短編
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「う…っ……気持ちわるぅ…………」
唐突な吐き気に襲われ澪は目を覚ます。
ベッドで吐くなんて大惨事は避けたいのでトイレに移動しようとしたその時、
「い゛っ!!!!」
吐き気も引っ込む様な激痛が腰から尻にかけて走る。
そのままベッドから転げ落ちてしまい、その衝撃でまた痛みが走り暫く床でもがき苦しんだ。
「ヤバ…ヤバいしぬ……気持ちわるい痛い…しぬ……」
ハアハアと荒い息を整えながらゆっくりと体を起こし部屋を見渡した。
薄暗くて気付かなかったが、よく見れば知らない部屋だ。
「え、なに…どこ、ここ………」
先程落ちたベッドに手をついてゆっくりと立ち上がる。
よく見ると布団は盛り上がっており、誰かが眠っているようだ。
「……嘘だろ…全く覚えてねぇ」
どこの女だ…と、ゆっくり布団をめくると先程の痛みよりも衝撃的な光景が広がっていた。
「ほ、鬼灯様ァァァ!!!!!!!!!」
「やかましい!!!」
「おブっ!!!!!」
ベッドに眠っていた人物は素早い回し蹴りをかます。
見事に入った蹴りは二日酔い明けの体には受け止め切れず、後ろに吹っ飛んでしまった。
「ほ、鬼灯様…なにしてるんですかこんな所で………」
「ここは私の部屋ですが。…裸でみっともない。服を着なさい」
「え?…あれ!?俺服着てない!」
「…」
蹴りをかましてきた相手、鬼灯は不機嫌を隠すこともせずこちらに歩いてくる。
何故俺は鬼灯様の部屋で、しかも全裸でいるのか。
「貴方まさか覚えていないんですか?」
「へ…?」
「…… チッ」
「ヒッ!ごめんなさい!!!」
鬼灯は信じられないと言ったような顔で舌打ちをしてベッドへ戻り、こちらに着物を投げてきた。
「…あの鬼灯様…差し支えなければなぜ今この様な状況になっているか教えて頂けますか…?」
「貴方本当にろくでもないですね」
「すみませんすみませんすみません」
「すみませんは1回!!」
「ハイィ!!すみません!!!!」
この怖い顔の男、鬼灯は澪の上司である。
鬼灯はベッドに腰かけ煙管をふかす。
恐怖と痛みにガタガタと震える澪はゆっくりと着物を羽織った。
「えと…、昨日居酒屋でたまたま会って一緒に呑んだ事は覚えてるんですけど…」
「はい」
「え?…なんで裸?…俺もしかして何か粗相しましたか?覚えてないんです!すみませんっ!」
「…あぁ良いですよ別に。大した事じゃないですし」
大した事ないと言う割にはとてつもない剣幕でこちらを睨んでくる鬼灯。
普段から睨んだ様な目付きなのだが、今不機嫌だということは澪にもすぐに分かった。
信じられない程邪悪なオーラを纏っている。
「……」
「……」
無言が続く。
しばらく見つめ合っていたが、澪はいたたまれなくなり冒頭から思っていた事を口にした。
「…俺と鬼灯様って、もしかして…その、ヤった?」
「あ?」
「すんません!!!」
ギロリと鬼の形相で(事実、鬼である)睨んでくる鬼灯。
涙目になりながらもヤケクソだと大声で澪は反論する。
「だってぇ!!!めっちゃ尻と腰が痛てぇんすもん!!裸だし!!よく見りゃ鬼灯様も半裸だしさぁ!!!!」
「そうですよ。ヤりましたよ」
「ああああああ聞きたくなかったァ!!!!!」
「ちょっと静かにして頂けませんかね」
頭を抱え悶えていると鬼灯は身支度を始めた。
特に何も無かったかのように歯を磨いている。
「嘘だろぉ……」
「嘘じゃないですよ」
「…………どっちが下っすか」
「どう考えても貴方でしょう」
ふんっと鼻で笑う鬼灯を見て顔が火照っていくのがわかった。
「鬼灯様」
「なんです」
表情を変えない鬼灯。
なぜ上司に抱かれてしまったのか。
「どういう状況で?何で?鬼灯様俺の事好きなんですか?」
「ええ。好きですよ」
「あァ!!??」
「次叫んだらまた蹴りかましますよ」
「すんません!!!」
鬼灯の言葉にまたしても衝撃が走る。
ふざけて言った言葉に予想外の言葉が返ってきて困惑する。
「え、鬼灯様…俺の事好きなんですか」
「はい。だからこうして貴方を私の部屋に連れて来たんです」
「こわっ!えっ!?昨日の俺と何があったんすか!」
「本当にうるさいですね貴方」
「!?」
洗面台にいた鬼灯は大声にイラついたのかこちらに近付いてきた。
ベッドに腰かけていた澪を勢いよく押し倒す。
「へ、」
「思い出させてあげましょうか」
「えっ、え、なに…」
「貴方が昨日どれだけ可愛らしかったか」
「かわ…っ!?」
見たこともない上司の男の顔に不覚にもドキリと心臓が鳴る。
否、もしかすると恐怖の動悸かもしれないが。
「しおらしくてまるで子猫みたいでしたよ」
「っ、」
首筋を撫でられる。
ぞくぞくと背筋がむず痒い。
「体は痛くないですか?」
「ん、ぁちょっと…?」
耳を舐め上げられると妙な声が出たので思わず口を塞ぐ。
ばくばくと心臓は鳴り止まない。
うっすらと昨日の記憶が蘇る。
「ぅ、」
「思い出しましたか澪さん」
「…………ちょっとだけ、」
「チッ」
鬼灯は舌打ちをすると上半身を起こした。
相変わらず怖い顔でこちらを見ている。
「私が言った言葉も思い出しましたか」
「ことば…?」
「私は貴方が好きだと言ったんです」
「いつから!!!???」
「少し黙りなさい」
心底イラついた様にもう一度舌打ちをした上司は再び煙管に手を伸ばした。
昨日の俺はなんと答えたのだろうか。
「…どうして、俺男だし…部下だし、何で俺の事好きって言ってくれんすか…」
「…貴方前に私の体調不良に気が付いたでしょう」
「あ、あの時の…」
何年か前の話だ。そんな前からか?とは思ったが、そのまま鬼灯の話の続きに耳を傾ける。
「初めは喧しい新卒が来たな…位でしたけど。細かい気遣いがよく出来るなと思いまして。そこから貴方が目に付くようになりいつの間にか好きになっていましたよ」
「鬼灯様ってそんなこと言うキャラだっけ…」
「あと貴方仕事はできるのに、あー案外アホだ。ギャップあるなぁ…って」
「ん?褒め…貶された?」
そんな事で好きになんの?やっぱこの人おかしいなと思いつつ怖い顔をした上司を見つめる。そんな素振りを気にすることなく鬼灯は煙管を置くとこちらに向き直った。
「で、返事は」
「はい?」
「返事は?」
「あ、はい」
ムッとした顔の鬼灯はこちらに手を伸ばした。
目に入りそうだった髪を横に流してくれる。
「澪さん、貴方が好きです」
「…それは抱く前に言う言葉では?」
「私は言いましたが貴方が覚えていないみたいなので」
「あっそれは…すみません」
軽く頬を叩かれた。その後ゆっくりと撫でられる。
痛くはなかったが恥ずかしさでなんだかむず痒い。
「ん?」
返事はまだかと言う様な顔で鬼灯は首を傾ける。
不覚にも可愛いと思ってしまった自分を殴ってやりたい。
「澪さん」
「はい…」
「好きです」
「はい」
「抱きしめてもいいですか」
「…はい、」
そっと柔らかく抱きしめられると心臓がうるさいくらいに鳴りだした。
鬼灯の髪からは微かに石鹸のにおいがする。
「大切にします」
「…ローキックかましませんか?」
「私は好きな相手にそんな酷い事はしません」
「いや数分前に思いっ切りやられたんですけど」
鬼灯の匂いで思い出したのは昨日の夜の事だ。
酔った澪の介抱をして部屋まで連れて来た鬼灯。
バランスを崩しふらついて一緒にベッドに倒れ込む。
「…離れないでくださぁい」
なんて。
ふと思った事が口に出ていた様で一瞬驚いた表情をした鬼灯にきつく抱きしめられた。
「…………そっからワンナイトカーニバル…」
「よく覚えてるじゃないですか」
鬼灯は澪を抱きしめてちゅ、と瞼に唇を落とす。
それが心地よくてゆっくりと抱きしめ返した。
「それはOKという事でいいんですか?」
「…はい。なんか、いいです」
怖い上司に抱き締められて不快じゃない時点でそういう事なのだろうと澪は鬼灯にキスをする。
鬼灯はふ、と笑い甘く唇を噛んだ。
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