酔って候!
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じわじわとまとわりつく様な暑さの中大荷物を抱えた男は真選組屯所の前で立っていた。
どんと構えられた門は威嚇しているようにも見える。
「クソ暑い……」
男、水酉 澪は本日より大阪から配属された隊士だ。
右手には水滴が滴る缶酎ハイを持っており、丁寧にストローが差してある。
大荷物の中でも手軽に飲めるように上手く工夫しているようだ。
澪は気合いを入れるように「よし」と小さく呟いてストローを吸った。少し気の抜けたぬるい炭酸が喉を通る。
ややパンチのないグレープフルーツ味のそれを味わっていると奥から男が歩きてきた。
その人物はよく通る声でこちらに声をかけてくる。
「おっ!澪くんか?」
「あぁ!近藤さん!」
声の主はしばらくぶりに会う近藤だった。
真選組という警察組織の局長だ。
近藤は毒気のない笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
嬉しくなって澪は同じく駆け足で手を振った。
「久しぶりだなあ!2年前ぶりか?大人になったなぁ!」
「近藤さんお久しぶりです!ハタチになりました!」
「そりゃあ逞しくなるはずだな!駅まで迎えに行けなくてスマンなあ」
「全然歩いて来れる距離やったから大丈夫でしたよ!」
「そうかそうか!まあ中に入ってくれ!」
近藤は澪の頭を撫でた後「こっちだ」と屯所に招き入れる。
広い屯所内を案内しながら2人は昔話に花を咲かせた。
以前大阪の警察組織にいた澪は数年前に近藤に出会い度々仕事で会う機会があった為親しくなりそれ以来の仲だ。
弟のようだと言って可愛がってくれるこの男を澪は昔から慕っていた。
「いやあそれにしても、まさか澪くんがウチに来てくれるなんて思ってもみなかったなぁ!」
「まあ、色々ありまして…」
ちゅうとストローを吸う。
ズズっと音が鳴って中が空になった事を告げる。
大阪からはるばる江戸に来た理由はつまるところ左遷だった。
理由は……思い出したくもない。
「あれ?酒飲んでんの?」
「あ、すんません残ってたからつい。飲み終わったんで後で捨てます」
「そうかあ澪くん、酒も飲める様な歳になったんだなぁ!」
「酒めっちゃ好きです」
「あっでも仕事中はダメだぞ」
「はーい」
近藤は豪快に笑う。
澪はこのまっすぐな近藤の笑顔が昔から好きだった。
釣られて笑顔になり談笑しながらよく陽が入る縁側の様な廊下を歩いて後ろをついて行くと、ある部屋の前で止まった。
障子はキッチリ閉められているが何処となくヤニ臭い。
「ここ、うちの副長の部屋なんだよ」
「副長って事は土方さんですか?」
「おーそうか。一回会った事あったよな?」
「ほんま一瞬やったんですけど昔挨拶だけした事あります」
「まあ体の事もあるし一旦事務作業メインで動いてもらおうと思っていてな。トシも今終わらねェ書類仕事のせいでずっと缶詰め状態で」
「書類仕事は大阪に居た時からよくやってるんで手伝えると思います」
近藤は笑顔で頷いた後に室内に向けて声をかける。
よく通る声だと澪は思った。
「トシ、入るぞ」
そう言って近藤は部屋の障子をゆっくり開ける。
中からモワッとした空気が溢れ顔をしかめた。
室内を覗くと凄まじい形相の男、土方十四郎が煙草を咥えながらギロリとこちらを見た。
「あ?」
「土方さんお久しぶりです」
「あぁ、今日から来るって言ってた奴か…どっかで会った事あったか」
「4年前の大阪の会食でお会いしました。お会いした言うても挨拶しただけやったんですけど…。今日からよろしくお願いします」
「あーあん時のなんかやたら飲まされてたガキか」
「え、それ覚えてたんですね。そうです。あん時のガキです」
土方はゆっくり立ち上がりこちらに歩いてきた。
ボキッと首の骨を鳴らし歩いてくるその姿はまさに鬼のようだ。
眠っていないのだろうか。目の下に濃く深い隈があった。
「お前はしばらく俺の下について事務処理を手伝ってもらう事になってる。回復したら現場にも駆り出すだろうがまあもう少し先だ。…刺されたんだろ?」
「ウッ…思い出すと傷痛むんでちょっとその話題は…」
「あっそ。…つーかお前なにそれ」
「あ、これですか?」
空になったストロー付きの缶を土方に見せる。
美味しいですと付け加えると怖い顔が更にレベルアップしまるで般若の様な形相になった。
「初日から酒持ち込んでんじゃねーよ。つかお前みてえなガキが酒飲んでんじゃねーよ百年早ェんだよ!」
「酒は百薬の長って言いますからねぇ…。新幹線で売ってたんでつい。あ、もうハタチ超えてるんで全然酒は飲めます!」
「あぁ!?ナメてんのか全然飲めるってなんだよ意味分かんねぇよ!表出ろウチのルールを叩き込んでやる」
「ま、まぁ初日だから許してやってくれトシ」
土方はぐっと顔を近付けてきた。
澪は背が高い方ではなかったので、自分よりも背が高い者が近付いて来ると見下される様な形になる。
威嚇をされていると気付いたがもう慣れてしまったので澪はにこやかに答えた。
「土方さん背デカいですね」
「…」
怯まなかった事に驚いたのか、はたまたトンチンカンな返事に呆気を取られたのか。
妙な顔をして土方は一方引いた。
舌打ちをした後ポケットからタバコを出して火を付ける。
「チッ…まあいい。業務中に酒飲むんじゃねェぞ。」
「はあい。ありがとうございます」
にこにこと笑って澪は答えた。