死の恋
雪の降るクリスマスに先生が訪問した。クリスマスケーキとコーラが入った紙袋を嬉しそうに持っていた。
「上がるね」
氷点下二度で遠くからわざわざ足を運んできた。クリスマス会をするために。
先生は最早恋人のように俺の部屋に入っていった。
「じゃーん」
先生は机の上に小さなホールケーキが入った箱を開ける。生クリームケーキだ。
「生クリーム嫌い?」
俺は否定した。
「そうだよね。始業式に書いた自己紹介カードに、好きな食べ物は生クリームって書いていたもんね。良かった。まだ好きで」
「そこまで覚えているとストーカーを通り越してますね」
「やだストーカーなんて。気になる子の好きなものぐらい覚えているでしょ」
そうかな。好きな人とか気になる人が居なかったからよく分からない。嫌いな親父の癖とか身の危険が起きるだろうの予想は勘をつけるが。
先生はケーキを包丁で切り、一切りを皿に乗せた。
包丁といえば。
「先生。包丁どこにやったんですか」
「え?」
「刺した包丁ですよ。何処へやりましたか」
「知らないよ。貴方が持ってるんじゃないの? それよりケーキ食べよう」
先生は話を逸らした。明らかに知っているようだが、ただ持っていてどうするのだろう。実は警察の手に渡ってるのかな。だとしたらもう時間は無いなぁ。
「俺を売りましたね」
「ん?」
「なんでもないです。ところで先生。恋人らしいことはしませんか?」
「だから前に言ったでしょ。恋人らしいのは良いのよ。好きな人とケーキを食べて楽しく話せるだけで幸せなんですから」
「性欲はないんですか?」
先生は食べる動作をやめ、顔を真っ赤にする。
「最近ムシャクシャしているし、先生の恋愛ごっこに付き合っていたらストレス凄いんですよね。せめて抜くぐらいやってくださいよ」
俺は挑発をするように先生の顔と自分の顔がくっ付きそうなぐらいに近づき、嘲笑う。
「お......大人をからかうのは」
「からかってませんよ。どうします?」
先生は全力で頭を横に振り、俺の体を押した。
「......駄目よ。性欲の吐口のために女性を使うのは」
「先生は、男の部屋に居る時点で警戒をしないといけないんです。服装も脱がせやすいものを選んで。襲ってくださいと言ってるもんです」
「せ、性的なものはとても大切な儀式的なことです。簡単にしてはいけません」
「何それ。もしかしてその歳で処女?」
先生はさらに顔を赤くに染めた。図星。
「聖なるクリスマスの日にはしてはいけませんって? それを守ってんのは先生ぐらいじゃない? 男は許容範囲の女性なら誰でも抱けるんだよ。男に幻想を抱かない方が身の為だと思いますが」
「寂しい事言わないでよ」
先生は少し泣きそうになっていた。ちょっとやり過ぎたかな。でも本当の話だし。
「とにかく部屋に入るには相当な覚悟をしとけよって話ですよ。俺だって立派な男ですから」
再度座り直しケーキを食べる。先生も黙って食べる。
なんて面白くないクリスマス会。何しに来たんだろうこの人。何してんだろう自分。
「今日どうするんですか? 泊まるんですか」
先生はコーラを飲んだ後、頭を横に振る。
「あー......さっきの話無しで良いですから」
「そ、そうじゃなくて。私なんでここに来たのかはね、最後のけじめをつけに来たの」
けじめ? それは俺がするんじゃないの。
「先生。何か企んでいるんですか?」
「企んでいる? え?」
先生は呆気なくしている。そうだよね。先生に企みなんてあるわけがない。本来は大人しく、まともに意見を発する事が出来ない人なんだから。なら俺はまだ売られてないのかな。
今は死体を処理してしまったせいで酔っているんだ。俗に厨二病。先生は良い歳してもまだ子供みたいなんだ。本当は俺なんかより。
「高橋君こそ、何か企んでいるんじゃないの?」
「何も企んでいませんよ。捕まるかなとは思ってますが」
「それはありえない。貴方が黙っている限り大丈夫よ。証拠は無いんだから」
証拠は無いって。本気で思っているのかな。
「先生。やっぱり泊まっていけば?」
先生は驚愕する。
「あ、いや。俺はソファで寝るんで。もう夜遅いし」
「だからけじめだよ。泊まる事は全く考えてないよ」
「何のけじめ?」
「......罪を償うけじめ」
罪?まさか人を殺した話は嘘じゃなかったのか?
「先生も人を殺したの?」
「殺したよ」
先生は笑う。その笑顔の真理は何だろう。
親父を刺してから疑問だらけの世界に落とされた。
こんなにも関心があったけ?興味があったけ?なんでだろう。なんでかな。考えれば考えるほど変になりそうだ。
そもそも自分は考えることが嫌いだ。母親に捨てられたとか、殴られたとか。考える力があれば人は病み、自爆をすると身を持って学んだから、空虚な自分になった。
なのに今、何を知りたくてこんなに考えるようになったのだろう。人を殺した奴がこれからを見ようとしてどうなるのだろう。
ー三日後に警察から連絡が来た。事情を聞きたいから署に来て欲しいらしい。
俺は即二言で決めた。
「上がるね」
氷点下二度で遠くからわざわざ足を運んできた。クリスマス会をするために。
先生は最早恋人のように俺の部屋に入っていった。
「じゃーん」
先生は机の上に小さなホールケーキが入った箱を開ける。生クリームケーキだ。
「生クリーム嫌い?」
俺は否定した。
「そうだよね。始業式に書いた自己紹介カードに、好きな食べ物は生クリームって書いていたもんね。良かった。まだ好きで」
「そこまで覚えているとストーカーを通り越してますね」
「やだストーカーなんて。気になる子の好きなものぐらい覚えているでしょ」
そうかな。好きな人とか気になる人が居なかったからよく分からない。嫌いな親父の癖とか身の危険が起きるだろうの予想は勘をつけるが。
先生はケーキを包丁で切り、一切りを皿に乗せた。
包丁といえば。
「先生。包丁どこにやったんですか」
「え?」
「刺した包丁ですよ。何処へやりましたか」
「知らないよ。貴方が持ってるんじゃないの? それよりケーキ食べよう」
先生は話を逸らした。明らかに知っているようだが、ただ持っていてどうするのだろう。実は警察の手に渡ってるのかな。だとしたらもう時間は無いなぁ。
「俺を売りましたね」
「ん?」
「なんでもないです。ところで先生。恋人らしいことはしませんか?」
「だから前に言ったでしょ。恋人らしいのは良いのよ。好きな人とケーキを食べて楽しく話せるだけで幸せなんですから」
「性欲はないんですか?」
先生は食べる動作をやめ、顔を真っ赤にする。
「最近ムシャクシャしているし、先生の恋愛ごっこに付き合っていたらストレス凄いんですよね。せめて抜くぐらいやってくださいよ」
俺は挑発をするように先生の顔と自分の顔がくっ付きそうなぐらいに近づき、嘲笑う。
「お......大人をからかうのは」
「からかってませんよ。どうします?」
先生は全力で頭を横に振り、俺の体を押した。
「......駄目よ。性欲の吐口のために女性を使うのは」
「先生は、男の部屋に居る時点で警戒をしないといけないんです。服装も脱がせやすいものを選んで。襲ってくださいと言ってるもんです」
「せ、性的なものはとても大切な儀式的なことです。簡単にしてはいけません」
「何それ。もしかしてその歳で処女?」
先生はさらに顔を赤くに染めた。図星。
「聖なるクリスマスの日にはしてはいけませんって? それを守ってんのは先生ぐらいじゃない? 男は許容範囲の女性なら誰でも抱けるんだよ。男に幻想を抱かない方が身の為だと思いますが」
「寂しい事言わないでよ」
先生は少し泣きそうになっていた。ちょっとやり過ぎたかな。でも本当の話だし。
「とにかく部屋に入るには相当な覚悟をしとけよって話ですよ。俺だって立派な男ですから」
再度座り直しケーキを食べる。先生も黙って食べる。
なんて面白くないクリスマス会。何しに来たんだろうこの人。何してんだろう自分。
「今日どうするんですか? 泊まるんですか」
先生はコーラを飲んだ後、頭を横に振る。
「あー......さっきの話無しで良いですから」
「そ、そうじゃなくて。私なんでここに来たのかはね、最後のけじめをつけに来たの」
けじめ? それは俺がするんじゃないの。
「先生。何か企んでいるんですか?」
「企んでいる? え?」
先生は呆気なくしている。そうだよね。先生に企みなんてあるわけがない。本来は大人しく、まともに意見を発する事が出来ない人なんだから。なら俺はまだ売られてないのかな。
今は死体を処理してしまったせいで酔っているんだ。俗に厨二病。先生は良い歳してもまだ子供みたいなんだ。本当は俺なんかより。
「高橋君こそ、何か企んでいるんじゃないの?」
「何も企んでいませんよ。捕まるかなとは思ってますが」
「それはありえない。貴方が黙っている限り大丈夫よ。証拠は無いんだから」
証拠は無いって。本気で思っているのかな。
「先生。やっぱり泊まっていけば?」
先生は驚愕する。
「あ、いや。俺はソファで寝るんで。もう夜遅いし」
「だからけじめだよ。泊まる事は全く考えてないよ」
「何のけじめ?」
「......罪を償うけじめ」
罪?まさか人を殺した話は嘘じゃなかったのか?
「先生も人を殺したの?」
「殺したよ」
先生は笑う。その笑顔の真理は何だろう。
親父を刺してから疑問だらけの世界に落とされた。
こんなにも関心があったけ?興味があったけ?なんでだろう。なんでかな。考えれば考えるほど変になりそうだ。
そもそも自分は考えることが嫌いだ。母親に捨てられたとか、殴られたとか。考える力があれば人は病み、自爆をすると身を持って学んだから、空虚な自分になった。
なのに今、何を知りたくてこんなに考えるようになったのだろう。人を殺した奴がこれからを見ようとしてどうなるのだろう。
ー三日後に警察から連絡が来た。事情を聞きたいから署に来て欲しいらしい。
俺は即二言で決めた。