らくがき帳
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平浦
20260725(土)00:15「調子良さそうっスね」
「どこがやねん……目ェ腐っとんかオマエ…」
「あらら……」
ナイトウェアのボタンを開けて汗ばんだ胸を晒した平子は布団に仰向けのまま咳き込んだ。傍らに座り彼の胸に薬を塗ってやると、平子はふぅ、と表情を緩ませた。
「あ゛ー…さっきよりは楽ンなったわ…」
「よかった……これで眠れるといいんスけど」
ぱらぱらと枕に散る金色の髪を指で梳くように触れ、額に張り付いた前髪も払ってやると、平子はその手を取って自身の頬に当て目を閉じた。
「きもちーわ、冷たァて」
「……タオル替えますから、」
「ん……」
名残惜しそうに手を離される。ボタンを一つずつ留めて薄い胸をしまう浦原の指先を、平子はぼんやりと見つめていた。
頭上に置いた桶の中に溜めた氷水にタオルを漬けてきつく絞っている間も、平子は時折体を丸めて苦しそうに咳き込んでいた。
「……風邪とか何年振りやろ……情けな……」
「疲れが溜まってたんでしょう、まともにご飯も食べてなかったんじゃないスか」
「……かき氷ばっか食っとったせいか…」
「隊長がそんなんでどうするんスか」
「桃キレとるやろなァ…帰りたないわ……」
平子は乾いた笑いを溢してまた小さく咳き込んだ。薬の瓶の蓋も閉めて枕元に置き、立ち上がろうとして動きを止めた。
「…………」
「………喜助?」
平子の胸にぺたりと顔を乗せて、頬を擦り寄せた。余計に息苦しくさせてしまうから体重をかけてはいけないと思いつつ、そのまま離れる気にもならなくて張り付いていた。平子の手が浦原のぴょんと跳ねる癖毛を撫でた。
「……伝染るで、離れときや」
「……嫌っス」
「嫌て……もう、なんやねん」
子どもみたいに駄々を捏ねて見上げてみると、平子は口角を釣り上げて笑っていた。いつもより眠たげな目と赤い頬、汗ばんだ長い首。見慣れた彼の見慣れない姿に胸が騒つく。なんだか色っぽくも見えるせいでときめいてるとか、そんな可愛いものじゃない、もっと不愉快な方だ。髪を撫でてくる手を取って指を絡めると、ぎゅっと握られた。
「……あかん、めっちゃキスしたい」
「伝染るじゃないスか、嫌っスよ」
「悪魔か……はー……死ぬ気で治すわ」
この人のせいで、自分の中にまだ知らない感情があることを知る。重ねられない唇の代わりに指で触れると、がぶりと甘く爪を噛まれた。×浦
ヘン主 15
20260721(火)02:40適当に埃を掃いた床に地図を広げ、修道院へのルートを確認しながら硬いパンを貪った。何年も放置されていた形跡の残る倉庫だ。そう誰も近寄ることはないだろう。
床に座りリュカと肩を合わせて声を潜めながら過ごしていると、あの頃に戻ったような気になった。布団代わりにリュカのマントを引っ張って包まると、リュカは子どものように笑った。
「ちょうどいいなこれ、あったかいし」
「ふふ、楽しいね、ヘンリー」
「何がだよ…バレたら地下牢ぶち込まれるぜ?」
「王子様なのに」
「もう王子でもなんでもないって。ただの侵入者だよ」
リュカはオレの肩に頭を乗せて目を閉じた。ターバン越しに頭を撫でてやるとくすくす笑う。昔はよくこうして眠れないでいるこいつの頭を撫でてやったのを思い出した。泣きもせず嘆きもせず、真っ黒な目でじっと前を見据えているこいつがあまりにも危うくて、こいつの中の欠落してしまったものを取り戻してやりたくて、あの頃はきっとオレも必死だった。
「……ごめんなリュカ。オレの都合に付き合わせて、またオマエを巻き込んじまう。ラインハットがどうなろうがリュカには関係ないのに」
「関係なくないよ。ビスタの港に船が来ないんじゃボクも海を渡れないし」
「まぁ、そりゃそうだけど…」
「それに言ったはずだ。ボクだって怒ってるんだよ。ニセモノもホンモノも、どっちもぶん殴らなきゃ気が済まない」
「ホンモノは勘弁してやってくれよ…」
「どうして?そもそもあの女が悪いんじゃないか。キミはもっと怒るべきだ」
「いやオレだって怒ってはいるけどさ……あぁ…もう寝ようぜ。明日朝イチで出発するからな」
せっかく微睡んでいたのに体を起こしてぷりぷりと怒り出してしまったリュカを宥めて、もう一度肩に寄りかからせる。リュカは不満そうに息を吐き、やがて諦めたように目を閉じた。眠りに落ちる寸前、かき消えそうな小さな声がした。
「ヘンリー、キミは……アイツを倒したら……その……」
「ん…?」
「……いや、なんでもない」
リュカは眉間に皺を寄せ、俯いた。先を考えるのは決着がついてからだろう。オレはまだ何も選べないでいる。DQ5
転生夏五
20260720(月)22:15デザインが浮かばず頭を悩ませていた棘は、突然僕の手を引いて外へと連れ出した。すぐそこの路地裏で、棘はたった一枚だけ写真を撮った。
日の当たらない狭い通路に佇む赤い自販機。隣の電柱に凭れて空を見上げて、と指示されるままに顔を上げた。雲の切れ間を見て、「午後は晴れそうだね」なんて言った途端にシャッターを切られた。棘は得意気に頷くと、また僕を引っ張ってアトリエへ戻った。
あんな一枚の写真で何を掴めたのかは知らないけれど、棘は黙々と作業を始めた。新たに手に取ったのは、風に揺れるほど軽く、透けるような生地だった。ミシンの練習をしながら静かに出番を待っているだけの時間も、心地よくて好きだった。
「わかんないけど、何か良いの浮かんだみたいだったよ」
「そっか、悟のおかげだね」
「何もしてないけどなぁ」
「ふふ、そんなことないよ」
曇りへの憂いと、晴れの予感にほんの僅かに微笑んだ悟の姿。棘が撮ってくれたというそれを見せられて、無意識に写真の悟に指を這わせていた。
「うん…すごく綺麗……」
「そう?影になっててよくわかんないけど…」
きっと華やかな装飾も、複雑な細工も必要ない。悟の存在、生き様の美しさに見合う形が、きっと棘の中に見えたんだろう。またいいのができるね、そう言って隣に座る悟の髪を撫でた。夏五
hrhn夏五
20260716(木)00:03悟はゆっくりと私に向かって手を伸ばす。触れるか触れないか、微妙な距離まで伸ばしかけた手はぽたりとシーツに落ちた。悟の青い瞳が湖面のように揺らいで不安げにこちらを見上げる。
「……手、握ってもいい?」
「……ん」
ほんの少し間を置いて、悟が小さく頷いた。ひんやりとした手にそっと触れると、一瞬だけびくりと震えて、でも拒絶はされなかった。
「怖いことしないからね…大丈夫…」
「……だい、じょうぶ……」
「うん……ね、ほら、泣かないで」
ぽろぽろと涙が零れ、繋いだ手に降ってくる。抱きしめていい?撫でていい?ひとつひとつ執拗いほど声を掛けて、悟の体を抱きしめた。痩せてしまった背中を擦って宥めながら、痛くなるほど強く目を瞑る。誰からも何からも護りたいと想う気持ちだけは嫌ほど強い。こんな風に、泣いている悟を抱きしめることしかできないくせに。
悟の濡れた睫毛が肌に触れ、心臓を突き破って怒号を上げる後悔を抑え込んだ両手が震える。泣かないでとか言いながら、自分が泣いているんじゃどうしようもない。
「すぐるっ……すぐ……あ、ぁぁ……」
「うん……大丈夫……大丈夫だから、」
何がだよ。大丈夫じゃないから泣いているのに。あぁクソ。クソ野郎。殺したいのは私自身だ。夏五
月後スゼ 2
20260702(木)22:11ゼノはトランクを床に置き、立ち上がって腕を広げた。どちらともなく抱きしめるとゼノの白い首筋からは清潔な石鹸の匂いがした。俺の肩にすりすりと額を寄せて、ゼノは跳ねるように喋り出す。柔らかなプラチナブロンドの髪を撫でながら、聞き心地の良い声に体を委ねた。
「かつて幾度も説得を試みては衆愚に踏み潰されてきた宇宙開発計画もついに日の目を浴びるだろう。何せタイムマシン開発にヘリウム3は必要不可欠だ。素材もエネルギーも地球規模では収まらない。おお、21世紀を超える科学!実にエレガントだよ。まぁ尤も、当面はラボの建設と各国の科学者へ向けたブリーフィングに奔走するのだろうがね」
「ん。移動と護衛は俺ん任せな」
「おお、実に頼もしいナイトだ」
指揮を執るように手を振り上げ語るゼノの薄い背中をより強く抱きしめた。きっと流れるように上手くはいかないだろう。目を輝かせ未来科学のロードマップを突き進むゼノの足を掴んで引きずり倒そうとする手は、この新世界にも蛆のように蠢いている。しかしもう、瞳から光を失い弱っていくゼノを見ながらもどうすることも出来なかったあの頃とは違うのだ。今はこんなにもそばにいる。ゼノの手足を縛るものから、美しい科学の光を閉ざそうとするものから、今度こそ俺の手で護ってやれる。タイムマシンか。たった一人で戦わせてしまった5年間も取り戻せるなら、あぁ、マジでエレガントな科学だな。
「暫くは宿舎での生活になるが、落ち着いたら向こうにも家を建てたいね。せっかくだ、日本らしい和風建築にしようじゃあないか」
「あー、シンデンヅクリ?」
「何かのアニメでも見たのかい?それは昔の貴族の邸宅だね。確かに魅力的ではあるが、二人で暮らすには広大過ぎるな。維持費や管理の手間に見合わない。非合理的だ」
「ちっちゃい家でいいよ。あんたとずっとくっついていられるくらい」
「おおスタン、日本の気候は温暖多湿だ。家の作り様は夏を旨とすべし、が古くからの日本家屋の基本でね。木材、漆喰、和紙、い草と通気性と調湿生に優れたエレガントな自然素材で作られている。その分冬の寒さには弱いんだ。僕はあまり寒さに強くないから小さな家なら、」
「OKゼノ、結論は?」
「冬は君と囲炉裏を囲んで魚を食べたい」
「いいね、ピザも焼ける?」
「おお、焼けるとも。少々ミスマッチではあるがね」
ゼノは黒水晶の瞳をキラキラさせて楽しそうに笑っている。堪らなくなって抱き上げて、額に刻まれたままのXの中心にキスをした。俺の大好きなその顔が二度と曇らないでいてほしい。アメリカでも日本でも深海でも宇宙でも、ゼノはその自由な翼でどこへだって飛んで、やりたいようにやって。ゼノのくれた翼で俺も全力でついていくから。もう二度と離さないから。スゼ
月後スゼ 1
20260702(木)21:12フライト業務を終えて帰宅すると、いつもの出迎えが無く少しばかり気落ちした。家の中に気配はするが本人は見当たらず、煙草を燻らせながら二階へ上がる。書斎と資料室を通り過ぎた先のクローゼットルームから光が漏れているのを見つけ、煙草の火を消してドアノブに手を掛けた。ドアを開けて中を覗くと、ゼノはこちらに背を向けて丁寧に畳んだジャケットをトランクに詰めていた。
「ゼノ、ただいま」
「おお、おかえりスタン。気が付かなくてすまなかったね。君は物音がしないから」
「ドタバタ暴れながら上がってくりゃよかったね。出張?」
「いや、拠点を日本に移すよ」
「は?」
「千空からのお誘いでね。タイムマシンの開発チームに加わることになったんだ」
「Time Machine……」
ゼノはネクタイとシャツを数枚トランクに仕舞い、淡々と旅の支度を整える。凡そ現実的とは思えないプロジェクトだが、ゼノの脳内では完成までのロードマップも既に組み上がっているのだろう。未知に挑むゼノの表情はいつだって俺の胸を掻き立てる。
「できんの?」
「難しいだろうね。だが時間逆行の根幹原理はホワイマンのヒッグス場コントロールだ。スタンも知っての通り物質はヒッグス場というプールの中に沈んでいるから質量がある。ホワイマン…石化装置はそのプールの水圧を変化させる装置といったところかな。生物の分子がヒッグス場から受ける抵抗を増やすことで石化が-」
「OKわかった、石化装置使えばワンチャンあんだな。いつ出発よ?」
「各所調整は済んでいるからね、今後は僕の手が離れても問題は無い。明日にでも出発できるよ。スタンリー、タイムマシン開発には数少ないホワイマン遭遇者である君の助言も必要になる。一緒に来てくれるかい?」
要請を受け米国本土の復興助力に従事し、幾度となく行ってきた人工衛星の打ち上げもどうやら区切りがついたらしい。天才ゼノ先生のスピード感は昔から尋常じゃない。とてつもない速度で宇宙までぶっ飛ばしてしまうゼノに置いていかれないようにと鍛え上げてきた肉体だ。答えなどわかりきっているくせにそれを欲しがってこちらを見上げてくる期待に満ちた表情が可愛くて、つい口を噤んでしまった。沈黙が長引いたのが気に入らなかったか、ゼノは首を傾げて唇を尖らせた。
「おや、日本は嫌いかな?」
「好きでも嫌いでもねぇよ。俺はあんたが居んならどこだっていい。あんたがホントにやりてぇんならな」
「あぁ…君は心配性だね。大丈夫。僕の意思だよ」
「ならいいけどよ」スゼ
でかけも
20260629(月)04:52夏五絵
平浦
20260627(土)04:26惹かれ合って、想いが届いたとして、きっとすぐに離れていく。何百年と続く人生で、人を好きになることなどないと思っていた。最後に人と抱き合ったのが何時だったかも、もう思い出せないのに。
気付けば目で追っている。金色の髪と自分よりも薄いのにやたら頼もしい背中。丸まった彼の背を見つめる度、針を飲むよう息苦しさと、醜い欲望がずんと澱んで身体の深くに留まっていく。
平子は時折、何かを内に飲み込むような仕草を見せる。彼の中に踏み込めない領域がある。踏み入れてしまったら、今のようにはいられなくなるのだろうか。誰も何も変わらないで、このままでいたいのに、彼を助けたいとも思ってしまう。
「またろくに寝てへんのやろ、隈ひどいで」
「……やりたいことが多くて。時間がいくらあっても足りないんスよ」
「時間なんていくらでもあるやろ、繁忙期でもないに。頭ええくせに予定組むん下手やねん」
若木のように細い体と、わしゃわしゃと髪を撫で回してくる大きな手。見上げてくる切れ長の目と細い首。しゃーない奴やなと悪戯に笑う口元。特有のアンバランスさが、どうしようもない気持ちにさせる。 髪をぐしゃぐしゃに乱す彼の手を退かそうとして、触れられなかった。言葉が出なくて、静かに唇を噛み、目を伏せる。やはりボクは、彼を愛してしまっている。×浦
ヘン主 14
20260625(木)04:43「あ゛ー……目が回る……どこだよここ……」
「……塔だ……」
なかなかに無茶な移動をさせられた気がする。前屈みに嘔気づくオレの隣でリュカは逞しくも平然としていた。旅の扉を囲うようにいくつか石柱が立てたれているが、どれも相当古いものなのか殆どが朽ちて倒れている。鬱蒼とした森の中。小さく呟いたリュカの見上げている先に視線を向けると、高く聳え立つ石造りの塔が木々の合間から確かに見えた。
「あの塔か……真実を映し出す鏡なんて本当にまだあんのかな、ずいぶん古い日記だったが」
「………」
リュカは黙って塔を見据えると、吸い寄せられるように歩き出す。まだ地面が歪むような感触がしてふらつく足を叩き直し、リュカの後を追いかけた。
塔を目前にして、二人して見えない壁に阻まれた。高い塀で囲まれた塔は、その門に手を掛けるとバチッと弾かれてしまい触れることができない。
「……入れないね」
「だな。日記に書いてあっただろ。カギを持ってるのは修道僧だとかなんとかって。オレたちじゃ無理ってこった」
「修道僧……修道女なら知り合いがいるね」
「……修道院に戻るか。話聞いてみようぜ」
リュカはこくりと頷き、懐から地図を取り出した。旅立ちの日に修道女から貰った地図で、海辺の修道院の位置に印が付けられている。こんな塔の場所までわかるものなのかと疑いながらも覗き込むと、リュカが紙面に指を滑らせた。
「修道院がここで……これ、旅の扉のあった祠と、この塔のことじゃない?」
「だとすると余裕で歩ける距離だな……なんか仕組まれてないか?」
「?」
大いなる力で用意された盤面を歩かされている感覚だ。いつから、と考え出すとまるで最初からそうだった気がして怖気がした。リュカは言葉を無くしたオレの顔を見ると不思議そうに首を傾げて地図を畳んだ。
「暗くなってきたね。野営する?ラインハットに戻る?」
「野営にしても荷物積んだ馬車は向こうに置いてきちまったしな…。でも城から出たらまた入るの面倒だぜ?あの倉庫でこっそり寝るってか?」
「あ、面白そう。そうしようよ、ヘンリー」
「言わなきゃよかった…」
リュカの一時も変わらない声色は時に恐ろしくもあるが心強くもある。旅の扉を使えば嘔気はしても一瞬でラインハットだ。周囲が魔物だらけなのはここも城も変わらないのが残念だが、まあ屋根と壁があるだけマシなのだろうか。何が面白いのか、妙にご機嫌なリュカの背中を見つめて肩を竦めた。DQ5
スタゼノ
20260621(日)04:46ベッドに倒され、頭の後ろを支えていた手がゆっくりと離される。声にならない吐息が漏れた。
「いい…?ゼノ」
彼の揺れる瞳に見つめられたら、もう目は逸せない。流れる一房の金髪が頬を擽った。低く呟いたスタンの言葉に喉が微かに鳴るだけで、まともに返事もできなかった。ふ、と息を吐いたスタンが乱暴な手つきで自身のシャツを脱ぎ捨てて跨ってくる。生きる彫刻かと思うような、逞しく美しい肉体のどこに触れるべきかわからず、行き場を失った手は投げられたシャツをぎこちなく掴んだ。いつまでも不慣れな姿を笑うでもなく、スタンは目を細めて愛おしそうに頬を撫でてくる。
「怖くねぇ…?力加減とか、わかんなくなるかも」
「……おかしなことを聞くね」
君が僕の脅威になるわけがないのに。傷がついたっていいよ、君が僕に触れてくれるなら。スタンリー、君の全てが好きだ。
「君の全てが僕のものだ。愛してるよ、スタン」
君の囁く愛の言葉も、唇も、伝わる体温も、君から溢れたものなら痛みだってなんだって手に入れる。僕は欲張りなんだ。今更何を怖気付くことがある。全部寄越したまえ。
スタンは目を丸くすると喉の奥で笑って、キスを深めた。熱い舌が歯列をこじ開け、シャツを握っていた手に手が重なった。迷いを溶かすように指と指が絡まって、ゆっくりと唇が離される。うっとりと見つめられると力が抜ける。人と肌を合わせるなど得意ではないのに、スタンと抱き合うのはなんと心地が良い。滞っていた血が巡る。月を覆い隠す雲が散る。君に侵食されることで、きっとはじめて正しい形になるのだと思った。
「ゼノ、ゼノ……かわいい、ゼノ。愛してる」
「おお、スタン。そう食いつかなくても、どこにも行かないよ」
「ん……どこも行かせない。誰にもやんない。俺のゼノだ」
愛してる。可愛いゼノ。俺の全て。スタンは耳元に唇を寄せて、証を刻むように何度も呟く。厚い背中に精一杯の力で抱きつくと、嬉しそうに微笑んで抱き返してくれた。ああ、君が幸せなことが嬉しい。スゼ

