逆トリしてきたら(飛段とか)どうなるんでしょうね。見たいけど怖い。