短編
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今宵は満月だ。春の夜風は心地よい。
「まだハイボール飲んでんの?」
「ん」
へらりと笑う澪は、またひと口気の抜けたアルコールを飲み込んだ。
「かわい」
銀時は酒で少し湿った唇にキスをする。
独特なアルコールの匂いが鼻の奥を抜ける。
ちゅ、とわざと音を出して口付けると少し頬を赤らめて澪は笑った。
開けた障子の窓からはまた春の風が流れてくる。
「銀時はもう飲まないの?」
「んー、酔った」
「よわ」
「るせ。…てかよォそれもう炭酸抜けてんだろ」
「これがうまいんよ」
「変わってんねぇ」
「まあねー」
澪は月明かりに照らされながら、酒に酔った赤ら顔でへらりと笑う。
たまに見せる気の抜けた笑顔が可愛くて可愛くて、銀時はたまらなく好きだった。
「あ、そうだ銀時しってる?いつもの肉屋のギャルのねえちゃん結婚したらしいよ」
「オイオイ嘘だろまだ10代だったろうよ。若ぇのに早まったな」
「デキ婚って言ってた」
「田舎ヤンキーの典型的なパターンじゃねぇか。そういうのは高確率で離婚するからね」
「たしかに」
銀時は考える。身近な人物の結婚は考えさせられるものがあった。
肉屋のねえちゃんが身近な人物かどうかはさておき、酔った頭でフワフワ思考を巡らせる。
「俺もお前も結婚しててもおかしくねぇ歳だもんなァ」
「まーそうだなぁ…」
「…」
「…」
銀時は再び空いたグラスに水割りを作る。
カランと涼しい音が室内に響いた。
「もしさぁ俺が女で、銀時とも今くらいずっと一緒にいてさぁ」
「おー」
銀時は水割りを一口飲んでから濡れた口元を拭う。
澪がとろんとした目でこちらを見つめる。
「まあ仮の話だけど。俺と結婚したいと思う?」
「あー?まぁそりゃ一緒になりたいと思ってないとこんなに長く付き合ってないだろ」
「ふーん」
「…結婚する?」
ついポロリとそんな言葉が出てきた。
こんなタイミングで言うもんか?と口にしてから思ったがそうは言ってももう遅いので酒の勢いという事にしておく。
澪は少し考えた後ゆっくり口を開いた。
「…まー考えとく」
「いやお願いしますじゃないんかい」
「ウケる」
冗談をいくつか言って澪はグビっとグラスの残りを飲み干す。
そうしてまた新たに酒を追加して満足そうに笑った。
見かけによらずよく飲む男だ。
「そーいやさ、これ」
「ん?」
炭酸を入れ終えると思い出した様にポケットを漁る澪。
目的の物が取れたようで手を拳にして突き出してきた。
「え、なになに銀さんにプレゼント?」
「うんそう。手出して」
「ん」
そっと手を広げるとその上に先程作った拳を乗せる澪。
ゆっくり手の中のものを俺の掌に置く。
コロンと体温で暖かくなった金属の感触。
「へっ?」
「声マヌケすぎだろ!」
ケラケラと笑いながらまたハイボールを一口。
しゅわしゅわとグラスから爽やかな音が鳴った。
「これ、指輪じゃん」
「うん。あげる」
「プロポーズ?」
「え?ちがうけど?」
ほんのり頬を染めてそっぽを向く澪。
割と酔っ払っている様子で月光を吸い込んだ瞳は潤んでいた。
「うわー。男前じゃん澪ちゃん。俺があげようと思ってたのに指輪」
「嘘くさ。金ないじゃん。仮に結婚しても300円の指輪とか渡してきそう」
「300円の結婚指輪なんかどこに売ってんだよ」
「スリーコインズ」
「やめとけお前」
なんだか気恥ずかしくなって月を見た。
俺から結婚しようなんて言ってもこいつは多分信じない。
実は割と本気だったりするのだが、それを伝えるのはまた今度にとっておこう。
同じように月を眺める澪が愛おしくてそっと抱きしめた。
「月見てると米食いたくなる」
「え?急な不思議ちゃんキャラやめてくんない?」
「え?ならないんだ。なんか米に似てるくね?おにぎり」
「酔ってんねー」
笑った澪の唇を指でなぞって口付ける。
薄い唇をゆっくり舐めると小さく口が開いた。
舌を絡ませ互いの体温を確かめ合う。
苦いハイボールの味とアルコールの香りだ。
しばらく続けていると澪がぎゅっと胸元の着物を握ってくる。
たまらなくなってその手を包み込むように握りしめた。
「かわいー」
「うるせえオッサン」
「言っとくけど四捨五入したらお前もオッサンの部類に入るからね」
「やめて…。オッサンが他人事じゃなくなってきたから」
「かわいーよ」
「オッサンがオッサンに可愛いとかきつ…」
「や、本気で」
一瞬驚いた顔をしたが澪は再びくしゃりと笑った。
笑った澪には誰も敵わないと銀時は思う。
でも指輪をポケットに直で入れちゃう辺りガサツで男らしくて、そしてそんな可愛い澪にこんがらる。
「あ、指輪2万ね」
「金とんの!!??」
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