憔悴
封印処理を施してからというものの、聞こえるのは風の音とラドヴァンの嗚咽とくぐもった泣き声だけだ。振り返ると、ラドヴァンは頭を守るようにうずくまっている。このままでは過呼吸になってしまう、それに、はやく安心させてあげないと。
イルーガは両膝をついてラドヴァンの肩をそっと叩いた。
「ッ……いるーがくん……?」
「おいで」
両腕を広げる。すぐに何かを理解したのか、ラドヴァンは縋り付くようにイルーガの腕の中に収まった。背中に回された腕に相当力がこもっているらしく、少しだけ息苦しい。だが、それはラドヴァンが味わってきた恐怖が集約しているようにも思えてやるせない。
「やだ……やだぁ……ッ……ぐすっ、いるーがくん……いるーがぁ……」
「……僕、ここにいますよ。大丈夫だよ、ラドヴァンくん」
「だって……だって!! このまえっ……! ろーとゔぁんぐたおしにいったとき、ひとりでいったって!! なんでっ……なんでそんなことしたんだよぉ!!」
宥めるように背中をさする手が止まった。一瞬、ほんの一瞬だけ、呼吸の仕方を忘れたように心臓が大きく跳ねた。
フリンズはラドヴァンの情緒不安定の原因について何も言及しなかったが、まさか、あの件がどこかで伝わってしまったのだろうか。いや、そうとしか考えられない。
またラドヴァンの呼吸が少しずつ浅く速くなってきた。落ち着かせないと、でも、どうやって――?
「いかないで……っ、いかないでぇ……!! わだじっ、おまえがいるからいきてるのに……!! おまえのためにいきてるのに!! おまえがっ、いきろって……いったから、いきてるのに……!!」
――ああ、やっぱり、あれは僕のエゴでしかなかったんだ。
以前、彼は語っていた。自分にとって“生きるということ”はもう能動的な行動ではなってしまったと。前々からそうだが、ラドヴァンは「死ぬために生きている」。どれだけ心が壊れても、ライトキーパーを辞めない理由は死んでいるように生きることを望まなかったからだ。言い換えれば、ライトキーパーとしてのラドヴァン・ルドルフォヴィッチ・スクルィーニクであることを放棄してし、ただの廃人に成り下がるのを極端に恐れているのだ。
しかし、これに関しては正直イルーガ自身にも原因がある気がしてならない。この妙に近しい関係が、“親友”という特別であたたかい存在意義が、彼を縛り付けている気がしてならない。死にたがっていた彼を、簡単に無責任に救うべきではなかったのだろう。
でも、じゃあ、あの時見過ごしていたら――フリンズさんは一体どうなっていただろうか。今の僕は、本当に、存在していたのだろうか。
徐々に頭の中で糸がこんがらがってきて、まともな思考を構築できなくなってくる頃、イルーガはしっかりラドヴァンを抱きしめた。わからなくても、間違っていたとしても、この言葉だけはしっかりと伝えなきゃいけない気がして。
「……ごめん、ごめんね。ラドヴァンくん」
いつの間にかランプから飛び出していたアドンは、イルーガの肩に止まって、ただじっと、二人を見守っていた。
イルーガは両膝をついてラドヴァンの肩をそっと叩いた。
「ッ……いるーがくん……?」
「おいで」
両腕を広げる。すぐに何かを理解したのか、ラドヴァンは縋り付くようにイルーガの腕の中に収まった。背中に回された腕に相当力がこもっているらしく、少しだけ息苦しい。だが、それはラドヴァンが味わってきた恐怖が集約しているようにも思えてやるせない。
「やだ……やだぁ……ッ……ぐすっ、いるーがくん……いるーがぁ……」
「……僕、ここにいますよ。大丈夫だよ、ラドヴァンくん」
「だって……だって!! このまえっ……! ろーとゔぁんぐたおしにいったとき、ひとりでいったって!! なんでっ……なんでそんなことしたんだよぉ!!」
宥めるように背中をさする手が止まった。一瞬、ほんの一瞬だけ、呼吸の仕方を忘れたように心臓が大きく跳ねた。
フリンズはラドヴァンの情緒不安定の原因について何も言及しなかったが、まさか、あの件がどこかで伝わってしまったのだろうか。いや、そうとしか考えられない。
またラドヴァンの呼吸が少しずつ浅く速くなってきた。落ち着かせないと、でも、どうやって――?
「いかないで……っ、いかないでぇ……!! わだじっ、おまえがいるからいきてるのに……!! おまえのためにいきてるのに!! おまえがっ、いきろって……いったから、いきてるのに……!!」
――ああ、やっぱり、あれは僕のエゴでしかなかったんだ。
以前、彼は語っていた。自分にとって“生きるということ”はもう能動的な行動ではなってしまったと。前々からそうだが、ラドヴァンは「死ぬために生きている」。どれだけ心が壊れても、ライトキーパーを辞めない理由は死んでいるように生きることを望まなかったからだ。言い換えれば、ライトキーパーとしてのラドヴァン・ルドルフォヴィッチ・スクルィーニクであることを放棄してし、ただの廃人に成り下がるのを極端に恐れているのだ。
しかし、これに関しては正直イルーガ自身にも原因がある気がしてならない。この妙に近しい関係が、“親友”という特別であたたかい存在意義が、彼を縛り付けている気がしてならない。死にたがっていた彼を、簡単に無責任に救うべきではなかったのだろう。
でも、じゃあ、あの時見過ごしていたら――フリンズさんは一体どうなっていただろうか。今の僕は、本当に、存在していたのだろうか。
徐々に頭の中で糸がこんがらがってきて、まともな思考を構築できなくなってくる頃、イルーガはしっかりラドヴァンを抱きしめた。わからなくても、間違っていたとしても、この言葉だけはしっかりと伝えなきゃいけない気がして。
「……ごめん、ごめんね。ラドヴァンくん」
いつの間にかランプから飛び出していたアドンは、イルーガの肩に止まって、ただじっと、二人を見守っていた。
5/5ページ
