【ンズラド】ふわふわふわんず!
夜警へと向かう直前、ラドヴァンとフリンズは双方の武器を点検していた。愛用の片手剣を銃に変形させてみる。アイノに改造してもらって以来、不具合が起こった試しがないのだが念には念だ。戦場では何が起こるか予測がつかないのだから。
「今日は特に霧が濃い……ラドヴァン、いつもよりも警戒してくださいね」
「私が仕事で手ェ抜いたことってあったかァ?」
「念には念をですよ。それにあなたは怪我を気にしない戦法がメインなので、万が一があっては困ります」
「へーへーわーってるよ」
聞いているのかいないのかわからない生返事に、フリンズはわざとらしくため息をついた。申し分ない実力を持っているのだから、いい加減自分の身を顧みるぐらいの態度は見せてほしいものだ。言っても聞かないから仕方がないだろうが。そんなフリンズの気持ちを知ってか知らずか、ラドヴァンは弾倉を覗き込んでいた。
一方、ひょこっとラドヴァンが腰掛けるソファの背もたれから顔を出したふわんずはラドヴァンのランプをじっと見つめていた。彼の腰で輝くそれは、夜毎の仕事に赴くために欠かせないものだ。ぼくのほうが、ふわふわでぴかぴかなのに。
「ふわーーーー!!」
突然そんな声と共にガシャンと重い落下音が静寂に包まれた地下室に響き渡った。心臓が口から飛び出そうな衝撃に苛まれながら音源を探すと、ものの無惨に床に落ちたランプと一仕事を終えたと言わんばかりに自慢げな表情を浮かべるふわんずがそこにいた。説明されずともわかる、大方体当たりで吹き飛ばきたのだろう。
「おまっ、ちょ、私のランプーーーー!?」
「ふわ!」
仕事の直前だというのになんてことをしてくれたのだろうか。オイル漏れやガラスに亀裂が入っていないかを確認しなければ、その一心でランプに手を伸ばそうとするとふわんずはラドヴァンの手のひらに頭をぐいぐい押し付けてきた。まるでランプに触って欲しくないかのような行動に、ラドヴァンの脳内をクエスチョンマークだけが埋め尽くす。
「ん! んーーー!」
「ふ、ふわんず……私らそろそろ仕事の時間なんだわ。お前さんは先に寝てて良いんだぜ……?」
「ふわ!! ふわふわ、ふわーー!!」
「……どうやら連れて行って欲しいそうですよ」
「なんでだよダメに決まってんだろ!? いくらフリンズの一部とはいえ、お前さんまともに元素力もクーヴァキも扱えねぇじゃねぇか!!」
以前、どこまでフリンズを写しているのかの検証でふわんずに力を使ってもらったことがあった。結果としては、暗闇の中でぼんやりと姿がわかる程度に光れるくらい——つまるところ、ごくごく軽い炎しか扱えないのだ。これならばフリンズの体調に影響が出ないことへの安心を得たと同時に、ふわんずに自衛手段が無いことへの恐怖が迫り上がったのを今でも覚えている。
慣れたものではあるが、ワイルドハントで魔物の処理をしながら周囲の人間に気を配るという行為は至難の業だ。停止したらフリンズの元に還るとはいえ、守り切れなかった時のことを思うと胸の奥がずしんと重くなる。
ふと、腰に暖かい体温が伝わってきた。いつもランプを携帯しているそこに目をやると、ふわんずが器用にぶら下がっている。
「ふわ!」
「うーん……そこにいてくれるなら……まあ……」
なんで納得してんだよ私。いやしかし、そこから一歩も動かないのであればまだ許せなくもない。手も届く上に気にかけやすいから。
「……ラドヴァンも随分甘くなりましたね。僕も恋人として甘やかされたいものです」
「あーはいはい後でな。ほら行くぞ」
仕方ない、今日はこれで妥協するしかないのだろう。
謎に拗ね始めた相棒をよそに、ラドヴァンはランプを左手に片手剣を背にしまった。
レンポ島北部のスターダストビーチ付近。
ここに到着するまでに届いていたはずの月の光がいつの間にか隠れ、頼れるのは手元のランプの灯火だけだ。纏わりつくような緊張感と、地の底から湧き上がる怨嗟の声が二人の意識を戦闘へと切り替えた。
「ふわんず、何があってもそこから離れるなよ。私が守るから」
「ふわ!」
元気な返事を聞き届けてから、霧の向こうに潜む魔物を見据える。生暖かい風が肌を撫で付けたのを皮切りに、ラドヴァンは真っ先に切り込んだ。
剣を縦に振り下ろし、その反動を利用して背後にいる魔物へと氷柱を蹴り飛ばす。そこから円を描くように脚を回転させると、すぐさまブレードを装着して地を蹴った。氷上を滑るが如く移動しながらワイルドハントを斬り捨てていると、少し離れたところで過負荷反応による爆発音が轟いた。
穢れた霧を払う青い炎と、天高く坐す神より賜った紫雷がプラズマを撒き散らしながら反応する。蒼炎の鎖に繋がれた槍が魔物を薙ぎ払って、すぐさま突きによる追い討ちが叩き込まれた。
蒼き炎と、赤き氷。
槍と剣。
相反する元素と武器、まるで共に舞い踊るような身のこなしで霧の中を戦い行く。単独であればそこそこ時間がかかっていたであろうこのワイルドハントの討伐も、相棒と共に取り掛かれば少し軽くなるような気がした。
視界の端で潮印石が輝くのを捉えたラドヴァンは、軽く辺りを見回した。戦闘開始から一分も経っていないが、霧は幾ばくか晴れて地形が確認できるほどとなり、魔物の数も減っているように見える。これならば、後は潮印石の封印だけで事足りるだろう。
「フリンズ! 私は潮印石動かしてくる!! そっちは任せたぜ!!」
「仰せのままに」
ラドヴァンは急いで潮印石に駆け寄り、封印のための準備を始めた。青白い光が仄かに輝いている、よし、あとは触れるだけだ。
潮印石に触れ、硬い感触が手のひらに伝わった。までは良い。
なぜか、突然頭が割れるような痛みが走って視界が暗転した。
——え?
いや、比喩などではないし状況が飲めない。こめかみの辺りから鋭い痛みが走ったことと、それがただの頭痛ではなくて故 意 に字 よ る も の だというのはなんとなく読めていて、でもこの状況でそんなことができる人間なんて第三者以外あり得なくて、あたまが、いたくて、それで、わから、ない。
「今日は特に霧が濃い……ラドヴァン、いつもよりも警戒してくださいね」
「私が仕事で手ェ抜いたことってあったかァ?」
「念には念をですよ。それにあなたは怪我を気にしない戦法がメインなので、万が一があっては困ります」
「へーへーわーってるよ」
聞いているのかいないのかわからない生返事に、フリンズはわざとらしくため息をついた。申し分ない実力を持っているのだから、いい加減自分の身を顧みるぐらいの態度は見せてほしいものだ。言っても聞かないから仕方がないだろうが。そんなフリンズの気持ちを知ってか知らずか、ラドヴァンは弾倉を覗き込んでいた。
一方、ひょこっとラドヴァンが腰掛けるソファの背もたれから顔を出したふわんずはラドヴァンのランプをじっと見つめていた。彼の腰で輝くそれは、夜毎の仕事に赴くために欠かせないものだ。ぼくのほうが、ふわふわでぴかぴかなのに。
「ふわーーーー!!」
突然そんな声と共にガシャンと重い落下音が静寂に包まれた地下室に響き渡った。心臓が口から飛び出そうな衝撃に苛まれながら音源を探すと、ものの無惨に床に落ちたランプと一仕事を終えたと言わんばかりに自慢げな表情を浮かべるふわんずがそこにいた。説明されずともわかる、大方体当たりで吹き飛ばきたのだろう。
「おまっ、ちょ、私のランプーーーー!?」
「ふわ!」
仕事の直前だというのになんてことをしてくれたのだろうか。オイル漏れやガラスに亀裂が入っていないかを確認しなければ、その一心でランプに手を伸ばそうとするとふわんずはラドヴァンの手のひらに頭をぐいぐい押し付けてきた。まるでランプに触って欲しくないかのような行動に、ラドヴァンの脳内をクエスチョンマークだけが埋め尽くす。
「ん! んーーー!」
「ふ、ふわんず……私らそろそろ仕事の時間なんだわ。お前さんは先に寝てて良いんだぜ……?」
「ふわ!! ふわふわ、ふわーー!!」
「……どうやら連れて行って欲しいそうですよ」
「なんでだよダメに決まってんだろ!? いくらフリンズの一部とはいえ、お前さんまともに元素力もクーヴァキも扱えねぇじゃねぇか!!」
以前、どこまでフリンズを写しているのかの検証でふわんずに力を使ってもらったことがあった。結果としては、暗闇の中でぼんやりと姿がわかる程度に光れるくらい——つまるところ、ごくごく軽い炎しか扱えないのだ。これならばフリンズの体調に影響が出ないことへの安心を得たと同時に、ふわんずに自衛手段が無いことへの恐怖が迫り上がったのを今でも覚えている。
慣れたものではあるが、ワイルドハントで魔物の処理をしながら周囲の人間に気を配るという行為は至難の業だ。停止したらフリンズの元に還るとはいえ、守り切れなかった時のことを思うと胸の奥がずしんと重くなる。
ふと、腰に暖かい体温が伝わってきた。いつもランプを携帯しているそこに目をやると、ふわんずが器用にぶら下がっている。
「ふわ!」
「うーん……そこにいてくれるなら……まあ……」
なんで納得してんだよ私。いやしかし、そこから一歩も動かないのであればまだ許せなくもない。手も届く上に気にかけやすいから。
「……ラドヴァンも随分甘くなりましたね。僕も恋人として甘やかされたいものです」
「あーはいはい後でな。ほら行くぞ」
仕方ない、今日はこれで妥協するしかないのだろう。
謎に拗ね始めた相棒をよそに、ラドヴァンはランプを左手に片手剣を背にしまった。
レンポ島北部のスターダストビーチ付近。
ここに到着するまでに届いていたはずの月の光がいつの間にか隠れ、頼れるのは手元のランプの灯火だけだ。纏わりつくような緊張感と、地の底から湧き上がる怨嗟の声が二人の意識を戦闘へと切り替えた。
「ふわんず、何があってもそこから離れるなよ。私が守るから」
「ふわ!」
元気な返事を聞き届けてから、霧の向こうに潜む魔物を見据える。生暖かい風が肌を撫で付けたのを皮切りに、ラドヴァンは真っ先に切り込んだ。
剣を縦に振り下ろし、その反動を利用して背後にいる魔物へと氷柱を蹴り飛ばす。そこから円を描くように脚を回転させると、すぐさまブレードを装着して地を蹴った。氷上を滑るが如く移動しながらワイルドハントを斬り捨てていると、少し離れたところで過負荷反応による爆発音が轟いた。
穢れた霧を払う青い炎と、天高く坐す神より賜った紫雷がプラズマを撒き散らしながら反応する。蒼炎の鎖に繋がれた槍が魔物を薙ぎ払って、すぐさま突きによる追い討ちが叩き込まれた。
蒼き炎と、赤き氷。
槍と剣。
相反する元素と武器、まるで共に舞い踊るような身のこなしで霧の中を戦い行く。単独であればそこそこ時間がかかっていたであろうこのワイルドハントの討伐も、相棒と共に取り掛かれば少し軽くなるような気がした。
視界の端で潮印石が輝くのを捉えたラドヴァンは、軽く辺りを見回した。戦闘開始から一分も経っていないが、霧は幾ばくか晴れて地形が確認できるほどとなり、魔物の数も減っているように見える。これならば、後は潮印石の封印だけで事足りるだろう。
「フリンズ! 私は潮印石動かしてくる!! そっちは任せたぜ!!」
「仰せのままに」
ラドヴァンは急いで潮印石に駆け寄り、封印のための準備を始めた。青白い光が仄かに輝いている、よし、あとは触れるだけだ。
潮印石に触れ、硬い感触が手のひらに伝わった。までは良い。
なぜか、突然頭が割れるような痛みが走って視界が暗転した。
——え?
いや、比喩などではないし状況が飲めない。こめかみの辺りから鋭い痛みが走ったことと、それがただの頭痛ではなくて
