短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜風がカーテンをやわらかく揺らしている。
開け放たれた障子の向こうには、ぼやけた満月。
少し湿った空気がふたりのあいだをなにも言わずに通り抜けていく。
「銀時はもう飲まねぇの?」
「んー、もうイラネ」
「よっわ」
「うるせぇな……つかそれ、もう炭酸死んでんぞ」
「これがいいの。まぬけな味してて、クセになる」
そう言って笑う顔は、ほんのり赤い。
酒と、月と、たぶん俺のせい。そう思いたい。
「お酒弱いの、かわいーね?銀時」
「バカにしてんだろ」
「へへっ、どうかな」
「おめーも充分可愛いよ」
ふと零れた声に自分でも驚く。
けれど別に取り繕う必要もない。
澪が少しだけ眉をひそめて、こっちを見る。
目が合った。ただただ静かに。
「酔ってんの、銀時?」
「かもな。夜って、そういう時間だし」
「だっせー」
「マダオが前言ってたやつ」
ソファーに腰をかけたまま、ふとその肩に頭を預ける。
澪が持つグラスが、しゅわりと音を立てた。
「なあ、あの肉屋のギャルの姉ちゃん結婚したって知ってた?」
「マジで?あの子まだ10代だったろ」
「デキ婚。相手、10コ上」
「田舎の奇跡だな」
ふたりで笑って、ふたりで黙った。
沈黙がこんなにやさしくて静かで。
「……なあ」
ぽつりとつぶやく。
「俺らの将来どうなんだろうなって、ふと思ってさ」
「うん?」
「なんとなくお前と一緒にいるの、自然すぎてあんま考えたことなかったけど」
「俺が女だったら、してた?」
「どーなんだろなァ」
また笑う。
でもその笑い声は、少しだけ掠れていて、ほんのすこしだけ震えていた。
「てかお前が女だったら、いまごろ子どもできてるな。双子」
「想像力ヤバ」
「男二人。全員目死んでんの」
「銀時似かよ」
そんな風にくだらない話をして、また黙る。
でもその静けさがたまらなく心地よかった。
「そうだ」
澪がポケットから何かを取り出す。
小さくて拳に収まるくらいのものをそっと差し出した。
「手、出して」
言われるがままに手を差し出すと、ころんと何かが落ちてくる。
冷たくて、小さい金属の重み。
「……これ、」
「いちおー、渡しとく」
言葉に詰まって銀時は一度まばたきをした。
「指輪……?」
「百均のやつじゃないよ、ちゃんと選んだ」
「……これ、結婚指輪?」
「違う。まだそこまでじゃない。けど、たぶん、途中地点」
“これからも一緒にいたい”ってことだよ、って。
そう言いながら澪は照れたように目をそらした。
「お前ってさ、たまにずるいよ、ホント」
「どこが?」
「……男前でよ、全部先回りすんの。ずりぃ」
「男前とかイケメンとか仮面ライダー俳優に似てるってのは、よく言われる」
「そこまで言ってないでーす」
照れ隠しに悪態をつきながらそっとその指輪を薬指にはめた。
サイズはぴったりだった。
「似合うじゃん、銀時」
「おー。なんか照れるわ」
月明かりの中で指輪がきらりと光った。
ふたりの時間はまだ言葉にならないまま、静かに優しく重なっていく。
指に乗る重みはまだ未来を約束するほどじゃない。
でも、確かに“ここ”にいると伝えてくれているような気がした。
