ガラル地方
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「おし、これで全員かな?」
〈ヌメェ〉
まだ少しのざわめきが残るパーティー会場で、手持ちのヌメルゴンに先導されているのは先ほど騒ぎを起こしたヌメラたちだ。テーブルのあちこちにアゲハントがあまいミツをつけてしまい、それに惹き付けられてパーティー会場へ飛び込んでしまった。
室内にいたため発見が遅れてしまい、血気早る若いトレーナーを落ち着かせるには一歩間に合わなかった。しかし1人の女性が果敢にも間に飛び込み、事を収めてくれたのだ。
「傷付けないで!」
よく通る声だった。
柔らかそうな黒髪は結い上げられて、ドレスが汚れるのにも構わず、躊躇わずにヌメラに触れ声をかけていた。
声をかけようとする間もなく、ソニアと自分の隣いたはずのダンデがあっという間に攫ってしまったため彼女の名前も聞けずだ。ダンデもソニアもさっきから着信を取らない。
「く……不覚だわ、私だってこのホテルのスイートを取っていたのに……!替えのワンピースだってあったのよ、ハルに似合いそうな淡い色の……!」
「僕だって取っていた。そんなことを自慢げに言わないでくれるかい?」
「……(えーと)」
お互いの視線を全く合わさず微笑みつつ淡々と言い争いをしているこの2人は、かの有名なホウエンとシンオウのチャンピオンである。先程までは周りを若いトレーナーやファンが囲っていたが、事態が事態なのですでに全員パーティー会場内へと避難していた。
遠くからはこの2人が笑顔で、まさかこんな言い争いをしているだなんて誰も思わないだろう。
「あの〜お2人さん?さっきの子って知り合い?」
「ええ、まあね」
おそるおそる2人の側へ寄って尋ねれば、腰に手を当ててシロナの方がにこっと更に口元を吊り上げた。同意だけでどういう子なのか教えてはくれない。
「さて、そろそろ事態は収まったかしらね。私は部屋に戻ろうかしら」
「そうだね、ボクも」
「送って差し上げましょうか?」
「結構だよ。普通、逆じゃないのか?」
「私を部屋に届けた後に一体どこに行くんだか分かったものでは無いもの。アナタってそういう人だから」
「自己紹介かい?」
「(怖い)」
口論はリズミカルだというのに、やはり一切交わらない視線が一層恐ろしく、キバナはとうとうそちらに視線を向けることができなくなり、ヌメルゴンは様子のおかしい主人に首をかしげている。
[メ?]
「大丈夫大丈夫‥‥しかし、ダンデのやつ戻ってこないな。あいつの部屋どこだったっけ?」
ヌメルゴンをボールに戻し、ローズ会長に断わって会場を抜け出す。あの女性のことが気になったし、ローズ会長からもそろそろダンデのスピーチの時間だから探してきてほしい旨も言付かった。
ローズ会長から教えてもらった12階のスイートへと出向くと、扉の前に見知った2人が見える。ソニアとダンデだ。
「もうもうもう!ダンデくんのせいだからね!?」
「す、すまない!どう、どうしたらいいだろうか‥‥!」
「なにしてんの」
なにやらソニアがダンデを責め立てている。
ガラルチャンピオンらしからぬ縮こまった様子のダンデに、うわこれ撮ったらオフショットとして相当バズるかもと思ったがダンデの威厳のためにもスマホロトムをそっと懐にしまった。
「あ、キバナくん」
「ここダンデの部屋だろ?なんで入らねーの」
「じ、実は‥‥その、俺がハルを怒らせてしまって」
「怒らせたぁ?初対面だろ?なにしたんだよ」
もっともな疑問を投げつけただけなのに、かあっとダンデの頬が赤く染まる。いやいやいや、なんだよその反応は。
「お前まさか‥‥初対面の女性にそれはないだろ‥‥」
「まだなにも話してないぞ!それに変なことはなにも‥‥!」
なに‥‥も‥‥とダンデの言葉尻が萎んでいく。ソニアがはあっと大きくため息をついた。手に持った衣類を困ったような表情で見下ろす。
「どうしよ、私も一緒に追い出されちゃったし。この着替え」
「‥‥オレさまが届けてやろっか」
「え?」
「その様子だと2人でなんかやっちまったんだろ?それ届けて落ち着かせるくらいなら、オレさまでも出来るって」
「ええ‥‥?でも」
「ほら、貸して」
なにか言いたげなソニアの言葉を遮って、衣服を手に取り、ダンデからルームキーを受け取る。ソニアとダンデは2人してここで見張っているから、変なことはするな!とまくし立ててくるが、言えた義理なのか、そっちは。
「だいじょーぶだいじょーぶ。しつれーしまーす」
コンコン、と一応ノックしてルームキーでドアノブを下げる。そーっと開きつつ、中を覗くとなぜか頭を抱えた彼女が部屋の奥に見えた。
「あーの?失礼していい?」
「え!?」
まるでメッソンのようにびくっと肩を震わせて、顔が上がった。メイクが落ちているのと、やたら大きいサイズのバスローブのせいでさっき会場で見たよりも幼く見える。
「オレ、キバナっていうの。さっきの会場にいてヌメラを避難させててさ、あんたの様子が気になって‥‥ソニアから服預かってんだけど、持っていってもいい?」
「あ‥‥!ヌメラを?」
予想通り、ヌメラを引き合いに出したら簡単に警戒を解いてくれた。よろよろ立ち上がってこちらに近づく彼女に、後ろ手に扉を閉めて中へ失礼する。
「わたし、ハル、です。あの、ヌメラたち誰も怪我してませんか?無事に帰れそうですか?」
「ん?ああ、誰も怪我してないぜ。みんなパートナー会場から出られてるよ」
「そうですか‥‥良かったです‥‥」
心底ほっとしたというように胸に手を当てる彼女に、そわそわと色々質問したい気持ちが沸く。なんていう名前なのか、どこから来たのか、なにか好きなのか。
「オレさまのヌメルゴンが先導したから心配ないぜ、会場の人たちにも怪我無かったし」
「え!ヌメルゴンを持っていらっしゃるんですか!?」
「!」
おっと、意外なところに食いついた。
ぱっと目を輝かせる彼女に、思わずドキッと胸内が動く。
「私、ガラル地方に来たばかりで‥‥今日、ワンパチやヌメラも初めて見たんです!さっきヌメラたちに会った時も、ヌメルゴンになるんだよな~って思ってて」
「っはは、あの状況でそれ考えてたの?」
「あ!い、いえ考えてたのはシャワーを‥‥浴びてるとき‥‥で‥‥」
言いながらかあっと彼女の顔が真っ赤に染まっていく。
バスローブというものは一切衣類を身に着けずにそのまま着るものだ。おそらく彼女は今この下になにも着ていない。
「(随分、無防備だな。この子)」
「あ‥‥ええと‥‥」
「これ、外にいるソニアから預かった。早く着替えな、風邪ひくぜ。ほら」
ほいほい、と断らせる隙を与えぬまま、戸惑う彼女に衣類を持たせて浴室に押し込む。ダンデは自分が連れていくけど、ソニアは置いて行くからゆっくり戻れとドア越しに伝えれば、戸惑いながらもはい!という返事がしっかり届いた。
「お待たせー。とりあえずダンデはオレさまと戻れ。お前この
後スピーチだって。ソニアは落ち着いたらあの子送ってやれよ」
扉を開けてドアの前で待機していた2人へと告げれば、なぜか2人とも不服そうな表情をしている。
「スマート過ぎてなんか嫌だわ‥‥」
「おい?」
「俺、ハルとこのまま別れるのは嫌だぞ。せめて謝りたい」
「後々!あの子この後もガラルにいるんだろ?てかオレさまもまだちゃんと話せてないし‥‥ほらダンデ!ローズ会長が呼んでんだよ」
「うう~~~~」
子供のように駄々をこねるダンデの首根っこを掴んで、エレベーターに放り込んだ。ソニアがぷくっと頬を膨らませたまま、私が子の中で一番仲いいんだからね!と追い打ちをかけてくる。
「いいから!今日は解散!」
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