「うへぇ、とうとう来たなオビト」

「なんでお前は俺に対していつも失礼なんだ」


思いっきり意地の悪い顔をしてやったら、なんとも言うに言われない顔をしてくれる。

だってからかいたいもん。仕方がないよねはっはっは！


「昨日大変だったんだよー、ナースさんかんっかんだったしさ！」

「お前が逃げ出すからだろうが。自業自得だ」

「むー……」


全く、いちいち正論を返されると反応に困るじゃないか。

唇を尖らせて見つめてみれば、なぜか目を逸らされる。それも物凄いスピードで。
なんだろう、ゴミでもついてたかな？ まあいっか。


「って、どしてオビトここに来たのさ。検査はお昼過ぎでしょ？」


小首を傾げて尋ねてみれば、先生は何言ってるんだって顔で私を見てくるから苛立ちが湧く。

うん、その顔はその顔でムカつく。今度笑える程度の嫌がらせしてやろっと！


「お前、これから注射だろ？今日は俺が直々にやってやる」

「……はあっ！？」


驚いてしまう私を面白そうに見てくる先生。イタズラが成功した子供みたいに笑っていてて、珍しい先生の表情にドキッとする。


……ってそうじゃない！これじゃ、注射から逃げられないじゃないか！

慌てて脱出する手段がないか辺りを見回してみるけど、当然ながら先回りされていて、ガッチリと塞がれている。

先生は勝ち誇ったようにニヤリと笑い、私の頭を小突いた。


「諦めるんだな。お前が逃げられんように病室の前ではナースが待機している」

「わざわざ一人の患者にそこまでするの！？」

「今までの行いのせいだ、観念しろ」


返す言葉もない。ほどほどにしておけば、こんな狭苦しい思いはしなくてすんだのに……ちくしょー。

項垂れる私を見てどう思ったのか、先生は提案を出した。


「ではこうしようか。お前が大人しくしていれば、あとでお菓子をやる」

「なっ！？お、お菓子で釣られる私じゃないよ！」

「よだれ、垂れているぞ」

「えっ、どっち！？」

「くくっ……嘘だ」


顔に手を当て、必死に笑いをこらえる先生に枕を投げつける。
いとも容易く避けられてしまい、悔しさが倍増する。こんにゃろ、今度痛い目見せてやるんだからな！

復讐の算段を経てる私を他所に、先生はおもむろに立ち上がった。


「そろそろ行くぞ。さっさと終わらせた方が楽だが、どうする？」

「うー……」


どうしよう。お菓子とか最近ずーっと食べてないなあ。

病院食が不味い分、余計に食べたくなる。でも、大人しく言うことを聞くのも癪だし……。


利益と損を計算する。目の前の利益をとるか、子供みたいな反抗心を優先するか。私にしてみれば、簡単な答えだった。


「分かった、今日は言うこと聞いてあげるよ！」


私はもう大人だ！ちょっとくらいの悔しさなんて、道に捨ててやる！