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「ハルちゃん、今日は早く帰って来れる?」
前日、横着してどこかへ放ってしまったパスケースが見つからず、家を出る時間が大幅に遅れてしまい、私は大層慌てながらパンプスのつま先をトントンと玄関のタイルへ打ち付けているところだった。伺うような母親の声音にも気がついていたけれど、焦る気持ちが言葉の端ににじむ。
「なに?」
「今日、早く帰って来れない?」
「え?なにかあった?」
「え……ううん、なにかあったっていうか……」
「ごめん、お母さん。もう行かないと。用件は携帯に連絡入れておいてくれる?」
「あ……」
何が言いたげな表情のお母さんにごめんね、の言葉の代わりに手を軽く振り、鍵を閉めておいてほしいと告げ返事も待たずにドアから外へと飛び出す。転職したばかりで、ここ最近ずっと忙しく目まぐるしい毎日で、お母さんを気遣う余裕なんて無くなっていた。
お母さん、何が言いたかったんだろう。
息を切らせながらたどり着いたホームには、人がまだ並んでいて、電車が来る様子は無い。聞こえてきたアナウンスに耳を傾ければ、どこかの駅でホームドアの安全点検をしたとかで電車が遅れているようだった。なんだ走る必要なんて無かったと、息をついて、スマートフォンを確認する。
お母さんからの連絡はない。まあまた、お昼休憩にでも確認しよう。スマートフォンをポケットへしまおうとした瞬間に、パッと通知が光る。
ティロン
「あっ」
「!」
通知を確認しようと疎かになった意識。ふいに、後ろからの衝撃。驚き。最近卸したばかりのヒール。運動不足が祟って、階段を駆け上がっただけでも疲労した足。ホームの下へ、持っていたスマートフォンが落ちていくこと。
全てが不幸にも重なった。
踏ん張ろうとした片足へ、浮いた片足が絡まって。転がり、1度身体がバウンドしてそのまま。
「あ、」
衝撃の前に一瞬だけ確認できた。通知の内容は、小さい頃に病気で亡くなったお父さんの誕生日を知らせるカレンダーのリマインド通知だった。私と母はお父さんの誕生日に毎年、ささやかにケーキを食べていた。
お母さんは、それを、
ドラマみたいに電車がホームに滑り込んできて、なんてことは無かったのに。ただ、身体が1回バウンドしたことで後ろ頭がレールへと真っ直ぐ降りて。
そのまま、バチン!という音と共に視界が弾けて消えた。
→
前日、横着してどこかへ放ってしまったパスケースが見つからず、家を出る時間が大幅に遅れてしまい、私は大層慌てながらパンプスのつま先をトントンと玄関のタイルへ打ち付けているところだった。伺うような母親の声音にも気がついていたけれど、焦る気持ちが言葉の端ににじむ。
「なに?」
「今日、早く帰って来れない?」
「え?なにかあった?」
「え……ううん、なにかあったっていうか……」
「ごめん、お母さん。もう行かないと。用件は携帯に連絡入れておいてくれる?」
「あ……」
何が言いたげな表情のお母さんにごめんね、の言葉の代わりに手を軽く振り、鍵を閉めておいてほしいと告げ返事も待たずにドアから外へと飛び出す。転職したばかりで、ここ最近ずっと忙しく目まぐるしい毎日で、お母さんを気遣う余裕なんて無くなっていた。
お母さん、何が言いたかったんだろう。
息を切らせながらたどり着いたホームには、人がまだ並んでいて、電車が来る様子は無い。聞こえてきたアナウンスに耳を傾ければ、どこかの駅でホームドアの安全点検をしたとかで電車が遅れているようだった。なんだ走る必要なんて無かったと、息をついて、スマートフォンを確認する。
お母さんからの連絡はない。まあまた、お昼休憩にでも確認しよう。スマートフォンをポケットへしまおうとした瞬間に、パッと通知が光る。
ティロン
「あっ」
「!」
通知を確認しようと疎かになった意識。ふいに、後ろからの衝撃。驚き。最近卸したばかりのヒール。運動不足が祟って、階段を駆け上がっただけでも疲労した足。ホームの下へ、持っていたスマートフォンが落ちていくこと。
全てが不幸にも重なった。
踏ん張ろうとした片足へ、浮いた片足が絡まって。転がり、1度身体がバウンドしてそのまま。
「あ、」
衝撃の前に一瞬だけ確認できた。通知の内容は、小さい頃に病気で亡くなったお父さんの誕生日を知らせるカレンダーのリマインド通知だった。私と母はお父さんの誕生日に毎年、ささやかにケーキを食べていた。
お母さんは、それを、
ドラマみたいに電車がホームに滑り込んできて、なんてことは無かったのに。ただ、身体が1回バウンドしたことで後ろ頭がレールへと真っ直ぐ降りて。
そのまま、バチン!という音と共に視界が弾けて消えた。
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