短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
月の光が静かに降り注ぐアパートの一室。
皮のソファに体を預けながら、クラピカはいつものように難しい本を手にしていた。
淡く揺れる灯りの下で文字を追うその瞳は真剣そのものだ。
俺はそんなクラピカの背後へ静かに近付きそっと手を伸ばす。
華奢な肩に指先が触れた瞬間、クラピカは小さく肩を震わせる。
睨むように振り返った拍子に靡いた金色の髪の毛が月明かりを浴びて僅かに煌めき、俺はわずかに目を細める。
一方、読書を邪魔されたクラピカの目は全く笑っていない。
「なんだ澪、暑苦しいぞ!」
「えー」
ソファの後ろから優しく抱きしめると、本の表紙でおでこを小突かれる。
「いたい」なんて小言を言ってみたものの、実の所はそんなに痛くない。
嫌がる素振りのクラピカの声は普段よりも格段に低いが、どこか柔らかい声色だ。
「離せ」
「だめー」
「あ!こらっ!」
そう言ってさらに強く抱きしめると身じろいだので、隙を狙って素早く抱き抱える。
そのままベッドへ誘導すると、クラピカは驚いたようにまた声をあげる。
その困惑と恥じらいが混じった表情がどうしようもなく愛おしかった。
薄いガラスを扱うように優しくベッドに体を下ろし、後ろから包み込むように抱きしめると僅かに硬直する。
それがどうしても愛おしくて、ついふっと耳元で笑うとクラピカの呼吸が少し速くなるのが背中越しに伝わった。
だがすぐに体の硬さを解き、腕の中からそっと抜け出そうとしている。
「ばか!離さないか!」
「こっち向いて」
照れて悪態をつくその姿に俺はもう一度軽く笑った。
抜け出そうとするその肩を抱いてぐるりとこちらに向けると、真っ赤に照れた表情と目が合った。
「逃げんなよ」
「ば、…ンん!」
そう言いながら再び強く抱きしめ唇を奪う。
クラピカの香りが鼻をくすぐって、心の奥をじわりと温めていく。
「なんでこんな事をするんだ?」
「んー?どんなこと?」
「嫌な質問だな」
「可愛いからかな?」
「馬鹿じゃないのか!」
呆れたように言いながらも、クラピカの声はどうも弱々しい。
普段はツンとしているのに、こんな時はとびきり可愛いなんて反則だ。
「すき」
純粋にそう伝えるとクラピカは一瞬黙り込む。
目を伏せたまましばらく黙っていたけれど、やがてゆっくりと顔を上げた。
その視線は照れ隠しのようにキツく睨んでいたが、耳まで真っ赤でどうにも説得力がない。
「君はいつも、なんでそう歯の浮くような言葉をスラスラと言えるんだ!」
「クラピカにだけだよ」
俺は微笑みながら潤んだ瞳を上から見つめる。
ベッドシーツに縫いつけた小さな手がピクリと僅かに震えた。
「アホだな」
クラピカは真っ赤な顔のまま軽く舌打ちをした。
でも、俺にはわかる。
その短い言葉の裏にある甘い感情も、ちょっとした困惑も。
俺はクラピカの手を取って指を絡める。
少し冷たい手のひらが自分の温度とじんわりと溶ける感覚。
「……澪の手は暖かいな」
「クラピカの手を暖める為に生まれてきたのかも」
ばかみたいな口説き文句にクラピカはふっと息を吐き出し、柔らかな笑みを浮かべた。
クラピカの小さな手が俺の手をそっと握り返し、一瞬の沈黙のあと、ぽつりとつぶやく。
「…君も可愛い人だよ」
「えっ」
聞き返す間もなくクラピカは目をそらす。
その声が少しだけ掠れているのに気が付き、質問はやめにしてクラピカの頬に唇を寄せる。
くすぐるように、触れるだけのキス。
クラピカはぴくりと肩を揺らしたけれど、すぐに目を伏せて動きを止めた。
華奢な指先が微かに震えている。
「もっとしていい?」
そう囁くとわずかな間のあと小さく頷いた。
その返答に気を良くした俺はそっとその小さな唇を塞ぐ。
最初は控えめに。けれど、すぐに我慢がきかなくなる。
「っ…ぅ、」
息を吸うたび触れ合う場所が熱を持っていく。
深く重ねた唇の奥でクラピカの息がかすかに震える。
「かわいコちゃん捕まえた」
「っ…だれが、!っあ…」
こんなにも可愛い生き物を俺は今後一生逃がす気はない。
だけどべつに無理やりって訳でもない。
同じ温度でクラピカもそう感じてくれていれば良いのだけれど。
唇を離すとクラピカは目を閉じたまま小さく息を吐く。
その頬はさっきよりも赤くなっていて、睫毛はほんのりと濡れていた。
一生懸命なその様子が愛おしくてサラサラの髪を撫でていると、クラピカの瞳がうっすらと開く。
「……もっと、しないのか?」
「あらー。かわいいね」
「バカにしているのか!」
「ううん。好き」
「……どうしようもないな、君は」
声が震えている。
でも小さな手は俺の服を掴んだまま離そうとしなかった。
その手を辿るようにもう一度唇を重ねる。
さっきより深く、甘く、優しく。
クラピカの手が俺の背中にそっと回された。
拒まれていないことが嬉しくてそっと抱き締める。
朱に染まった頬を優しく撫でると僅かに熱を灯した瞳が優しく笑った。
1/1ページ
