あれから
……コツ、コツコツ
ためらうように一つ、そして聞こえるように二つ。扉を叩く音がする。
誰何の必要もなく、ゼオンがそっと静かに扉を開けてやると、そこに目を伏せて佇むガッシュがいる。
繰り返される夜の訪れ。あれから幾つの夜があったか。
* * *
初めのうちは、ただ優しい口づけをする。眠る前の挨拶のように、そっとふれるだけで。
それでも、柔らかい頬にゆっくりと長くふれたままでいたり、額に目元に啄むように繰り返したり、やりようは幾らでもあって、ゼオンが口づけるそのたびにガッシュは微睡むように目を瞑ったり、身を縮めてくすくす笑ったり。
息継ぎにも困っていたぎこちなさもよかったけれど、次にすることを探りながら互いの動きを合わせていくのも快い。
頬を摺り合わせ、額の髪をかき分け、耳からなぞった首筋にも唇を落として、抱き込んだ肩先から寝台に横たわる。
つないだ手と肘で身体を支えて覆い被さると、顔が近すぎるのか目が閉じられる。
頬に、鼻先に、額に、目蓋。
おおよそ顔のありとあらゆる、名の付くところに掠めるように唇でふれる。
軽く唇の表だけをふれさせてそのまま動かずにいると、まるで焦らされたように唇がわずかに震える。
それを合図とするように、弾むような軽い口づけを何度も重ね、重ねたはずみで緩んだ唇を合間にちろりと舐めてみると、次に合わせた唇の端にそっと舌がふれてくる。
ゼオンが仕掛けることごとに、いちいちガッシュは応えてくる。それは拙くも懸命で、かえってこちらが誘い込まれそうになる。
もう少し先へ、もう少しだけと踏み込みかけるのを抑えて、そろそろと身体をずらし、口づけから解放する。
子供の身体に強すぎる刺激は禁物だ。未熟な器官は傷つきやすい。初めての行為に溺れて心身を損なう愚かな過ちを、ゼオンはするつもりはないし、ガッシュにもさせるつもりはない。
ゼオンは上体を起こして、笑みを浮かべたまま、ガッシュの頬の丸みにあてた手のひらを耳元に滑らせ、指の腹で顎の下をなぞる。
先は長いし、与えるものはじれったく感じるくらいで丁度いい。
「……気持ちよいのだ」
ふふっと緩やかな笑みを浮かべて目を細めたガッシュが、寝ころんだままゼオンに向けて手をのばす。
広げられた手の指と指が鏡合わせのようにふれられて絡み合う。
親しくふれあうだけの、あどけない戯れ。
仕掛けるゼオンにも、応えるガッシュにも、恐れや迷いはまるでなく。
元は一つの魔力の球を割り、時を同じくして生まれたふたりが、身を寄せ合うのは当たり前みたいに。
でも、この夜のことは、ふたりだけのことと互いに何も言わないけれど、わかっていた。
明るい昼の間のこととは、やはり何かが違うから。
けれど、本質的には何も変わらない。
ゼオンにとってはただの戯れで。たぶんガッシュにとってはただの触れ合い。