小さな双子の親指姫

魚と蝶々

 ところで静かな水の中では、小さな魚のキャンチョメと大きな魚のフォルゴレがこの騒ぎの初めから終わりまでを聞いていた。そしてチラリと水面から顔を出すと、すぐに潜ってひそひそと話し合う。
「あんなに可愛い子が泣き顔とはね。キャンチョメはどう思う?」
「可哀相だね。僕らに出来ることはないかなあ」
「うーん。世界のスターで美男子の私も、ただの魚で何の力もないからなあ」
「だったら僕が頑張るよ! ねえフォルゴレ、少しだけ力を貸してくれる?」
「ああ、もちろんさ」
「ディマ・ブルク!」
 睡蓮の葉がふいに揺られて、双子は顔を見合わせた。また蛙が来たのかとガッシュが怯えると、いや揺れ方が違うとゼオンは川を見た。覗くと、小さな魚が何匹も水底にのびる睡蓮の茎に群がっている。小さな魚が茎をいっせいにかじって噛み切ると、水に浮かんでいた睡蓮の葉は、するりと滑って沼の岸辺から離れていった。
「お魚殿、ありがとうなのだ!」
 笑顔になったガッシュが叫ぶと、応えるように水がはねた。

 川を流されていくうちに、双子はいろいろな場所を通り過ぎていく。枝にとまった小鳥達は、なんて素敵に可愛い小さな子かしらと囀った。森や林が途切れると景色も開けてなだらかな丘や畑が見えた。いつしか双子は随分と遠く流されていて、よその国へと来たようだった。
 そこへ白い蝶々がやってきた。二羽の蝶々は背中の羽をはためかせ、付かず離れず仲良さげに飛んでいた。そして双子のまわりをひらひらと飛び回ると、睡蓮の葉の縁に降りたった。
「こんにちは、小さな方々」
 白い蝶々のウォンレイとリィエンは、ふたりに丁寧な挨拶をした。感じの良いふたり連れとガッシュはすぐに打ち解けた。
「お主達のその羽は、なんとも美しいのう。空を飛べて、きらきらとして、私はこんなに素敵なものは初めて見るのだ」
「ありがとう。この羽を褒めてもらえるのは、とても嬉しいな」
「そうね。私達の証だもの」
 くすぐったそうに答えたふたりに、証とは何かとガッシュが訊いた。
「この羽は変わらぬ愛の証なんだ」
「私達は小さな頃から一緒にいたあるよ。でも大きくなって、一時どうしても会えなくなってしまったある」
「大人になる過程で仕方のないことだけど、姿も見えない、声も出せない。硬くなった身体がひび割れるまでは、長くてとても辛かった」
「会えるか、とても不安だったある。小さい頃とは姿だって違うんだもの」
「そう、お互いに姿は変わった。けれどこんなに綺麗な羽を持つのはリィエンだと私はすぐに確信したよ」
「私もこんなに素敵な羽はウォンレイに違いないって一目でわかったある。私達それからずっと一緒にいるあるよ」
「幼い頃から大人になっても。そして一生。僕達はもう決して離れないと羽に誓ったんだ」
 ふたりは幸せそうに笑い、その様子を見て嬉しくなったガッシュはぱちぱちと拍手を送った。
「ところで、あなた方はどこへ行かれるのですか。もちろん、この素敵な船なら、どこまでも行けると思いますが」
 双子はこれまでの経緯を話した。するとふたりは、それなら私達がこの睡蓮の葉を運びましょうかと申し出て、すぐに話はまとまった。
 蝶々のふたりは、ゼオンの服を伸ばして作った真っ白いリボンで結ばれた。ウォンレイとリィエンが揃って羽ばたくと、睡蓮の葉はこれまでにない速さで走り始めた。流されるだけだった睡蓮の葉は、今では二頭立ての馬車のよう。水面は太陽の日差しで金色に輝いていて、見る間に景色も変わっていく。これならすぐにでも家まで帰れるのではと思わせるほどだ。
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