巨体の人外に助けられて世話される話
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突如現れた金髪の男は、さながら魔剣士のようだった。
突き刺した剣を抜き、ゼイランの喉元に突きつける。
「お綺麗な面の貴族さんよぉ、ずいぶん落ち着いてんじゃねえか。奇襲は珍しいだろ?」
鎧の男はマントをはためかせ、嘲るように顔を近づける。
ゼイランは顔つきを変えず、銀色の瞳だけを男にじろりと向けた。
ルドガーとジュリスが前に出ようとするも、手を上げて制止した。
「いい。お前達は動くな。俺がやる」
そう言って剣をそっと指で押しのけた。
魔剣士はにやにやしながら、反抗もせず、ゼイランが立ち上がるのを許した。
細身と頑強で体格は違うものの、対峙した二人は同じぐらい背が高い。
「お前、どうやってこの敷地に入った? 人間のくせに……相当腕のある魔術師だな」
「ハッ。腑抜けの魔族どもなんざ俺の敵じゃねえ。俺はな、お前の頭を狙って何年も潜伏してきたんだよ!」
苛立つ男は中年ではあるが、顔立ちは整っている美男子だ。
男達全員が殺気立つ重苦しい空気に、入ってはいけないと思いつつ、あなたはどうしても気になってしまった。
「ゼイラン様。……この人に何かしたんですか?」
「さあな。こんなやつ、覚えていない」
聞かないほうがよかったのだろう。
あっけらかんと言い放った瞬間、魔剣士はぶち切れた。
「なんだとてめえ、俺の顔を覚えてねえっつうのかッ!!」
そう叫んで拳を振りかぶろうとした瞬間、異常事態が起きた。
ゼイランがその場に、完全に停止した。
彼だけでなく、周りを取り囲んでいたルドガーやジュリスも、瞬き一つなく微動だにしない。
そしてそばにいたナザルも。
「……はっはっは! 上達したじゃねえかバカ弟子!」
「も~っ、ふざけんなよ師匠! なんであんたいきなりアホみたいな登場の仕方してんだよ!」
使用人たちもすべての動きを止めて固まっているテラスのパーティー会場。
そこでなぜか、乱入してきた魔剣士と、仲間のセロだけが喋っている。
「俺がノーマークだからよかったものの。どうすんだよこの状況!」
「だから褒めてんだろうが。……おいすげえな、こいつ悪魔族だろ? やっぱ俺がお前に授けた禁術の古代魔法すげえわ!」
ハイテンションな中年の鎧男が、止まっても美しい銀髪のゼイランに爆笑している。
「あの……これ、いったいどういうことですか」
しかし、呆然と場に立ち尽くしていたピンクのドレスを着たあなたに、男二人は勢いよく振り向いた。
「……あ? お前なんで……名無し!?」
「セロさん……? あなたがやったんですか、これ……!」
驚愕したまま、すぐにルドガーのもとに駆け寄る。
信じられない。
大柄な黒髪黒角の、いつもの格好いいルドガーだ。
でも、時を強制的に止められたかのように石みたいになっている。
「やだーーーー!! 死なないで、ルドガーっ!! ……許せない、絶対に許せない!! 信じてたのに、裏切ったんだセロさんっ!!」
あなたが憎悪にまみれた表情で彼に向かっていくと、彼は慌てて両手を振って否定した。
「違う違う!! 落ち着け! 裏切ってねえ、これは一時停止だから! 生きてるしすぐ戻せるから、なっ!」
「じゃあ早く戻してくださいよっ!! ルドガーにこんなことしたら許さないんだから!!」
あなたが勢いよく詰め寄ると、押されたセロは「わかったわかった!」と言って彼だけ禁術を解いてくれた。
すると本当にルドガーの体が柔らかくなり、体温も戻り、黒いスーツがゆっくりと動き出した。
「ルドガーっ!」
「……ん? ……なんだ、これは。名無し! どうした、皆……」
「よかったー!」
あなたは涙ながらに彼の無事を喜ぶ。
ルドガーの腕を握り、敵の二人を強く睨みつけた。
その場の異常事態と、あなたの様子を目の当たりにしたルドガーは、同じ方向を見やる。
「……お前らがやったのか?」
「そうそう、俺の師匠がやったんだ。わりい」
「俺のせいにすんじゃねえお前だろうが! つうかナザルも戻してやれよ、止めるの貴族だけでいいから」
セロの師匠は近くのソファに座ってふんぞり返っている。
セロはルドガーの怒りを恐れ、手短に理由を説明した。
この男は実は自分の師であり、ゼイランに個人的な恨みがあって侵入したが、事態の悪化を恐れたセロがとりあえず時を止めたのだと。
「でも名無し、なんでお前には効かなかったんだ?」
「ゼイラン様の加護のせいだろう。名無しには様々な強制術や拘束が無効になっている」
「そうなの!?」
ルドガーはあなたの手をぎゅっと握り頷いた。
「でも、私に効かないなら……ゼイラン様にはもっと効かないはずだよね、普通」
「その通りだ、名無し」
背後から冷たい美声が轟いた。
あなた達はばっと振り向く。するとそこにはゼイランがポケットに手を入れ、涼しい顔で立っていた。
時間が止まっていたはずの元の彼の服だけが、抜け殻みたいに地面に落ちる。
「す、すごい! どうやったんですか、ゼイラン様」
「秘密」
鼻歌交じりにこちらに向かってくるゼイランは、セロの前に立った。
そしてあの瞳孔を縦に細めた銀の瞳で見下ろすと、そのままソファにいた師にも目をやった。
「お前の名は」
「ヴィレイニだ。お前の真名も教えろよ金持ちの若造」
にやついている魔剣士が挑戦的に言うと、ゼイランは笑う。
男の度胸にだけは感心した様子だった。
そのまま残りの者達の術を解いてやった。
使用人たちを去らせ、ジュリスとナザルも自由に動けるようになる。
「これは……何が起きたんだ⋯」
「……あー。なんか、よくねえ雰囲気だな…ハハ」
二人は術がかかった直後で、少しぼうっとしている。
師であるというヴィレイニは、感情をくすぶらせながらナザルを見やった。
「おいナザル。この公爵、俺のことを覚えてないんだってよ」
「……まあそうだろうな。おっさん、あんたあの時、全身ローブ着てただろ」
「それでも俺のオーラは消えねえだろうが、なぁチビ?」
ヴィレイニはなぜか、ルドガーに向かって不敵な笑みを向けた。
「……なんだと⋯⋯?」
ルドガーは顔をしかめ、眉をひそめる。
どこか聞き覚えのある声と不快な眼差しに、彼は胸の奥で小さな引っかかりを覚えた。
あなたにもその不穏が伝わり、胸騒ぎが広がっていく。
「じゃあ教えてやるよ。俺がいかにてめえから迷惑をこうむったかをな!」
魔剣士は鎧の脚を組みなおし、大きな態度で言い放った。
突き刺した剣を抜き、ゼイランの喉元に突きつける。
「お綺麗な面の貴族さんよぉ、ずいぶん落ち着いてんじゃねえか。奇襲は珍しいだろ?」
鎧の男はマントをはためかせ、嘲るように顔を近づける。
ゼイランは顔つきを変えず、銀色の瞳だけを男にじろりと向けた。
ルドガーとジュリスが前に出ようとするも、手を上げて制止した。
「いい。お前達は動くな。俺がやる」
そう言って剣をそっと指で押しのけた。
魔剣士はにやにやしながら、反抗もせず、ゼイランが立ち上がるのを許した。
細身と頑強で体格は違うものの、対峙した二人は同じぐらい背が高い。
「お前、どうやってこの敷地に入った? 人間のくせに……相当腕のある魔術師だな」
「ハッ。腑抜けの魔族どもなんざ俺の敵じゃねえ。俺はな、お前の頭を狙って何年も潜伏してきたんだよ!」
苛立つ男は中年ではあるが、顔立ちは整っている美男子だ。
男達全員が殺気立つ重苦しい空気に、入ってはいけないと思いつつ、あなたはどうしても気になってしまった。
「ゼイラン様。……この人に何かしたんですか?」
「さあな。こんなやつ、覚えていない」
聞かないほうがよかったのだろう。
あっけらかんと言い放った瞬間、魔剣士はぶち切れた。
「なんだとてめえ、俺の顔を覚えてねえっつうのかッ!!」
そう叫んで拳を振りかぶろうとした瞬間、異常事態が起きた。
ゼイランがその場に、完全に停止した。
彼だけでなく、周りを取り囲んでいたルドガーやジュリスも、瞬き一つなく微動だにしない。
そしてそばにいたナザルも。
「……はっはっは! 上達したじゃねえかバカ弟子!」
「も~っ、ふざけんなよ師匠! なんであんたいきなりアホみたいな登場の仕方してんだよ!」
使用人たちもすべての動きを止めて固まっているテラスのパーティー会場。
そこでなぜか、乱入してきた魔剣士と、仲間のセロだけが喋っている。
「俺がノーマークだからよかったものの。どうすんだよこの状況!」
「だから褒めてんだろうが。……おいすげえな、こいつ悪魔族だろ? やっぱ俺がお前に授けた禁術の古代魔法すげえわ!」
ハイテンションな中年の鎧男が、止まっても美しい銀髪のゼイランに爆笑している。
「あの……これ、いったいどういうことですか」
しかし、呆然と場に立ち尽くしていたピンクのドレスを着たあなたに、男二人は勢いよく振り向いた。
「……あ? お前なんで……名無し!?」
「セロさん……? あなたがやったんですか、これ……!」
驚愕したまま、すぐにルドガーのもとに駆け寄る。
信じられない。
大柄な黒髪黒角の、いつもの格好いいルドガーだ。
でも、時を強制的に止められたかのように石みたいになっている。
「やだーーーー!! 死なないで、ルドガーっ!! ……許せない、絶対に許せない!! 信じてたのに、裏切ったんだセロさんっ!!」
あなたが憎悪にまみれた表情で彼に向かっていくと、彼は慌てて両手を振って否定した。
「違う違う!! 落ち着け! 裏切ってねえ、これは一時停止だから! 生きてるしすぐ戻せるから、なっ!」
「じゃあ早く戻してくださいよっ!! ルドガーにこんなことしたら許さないんだから!!」
あなたが勢いよく詰め寄ると、押されたセロは「わかったわかった!」と言って彼だけ禁術を解いてくれた。
すると本当にルドガーの体が柔らかくなり、体温も戻り、黒いスーツがゆっくりと動き出した。
「ルドガーっ!」
「……ん? ……なんだ、これは。名無し! どうした、皆……」
「よかったー!」
あなたは涙ながらに彼の無事を喜ぶ。
ルドガーの腕を握り、敵の二人を強く睨みつけた。
その場の異常事態と、あなたの様子を目の当たりにしたルドガーは、同じ方向を見やる。
「……お前らがやったのか?」
「そうそう、俺の師匠がやったんだ。わりい」
「俺のせいにすんじゃねえお前だろうが! つうかナザルも戻してやれよ、止めるの貴族だけでいいから」
セロの師匠は近くのソファに座ってふんぞり返っている。
セロはルドガーの怒りを恐れ、手短に理由を説明した。
この男は実は自分の師であり、ゼイランに個人的な恨みがあって侵入したが、事態の悪化を恐れたセロがとりあえず時を止めたのだと。
「でも名無し、なんでお前には効かなかったんだ?」
「ゼイラン様の加護のせいだろう。名無しには様々な強制術や拘束が無効になっている」
「そうなの!?」
ルドガーはあなたの手をぎゅっと握り頷いた。
「でも、私に効かないなら……ゼイラン様にはもっと効かないはずだよね、普通」
「その通りだ、名無し」
背後から冷たい美声が轟いた。
あなた達はばっと振り向く。するとそこにはゼイランがポケットに手を入れ、涼しい顔で立っていた。
時間が止まっていたはずの元の彼の服だけが、抜け殻みたいに地面に落ちる。
「す、すごい! どうやったんですか、ゼイラン様」
「秘密」
鼻歌交じりにこちらに向かってくるゼイランは、セロの前に立った。
そしてあの瞳孔を縦に細めた銀の瞳で見下ろすと、そのままソファにいた師にも目をやった。
「お前の名は」
「ヴィレイニだ。お前の真名も教えろよ金持ちの若造」
にやついている魔剣士が挑戦的に言うと、ゼイランは笑う。
男の度胸にだけは感心した様子だった。
そのまま残りの者達の術を解いてやった。
使用人たちを去らせ、ジュリスとナザルも自由に動けるようになる。
「これは……何が起きたんだ⋯」
「……あー。なんか、よくねえ雰囲気だな…ハハ」
二人は術がかかった直後で、少しぼうっとしている。
師であるというヴィレイニは、感情をくすぶらせながらナザルを見やった。
「おいナザル。この公爵、俺のことを覚えてないんだってよ」
「……まあそうだろうな。おっさん、あんたあの時、全身ローブ着てただろ」
「それでも俺のオーラは消えねえだろうが、なぁチビ?」
ヴィレイニはなぜか、ルドガーに向かって不敵な笑みを向けた。
「……なんだと⋯⋯?」
ルドガーは顔をしかめ、眉をひそめる。
どこか聞き覚えのある声と不快な眼差しに、彼は胸の奥で小さな引っかかりを覚えた。
あなたにもその不穏が伝わり、胸騒ぎが広がっていく。
「じゃあ教えてやるよ。俺がいかにてめえから迷惑をこうむったかをな!」
魔剣士は鎧の脚を組みなおし、大きな態度で言い放った。
