SSS
突如として唇に痛みが走った。
今の季節は冬の真っ只中である師走中旬、
ちょうど唇が乾燥し切れてくる時期だ。
痛いな────。
と、ポケットの中をまさぐった。
いつもは入っているはずのリップクリーム。
なんと今日という日に持ち合わせがなかったのだ。
弱ったな、私は切れ口に指先を這わせる、
すると少し"ぬらり"という感触に嫌な気を感じたので
指先に目をやれば、予想通り赤が目に入る。
そうしてここから本格的にどうしようかと悩み、
腕を組んではうんうん唸っていたところに
声をかけられた。振り向けば友人の功刀くんだった。
「んな顔して突っ立って、どげんした?」
と聞いてきたと思えばあ!と顔を顰めこちらにズンズン迫る。
そうして顔と顔が触れ合う距離ほどになって、頬を掴まれた。
「お前、口切っとるやろ!止血ぐらいせろ!」
いつもよりほんの少し柔らかい声で、叱りながらティッシュ
で唇を拭ってくる。
血が止まったのか、ティッシュを捨てに行く功刀くんが今度は
リップクリームを取り出した。嘘だろ?あの功刀くんが?
彼とは無縁な代物だとばかり思っていたブツを持ちながら、
こちらに戻ってくる。
貸してくれるのはありがたいけど、さすがに自分で塗るよと、
声をかければ功刀くんは少し頬を染め、こう言った。
「俺がやりたかってん。黙ってされとけ。」
そう言って、また頬を掴まれて唇にリップクリームが触れた。
グリグリ塗られるかもと覚悟していたが、想像とは違い、
至極丁寧で、女の私より丁寧なんじゃないかと妙に落ち着かなくなる。
塗り終えたのか、唇からリップクリームが離れた。
ありがとうと言おうとした瞬間、唇の傷に再びビリリと痛みが走る。
それと同時に柔らかい感触を覚えた。
状況を理解できぬまま功刀くんが離れ、
目が合った瞬間顔に熱がこもり始めるのを感じ、
ああ今キスされたんだとようやく自覚した。
私が慌て始めたタイミングで功刀くんも、
自身のしたことを改めて実感させられ頬を染める。
「くぬぎく、「せからしか!!」
と、いきなりキレ始め、立ち去ろうとする。
そんな功刀くんを呼び止めれば、キチッと振り向き
「なん」と、やや震え声で返してくれた。リップありがとう、
と感謝を伝えれば、無愛想に「よか」と歩き始めた。
そんな彼の後を追い、隣に並んだタイミングでさっきの事を
持ちかければ、顎に華麗な掌底をお見舞された。
~おわり~
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