酔って候!
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昼食を終え仕事を再開する為に副長の自室へ向かうと、ちょうど部屋から出てくる土方に遭遇した。
煙草を咥えながら相変わらずの凶悪面で歩いている。
「おつかれさまでーす」
「おー水酉。メシって来たか」
「メシって来ました。ご機嫌さんなんで今なら何でも買ってあげますよ?」
「俺も食ってくるわ。今日何あんの」
「無視した…。唐揚げ定食とサバ定食と…あとなんやったかな…。麻婆豆腐定食?がありました」
「唐揚げにするわ」
「はい。俺は戻って仕事してます」
「サボんじゃねェぞ」
「はーい」
そのまま土方は食堂の方へ消えていった。
気だるげにあくびをしながらまた煙臭い室内へ……
と、思ったが中に入ると窓が空いておりスッキリした空気になっていた。
少しは気にしてくれているのだろうか?と澪は嬉しくなり、また頑張って手伝ってやろうと土方の机にあった書類を自分の机へ運ぶ。
「あ」
ふと目に入ったのは土方の机の端に置いてあるマヨネーズ型のライターだった。
妙な形のそれを見て澪は先程別れたばかりの沖田との会話を思い出す。
……
「これ、何だかわかりやす?」
そう言って沖田が懐から出したのはマヨネーズ型の何かだった。
「マヨネーズ?」
特に面白い答えは出なかったので純粋に答えてみる。
「そ。これ、ライターなんでさァ」
「ライターなんやこれ。面白いですね」
澪は変わったおもちゃやお菓子が好きだった。
マヨネーズ型ライターもその類にはいるのか、興味が湧いたので沖田に聞いてみる。
「でも土方さんにやり返すって何を?このマヨネーズでやるんですか?」
「そ。土方もコレと同じものを普段から使ってるんで。それと、このマヨネーズを取り替えるだけでいいんでさァ」
「え?土方さん普段からライターこれなんですか?…意外やわ。ギャップしんどいわ」
「アイツは生粋のマヨラーなんでさァ。よく見てて下せェ。いつも犬の餌みてえな飯食ってますぜ」
「犬…?それはちょっと気になるな」
さりげなく今アイツって言ったなと思いつつ、なんとなくドックフードが澪の頭に浮かぶ。
「ま、水酉さんに頼みてえのはこっそりこれと、土方さんのライターを取り換えて欲しいんです。後はまあ…見てりゃわかります」
……
終始悪い顔をしていた沖田が気になったが、ライターで出来る仕返しなんてせいぜいピリッと電気が走るくらいだろうと思い快く引き受けた。
土方はライターをそのまま忘れていってしまった様で絶好のチャンスだと澪は笑う。
沖田から預かったマヨネーズを土方のライターとすり替える。
手に持った土方のライターはよく見ると面白い作りだった。
赤い蓋の部分から火が出る構造になっている。
「何これおもろ」
しばらくカチカチと火を着けたりいじって遊んでいたが、急に飽きてきたので仕事に戻る。
集中するとあっという間なので気付けば1時間程経っていた。ふと筆を止めて緑茶をすする。
普段から好んで緑茶割りを飲んでおり、酒が入っていなくても緑茶を飲むと酒を飲んでいる気分になれた。
我ながらイカれているなと澪は思ったがとりあえずほっと一息つく。
菓子でもつまもうかと思ったタイミングで障子が開いた。
昨日も徹夜したであろうまだ隈の濃い土方が部屋に入ってくる。
「あ、おかえりなさい」
「サボんなって言ったよなぁ?」
「ちゃいますよ。書類結構片付けたんで今は休憩がてら茶しばいてました」
「茶しばく?何それ関西弁?」
「あーそうなんですかね?江戸はお茶する時とかに茶しばくって言わないですか?」
「言わねェな」
「嘘ぉ……これ標準語やと思ってました」
「そもそもシバくがもう関西弁なんじゃねえの」
「たしかに」
ゆるい会話の後土方はまた机に向かう。
「ライター忘れたんだよ」と呟き煙草を咥えた。
例のマヨネーズライターを手に取った土方を見て澪はゴクリと唾を飲み火を付けるのを凝視した。
その刹那、
ボッ!!!!
と激しい音がしてライターから火柱が上がる。
土方は叫んでライターを空いた窓に向かって投げた。
「も、燃えたァ!!!!!!」
「熱ゥ!!!!!!!」
「土方さぁあん!!前髪ヤバい!!!えらい事なってる!!あかんあかんあかん!!!!!!」
「え!?うそ!!俺の前髪無事か!?なあ!!おい!!!」
前髪が燃えた土方以上に澪は取り乱し叫び声をあげる。
チリチリになり消え失せた前髪を見ると良心が痛んだ。
「こんなん聞いてへんし!!!電気ピリッとするぐらいやと思うやん!!!!」
そう叫んで思いっきり立ち上がると、先程すり替えた本物の土方のライターがぽろりとポケットから飛び出てきた。
澪は一気に汗が吹き出る。
「なんだよそれ。俺のライターか?」
「あ、」
終わった。
そう思った刹那、澪は部屋を光の如くのスピードで飛び出し屯所を走る。
横を通った隊士には廊下を走るな!と一喝されたが今はそれどころでは無い。
中庭まで走ると縁側で沖田が妙なアイマスクを付けて寝転んでいた。
普段の冷静な状態なら、「それどこで買うたん?」と聞いていたが今はそれ所ではない。
「沖田さん起きて!!!なんか土方さんのライター爆発してんけど!!!」
「すぴー」
「嘘寝ええて!!!絶対起きてるやん!」
何度か体を揺すると沖田は気だるげにアイマスクを額まで上げた。
寝起きの目をぱちぱちさせてあくびをしている。
かわいいな。や、そうじゃなくて!
「あれ何なん!?めっちゃ火柱上がったんやけど!!!」
「改造ライター。仕返しになったでしょ?」
沖田がニヤリと笑う。
「なあ俺上司の前髪チリにしてもうたんやけど!!殺されへん!?なあ!!!」
「俺隊長。お前ヒラ。俺も一応上司なんでィ敬語使えや」
「いやうるさい今このピンチはお前のせいやねん!!!!!!」
「お前がうるさい」
勢いでお前と言ってしまったが澪は気付かず沖田の肩をゆする。
「水酉ィ!!」と遠くから土方の叫び声が聞こえた。
「あかん土方さんこっち来たって!!沖田さんがやれって言うたってちゃんと土方さんに言うて!!!」
「むり」
「何わろてんねん!!」
あまりにも憎たらしい顔で笑う沖田を殴ってやりたい衝動に駆られたがグッとこらえてもう一度肩をゆする。
アイマスクを再び下げて寝る体勢に入った沖田に声をかけていると後ろから殺気を感じた。
「ヒッ」と小さく叫び声をあげる。
「水酉ィ…」
ぐっと首を掴まれた。
ギリギリと肉に食い込む様な痛さだ。恐ろしくて後ろを振り返れず涙目になる。
そして澪はそのまま引き摺られてまた煙臭い部屋へと消えていく。
「沖田ァ!!!!」と叫んでいたが、名前を呼ばれた本人は構い無しだ。
ニヤリとほくそ笑んだ後、遠くの怒声と叫び声を子守唄に沖田は再び昼寝を始めた。
後に澪は沖田がいつも土方にちょっかいをかけている事を知る事になるが、それはもう少し後になりそうだ。