短編
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…
「うたた寝ですか?」
月明かりに照らされた桜の木の木陰で微睡んでいると背後から優しい声がした。
ざり、と土を踏む足音と共に声の主が近付いてくる。
「鬼灯さん?」
「正解です」
振り向かずに声をかけると低い声で返事が返ってくる。
声の主鬼灯は隣にやって来ると、遠慮もなくゴロンと僕の膝に頭をのせた。
「サボりですか?」
「まさか。現世の視察です」
「こんな山奥に?」
「こんな山奥に」
すん、と鼻を鳴らした鬼灯は閉じていた瞼を開けて僕を見上げる。
切れ長な瞳はまっすぐに僕を射抜く。
「なんです?僕の顔に何かついていますか?」
「いえ。ただ、桜の匂いがするなと」
「僕は桜の精霊ですから」
苦笑いをすると鬼灯は無表情のまま僕の頬に手を伸ばした。
ごつごつとした温かい手の温度がじんわりと肌に伝わる。
「こうして微睡むあなたは可愛らしいですねぇ」
「普段の私も充分愛らしいでしょう」
「寝顔はとても愛らしいですよ」
「寝顔だけですか」
「ふふっ冗談です。怒らないで」
眉間が僅かに動き不機嫌そうに鬼灯は起き上がった。
無表情な様ですぐに顔に出てしまうところも可愛いと思うのだが、僕はあえては口にしない。
膝元にあった温もりがゆっくりと冷めてゆく。
代わりにこちらを向いた鬼灯が僕の手をとった。
「私にそんな能天気な事を言うのは澪さん、貴方くらいです」
「能天気は褒めているの?」
「褒めてるんですよ」
表情を変えず鬼灯はまた僕の頬を撫でた。
少し乾燥した皮膚が優しく触れて擽ったい。
反射的に目を細めるとそのまま顔が近付いてきてちゅ、と軽く口付けられる。
「…そろそろ行かなくては」
「そうですか」
ポケットから取り出した懐中時計を見た鬼灯はゆっくりと立ち上がり尻についた土をはらう。
僕は少し寂しいなと思い下を向くと、それを察したのか優しく抱きしめられる。
鬼灯は珍しく現世の黒いトレーナー姿だ。
ワンポイントで胸元に小さく鬼灯の絵がかいてある。
熱いくらいの体温が心地よくて肩口に頬を寄せると洋服かからは少しだけ地獄のにおいがした。
「地獄のにおいがします」
「うまく隠しているつもりですがやはりこの距離感だとバレてしまいますね。くさいですか?」
「いいえ。…すき」
「可愛いことを言う」
ぎゅ。っと抱きしめる力が強くなった。
少し苦しいけれど負けないくらいに僕は抱きしめ返す。
「現世はもうすぐ桜の季節ですね」
「はい。僕が活躍できる貴重な時期ですから張り切ってお務めしなくては」
「もう少し暖かくなって、澪さんのお務めも落ち着いた頃にここで花見でもしましょうか」
「ふふっ。素敵なデートのお誘いですね」
小さく笑うと鬼灯は再度優しい口付けをする。
ヒュウ、と強い風が吹いて鬼灯の黒い髪が頬をくすぐった。
「…まだ少し風が強いですね。桜を咲かせるのはもう少し先になりそう」
「そうですか?私はほとんど地獄にいるのでこれくらいなんともないです」
「ふふっ。強い鬼さんですね」
「ええ。強い鬼ですよ」
冷たい風が今度は僕の髪をなびかせた。
鬼灯はゆっくりと離れてから、はらりと舞った僕の髪を優しく撫でた。
「しばらくはこちらには帰ってこないんですか?」
「はい。桜の季節が終わるまでは現世に残るつもりです」
「では次に澪さんに会えるのは桜が咲いた頃ですね」
「いつでも会いに来てくれてもいいんですよ」
「貴方こそ」
「ふふっ。お花見楽しみにしています」
僅かに表情を和らげた鬼灯は一礼してからそのまま街の方へと歩いて行く。
どうやら本当に視察だったらしい。
ふっと笑って唇に手を当てる。
触れていた手には僅かに鬼灯の香りが残っていた。
重ねていた唇はまだ少し熱を帯びている様だ。
僕は春への願い込めて桜の木の枝にそっと息を吹きかけると、小さな桃色の蕾が優しく芽吹く。
「早く逢いたい」
別れたばかりなのに、と笑ってから僕は再び春の満開を祈った。
「うたた寝ですか?」
月明かりに照らされた桜の木の木陰で微睡んでいると背後から優しい声がした。
ざり、と土を踏む足音と共に声の主が近付いてくる。
「鬼灯さん?」
「正解です」
振り向かずに声をかけると低い声で返事が返ってくる。
声の主鬼灯は隣にやって来ると、遠慮もなくゴロンと僕の膝に頭をのせた。
「サボりですか?」
「まさか。現世の視察です」
「こんな山奥に?」
「こんな山奥に」
すん、と鼻を鳴らした鬼灯は閉じていた瞼を開けて僕を見上げる。
切れ長な瞳はまっすぐに僕を射抜く。
「なんです?僕の顔に何かついていますか?」
「いえ。ただ、桜の匂いがするなと」
「僕は桜の精霊ですから」
苦笑いをすると鬼灯は無表情のまま僕の頬に手を伸ばした。
ごつごつとした温かい手の温度がじんわりと肌に伝わる。
「こうして微睡むあなたは可愛らしいですねぇ」
「普段の私も充分愛らしいでしょう」
「寝顔はとても愛らしいですよ」
「寝顔だけですか」
「ふふっ冗談です。怒らないで」
眉間が僅かに動き不機嫌そうに鬼灯は起き上がった。
無表情な様ですぐに顔に出てしまうところも可愛いと思うのだが、僕はあえては口にしない。
膝元にあった温もりがゆっくりと冷めてゆく。
代わりにこちらを向いた鬼灯が僕の手をとった。
「私にそんな能天気な事を言うのは澪さん、貴方くらいです」
「能天気は褒めているの?」
「褒めてるんですよ」
表情を変えず鬼灯はまた僕の頬を撫でた。
少し乾燥した皮膚が優しく触れて擽ったい。
反射的に目を細めるとそのまま顔が近付いてきてちゅ、と軽く口付けられる。
「…そろそろ行かなくては」
「そうですか」
ポケットから取り出した懐中時計を見た鬼灯はゆっくりと立ち上がり尻についた土をはらう。
僕は少し寂しいなと思い下を向くと、それを察したのか優しく抱きしめられる。
鬼灯は珍しく現世の黒いトレーナー姿だ。
ワンポイントで胸元に小さく鬼灯の絵がかいてある。
熱いくらいの体温が心地よくて肩口に頬を寄せると洋服かからは少しだけ地獄のにおいがした。
「地獄のにおいがします」
「うまく隠しているつもりですがやはりこの距離感だとバレてしまいますね。くさいですか?」
「いいえ。…すき」
「可愛いことを言う」
ぎゅ。っと抱きしめる力が強くなった。
少し苦しいけれど負けないくらいに僕は抱きしめ返す。
「現世はもうすぐ桜の季節ですね」
「はい。僕が活躍できる貴重な時期ですから張り切ってお務めしなくては」
「もう少し暖かくなって、澪さんのお務めも落ち着いた頃にここで花見でもしましょうか」
「ふふっ。素敵なデートのお誘いですね」
小さく笑うと鬼灯は再度優しい口付けをする。
ヒュウ、と強い風が吹いて鬼灯の黒い髪が頬をくすぐった。
「…まだ少し風が強いですね。桜を咲かせるのはもう少し先になりそう」
「そうですか?私はほとんど地獄にいるのでこれくらいなんともないです」
「ふふっ。強い鬼さんですね」
「ええ。強い鬼ですよ」
冷たい風が今度は僕の髪をなびかせた。
鬼灯はゆっくりと離れてから、はらりと舞った僕の髪を優しく撫でた。
「しばらくはこちらには帰ってこないんですか?」
「はい。桜の季節が終わるまでは現世に残るつもりです」
「では次に澪さんに会えるのは桜が咲いた頃ですね」
「いつでも会いに来てくれてもいいんですよ」
「貴方こそ」
「ふふっ。お花見楽しみにしています」
僅かに表情を和らげた鬼灯は一礼してからそのまま街の方へと歩いて行く。
どうやら本当に視察だったらしい。
ふっと笑って唇に手を当てる。
触れていた手には僅かに鬼灯の香りが残っていた。
重ねていた唇はまだ少し熱を帯びている様だ。
僕は春への願い込めて桜の木の枝にそっと息を吹きかけると、小さな桃色の蕾が優しく芽吹く。
「早く逢いたい」
別れたばかりなのに、と笑ってから僕は再び春の満開を祈った。
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