短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バイトの帰り道。
冷たい風が吹く夜道を総悟と2人で歩いていた。
さっき自販機で買っていたホットココアを熱そうに袖口で持っている。
「フラれた…」
総悟は寂しそうに笑ってから白いため息を吐いて少し俯いた。
「残念だったな。ま、お前イケメンだし次あるだろ」
そんな事微塵も思ってないけど気付かれないように総悟を慰める。
それにしても振った女はどうしようもなくバカだな。
総悟はアホだけどイケメンだし何だかんだ友達思いだしどこに欠点があると言うのだろう。
振るとか頭悪すぎる。もったいない。
「マジで付き合いたかったんでさァ…」
「その女ドSだったんじゃね?」
「本物のSの女はドMにもなれるから関係ねぇや」
「あっそう」
そう言って寂しそうに笑う総悟はホットココアの缶を頬に当てる。
少し下を向いたので亜麻色の前髪に隠れて綺麗な瞳は見えなくなってしまったが、暖かい缶がじんわりと頬を温めて赤く色付くのが見えた。
「ココアあち。つれぇ…」
「次があるよ」
少し大きめのダウンの袖で総悟は目元をゴシゴシと擦っている。
別に泣いてなんかいないんだろうけど。
赤くなるぞって思ったけど上手く言葉に出来 なくて総悟から目をそらす。
「ココア冷めんぞ」
「うん。飲む」
カシュと軽快な音が鳴り缶を開く。
まだ中のココアは思いの外冷めていなかったようでひと口飲んでからあちっと唇を舐めていた。
そんな些細な仕草も可愛くて、同時にとてつもなく胸が苦しかった。
もう少し一緒にいたいのにもうすぐ大きな十字路に着いてしまう。
この曲がり角を曲がればすぐに分かれ道だ。
そんな事を思ってゆっくりと歩いていたら総悟が立ち止まりこちらへ向いた。
「澪…ありがとうでさァ。、バイト疲れてんのに話聞いてくれて」
「うん。総悟の話だから聞くんだぜ」
「イケメン抱いて」
「おわっ!ちょ、」
抱きついて来てぐりぐりと肩口に頭を押し付けてくる総悟はきっと俺の事は何とも思ってないんだろうなあ。
ズキズキと心が痛む。
俺はなんでもない様に見せる為にヘラヘラと笑った。
きっと他の友達同士ともこうやってじゃれるんだろうな。
俺より少し背の低い総悟の頭を撫でてそっと抱き寄せる。
解っていても馬鹿な俺はすぐに期待してしまうから触れたいなーなんて思ってしまった。
「澪?」
「おー。振られて可哀想なかわい子ちゃんを俺様が慰めてやる」
これは友達としての行為と言い訳をして抱き寄せた背中をとんとんと優しく撫でた。
ココアの缶をあてていたほっぺたは体温が少し高くてじんわりとした温もりが布越しに伝わる。
「あったけェや」
「…だな」
へらりと笑う。顔をあげた総悟は笑顔だった。
ああ、この笑顔を俺だけの物にできたらいいのにな。
好きだ。
とても本人には言えないような言葉を思い浮かべてはまたチクリと胸が痛む。
「っと、そろそろ帰んねぇと。姉ちゃんが心配する」
「…そうだな。さみぃ……」
抱き締めていた総悟から手を離す。
離れ際、ふわりとココアの甘い香りが漂った。
再びゆっくりと歩き出す。
このまま歩くともうすぐ分かれ道だ。
もうこのまま世界が止まればいいとか柄にもない事を願う。
「あーでもなんか元気出たきがするぜィ」
「だろ」
「慰めてくれたおかげですぜィ。ありがとな澪」
「いつでもドーゾ。じゃ、また次のシフトでな」
「おう。お疲れ」
「おつー」
そうして分かれ道。冷たい風が頬を撫でる。
強い風のせいでマフラーが解けて体の芯から震える様な寒さが全身を駆け巡ったが、総悟が触れた所だけは温かかった。
「さむ…」
俺の心はこんなにも冷たくて満たされないというのに。
1/3ページ