短編
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目眩がしそうな程にまばゆい薄桃色に攫われてしまいそうだと思った。
花冷えの日、頬を撫でるような春の風がひとつ。
「風強いなあ…。今日卒業式なのに」
「…おう」
澪は笑う。
桜並木に魅せられたその瞳は太陽の暖かい光を吸収してキラキラと輝いている。
桃色に染まった美しい瞳はゆっくりと爆豪の方を向いた。
不意に交わる視線に息が詰まりそうだった。
きっとこの世界にある美しいもの全てを並べても、この瞳には何一つ敵わないのだろうと
ガラにもない事を考えてしまう程の眩しさに息をのむ。
「爆豪」
「…おう」
普段からぶっきらぼうな自覚はあった。
しかし想像していたよりも穏やかな声色での返答に自分でも驚いていると澪の頬は徐々に染まってゆき、ゆるゆると締りのない笑顔になった。
しかしすぐに目を伏せて俯いてしまったので桃色の頬は見えなくなってしまう。
「っ、や、っぱ寂しいなぁ……泣けてきた…」
「まだ始まってねェ」
「そ、だね」
濡れた瞼をごしごしと制服の袖で擦るのでその目元まで淡く色付く。
触れたいと思う。それなのに触れる理由が見当たらず爆豪は行き場のない思いを閉じ込めるようにして制服のズボンをギュッと握りしめた。
「目ェ擦んな。赤くなんぞ」
「ん、ありがと…」
目いっぱいに涙を溜めて澪は笑った。
長いまつ毛が涙でしとどと濡れている。
爆豪は澪が好きだった。
今にでも好きだと伝えてその涙を拭ってやりたいが、どうにも気恥ずかしくて目をそらす。
「そろそろ行かねぇとマジで遅れる」
「っ!うん…」
情けない自分を誤魔化すように爆豪は大股で歩みを進める。
数歩後ろで澪も動きだした気配がした。
ジャリジャリと2人の足音だけが青空に響いていたが不意に後ろの足音が止まる。
不審に思い振り向こうとした爆豪の耳に届いたのは、涙声の澪の声だった。
「っす、好きなんだけど!!」
「は……?」
ゆっくりと振り向く。
少し離れていても解るくらいに澪はくしゃくしゃの泣き顔だ。
爆豪は驚きで固まっていると今度は澪がずかずかと大股でこちらに歩み寄って来る。
「爆豪の事好きなんだけど!!」
「な…ん、え……?」
「だって、爆豪も…っ俺の事好きじゃん…!」
「は……?」
澪は袖口で不器用に涙を拭いながら爆豪の目を見た。
長いまつ毛に縁取られた瞳はぐずぐずだったが真っ直ぐに爆豪を射抜く。
「好き、です…!」
「何回も言わんで良い!」
「ごめ、」
「俺も好きだ」
ふわりと桃色の風が吹いた。
春風は花びらを巻き込んで甘い香りが辺りを包む。
この瞬間を離さまいとその全てを抱き込むようにして爆豪は澪を強く抱きしめた。
じんわり色付いていく澪のうなじが目に入る。
「えっ、…え!?」
「何テメェから告白してきといて戸惑ってンだコラ。俺が好きなの知ってたんだろーが」
「本気で言ってる!?両思い!?」
「……おう」
「うええぇえ…」
「あ゛ー!もう泣くなや!」
しゃっくりをあげながら腕の中でポロポロと涙を流す澪を見てなんだか自分まで泣きそうな気分だ。
自分にも言い聞かせるようにもう一度泣くなと呟き澪の柔らかな髪を撫でる。
「卒業してもぉ!一緒にいたいぃ!!」
「お前ほんっと顔に似合わず言う事カッケェな」
「ずっとカッケェ爆豪の隣にいましたからぁ…っ」
背に回った澪の腕の力が一層強くなる。
こんなに情けなく泣き喚いていてもしっかり雄英生だ。
力強い抱擁に爆豪は思わず笑いが込み上げる。
「な゛に笑ってんのぉ…」
「声汚っ!」
そっと離れて制服の袖で濡れた頬を拭ってやる。
初めて触れたのだ。触れる理由が出来た事にどうしようもない喜びと高揚感を覚える。
「あー…付き合うか?」
「っ!う゛んっ!!」
頬に触れていた手に澪の手が重なる。
涙はまだとめどなく溢れているが照れたようにぎこちなく笑った。
「幸せにするからねぇえ!!」
「おー」
なんだそれ。
アホだな。なんて思いながら爆豪は澪に気付かれないように静かに笑った。
遠くでチャイムが鳴る。ハッとしたように澪が顔を上げた。
「ヤバ卒業式!」
「走んぞ!」
「うん…!」
澪の返事を合図に2人は駆け出した。
春爛漫の空に駆ける足音とチャイムが響く。
「告白してて卒業式遅れたら笑えるよね!これ!」
「笑えねェわ!チンタラすんな行くぞ!」
「はーい!」
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