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「ほんとーーーに転んだのかしら?」
マサラタウンに病院はなく、オーキド博士は新人トレーナーへの受け渡しでお忙しいとのことで、そのようなお忙しい中……!と平謝りしながら地元の方に送っていただき、隣町のポケモンセンターで治療を受ける羽目になった。
可哀想になるくらいオロオロと泣き出しそうになっているヒトカゲをそれはもう必死にあやし、ご迷惑をおかけしたというのに心配して下さるオーキド博士にも転んでしまって!とゴリ押ししたが、医療従事者の目は誤魔化せない。
「あの‥‥ポケモンに噛まれました‥‥」
ちらちらと他の利用者の視線を感じる。
カウンターの向こうにいるジョーイさんは、お構いなしに穏やかそうな目元をきゅっと吊り上げて両手を腰に手をあて、もう!と憤る。
「そうでしょうね!正直に言わないといけませんよ!」
「すみません‥‥」
「ほら!この体温計を見て!ポケモンに噛まれたら傷口から細菌が入って、熱が出ることだってあるんです!そのためのお薬もいるのよ!」
「はい‥‥」
噛まれたことよりも、それを隠そうとしたことをこんこんと叱られた。この歳になって大人に叱られると心が萎む。そんな私の反省の色をいち早く察してくれたらしい、看護ポケモンのラッキーがジョーイさんを宥めてくれた。優しい。
「もう、次からは隠したりしないこと!」
「絶対にいたしません‥‥」
「さ、特別に点滴を打つから治療室へ」
「えっ!私、研究所に戻らないと……」
「ハルさん?」
「ハイ……」
[ラッキ〜]
苦笑しながらもジョーイさんを宥め続けてくれるラッキーに眉を下げつつ、感謝の視線を送る。ジョーイさんとラッキーに案内され、小さな治療室へ通される。ベッドに横になって、点滴を繋がれ安静にと再度念押しを受けた。ラッキーが優しくかけてくれるブランケットに更にいたたまれなくなる。
「(初日にしてこの体たらく‥‥スオウ博士になんと説明すれば‥‥)」
初日から怪我した上に熱を出し、オーキド博士にご迷惑をかけたなんて知れたら、スオウ博士に失望されるかも。何より、あの過保護なインテレオンが二度と外に出してくれなくなるかもしれないな‥‥。
ため息と共に思わず瞼を閉じてしまう。
夜便の飛行機ではよく眠れなかった。緊張もあったし、何より長距離の移動は堪えた。
「(点滴、どれくらいで終わるか聞かなかった……)」
ぼんやりとした思考を最後に、そのまま意識が滑り落ちていく。ああやだな、眠ったらまた元の世界の夢を見てしまうのに。
「ハルちゃん、今日は早く帰って来られる?」
お母さんの何か言いたげな声音、振り返りもしなかったわたし。離れていく悲しげなお母さんの背中。ごめんなさい、ごめんなさい、お母さん。私がいなくなって、今どうしてるんだろう。きっと、きっと。
「……?」
お母さんの姿が消え、ビービービー!とけたたましい警報音が私の意識を呼び起こした。ドクッと嫌な音をたてた心臓にゆっくり意識が浮上する。
「あれ……」
目を開ければ室内は真っ暗で周りに人の気配は無い。あれ?真っ暗?ジョーイさんもラッキーも照明はそのまま消していかなかったはずだけれど。
見れば点滴をされていた腕はガーゼが貼られて、もう針は抜かれていた。もしかしたらジョーイさんが眠ってしまった私を見て、そのまま寝かせてくれたのかもしれない。
「……(ナースコール的なの、は無いな)」
ポケモンセンターはあくまでポケモンのための病院なのでそういったものが無いのも仕方がない。ベッドから降りて、自分でジョーイさんを探しに行くことにする。
「あ、電気ついた」
廊下に出ると同時に電気がついた。
どうしたんだろう?やっぱり警報みたいなのも聞こえるし、もしかして事故?え、まさか火事とかじゃないよね?
「あっ!?」
「えっ」
おそるおそる曲がり角を曲がった先でストレッチャーを押しながら走ってくる男の子にぶつかりそうになった。ばちっと視線が合い、思わず声が出そうになる。
「あ、え?な、なんで」
「だれ?あっ!まずい!来て!」
「えっ!?」
男の子は焦った様子で背後を振り向き、私の腕を掴んで走り出してしまう。黒い髪、青いジャケット、白と赤のキャップ、この子は。
「あ、あの!」
「ごめん!いま追われてて…!着いてきて!」
その言葉に振り向けば男の子の言う通り、ポケモンが2匹ものすごい形相で私たちを追ってきている。思わずひっと肩が跳ねて言われるがままに男の子の背中を追いかけた。
「(ピッピ人形、さっきの治療室に置きっぱなし…!)」
「あっ!?」
やがてたどり着いたのはポケモンセンターの受付のある開けたホールだった。男の子の押していたストレッチャーが何かに躓いて動きが止まる。
「だ、大丈夫!?」
「俺は大丈夫……ピカチュウが……!」
「ピカチュウ?あ、」
躓いた衝撃で目が覚めたのかストレッチャーに横になっていたピカチュウが、目を開いた。振り絞るようにして声を上げる。
[ピカピカ…!]
瞬間、どこからともなく大量のピカチュウがあちこちから振って沸いた。文字通り、振って沸いたのだ。そのままピカチュウたちはストレッチャーの上のピカチュウにぎゅうっと抱きついて、一斉に放電する。
「きゃあっ!?」
思わず頭を抱えてしゃがみ込むが、電撃は私たちではなく背後から追ってきていたポケモンとトレーナーらしき2人へと直撃した。大丈夫なの!?大丈夫なのあれは!?
「お姉さんは下がって!」
勇敢なその男の子は私の前へと身を投げ出して、庇おうとしてくれる。いち大人として未成年を盾には出来ない…!と思いつつも、足が言うことを聞いてくれなかった。
伸ばした手も届かずに男の子はストレッチャーの上のピカチュウを助けようと駆け出す。躊躇いないその行動に目眩がした。
[ピカピカ……!]
打ち捨てられていた焦げ付いた自転車?のようなものに飛び乗って、男の子がそれを漕ぐとパワーがピカチュウへと貯まっていく。あ、これもしかして。
「ハルさん!こっちに!」
咄嗟にカウンターの下へ避難させてくれたジョーイさんがいなかったら、私は今ごろ電撃に吹っ飛ばされてこの世にいなかったかもしれない。男の子、もといこの物語の主人公とその相棒ピカチュウはこんな大きなポケモンセンターを電撃で吹っ飛ばし、半壊させてしまった。
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マサラタウンに病院はなく、オーキド博士は新人トレーナーへの受け渡しでお忙しいとのことで、そのようなお忙しい中……!と平謝りしながら地元の方に送っていただき、隣町のポケモンセンターで治療を受ける羽目になった。
可哀想になるくらいオロオロと泣き出しそうになっているヒトカゲをそれはもう必死にあやし、ご迷惑をおかけしたというのに心配して下さるオーキド博士にも転んでしまって!とゴリ押ししたが、医療従事者の目は誤魔化せない。
「あの‥‥ポケモンに噛まれました‥‥」
ちらちらと他の利用者の視線を感じる。
カウンターの向こうにいるジョーイさんは、お構いなしに穏やかそうな目元をきゅっと吊り上げて両手を腰に手をあて、もう!と憤る。
「そうでしょうね!正直に言わないといけませんよ!」
「すみません‥‥」
「ほら!この体温計を見て!ポケモンに噛まれたら傷口から細菌が入って、熱が出ることだってあるんです!そのためのお薬もいるのよ!」
「はい‥‥」
噛まれたことよりも、それを隠そうとしたことをこんこんと叱られた。この歳になって大人に叱られると心が萎む。そんな私の反省の色をいち早く察してくれたらしい、看護ポケモンのラッキーがジョーイさんを宥めてくれた。優しい。
「もう、次からは隠したりしないこと!」
「絶対にいたしません‥‥」
「さ、特別に点滴を打つから治療室へ」
「えっ!私、研究所に戻らないと……」
「ハルさん?」
「ハイ……」
[ラッキ〜]
苦笑しながらもジョーイさんを宥め続けてくれるラッキーに眉を下げつつ、感謝の視線を送る。ジョーイさんとラッキーに案内され、小さな治療室へ通される。ベッドに横になって、点滴を繋がれ安静にと再度念押しを受けた。ラッキーが優しくかけてくれるブランケットに更にいたたまれなくなる。
「(初日にしてこの体たらく‥‥スオウ博士になんと説明すれば‥‥)」
初日から怪我した上に熱を出し、オーキド博士にご迷惑をかけたなんて知れたら、スオウ博士に失望されるかも。何より、あの過保護なインテレオンが二度と外に出してくれなくなるかもしれないな‥‥。
ため息と共に思わず瞼を閉じてしまう。
夜便の飛行機ではよく眠れなかった。緊張もあったし、何より長距離の移動は堪えた。
「(点滴、どれくらいで終わるか聞かなかった……)」
ぼんやりとした思考を最後に、そのまま意識が滑り落ちていく。ああやだな、眠ったらまた元の世界の夢を見てしまうのに。
「ハルちゃん、今日は早く帰って来られる?」
お母さんの何か言いたげな声音、振り返りもしなかったわたし。離れていく悲しげなお母さんの背中。ごめんなさい、ごめんなさい、お母さん。私がいなくなって、今どうしてるんだろう。きっと、きっと。
「……?」
お母さんの姿が消え、ビービービー!とけたたましい警報音が私の意識を呼び起こした。ドクッと嫌な音をたてた心臓にゆっくり意識が浮上する。
「あれ……」
目を開ければ室内は真っ暗で周りに人の気配は無い。あれ?真っ暗?ジョーイさんもラッキーも照明はそのまま消していかなかったはずだけれど。
見れば点滴をされていた腕はガーゼが貼られて、もう針は抜かれていた。もしかしたらジョーイさんが眠ってしまった私を見て、そのまま寝かせてくれたのかもしれない。
「……(ナースコール的なの、は無いな)」
ポケモンセンターはあくまでポケモンのための病院なのでそういったものが無いのも仕方がない。ベッドから降りて、自分でジョーイさんを探しに行くことにする。
「あ、電気ついた」
廊下に出ると同時に電気がついた。
どうしたんだろう?やっぱり警報みたいなのも聞こえるし、もしかして事故?え、まさか火事とかじゃないよね?
「あっ!?」
「えっ」
おそるおそる曲がり角を曲がった先でストレッチャーを押しながら走ってくる男の子にぶつかりそうになった。ばちっと視線が合い、思わず声が出そうになる。
「あ、え?な、なんで」
「だれ?あっ!まずい!来て!」
「えっ!?」
男の子は焦った様子で背後を振り向き、私の腕を掴んで走り出してしまう。黒い髪、青いジャケット、白と赤のキャップ、この子は。
「あ、あの!」
「ごめん!いま追われてて…!着いてきて!」
その言葉に振り向けば男の子の言う通り、ポケモンが2匹ものすごい形相で私たちを追ってきている。思わずひっと肩が跳ねて言われるがままに男の子の背中を追いかけた。
「(ピッピ人形、さっきの治療室に置きっぱなし…!)」
「あっ!?」
やがてたどり着いたのはポケモンセンターの受付のある開けたホールだった。男の子の押していたストレッチャーが何かに躓いて動きが止まる。
「だ、大丈夫!?」
「俺は大丈夫……ピカチュウが……!」
「ピカチュウ?あ、」
躓いた衝撃で目が覚めたのかストレッチャーに横になっていたピカチュウが、目を開いた。振り絞るようにして声を上げる。
[ピカピカ…!]
瞬間、どこからともなく大量のピカチュウがあちこちから振って沸いた。文字通り、振って沸いたのだ。そのままピカチュウたちはストレッチャーの上のピカチュウにぎゅうっと抱きついて、一斉に放電する。
「きゃあっ!?」
思わず頭を抱えてしゃがみ込むが、電撃は私たちではなく背後から追ってきていたポケモンとトレーナーらしき2人へと直撃した。大丈夫なの!?大丈夫なのあれは!?
「お姉さんは下がって!」
勇敢なその男の子は私の前へと身を投げ出して、庇おうとしてくれる。いち大人として未成年を盾には出来ない…!と思いつつも、足が言うことを聞いてくれなかった。
伸ばした手も届かずに男の子はストレッチャーの上のピカチュウを助けようと駆け出す。躊躇いないその行動に目眩がした。
[ピカピカ……!]
打ち捨てられていた焦げ付いた自転車?のようなものに飛び乗って、男の子がそれを漕ぐとパワーがピカチュウへと貯まっていく。あ、これもしかして。
「ハルさん!こっちに!」
咄嗟にカウンターの下へ避難させてくれたジョーイさんがいなかったら、私は今ごろ電撃に吹っ飛ばされてこの世にいなかったかもしれない。男の子、もといこの物語の主人公とその相棒ピカチュウはこんな大きなポケモンセンターを電撃で吹っ飛ばし、半壊させてしまった。
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