巨体の人外に助けられて世話される話
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二十年前。ヴィレイニは、魔界の希少種を保護育成する施設の職員だった。
人間の青年である彼は、恐ろしく強い魔術師だったが、嘘つきで手癖も悪い。
当時知り合った魔女との取引に失敗し、その魔女が途方もない強さの吸血族だと判明してから、捕まって働かされているのだ。
「あんのクソババア、俺の取り分がたったの一割だと? ふざけやがって。三割にしといてやる。こっちは命がけで猛獣たちをシゴいてやってんだよ」
勝手に契約書類を書き直し、彼は控室から出ていった。
今日は里親を希望する、新たな貴族の訪問がある。またいいカモが来たとヴィレイニはほくそ笑んでいた。
そして実際、高級服に身を包んだ銀髪の美男子を愛想よく案内してやった。
「――では私は書類の方を作成してきますので。ごゆっくりどうぞ」
黒く長いローブをまとい、そそくさと猛獣のホールを出ていく。
格好つけたいけ好かない若者だったが、金に糸目はつけなそうだ。
魔女に借金を返し、とっととこんなむさ苦しい職場を出てってやる――。
ヴィレイニはずっとそんなことを目論んでいた。
一方、ホールでは公爵が一匹の小さな獣を見つけていた。
青い毛の幼獣だが、二人は何か引かれ合うものがあったようだ。
「ふふふ。お前にするか。よし、もう一度立ってみろ。俺にアピールしろ」
楽しそうな銀髪は、小さな獣ともう打ち解けている。
「⋯⋯⋯⋯」
そんな様子を、とある一匹の成獣が遠くから見つめていた。
上機嫌に戻ろうとしたヴィレイニの耳に、妙な騒音が届く。
金属が激しく鳴り、建物が壊される音だ。
異常を察知し別棟から急いで出ていくと、猛獣たちがいたホールが、焼き払われていた。
中はもぬけの殻で、頑丈な結界に封じられていたはずの裏口も破壊されている。
「⋯⋯なっ⋯⋯うそだろ⋯⋯ありえねえんだが⋯⋯」
顔面蒼白の若きヴィレイニは、屈強な体で呆然と立ち尽くす。
そして段々と怒りに支配されていった。
「終わった⋯⋯クソが⋯⋯あのイカレ公爵野郎⋯⋯ぶっ殺すッ!!!」
体中からどす黒いオーラを発し、ローブを脱ぎ捨てた彼の鎧姿が光る。
すると、視界の片側に赤いものが見えた。
振り向くと、一匹の獣が残っていた。
「あぁ⋯⋯? 何だお前⋯⋯なんで出ていかなかった」
怪訝に睨みつけると、のっそりと立ち上がった赤毛に茶色の角の猛獣が、近くへ来る。
推定100歳近い、売れ残りの希少種だ。
純血でないために、施設の中では長く留まっていた。
「行くとこねえのか? 可哀想になぁ。俺もだよ馬鹿野郎。⋯⋯じゃあな」
ヴィレイニはそのへんの瓦礫を蹴り上げ、立ち去ろうとした。
しかし後ろから軽やかな男の声がかけられる。
「おい、お前。俺を連れてけよ。役に立ってやるぜ」
振り返るとそこには、筋骨たくましい裸の男が立っていた。赤髪で茶色い角も生えている。
顔立ちは整った軟派な風貌だったが、ヴィレイニは大きく顔をしかめる。
「お前人化出来んのか。うーん、美女だったら即持ち帰るんだけどよお⋯⋯男かよ。⋯⋯俺獣の世話嫌いなんだよな」
渋る男に、赤髪はにやりと笑う。
「俺は大人だぞ? 世話は自分でできるからいらねえ。けどよ、ひとつ頼みがある。⋯⋯あんた強そうだから、俺を幻獣にしてくれねえか?」
「⋯⋯幻獣だぁ? なんのために」
そんな七面倒くさい施術を欲しがる理由を、率直に聞く。
すると答えはシンプルだった。
「怪我して無理やりここに連れられて来たけどよ、知らねえ奴に狙われんのはもうごめんなんだよ。⋯⋯俺は自由になりてえ。好きな姿になって、好きに生きたいんだよ」
裸の男のまっすぐな主張を聞いていたヴィレイニは、とくに心動かされない表情だったが、たまらずローブを投げてやった。
「⋯⋯なんかよくわからんが、人化出来るなら役に立つか。タダでずらからねえぞ、俺は。くっくっく、一匹くすねてやる、俺のもんだ!」
不気味に笑い、「ついてこい」と短く言った。
赤髪の顔つきが一瞬希望を持ったのを、ヴィレイニは知らない。
「お前名前とかあんのか?」
「ねえよ」
「ないのかよ! どうやって生活してきたんだ」
「誰も呼ばねえ、呼ばれねえ生活だよ」
「はっ! 最高じゃねえかよ。面倒くせえから自分で考えろ、今日中にな」
終始ぞんざいなヴィレイニの背中は、なぜか赤髪の獣には、大きく見えた。
人間の青年である彼は、恐ろしく強い魔術師だったが、嘘つきで手癖も悪い。
当時知り合った魔女との取引に失敗し、その魔女が途方もない強さの吸血族だと判明してから、捕まって働かされているのだ。
「あんのクソババア、俺の取り分がたったの一割だと? ふざけやがって。三割にしといてやる。こっちは命がけで猛獣たちをシゴいてやってんだよ」
勝手に契約書類を書き直し、彼は控室から出ていった。
今日は里親を希望する、新たな貴族の訪問がある。またいいカモが来たとヴィレイニはほくそ笑んでいた。
そして実際、高級服に身を包んだ銀髪の美男子を愛想よく案内してやった。
「――では私は書類の方を作成してきますので。ごゆっくりどうぞ」
黒く長いローブをまとい、そそくさと猛獣のホールを出ていく。
格好つけたいけ好かない若者だったが、金に糸目はつけなそうだ。
魔女に借金を返し、とっととこんなむさ苦しい職場を出てってやる――。
ヴィレイニはずっとそんなことを目論んでいた。
一方、ホールでは公爵が一匹の小さな獣を見つけていた。
青い毛の幼獣だが、二人は何か引かれ合うものがあったようだ。
「ふふふ。お前にするか。よし、もう一度立ってみろ。俺にアピールしろ」
楽しそうな銀髪は、小さな獣ともう打ち解けている。
「⋯⋯⋯⋯」
そんな様子を、とある一匹の成獣が遠くから見つめていた。
上機嫌に戻ろうとしたヴィレイニの耳に、妙な騒音が届く。
金属が激しく鳴り、建物が壊される音だ。
異常を察知し別棟から急いで出ていくと、猛獣たちがいたホールが、焼き払われていた。
中はもぬけの殻で、頑丈な結界に封じられていたはずの裏口も破壊されている。
「⋯⋯なっ⋯⋯うそだろ⋯⋯ありえねえんだが⋯⋯」
顔面蒼白の若きヴィレイニは、屈強な体で呆然と立ち尽くす。
そして段々と怒りに支配されていった。
「終わった⋯⋯クソが⋯⋯あのイカレ公爵野郎⋯⋯ぶっ殺すッ!!!」
体中からどす黒いオーラを発し、ローブを脱ぎ捨てた彼の鎧姿が光る。
すると、視界の片側に赤いものが見えた。
振り向くと、一匹の獣が残っていた。
「あぁ⋯⋯? 何だお前⋯⋯なんで出ていかなかった」
怪訝に睨みつけると、のっそりと立ち上がった赤毛に茶色の角の猛獣が、近くへ来る。
推定100歳近い、売れ残りの希少種だ。
純血でないために、施設の中では長く留まっていた。
「行くとこねえのか? 可哀想になぁ。俺もだよ馬鹿野郎。⋯⋯じゃあな」
ヴィレイニはそのへんの瓦礫を蹴り上げ、立ち去ろうとした。
しかし後ろから軽やかな男の声がかけられる。
「おい、お前。俺を連れてけよ。役に立ってやるぜ」
振り返るとそこには、筋骨たくましい裸の男が立っていた。赤髪で茶色い角も生えている。
顔立ちは整った軟派な風貌だったが、ヴィレイニは大きく顔をしかめる。
「お前人化出来んのか。うーん、美女だったら即持ち帰るんだけどよお⋯⋯男かよ。⋯⋯俺獣の世話嫌いなんだよな」
渋る男に、赤髪はにやりと笑う。
「俺は大人だぞ? 世話は自分でできるからいらねえ。けどよ、ひとつ頼みがある。⋯⋯あんた強そうだから、俺を幻獣にしてくれねえか?」
「⋯⋯幻獣だぁ? なんのために」
そんな七面倒くさい施術を欲しがる理由を、率直に聞く。
すると答えはシンプルだった。
「怪我して無理やりここに連れられて来たけどよ、知らねえ奴に狙われんのはもうごめんなんだよ。⋯⋯俺は自由になりてえ。好きな姿になって、好きに生きたいんだよ」
裸の男のまっすぐな主張を聞いていたヴィレイニは、とくに心動かされない表情だったが、たまらずローブを投げてやった。
「⋯⋯なんかよくわからんが、人化出来るなら役に立つか。タダでずらからねえぞ、俺は。くっくっく、一匹くすねてやる、俺のもんだ!」
不気味に笑い、「ついてこい」と短く言った。
赤髪の顔つきが一瞬希望を持ったのを、ヴィレイニは知らない。
「お前名前とかあんのか?」
「ねえよ」
「ないのかよ! どうやって生活してきたんだ」
「誰も呼ばねえ、呼ばれねえ生活だよ」
「はっ! 最高じゃねえかよ。面倒くせえから自分で考えろ、今日中にな」
終始ぞんざいなヴィレイニの背中は、なぜか赤髪の獣には、大きく見えた。
