酔って候!
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BAR ClariS
デカデカとした派手な看板に書かれた店名を確認してから黒光る重い扉を開ける。
賑わう薄暗い店内はいたって普通のBARだが、客層をよく見ているとたしかに未成年を入れているのは納得だ。
明らかに十代の少年少女が大人びた格好をしてボックス席を囲み楽しそうに酒を嗜んでいた。
「いらっしゃいませ」
「あっどうも……」
黒いジレとエプロンを身につけた若いバーテンダーがにこやかにこちらへやって来てカウンター席に案内される。
一応十七歳という設定なので慣れていない様な様子を演じておく。
「初めて?ウチには来たことないよね?」
「あ、はい…。すみません慣れてなくて」
「いーや。何飲む?」
「あ、えっと……」
バーテンダーはどこからともなくメニュー表を出してこちらに向けて開いた。
メニューには沢山の種類の酒類の名前が並んでおりページを捲りながらうーむ、と声を出して悩む。
土方が用意した資料によると、どうやら行方不明になっている子供は皆十五から十八の間の少年らしい。
資料に載っていた行方不明者の写真を見る限り共通点は幼い顔立ちの少年という事。
バーに通う未成年者が行方不明となれば派手でヤンチャな子供を想像していたが、どちらかと言えば皆純粋そうな見た目だった。
しかも揃いも揃って可愛い顔立ちと来たらもう自分の出番だと澪は内心舌なめずりをする。
「決まんない?」
「んー…悩みます」
ドリンクを決めかねていると思ったバーテンダーはどんなのが好き?と聞いてきた。
正直今飲みたいのはビール一択なのだが今日はウブそうな少年を演じているので大して好みでは無いが可愛く甘い系と答える。
「甘い系ね。オッケー。ミルク系飲める?」
「はい!好きです」
「じゃカルーアにしよ。コーヒーも大丈夫?」
「好きです」
カルーアかよ捻り無さ過ぎて草、と澪は思ったがその言葉は笑顔の裏に隠し咳払いをする。
待っている間に出てきたおしぼりで手を拭いて店内を見回す。
カウンター席の後ろにボックス席があり視察には少し向かないが慣れないバーにキョロキョロする子供のていで行けば初日は大丈夫だろうと遠慮なく隅々まで見た。
やはり客層は若く酔っ払って十代特有のはしゃぎ方をする者も少なくない。
未成年を入れるにしてももう少し考えて入れるものだが考え無しに客として迎え入れているのであろうこの店内の異様な空気は摘発対象になっていたのも納得のクオリティだ。
「はいどーぞ」
「ありがとうございます」
目の前の黒いコースターにカルーアミルクが置かれる。
ミルクティ色のそれは甘ったるい匂いを漂わせてカランと鳴った。
特に嫌いではないが普通にビールが飲みたい。
「若いねー。君一人?」
「はい。あ、これ美味しいです」
「ありがと。うるさい店だけどゆっくりしていってね」
店員は笑った。
なんの捻りもないカルーアミルクが出てきた時はクソだと思ったが肝心の飲み物はちょうど良い割り合いで美味しいなと澪は思った。
目の前にいた定員が他の客に呼ばれて離れていったのをいい事にカウンター内を見る。
オーナーの中村はいない。
さすがに初日に会えるとは思っていなかったがこれからどう情報を得ようかと悩んでいるとふと白いフワフワが目に入った。
カウンターの奥は暖簾がかかっており、更にその奥は厨房になっているようで黒い年季の入った暖簾をあげて白髪のバーテンダーが出てくる。
「洗いもん終わったっす店長ォ」
「!?」
緩い間延びした声の主は以前スナックで出会った銀時だった。
向こうが覚えているかは分からないが警察だと言ってしまった手前ややこしくなるかもしれないと澪は内心焦る。
「あれ、」
「…」
店内を見回した銀時がこちらに気付き首を傾げる。
なるべく気付かれない様にグラスを持ち上げて一気に酒を飲む。
カルーアミルクは断じてこんな飲み方をするもんじゃない。