巨体の人外に助けられて世話される話
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それから二人は人間界に逃げてきた。
赤髪の獣はヴィレイニの古代式魔術により、肉体を自由に変化できる幻獣に生まれ変わった。
男二人、自分の欲望さながらに進む生活の中で、八年が経過する。
そんなとき、天才魔術師ヴィレイニの噂を聞きつけた十六歳の少年が現れた。
女性たちが入り乱れるパブの特別ルームで、土下座をしている。
「へえ~。弟子になりたい、ねえ」
「はい! あなた様が俺の村で、いとも簡単に魔物数十匹を倒してくれたおかげで、皆の命も農作物も救われました! そんな大英雄の姿に憧れを持ったんです!」
「そんなことあったっけ? 全然覚えてねえわ。たぶん俺の道の邪魔になってただけだろ。……んでお前、俺のために何が出来んだ? 弟子ってのはな、未来永劫師匠に役立つために存在するんだよ」
「もちろんです! 俺は本の虫で知識だけは負けません! 薬オタクでもあります! 植物とキノコの見分けも得意です!」
「おーいいじゃねえか、陰気臭えけど。俺は悪いけど体育会系だから。ついてこれねえなら切る。わかったか」
「はい!」
「おし。じゃあとにかく魔術を使って稼げ。6割は俺に上納しろ。商売の成果次第で術をひとつずつ教えてやる。講習料やすいもんだろ」
「……ありがとうございます!! がんばります!」
セロは涙ながらに感謝し、その日からほぼ奴隷生活が始まった。
ナザルは自分を使役する魔術師の弟子になったセロのことを、冷ややかに見ていた。
頭は良さそうでも見るからに軟弱で素直で、どんくさそうに映ったからだ。
だが八年の歳月が流れ、純朴少年だったセロの姿は変貌していた。
彼は師の不在時に、アジトでぶつぶつ言いながら違法植物の栽培をしている。
「……あんのクソジジイ……また請求書何度も俺に送ってきやがって……俺ができないレベルの依頼も強制的にやらせてくるしよ……くそっ……」
「おい、セロ。俺が注文した服どこだよ?」
「……ナザル。その棚にしまっただろ! 管理ぐらい自分でやれよ! 俺はお前らの家政夫じゃねえんだよ!」
赤髪の獣は好戦的な瞳で、平凡な青年を見下ろす。
この二人は当初からそりが悪かった。
「ピリピリすんなよ。戦闘でいつも助けてやってんの誰だ?」
「くっ……依頼完成させてお前に服買ってやってんの誰だよ!」
「それは俺の取り分だ。文句あんならあのおっさんに言えよ。お前だって、いいようにこき使われてるが、術教えてもらってる手前結局離れられねえんだろ?」
上から目線で言われ、セロは苛立ちまじりに舌打ちする。
「それだけじゃねえよ。師匠はクズだが、魔術師としてはピカ一だ。だから俺は我慢してんだ。豪胆な性格だって、悪いことだけじゃねえしな。この前だって、結局依頼の尻ぬぐいはしてくれたし」
言い訳するセロにナザルは呆れて笑う。
「⋯獣のお前には分かんねえよ、あの人の危ない魅力はな」
「別に分かりたくもねえ。……俺は利点があるからヴィレイニといるだけだ」
セロは怪訝な目を向けた。
「ナザル、お前って……師匠と魔界で仲間になったんだよな。なんで人間界なんかにいるんだ?」
「あ? そりゃ人間の女のほうが可愛いからに決まってんだろ。……モテねえお前には分かんねえか」
「うるせえ!!」
二人はいつものように言い合いが止まらなかった。
そんなことがありつつも、三人はなんだかんだ共に生活をしていた。
ある日、街の場末の食事処で昼から酒を飲みつまんでいると。
ヴィレイニは窓の外を見て、急に席を立った。
「あー。ちょっと小便いってくるわ」
「んなこと言って師匠、また俺に払わせる気か?」
「うっせえな。気をつけろよ」
「は?」
肩肘をついて飯を食べているセロをちらっと見下ろし、めずらしく肩に手を置く。
それが師との数年間の別れとも知らず、セロはぼやいていた。
ナザルは飲食しないため、脚を組んで新聞を広げていた。
すると窓の外に、紫髪の女の影を見かける。
白肌に黒いローブをかぶった女は綺麗な顔をしていたが、ナザルはすぐに、それが人間ではないと気づいた。
「おいセロ、行くぞ」
「……はぁっ? まだ食ってねえよ!」
「いいから来い!」
怒鳴られて顔をしかめ、腕を引っ張られるように立ち上がる。
同時に、窓がバリンッ!と大きな音を出して壊れた。
店の者は襲撃だと恐れ全員が逃げていく。
外からは、不気味に冷ややかな顔つきをした魔術師の女がいた。
セロ達に手をかざし、そこから炎を舞い上がらせる。
「なっ、なんだよあいつ! 師匠の敵か!? だから逃げたのか!?」
「そんなもんだ!」
ナザルはセロと一緒に全速力で駆けていく。
近くの森に隠れ、敵に見つからないようにするも、相手はヴィレイニと張るぐらいの実力者だった。
結局その紫髪の女に追い詰められ、セロは魔術で生成された底なし沼に落とされたところをナザルに間一髪で救われる。
「や、やめろ、あんたなんなんだ! 俺は関係ねえ!」
緑の湿った液体にまみれ、息をぜえぜえと吐きながら、セロは逃げ出そうとする。
「お前の師はどこだ。これ以上閣下に迷惑をかけるな。早く差し出せ」
「……何言ってんだよぉ! 知らねえよ! 俺らだって置き去りにされたんだ!!」
そう叫んだとき、セロの心にぽっかりと穴が開いた。
ナザルも、セロを守りながらこの女とサシで戦う場合のリスクを考え、降参して息をつく。
「では魔界に来い。お前達があの男の補填をしろ」
「ひっ……なんで俺達が……魔界なんて行きたくねえよ! 殺されちまう! 俺は弱いんだ!」
「殺しはしない。しばしの間の、人質だ」
紫髪の女は、魔術師特有のにやりとした顔つきで、彼らのその後を確定させた。
赤髪の獣はヴィレイニの古代式魔術により、肉体を自由に変化できる幻獣に生まれ変わった。
男二人、自分の欲望さながらに進む生活の中で、八年が経過する。
そんなとき、天才魔術師ヴィレイニの噂を聞きつけた十六歳の少年が現れた。
女性たちが入り乱れるパブの特別ルームで、土下座をしている。
「へえ~。弟子になりたい、ねえ」
「はい! あなた様が俺の村で、いとも簡単に魔物数十匹を倒してくれたおかげで、皆の命も農作物も救われました! そんな大英雄の姿に憧れを持ったんです!」
「そんなことあったっけ? 全然覚えてねえわ。たぶん俺の道の邪魔になってただけだろ。……んでお前、俺のために何が出来んだ? 弟子ってのはな、未来永劫師匠に役立つために存在するんだよ」
「もちろんです! 俺は本の虫で知識だけは負けません! 薬オタクでもあります! 植物とキノコの見分けも得意です!」
「おーいいじゃねえか、陰気臭えけど。俺は悪いけど体育会系だから。ついてこれねえなら切る。わかったか」
「はい!」
「おし。じゃあとにかく魔術を使って稼げ。6割は俺に上納しろ。商売の成果次第で術をひとつずつ教えてやる。講習料やすいもんだろ」
「……ありがとうございます!! がんばります!」
セロは涙ながらに感謝し、その日からほぼ奴隷生活が始まった。
ナザルは自分を使役する魔術師の弟子になったセロのことを、冷ややかに見ていた。
頭は良さそうでも見るからに軟弱で素直で、どんくさそうに映ったからだ。
だが八年の歳月が流れ、純朴少年だったセロの姿は変貌していた。
彼は師の不在時に、アジトでぶつぶつ言いながら違法植物の栽培をしている。
「……あんのクソジジイ……また請求書何度も俺に送ってきやがって……俺ができないレベルの依頼も強制的にやらせてくるしよ……くそっ……」
「おい、セロ。俺が注文した服どこだよ?」
「……ナザル。その棚にしまっただろ! 管理ぐらい自分でやれよ! 俺はお前らの家政夫じゃねえんだよ!」
赤髪の獣は好戦的な瞳で、平凡な青年を見下ろす。
この二人は当初からそりが悪かった。
「ピリピリすんなよ。戦闘でいつも助けてやってんの誰だ?」
「くっ……依頼完成させてお前に服買ってやってんの誰だよ!」
「それは俺の取り分だ。文句あんならあのおっさんに言えよ。お前だって、いいようにこき使われてるが、術教えてもらってる手前結局離れられねえんだろ?」
上から目線で言われ、セロは苛立ちまじりに舌打ちする。
「それだけじゃねえよ。師匠はクズだが、魔術師としてはピカ一だ。だから俺は我慢してんだ。豪胆な性格だって、悪いことだけじゃねえしな。この前だって、結局依頼の尻ぬぐいはしてくれたし」
言い訳するセロにナザルは呆れて笑う。
「⋯獣のお前には分かんねえよ、あの人の危ない魅力はな」
「別に分かりたくもねえ。……俺は利点があるからヴィレイニといるだけだ」
セロは怪訝な目を向けた。
「ナザル、お前って……師匠と魔界で仲間になったんだよな。なんで人間界なんかにいるんだ?」
「あ? そりゃ人間の女のほうが可愛いからに決まってんだろ。……モテねえお前には分かんねえか」
「うるせえ!!」
二人はいつものように言い合いが止まらなかった。
そんなことがありつつも、三人はなんだかんだ共に生活をしていた。
ある日、街の場末の食事処で昼から酒を飲みつまんでいると。
ヴィレイニは窓の外を見て、急に席を立った。
「あー。ちょっと小便いってくるわ」
「んなこと言って師匠、また俺に払わせる気か?」
「うっせえな。気をつけろよ」
「は?」
肩肘をついて飯を食べているセロをちらっと見下ろし、めずらしく肩に手を置く。
それが師との数年間の別れとも知らず、セロはぼやいていた。
ナザルは飲食しないため、脚を組んで新聞を広げていた。
すると窓の外に、紫髪の女の影を見かける。
白肌に黒いローブをかぶった女は綺麗な顔をしていたが、ナザルはすぐに、それが人間ではないと気づいた。
「おいセロ、行くぞ」
「……はぁっ? まだ食ってねえよ!」
「いいから来い!」
怒鳴られて顔をしかめ、腕を引っ張られるように立ち上がる。
同時に、窓がバリンッ!と大きな音を出して壊れた。
店の者は襲撃だと恐れ全員が逃げていく。
外からは、不気味に冷ややかな顔つきをした魔術師の女がいた。
セロ達に手をかざし、そこから炎を舞い上がらせる。
「なっ、なんだよあいつ! 師匠の敵か!? だから逃げたのか!?」
「そんなもんだ!」
ナザルはセロと一緒に全速力で駆けていく。
近くの森に隠れ、敵に見つからないようにするも、相手はヴィレイニと張るぐらいの実力者だった。
結局その紫髪の女に追い詰められ、セロは魔術で生成された底なし沼に落とされたところをナザルに間一髪で救われる。
「や、やめろ、あんたなんなんだ! 俺は関係ねえ!」
緑の湿った液体にまみれ、息をぜえぜえと吐きながら、セロは逃げ出そうとする。
「お前の師はどこだ。これ以上閣下に迷惑をかけるな。早く差し出せ」
「……何言ってんだよぉ! 知らねえよ! 俺らだって置き去りにされたんだ!!」
そう叫んだとき、セロの心にぽっかりと穴が開いた。
ナザルも、セロを守りながらこの女とサシで戦う場合のリスクを考え、降参して息をつく。
「では魔界に来い。お前達があの男の補填をしろ」
「ひっ……なんで俺達が……魔界なんて行きたくねえよ! 殺されちまう! 俺は弱いんだ!」
「殺しはしない。しばしの間の、人質だ」
紫髪の女は、魔術師特有のにやりとした顔つきで、彼らのその後を確定させた。
