巨体の人外に助けられて世話される話
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静かになったパーティー会場で、ゼイランは中央の席につき、退屈そうに脚を組んでいる。
正面で酒を飲みながら話す鎧の男ヴィレイニを、呆れた顔で見やった。
「おかしいな。今のは俺を責める話のはずだったのに、お前がいかに悪い人間かを教えてくれただけなんだが」
ヴィレイニは銀髪の美形を睨み返した。
「てめえがすべての元凶だ。俺の人生めちゃくちゃにしやがって。早く金返せ」
「フッ。お前は自分の損害よりも、慕ってくれる者の信頼を取り戻すほうが先なんじゃないか?」
「なんだとてめえ……ッ」
相手にしない公爵に対し、屈強な魔術師は血管が切れそうになった。
だが弟子のセロは、ショックを隠し切れていない。
「し、師匠。マジであんた施設で働いてたのか? それにナザル、お前もルドガーがいた場所にいたのか?」
彼らに問うと、二人はしれっと頷いた。
セロの肩がわなわなと震える。
「なんでそういう大事なこと早く言わねえんだよ! どうして俺に隠してた!」
師は煩わしそうに「うっせえな。わざわざ弟子に格好悪い過去を教える師がいるか?」と開き直る。
ナザルも同調した。
「そうそう。かっこわりーだろ。おっさんに幻獣にして連れてってくれなんて言ったって、お前に知られたら。普通に恥ずいわ」
そっぽを向きながら告げられて、セロは理解に苦しむ。
「意味が分からねえ……今更そんな外面気にするような仲かよ! この状況のほうがよっぽど恥ずかしいわ! ……おい師匠、あんたはルドガーに謝罪しろ! 俺はあの二人の過去聞いて号泣してたんだぞ、その一因が自分の師匠の暴虐だったなんて顔向けが出来ねえよ!」
「……顔向けだぁ? お前何こいつらに取り込まれてんだよ。俺ら人間とは違うんだぞ?」
ヴィレイニは失笑し、厳しい顔つきで座るルドガーを目に入れる。
隣のあなたは、はらはらしていた。この話、どうやって着地するのかと。
「おいチビ、大きくなったじゃねえか。俺のおかげだな? そんなに立派になってよ」
「……黙れ。お前のおかげじゃない。……いや、ほんのわずかはあるか。お前に虐げられたおかげで、反骨精神が芽生えたからな⋯⋯」
急に立ち上がり剣を握るルドガーに、あなたは戦慄した。
「ルドガー、ダメだよやっちゃ!」
「名無し、安心しろ。殺りはしない。こいつはセロたちの連れだ」
しかし彼の表情は硬く、声もざらりと低い。怒りを保っているのが分かる。
「二人はお前のために魔界にいたんだ。お前を待っていたんだろう。なんとか言ったらどうだ」
主人を持つ獣として、ルドガーの心はまっすぐに向けられている。
だがヴィレイニは不貞腐れた顔で何も答えない。
見かねたあなたは口を開いた。
「あの、お師匠さん。ここが分かったってことは、セロさんとナザルさんの動向も調べてたんでしょう? ほんとは迎えにきたんですよね? 二人が大事だからこんな危険犯してやって来たんですよね」
そう訴えかけると、中年男が太い腕を組み、仏頂面で認めた。
「そうさ姉ちゃん。こいつらがなぜか騎士団経由で、ルラ・パルセ魔術師団に入ったのを知った。それからずっと追ってたんだわ。銀髪野郎の隙を突く方法をな。どうだ、一石二鳥だろ」
へへ、と笑う師が、セロとナザルを見た。
「……別に俺だってお前らを本気で見捨てようなんて思ってねえ。ただ少し時間がかかっちまっただけだ。あのババア共のやばさ、お前らだって分かっただろ」
急に真面目なトーンで告げる。
セロは、そんな師を潤んだ瞳で見つめた。
「師匠……本当か? あんたやっぱそこまで人間腐ってねえよな、俺らを助けに来てくれたんだよな!」
「おう、あたりめーだろ。お前は俺の大切な弟子で、ナザルも俺の大事な使役獣だ」
金髪の美中年がキザな笑みを浮かべ、良い話でまとまるかと思われた。
するとセロが喜びとともに頷く。
「嬉しいぜ師匠……! じゃあ頼む。自首してくれ」
そう言った瞬間、ヴィレイニの目が点になった。
ナザルもセロに同意する感じで、平然としている。
「……はっ? するわけねえだろあの魔女に! なんで俺が謝んなきゃいけねえんだよ!」
「あんたの改心は今更俺らも望まない。でも今から少しずつやり直すことは出来るんだぞ?」
弟子に穏やかに迫られると、ヴィレイニは立ち上がって、周りを猜疑の目つきで見やった。
そして標的があなたに向かう。
「お前か……? 俺の弟子と使役獣をたぶらかしたのは。どんな手使いやがった! お前魔女の手先だろ! 可愛い顔して裏で操ってんじゃねえのかッ」
「……はあっ? なんで私がそんなことするんですか! 私はあなた達と同じ、ただの人間ですよ!」
「ただの人間が、なんで公爵の庇護に入って希少種の獣に溺愛されてんだよ! 怪しいだろうが!」
急に難癖をつけられ、あなたも怒りがわいてきて立ち上がる。
「魔界に来て一生懸命生きようとしてきただけですよ! セロさん達だってそうです、こんだけ頑張ってきたのに、あなたのこと憧れだってずっと待ってたのに、なにその言い草! 謝ってよ!!」
さっきはルドガーを止めようとしたのに、あなたは体格の違う大人のヴィレイニの前に立ち、勢いよく見上げた。
「早く素直になりなさいよ!! それに弟子の頑張りを褒めてあげてください、私だって、ルドガーとセロさんとナザルさんのおかげで魔術師試験合格したんだから!! 二人は優しいし強いしめちゃくちゃいい人ですよ! 師匠のあなただってそれ知ってんでしょう!!」
あなたは初めて人前でこんなに激怒した。
皆、ぽかーんとしている。
静観していたジュリスもゼイランも、隣で真摯に瞳をくぎ付けにして聞いてくれているルドガーも。
感情があらわになり涙がにじんでいると、セロとナザルは、瞳を揺らしてその姿を映していた。
「……名無し……ありがとなっ……俺達なんかのために、本気でそんなこと言ってくれて……」
「あんた、マジでいい奴だな、名無し」
二人の笑顔が胸に突き刺さり、当然だと頷く。全部本当のことだから、彼らの師匠にも知ってほしかった。
するとヴィレイニは、ぽつりとつぶやいた。
「なんで俺、小娘に叱られてるんだ……くそっ……」
テーブルに両手をつき、彼は焦った顔つきで弟子たちを見た。
「おい、お前ら、マジで魔界で生きてくつもりか? 悪いことは言わねえ、一緒に人間界へ帰ろうぜ。俺達の居場所はそこだろ?」
しかし、セロは首を振った。
「わりいな師匠。俺たちはここが気に入っちまったんだ。もうしばらくいるつもりだよ。あんたはどうするんだ? あの魔女に詫び入れたあと」
「……入れること決まってんのかよ……お前、マジで顔つきが違うじゃねえか、セロ⋯⋯」
「安心しろよ。俺の師匠は死ぬまであんただ。仲間なのも変わらねえ。なあナザル」
「おう。別に俺らの愛情がなくなったわけじゃないから、気落ちすんなよ」
「……調子のんなこの野郎!」
あなたはルドガーと、そしてゼイランはジュリスと目線を合わせた。
いよいよゼイランがこの騒動のまとめに入る。
「よし。ではヴェルガロン様への謝罪の場を設けなくてはな。仕方がない。俺にも一因はあるわけだから、一緒に謝ってやるよ」
「おめーが元凶だろ!」
「私も一緒に頭下げます!」
「俺もだ」
「俺も下げるよ」
仲間たちが続々と表明してくれる。
セロとナザルは一緒になり喜んでいた。
「よかったな師匠。それもこれもすべて、あんたがいない間に人間関係を構築してた俺とナザルのおかげだぜ? 感謝しろよ!」
「……ふざけんなよ……なんだこいつら……マジでうぜえ……」
恨み節のヴィレイニだが、もう皆の異様な一致団結に対し、うなだれるしかなかった。
プライドがズタズタになろうとも、彼にとっても弟子と使役獣は、切り離せない存在なのだ。
「わかったよ。癪に障るが、最後は自分のケツ自分で拭かねえとな⋯⋯⋯⋯オラあの魔女を呼べ!!」
偉そうに叫ばれ、あなたは悩んだ。
守護者は簡単に呼べる人物ではないが、このチャンスを逃せば、男の気が変わってしまうかもしれない。
そうしたらまたセロ達が困ることになる。
「ルドガー……」
「ん?」
こっそりと彼の腕を引っ張り、背を屈めてくれた耳元に、作戦を打ち明けた。
するとルドガーは真面目に受け取り、頷いてくれた。
「ああ、それがいいと思う。うまくいくかは未知数だが」
「そうだよね。でも、一応やってみようかな」
あなたはその場で、自身の両手を組み合わせ、目を閉じた。
感情の一部がうっすらと繋がっているとされる守護者に対し、本気で祈る。
「守護者さま、守護者さま。聞こえますか……お願いです。今、結構ピンチです。でも大チャンスでもあります。……無理を承知で、今すぐあなたに会いたいんです」
そう唱え始めると、皆あなたに注目した。
ゼイランは半信半疑で身構えている。
そんなふうに、偉大な公爵家のトップの者を、呼び出せるものなのかと。
だがあなたの気持ちは本物だった。
「来てください、守護者さま……! あなたが必要です!」
すると、背後からおびただしい寒気が襲ってきた。
ピンク色に染まっていた会場が、一瞬のうちに色褪せたように、黒く染まっていく。
それからすぐに、何事もなかったかのように、会場は鮮やかな色を取り戻した。
「……ふあ、あ……。どうしたのだ、名無し」
「えっ……守護者さま!?」
本当に来てくれたのかと、あなたは仰天して振り向く。
すると背後には、黒いネグリジェを着た大胆な姿の美女が、あくびをしていた。
「来てくれたんですか!」
「ふふ……そりゃそうさ。私はお前の守護者だぞ?」
妖艶な目つきで、あなたの頬に指で触れる。
彼女はまだ眠そうだった。吸血族の始祖の血を引く彼女は、睡眠の長さが普通とは違うらしい。
「おや、ゼイラン。それにルドガーも。元気そうだな。加護を授けたのかい?」
「はい。無事に」
「それはよかった。……おめでとう、名無し」
あなたは彼女に祝われて喜び、表情を一気に明るくさせる。
だがその慈しみに満ちたネメニアの瞳が、場に不似合いな鎧の男に向かうと、空気は緊迫した。
ふてぶてしいヴィレイニは立ち上がり、恐れることもなく相対する。
「よお、魔女。来てやったぜ。弟子たちを解放しろ」
「……はははっ。相変わらず偉そうな男だ。きちんとその弟子たちに謝ったのか?」
彼女はセロとナザルを見やった。
そこにはもう、敵対する眼差しはない。
なぜなら二人の瞳にも、それがなかったからだ。
二人は自分の状況を受け入れ、師の在り方も受け入れている様子だった。
「……悪かった。セロ、ナザル。俺はふがいねえ師匠だよ。お前らが知ってる通りクズだしな。……でも俺にとってもお前らは他人じゃねえ。だからまた来てやったんだろ。……もう見捨てたりしねえよ」
ぶっきらぼうに告げられた言葉は、セロたちの心に、報われたように響く。
ゼイランがそれから、自分の責任についても謝罪をした。
皆も続けて、どうか今回のことを収めてもらえるように嘆願する。
するとネメニアは、こう言った。
「ゼイラン。確かに君がやったことが起因だが、それはルドガーのためだった。そしてナザルは自分で生き方を選択した。この男はそれを受け入れ、人間界へ連れて行った。⋯⋯そしてセロと出会い、三人はこれまで生きてきた」
ネメニアはあなたとルドガーのことを見つめる。
「私を含め、ここにいる者たちは皆、自分の選択をしただけだ。……ヴィレイニ。そして今、師匠のお前が、自分の選択でここに立っていることを私は望むよ」
ヴィレイニの心には、魔女への反発心はまだ消えない。
だが自分の弟子がしっかりとこの場所に足を落ちつけているのを、ただ受け入れていた。
正面で酒を飲みながら話す鎧の男ヴィレイニを、呆れた顔で見やった。
「おかしいな。今のは俺を責める話のはずだったのに、お前がいかに悪い人間かを教えてくれただけなんだが」
ヴィレイニは銀髪の美形を睨み返した。
「てめえがすべての元凶だ。俺の人生めちゃくちゃにしやがって。早く金返せ」
「フッ。お前は自分の損害よりも、慕ってくれる者の信頼を取り戻すほうが先なんじゃないか?」
「なんだとてめえ……ッ」
相手にしない公爵に対し、屈強な魔術師は血管が切れそうになった。
だが弟子のセロは、ショックを隠し切れていない。
「し、師匠。マジであんた施設で働いてたのか? それにナザル、お前もルドガーがいた場所にいたのか?」
彼らに問うと、二人はしれっと頷いた。
セロの肩がわなわなと震える。
「なんでそういう大事なこと早く言わねえんだよ! どうして俺に隠してた!」
師は煩わしそうに「うっせえな。わざわざ弟子に格好悪い過去を教える師がいるか?」と開き直る。
ナザルも同調した。
「そうそう。かっこわりーだろ。おっさんに幻獣にして連れてってくれなんて言ったって、お前に知られたら。普通に恥ずいわ」
そっぽを向きながら告げられて、セロは理解に苦しむ。
「意味が分からねえ……今更そんな外面気にするような仲かよ! この状況のほうがよっぽど恥ずかしいわ! ……おい師匠、あんたはルドガーに謝罪しろ! 俺はあの二人の過去聞いて号泣してたんだぞ、その一因が自分の師匠の暴虐だったなんて顔向けが出来ねえよ!」
「……顔向けだぁ? お前何こいつらに取り込まれてんだよ。俺ら人間とは違うんだぞ?」
ヴィレイニは失笑し、厳しい顔つきで座るルドガーを目に入れる。
隣のあなたは、はらはらしていた。この話、どうやって着地するのかと。
「おいチビ、大きくなったじゃねえか。俺のおかげだな? そんなに立派になってよ」
「……黙れ。お前のおかげじゃない。……いや、ほんのわずかはあるか。お前に虐げられたおかげで、反骨精神が芽生えたからな⋯⋯」
急に立ち上がり剣を握るルドガーに、あなたは戦慄した。
「ルドガー、ダメだよやっちゃ!」
「名無し、安心しろ。殺りはしない。こいつはセロたちの連れだ」
しかし彼の表情は硬く、声もざらりと低い。怒りを保っているのが分かる。
「二人はお前のために魔界にいたんだ。お前を待っていたんだろう。なんとか言ったらどうだ」
主人を持つ獣として、ルドガーの心はまっすぐに向けられている。
だがヴィレイニは不貞腐れた顔で何も答えない。
見かねたあなたは口を開いた。
「あの、お師匠さん。ここが分かったってことは、セロさんとナザルさんの動向も調べてたんでしょう? ほんとは迎えにきたんですよね? 二人が大事だからこんな危険犯してやって来たんですよね」
そう訴えかけると、中年男が太い腕を組み、仏頂面で認めた。
「そうさ姉ちゃん。こいつらがなぜか騎士団経由で、ルラ・パルセ魔術師団に入ったのを知った。それからずっと追ってたんだわ。銀髪野郎の隙を突く方法をな。どうだ、一石二鳥だろ」
へへ、と笑う師が、セロとナザルを見た。
「……別に俺だってお前らを本気で見捨てようなんて思ってねえ。ただ少し時間がかかっちまっただけだ。あのババア共のやばさ、お前らだって分かっただろ」
急に真面目なトーンで告げる。
セロは、そんな師を潤んだ瞳で見つめた。
「師匠……本当か? あんたやっぱそこまで人間腐ってねえよな、俺らを助けに来てくれたんだよな!」
「おう、あたりめーだろ。お前は俺の大切な弟子で、ナザルも俺の大事な使役獣だ」
金髪の美中年がキザな笑みを浮かべ、良い話でまとまるかと思われた。
するとセロが喜びとともに頷く。
「嬉しいぜ師匠……! じゃあ頼む。自首してくれ」
そう言った瞬間、ヴィレイニの目が点になった。
ナザルもセロに同意する感じで、平然としている。
「……はっ? するわけねえだろあの魔女に! なんで俺が謝んなきゃいけねえんだよ!」
「あんたの改心は今更俺らも望まない。でも今から少しずつやり直すことは出来るんだぞ?」
弟子に穏やかに迫られると、ヴィレイニは立ち上がって、周りを猜疑の目つきで見やった。
そして標的があなたに向かう。
「お前か……? 俺の弟子と使役獣をたぶらかしたのは。どんな手使いやがった! お前魔女の手先だろ! 可愛い顔して裏で操ってんじゃねえのかッ」
「……はあっ? なんで私がそんなことするんですか! 私はあなた達と同じ、ただの人間ですよ!」
「ただの人間が、なんで公爵の庇護に入って希少種の獣に溺愛されてんだよ! 怪しいだろうが!」
急に難癖をつけられ、あなたも怒りがわいてきて立ち上がる。
「魔界に来て一生懸命生きようとしてきただけですよ! セロさん達だってそうです、こんだけ頑張ってきたのに、あなたのこと憧れだってずっと待ってたのに、なにその言い草! 謝ってよ!!」
さっきはルドガーを止めようとしたのに、あなたは体格の違う大人のヴィレイニの前に立ち、勢いよく見上げた。
「早く素直になりなさいよ!! それに弟子の頑張りを褒めてあげてください、私だって、ルドガーとセロさんとナザルさんのおかげで魔術師試験合格したんだから!! 二人は優しいし強いしめちゃくちゃいい人ですよ! 師匠のあなただってそれ知ってんでしょう!!」
あなたは初めて人前でこんなに激怒した。
皆、ぽかーんとしている。
静観していたジュリスもゼイランも、隣で真摯に瞳をくぎ付けにして聞いてくれているルドガーも。
感情があらわになり涙がにじんでいると、セロとナザルは、瞳を揺らしてその姿を映していた。
「……名無し……ありがとなっ……俺達なんかのために、本気でそんなこと言ってくれて……」
「あんた、マジでいい奴だな、名無し」
二人の笑顔が胸に突き刺さり、当然だと頷く。全部本当のことだから、彼らの師匠にも知ってほしかった。
するとヴィレイニは、ぽつりとつぶやいた。
「なんで俺、小娘に叱られてるんだ……くそっ……」
テーブルに両手をつき、彼は焦った顔つきで弟子たちを見た。
「おい、お前ら、マジで魔界で生きてくつもりか? 悪いことは言わねえ、一緒に人間界へ帰ろうぜ。俺達の居場所はそこだろ?」
しかし、セロは首を振った。
「わりいな師匠。俺たちはここが気に入っちまったんだ。もうしばらくいるつもりだよ。あんたはどうするんだ? あの魔女に詫び入れたあと」
「……入れること決まってんのかよ……お前、マジで顔つきが違うじゃねえか、セロ⋯⋯」
「安心しろよ。俺の師匠は死ぬまであんただ。仲間なのも変わらねえ。なあナザル」
「おう。別に俺らの愛情がなくなったわけじゃないから、気落ちすんなよ」
「……調子のんなこの野郎!」
あなたはルドガーと、そしてゼイランはジュリスと目線を合わせた。
いよいよゼイランがこの騒動のまとめに入る。
「よし。ではヴェルガロン様への謝罪の場を設けなくてはな。仕方がない。俺にも一因はあるわけだから、一緒に謝ってやるよ」
「おめーが元凶だろ!」
「私も一緒に頭下げます!」
「俺もだ」
「俺も下げるよ」
仲間たちが続々と表明してくれる。
セロとナザルは一緒になり喜んでいた。
「よかったな師匠。それもこれもすべて、あんたがいない間に人間関係を構築してた俺とナザルのおかげだぜ? 感謝しろよ!」
「……ふざけんなよ……なんだこいつら……マジでうぜえ……」
恨み節のヴィレイニだが、もう皆の異様な一致団結に対し、うなだれるしかなかった。
プライドがズタズタになろうとも、彼にとっても弟子と使役獣は、切り離せない存在なのだ。
「わかったよ。癪に障るが、最後は自分のケツ自分で拭かねえとな⋯⋯⋯⋯オラあの魔女を呼べ!!」
偉そうに叫ばれ、あなたは悩んだ。
守護者は簡単に呼べる人物ではないが、このチャンスを逃せば、男の気が変わってしまうかもしれない。
そうしたらまたセロ達が困ることになる。
「ルドガー……」
「ん?」
こっそりと彼の腕を引っ張り、背を屈めてくれた耳元に、作戦を打ち明けた。
するとルドガーは真面目に受け取り、頷いてくれた。
「ああ、それがいいと思う。うまくいくかは未知数だが」
「そうだよね。でも、一応やってみようかな」
あなたはその場で、自身の両手を組み合わせ、目を閉じた。
感情の一部がうっすらと繋がっているとされる守護者に対し、本気で祈る。
「守護者さま、守護者さま。聞こえますか……お願いです。今、結構ピンチです。でも大チャンスでもあります。……無理を承知で、今すぐあなたに会いたいんです」
そう唱え始めると、皆あなたに注目した。
ゼイランは半信半疑で身構えている。
そんなふうに、偉大な公爵家のトップの者を、呼び出せるものなのかと。
だがあなたの気持ちは本物だった。
「来てください、守護者さま……! あなたが必要です!」
すると、背後からおびただしい寒気が襲ってきた。
ピンク色に染まっていた会場が、一瞬のうちに色褪せたように、黒く染まっていく。
それからすぐに、何事もなかったかのように、会場は鮮やかな色を取り戻した。
「……ふあ、あ……。どうしたのだ、名無し」
「えっ……守護者さま!?」
本当に来てくれたのかと、あなたは仰天して振り向く。
すると背後には、黒いネグリジェを着た大胆な姿の美女が、あくびをしていた。
「来てくれたんですか!」
「ふふ……そりゃそうさ。私はお前の守護者だぞ?」
妖艶な目つきで、あなたの頬に指で触れる。
彼女はまだ眠そうだった。吸血族の始祖の血を引く彼女は、睡眠の長さが普通とは違うらしい。
「おや、ゼイラン。それにルドガーも。元気そうだな。加護を授けたのかい?」
「はい。無事に」
「それはよかった。……おめでとう、名無し」
あなたは彼女に祝われて喜び、表情を一気に明るくさせる。
だがその慈しみに満ちたネメニアの瞳が、場に不似合いな鎧の男に向かうと、空気は緊迫した。
ふてぶてしいヴィレイニは立ち上がり、恐れることもなく相対する。
「よお、魔女。来てやったぜ。弟子たちを解放しろ」
「……はははっ。相変わらず偉そうな男だ。きちんとその弟子たちに謝ったのか?」
彼女はセロとナザルを見やった。
そこにはもう、敵対する眼差しはない。
なぜなら二人の瞳にも、それがなかったからだ。
二人は自分の状況を受け入れ、師の在り方も受け入れている様子だった。
「……悪かった。セロ、ナザル。俺はふがいねえ師匠だよ。お前らが知ってる通りクズだしな。……でも俺にとってもお前らは他人じゃねえ。だからまた来てやったんだろ。……もう見捨てたりしねえよ」
ぶっきらぼうに告げられた言葉は、セロたちの心に、報われたように響く。
ゼイランがそれから、自分の責任についても謝罪をした。
皆も続けて、どうか今回のことを収めてもらえるように嘆願する。
するとネメニアは、こう言った。
「ゼイラン。確かに君がやったことが起因だが、それはルドガーのためだった。そしてナザルは自分で生き方を選択した。この男はそれを受け入れ、人間界へ連れて行った。⋯⋯そしてセロと出会い、三人はこれまで生きてきた」
ネメニアはあなたとルドガーのことを見つめる。
「私を含め、ここにいる者たちは皆、自分の選択をしただけだ。……ヴィレイニ。そして今、師匠のお前が、自分の選択でここに立っていることを私は望むよ」
ヴィレイニの心には、魔女への反発心はまだ消えない。
だが自分の弟子がしっかりとこの場所に足を落ちつけているのを、ただ受け入れていた。
