短編
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「たばこ」
「お前も吸うか?」
「違う煙たい」
「おぉ…悪ぃ」
気怠そうに煙草に火をつけた土方がふぅーと息を吐くと濁った煙が部屋を漂った。
薄暗くて蒸し暑い六畳一間に濁った灰色が広がる。
「お前女抱いた時もすぐ煙草吸うの?」
「なんで」
「いや別に」
だるい体を起こして枕元にあった飲みかけのペットボトルの水を飲む。
水滴を垂らしぬるくなったそれを見て澪はやけに腹が立った。
「けついて、」
「ちゃんと解しただろ」
「おまえチンコでけえ」
「おぉ、サンキュ」
「いや褒めてねーし。ちょっと照れんなや」
舌打ちして再び水を勢い良く飲み干す。
別に女みたいに扱って欲しい訳ではないがいざ抱かれる側に回ってみると、ピロートークが雑な男に対して不機嫌になる女の気持ちがよく解るような気がした。
体はまだなんとも言えぬ気怠さが残っている。
喉を通る水は相変わらずぬるかったが火照りが冷めてきた体にはちょうど良かった。
「ふー…」
「俺も水くれ」
「もーない。冷蔵庫から取ってきた方が冷えてるよ」
「だりぃ…」
もう一度怠そうに煙を吐くと土方の携帯が鳴った。
不機嫌そうに舌打ちをしてから電話に出ると煙草の火を消し冷蔵庫の方へ向かい新しいペットボトルを出している。
「仕事?」
「悪ィ。今から出る」
「急だな」
「ああ。後始末だとよ」
「頼りにされてんねぇ。副長さんは」
羽織っていただけだった浴衣を脱ぎ捨て隊服に着替え始める土方を横目に澪は布団に寝転んだ。
まだ気だるさが残る体はフワフワとしていてなんとも言えない微睡みが襲う。
「寝んのか?」
「んー…」
「行ってくる。腹冷やすなよ」
「行ってらっしゃい」
ぽん、と頭に軽くてを置いて土方は出ていった。
玄関の閉まる音が遠くで聞こえる中澪は深い眠りに落ちていった。
…
まとわりつくような暑さに息苦しさを覚え意識が浮上する。
エアコンが切れていたようだ。
汗で湿った布団を出て冷蔵庫からビールを取り出した。冷たい刺激が体を巡る。
幾分かスッキリとした頭で時計を見るともう明け方で辺りは白み始めていた。
脱ぎっばなしの浴衣は無造作に足元に置かれている。
「畳んで帰れよ…」
ぐるりと部屋を見回してため息をつく。
脱ぎっぱなしの浴衣に溜まった灰皿、淀んだ空気と布団には僅かに土方の匂い。
しかし土方がこの部屋に泊まった事は一度もなかった。
それが二人の距離感なのだ。
部屋に散らばる残骸を見て孤独を噛み締める。
「あー…、」
飲みかけの缶ビールと土方の置き忘れていったタバコを持ってベランダに出た。
カラカラと気持ちの良い音を立てて開く窓から濁った空気が抜けていく。
「暑…」
額に流れる汗を雑に腕で拭って再びビールを煽った。
そして吸えない煙草に火をつける。
煙草を吸わない人間からすれば銘柄なんて興味も無いので一々覚えてはいないがコンビニでもよく見かける種類だ。
肺に空気を入れてそしてゆっくり煙を吐き出した。
「まっず…」
鈍色の煙が朝の光に溶ける。
一人で迎える朝の形容し難い孤独を噛み締めて澪は再び煙を吸った。
先端から燃え尽きた灰がはらはらと風に乗って舞っていく。
「苦ぇ…」