テンション低い隣人男性と仲良くなる話
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その日あなたは、一階にある管理人女性の玄関先で話をしていた。
「もうこのアパートにも慣れました? 名無しさんきちんと取り組んでくれて助かります。何か困ったことあれば言ってくださいね」
「ありがとうございます」
「そういえば、あなたの隣のおばあさんなんだけど。ご家族と話し合って、もうすぐホームに入るんですって」
「えっそうなんですか。……そっか、結構お年でしたもんね」
「そうなのよね。でもハキハキしてらしたし、そちらでもお元気でいてほしいわ」
彼女と頷き合っていると、地下の階段から金髪のすらっとした男性が現れた。
ジャケットを着こなしたエナードだ。
彼はあなたを見て「こんにちは」と言った。
あなたも笑顔で返すと、彼の視線は管理人女性に移り、会釈して通り過ぎようとした。
すると女性は彼に声をかけた。
「あらエナードさ~ん。最近草むしりやってくれてるみたいですねえ。本当に助かります。あれだけお願いしても「契約にない」って言い張ってたのに」
エナードは足を止め、無表情で彼女に振り向く。
「実際契約にないですから」
「あら、でもそれってあなたのお部屋の大家さんとの契約よね。このアパート全体の管理を今しているのは私達夫婦なので。ルールはこれからも守ってもらえると助かります~」
優しい声音で笑顔を向けた女性に、エナードはぴくりと眉を動かした。
なんだかよくない雰囲気だとあなたが焦っていると、管理人女性はこちらに微笑んだ。
「でもさすがよ、名無しさん。あなたが言ってくれたおかげでこの方も聞いてくれたんだから」
「彼女は関係ないでしょう」
「そうなんですか? 仲良く草むしりしてたじゃないの。いいことですよ全然~そんなに親しくなったのねえ」
野次馬的にからかわれると、あなたは苦笑を浮かべる。
この女性は基本的にいい人だけれど、わりとお喋りなのだ。
「親しくはありません。誤解の起こるようなことをこの場で言わないでくれますか」
しかし、エナードが毅然とそう告げて、あなたはグサっと胸に何かが突き刺さる。
そして思わず、階段に乗り上げている彼を恨めし気に見た。
「ええ……映画一緒に見ようっていった仲じゃないですか。ひどいですよ、エナードさん…」
むっとして悲し気に言うと、あなたは二人に頭を下げてその場から去ろうとした。
女性は驚いていたが、あなたが彼を追い越して二階へ上っていくと、彼ははっとなった表情をした。
「まっ……名無しさん!」
あなたがすぐ上の二階で、鍵をがちゃがちゃやっていると、初めてそんなふうにエナードに名前を呼ばれた。
瞬きをして振り向く。
するといつの間にか、彼はあなたの後ろに立っていた。
「違います、そういう意味じゃ……怒ってるんですか」
小さく肩を上下させ、息を切らせて尋ねられ、あなたは目を丸くする。
「い、いや」
「――ちょっと待ってください」
エナードは何かに気づき、階段の手すりから下を見下ろした。
すると管理人女性がドアの隙間から聞き耳を立てていたようで、彼は舌打ちを我慢した。
「ちょっと来てください」
「へっ」
彼が自分の部屋の鍵を開けたので、あなたはいいのかと思いつつ、吸い込まれるように玄関に入る。
室内は自分の部屋よりも広く、男性の一人暮らしとは思えないほど、お洒落でモダンにまとまっていた。
すぐそこにあるリビングは白と木を基調としており、間接照明にもこだわっているようだった。
「うわあ、素敵なお部屋ですね。うちと全然違う」
「そうですか。……じゃなくて」
彼はあなたの腕にそっと触れて、まっすぐに焦りの滲む瞳で見つめてきた。
「さっきのは違いますから。彼女に誤解をされたら、また違う住人に喋られてしまうと思って。あなたに迷惑がかかるでしょうし」
「いえ、迷惑じゃないですよ、別に」
そう穏やかに答えると、彼は言葉に詰まる。
また考えこんでしまったので、話題を少し変えてみた。
「あんまり、管理人さんとうまくいってないんですか」
「……ええ。引っ越してきた当初から、ちょうど移って来たあちらと揉めたんです」
彼はトラブルをあなたに説明した。
彼の真下がちょうど一家の住居で、騒音がひどかったのだそうだ。
家族なのだから、それは仕方がないと思った。だが、彼のバルコニーの反対側の真下の庭に、管理人一家が突然遊具を並べたことが始まりだったという。
「今ではもう立派な公園ですよ。あまりにも規模が大きくなってきて、苦情を言ったんです。でも彼らはまったく聞き入れず困りました」
あなたはさすがに彼に同情をした。
彼らは家を買っていて、法律違反でもないため、公園がどんどん大きくなってもどうにもできなかったのだという。
「それは嫌ですよ⋯⋯エナードさん、よくこの2年間頑張りましたね」
あなたが心配して、もっとなんとかならなかったのかと思いやって見上げると、彼は一瞬だけ瞳を揺らした。
「分かってもらえるだけで、ありがたいです」
そうぽつりともらす。
そして彼は吹っ切れたように顔を上げた。
「でも、もういいんです。ここを買わなくて本当によかったですよ。引っ越せば済みますから」
「えっ? エナードさん、引っ越しちゃうんですかっ?」
あなたが悲し気に問うと、彼は驚いたように動きを止めた。
「いえ……まだ時期は決めてませんが」
「……そっか」
ほっとして気が緩むと、エナードはまだあなたのことが気になっているようだった。
もうすっかり安心して、気分が温かくなっていたあなたは、彼にこのことも教えた。
「そういえば、お隣のおばあさん、ホームに行くことになったらしいです」
「ああ……そうだったんですか。……じゃあテレビの音、しなくなっちゃいますね」
彼らしい現実的な一言に、あなたは少し反応に困って笑う。
「僕が、大きな音を出しましょうか」
「ええっ。いや、それあなたが嫌でしょう?」
「嫌ですよ。うるさいのは嫌いなんです」
「ほら……」
あなたが突っ込むと、彼はこんなことを言った。
「じゃあこの話は置いておきましょう。……今度の週末、映画、見に行きますから」
一応約束していたことを改めて伝えられ、あなたは表情をふたたび緩めていった。
「もうこのアパートにも慣れました? 名無しさんきちんと取り組んでくれて助かります。何か困ったことあれば言ってくださいね」
「ありがとうございます」
「そういえば、あなたの隣のおばあさんなんだけど。ご家族と話し合って、もうすぐホームに入るんですって」
「えっそうなんですか。……そっか、結構お年でしたもんね」
「そうなのよね。でもハキハキしてらしたし、そちらでもお元気でいてほしいわ」
彼女と頷き合っていると、地下の階段から金髪のすらっとした男性が現れた。
ジャケットを着こなしたエナードだ。
彼はあなたを見て「こんにちは」と言った。
あなたも笑顔で返すと、彼の視線は管理人女性に移り、会釈して通り過ぎようとした。
すると女性は彼に声をかけた。
「あらエナードさ~ん。最近草むしりやってくれてるみたいですねえ。本当に助かります。あれだけお願いしても「契約にない」って言い張ってたのに」
エナードは足を止め、無表情で彼女に振り向く。
「実際契約にないですから」
「あら、でもそれってあなたのお部屋の大家さんとの契約よね。このアパート全体の管理を今しているのは私達夫婦なので。ルールはこれからも守ってもらえると助かります~」
優しい声音で笑顔を向けた女性に、エナードはぴくりと眉を動かした。
なんだかよくない雰囲気だとあなたが焦っていると、管理人女性はこちらに微笑んだ。
「でもさすがよ、名無しさん。あなたが言ってくれたおかげでこの方も聞いてくれたんだから」
「彼女は関係ないでしょう」
「そうなんですか? 仲良く草むしりしてたじゃないの。いいことですよ全然~そんなに親しくなったのねえ」
野次馬的にからかわれると、あなたは苦笑を浮かべる。
この女性は基本的にいい人だけれど、わりとお喋りなのだ。
「親しくはありません。誤解の起こるようなことをこの場で言わないでくれますか」
しかし、エナードが毅然とそう告げて、あなたはグサっと胸に何かが突き刺さる。
そして思わず、階段に乗り上げている彼を恨めし気に見た。
「ええ……映画一緒に見ようっていった仲じゃないですか。ひどいですよ、エナードさん…」
むっとして悲し気に言うと、あなたは二人に頭を下げてその場から去ろうとした。
女性は驚いていたが、あなたが彼を追い越して二階へ上っていくと、彼ははっとなった表情をした。
「まっ……名無しさん!」
あなたがすぐ上の二階で、鍵をがちゃがちゃやっていると、初めてそんなふうにエナードに名前を呼ばれた。
瞬きをして振り向く。
するといつの間にか、彼はあなたの後ろに立っていた。
「違います、そういう意味じゃ……怒ってるんですか」
小さく肩を上下させ、息を切らせて尋ねられ、あなたは目を丸くする。
「い、いや」
「――ちょっと待ってください」
エナードは何かに気づき、階段の手すりから下を見下ろした。
すると管理人女性がドアの隙間から聞き耳を立てていたようで、彼は舌打ちを我慢した。
「ちょっと来てください」
「へっ」
彼が自分の部屋の鍵を開けたので、あなたはいいのかと思いつつ、吸い込まれるように玄関に入る。
室内は自分の部屋よりも広く、男性の一人暮らしとは思えないほど、お洒落でモダンにまとまっていた。
すぐそこにあるリビングは白と木を基調としており、間接照明にもこだわっているようだった。
「うわあ、素敵なお部屋ですね。うちと全然違う」
「そうですか。……じゃなくて」
彼はあなたの腕にそっと触れて、まっすぐに焦りの滲む瞳で見つめてきた。
「さっきのは違いますから。彼女に誤解をされたら、また違う住人に喋られてしまうと思って。あなたに迷惑がかかるでしょうし」
「いえ、迷惑じゃないですよ、別に」
そう穏やかに答えると、彼は言葉に詰まる。
また考えこんでしまったので、話題を少し変えてみた。
「あんまり、管理人さんとうまくいってないんですか」
「……ええ。引っ越してきた当初から、ちょうど移って来たあちらと揉めたんです」
彼はトラブルをあなたに説明した。
彼の真下がちょうど一家の住居で、騒音がひどかったのだそうだ。
家族なのだから、それは仕方がないと思った。だが、彼のバルコニーの反対側の真下の庭に、管理人一家が突然遊具を並べたことが始まりだったという。
「今ではもう立派な公園ですよ。あまりにも規模が大きくなってきて、苦情を言ったんです。でも彼らはまったく聞き入れず困りました」
あなたはさすがに彼に同情をした。
彼らは家を買っていて、法律違反でもないため、公園がどんどん大きくなってもどうにもできなかったのだという。
「それは嫌ですよ⋯⋯エナードさん、よくこの2年間頑張りましたね」
あなたが心配して、もっとなんとかならなかったのかと思いやって見上げると、彼は一瞬だけ瞳を揺らした。
「分かってもらえるだけで、ありがたいです」
そうぽつりともらす。
そして彼は吹っ切れたように顔を上げた。
「でも、もういいんです。ここを買わなくて本当によかったですよ。引っ越せば済みますから」
「えっ? エナードさん、引っ越しちゃうんですかっ?」
あなたが悲し気に問うと、彼は驚いたように動きを止めた。
「いえ……まだ時期は決めてませんが」
「……そっか」
ほっとして気が緩むと、エナードはまだあなたのことが気になっているようだった。
もうすっかり安心して、気分が温かくなっていたあなたは、彼にこのことも教えた。
「そういえば、お隣のおばあさん、ホームに行くことになったらしいです」
「ああ……そうだったんですか。……じゃあテレビの音、しなくなっちゃいますね」
彼らしい現実的な一言に、あなたは少し反応に困って笑う。
「僕が、大きな音を出しましょうか」
「ええっ。いや、それあなたが嫌でしょう?」
「嫌ですよ。うるさいのは嫌いなんです」
「ほら……」
あなたが突っ込むと、彼はこんなことを言った。
「じゃあこの話は置いておきましょう。……今度の週末、映画、見に行きますから」
一応約束していたことを改めて伝えられ、あなたは表情をふたたび緩めていった。
