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犬夜叉【殺りん】

サクラが散るまえに


さわりと肌に優しい風が吹き去った。
ハッとした。
見上げた木の先から桜が落ちて舞い上がる様子が目に映った。
あ、いけない…。
もう、終わりなんだ…。
まだ大丈夫って思ってた。待ってはくれないんだ。当たり前だよね。
「りんちゃーん!私さきに戻ってるけど大丈夫ー?」
かごめ様が洗濯を終えてタライを抱えて立っていた。いけない、私も残りの洗濯しなくちゃ。
「大丈夫です!もうすぐ終わりそうなので!」
手を振って離れていったかごめ様に息が漏れる。皆さんより歳が下で迷惑かける立場なんだから、これ以上の心配をさせてはいけない。
…桜がもう散ってしまいます。
殺生丸様…、どうか、散ってしまう前に、どうか…。
先に続く言葉がない。
それを言葉にしてしまってもいいのか。
形にしてしまってもいいのか。
…卑屈になってはダメなんだから
しっかりしなきゃいけないのに。私、もう20歳になります。子供じゃない…そうでしょ?
そろそろ、時期だと思ってはいけませんか?
考えごとがモヤモヤと消えず、途中の洗濯ものは一向に終わらない。
「ぐぅぅぅぅ〜…」
あれ、あははは…もうお昼?
私ったら…いつまでかかって…。
いくつになっても私、とろくて殺生丸様に釣り合える女の子に全然なれない…。
「私、どうしたら…」
「悩み事か」
ハッとして顔を上げる。
分かっていた、誰なのか。
「せ、殺生丸さま…!」
「…いつまでそうしている?朝から洗濯が進んでいない」
「あっ…私ったら…おかしいな…」
恥ずかしい…洗濯もできない子供だって…思われちゃったかな…。
「考えごとか」
「あ…えっと、りんね、殺生丸さまと桜が見たくて…もうすぐ散ってしまうでしょ?だから、その前に会いに来てくれるかなって…」
「そんなことか」
「そんなことって…」
殺生丸さまが伸ばしてきた手が私を抱き上げ、フワリと身体が舞う。
あ、これ私が好きなやつ…殺生丸さまに掴まって空を飛ぶの。普通の女の子なら絶対に出来ない、殺生丸さまと出会えたから私だけが知ってる特別なこと。
殺生丸さまの腕の中に顔を埋める。
嬉しい…!
風が髪を乱す。
殺生丸さまの白い髪も風に揺さぶられてる。
風が止んだ、と思ったら目的地に着いたみたい。
「悩みの種は解決したか」
殺生丸さまの声に顔を上げる。
あ、桜…。
散りかけで葉っぱもちらほら。
本当にギリギリだったみたい。
「…殺生丸さまと桜が見たくて…散ってしまう前に…」
あ、やっぱり、言葉が続かない。
私にはまだ…、早かったのかな。
「言いたいことがあるなら言えばいい。言葉が出てこないなら出るまで待つ」
…っ…どうして、優しいの?
「殺生丸さま…りんと、ずっと一緒にいてくださいっ…」
「もう傍にいるだろう」
「ううん、違うの…りんが死ぬまでそばにいてほしいの…子供が出来て、その子が大人になって、私がおばあさんになるまで…」
馬鹿なことを、っておかしな子って思うかな。
「もとよりそのつもりだ。そろそろ時期だと心得ていた。先を越されたな」
「殺生丸さまも同じことを思ってた?」
「りん」
「はい」
殺生丸さまの手が頬に触れた。
暖かくて優しい手。
あ、顔が、ちか…っ!!
触れた唇が熱くて熱くて…余韻を残して離れていく。
「分からないのか」
「わ、分かります…」
どうしてこんなにも心が揺さぶられるんだろうか。
恋ってこんなに落ち着かないものだったのね。
「殺生丸さま…りんを…殺生丸さまの色にしてください…」
こんなにも心落ち着かない。
「急ぎすぎるな。時期だと言ったがそれは身体を重ねる意味ではない」
あぁ、いやだ、恥ずかしい…。
そればかりだと思われてしまう…!
「心が満たされるまでそばに居る。まだ不安か」
抱きしめられる腕の中では、安心できた。
殺生丸さまがくれる愛を認識すればするほど。
「ううん、幸せ」
「そうか」
それ以上、殺生丸さまが口を開くことは無かったけど、殺生丸さまの腕は私を離さない。
私をギュッと抱きしめてるの。
緊張していたのかな、いまは凄く安心できる。
桜が散る前に、ここに来れて良かった。
殺生丸さまの傍が一番幸せ。
バイバイしたら次はいつ会えるかな。

END
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