このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

死の恋

 冷えた色の部屋にはストーブが置いおり、机があり。それを挟むように対面する俺と刑事さん。結構狭い空間なのでストーブの熱がすぐ充満して温かい。寧ろ暑いぐらいだ。

 机の上には電気スタンドもあるので、ここでカツ丼が出たら面白そうだなとぼんやり思う。

「こんにちは。いきなり来てもらってすまないね」

 ごぼうのような風貌をした男性刑事さんは穏やな雰囲気を醸し出しているが、隅の方に立ってる堅いの良い刑事さんは、こんなくだらない事に時間を使わせるなボケみたいな険しい顔付きをしている。
 被害妄想かな。でも怖い顔をしているのは事実。親父が酒を飲んで暴れる時とそっくりな。

 おかげで俺は無駄に緊張をしている。

「単刀直入に言うね。君のお父さんは何処へ行ったのかな?」

「分かりません」

「分からないのに何故捜索願いを出さなかったのかな?」

「えっと、あのおじさんに伝えたけど、父親はよく何処かへ行ってしまうんです。お金だけ置いて」

 実のところは仕事後に女遊びをよくしていた。たまに女性をお持ち帰りし、リビングでセックスをしているのを何度か見かけてしまった。
 汚らしい喘ぎ声が耳にこびり付いていて、今でもふと思い出してしまう。

「つまり事件性は無いと?」

「そうです。いつものことなんで。どうして会社に迷惑かけるかは知りませんが、元はいい加減な人ですのでそうゆうのもあるだろうなと思いますよ」

「お父さんのことを悪く言うんだね」

「別に悪くは......。事実を話しているだけです。みんなすぐあの人に騙されるんです」

 刑事さんの視線が一瞬変化した気がする。俺を越え、壁の方を見たような。

「......でもね優斗君。二週間も帰って来ないのはやっぱり変じゃないかな。連絡も全く無いし」

「まぁ......」

「僕達はね。正直なところ事件性を考えている。お父さんの同僚、社長さんの話を聞く限り、君が思う程のいい加減さは多分無いんじゃないかなって推測している」

 ほら。またあいつの方を信用する。俺は机の下で両手を握り締める。

「......じゃ、どうすんですか」

「行方不明として捜索にあたるよ。その間、君はどうするのかを教えてほしい」

 こいつらは俺を疑ってないのだろう?十八歳の息子が親父をズタズタに刺殺したとちょっとでも思わないのだろうか。

 そんなわけがない。あのおじさんの雰囲気からして俺を疑っているはずだ。
だからこいつらは実は俺を疑っていて、でもまだ泳がせようとしている。証拠を掴めてないからだ。

「あとね。君の家に行って色々調べたいんだ」

 ほらきた。

「いつですか? いつでも良いですが」

「五日後でどうかな」

 年明けか。学校が始まる頃には俺は捕まってんのかな。

「......はい。分かりました。どうぞ隅々まで詮索してください。特に隠すものは無いので」

 俺は少し微笑む。刑事さんは明らかに拍子抜けをした。分かりやす。プロがそれだと先が思いやられるぞ。

 隠すものは本当に無かった。血のついた服は先生に捨てられたし、包丁は不明だし、何かあるとしたらリビングの染み付いた微かな血の匂いぐらいだろうか。
 これにはさすがにプロは気づけるだろう。そして捜索している内に山に埋められた白骨になりかけの親父と血のついた包丁を見つけ、俺は逮捕される。

 既に先のシナリオが分かってしまっているため、何だか暇で怠いなすら感じる。もうカミングアウトしちゃうのもありだが、まず先生を説得しなければいけない。
 
 もういい加減酔いがさめ、冷静さを取り戻していってるだろう。やっぱりするんじゃなかった。怖い助けて、と。
 その件に関しては別に怒りはしない。少し遠回りをしたのは癪に触るが、先生との恋愛ごっこはまぁ楽しいところがあった。

 だから帰って電話をして何もかも終わらせよう。だらだらと話す刑事さんの前で固く決意した。



 ー帰宅をした時は夜の七時を回っていた。

 刑事さんは親戚とか今後の生活はどうするのかと質問攻めしてくるのでとても疲れた。

 親戚はマジで何処に居るのか知らない。
 だけどもう春で社会人になるし、それまで父親の金があるから大丈夫ですと伝えた。

 親父は暴力を振るうが金回りはとても良くて、お金で困った事は無かった。だから広くて綺麗な持ち家に住めるのだ。代わりに束縛状態だったけど。

 殺したことには後悔していない。殺さないと奴からは逃げれなかった。ずっと奴の玩具になりたくなかった。

 ソファに深く座る。血の匂いは相変わらずする。きちんと拭いたつもりなのに血液というのは呪いのようで、ずっと、何十年も染み付いている気がする。
 
 はやくここから逃げたいというか引っ越したいな。奴の血液を嗅いでいると自分の血液を嗅いでいるようで胸くそ悪い。リビングじゃなくて奴の部屋で殺せば良かった。

 ......スマホが鳴る。丁度良かった。こっちから掛ける手間が省けた。

「......はい」

 スマホを耳に当てる。

ーー高橋君、だよね?

 凛とした静かな声は、紛れもなく先生のものだ。
6/8ページ
スキ