巨体の人外に助けられて世話される話
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後日、あなたは仲間たちとともに、貸し切りのパーティー会場にいた。
紫色の晴天の下、開放されたテラスで楽しんでいる。
「ゼイラン様、これはどういうことだっ?」
「何がだ。ルドガー」
「……どうしてあなたが名無しの隣に座っているんだ! しかもペアルックで!」
騒ぎ出すルドガーをよそに、ゼイランは特注のピンクの革ソファに座り、鮮やかな同色のスーツをまとっていた。
口元には笑みを乗せ、隣に薄桃色のワンピースを着たあなたをはべらせている。
「早くどいてくれ! そこは俺の席だ!」
「いいや、今日は俺と名無しが主役なんだ。俺たちの加護パーティーなんだからな。なあ名無し?」
「は、はあ…」
授与される手前、強く反論できない。
風船や花々で可愛らしく飾り付けられた会場と、気合の入れ様。
気分も上がるし、嬉しいことではある。
「でもやっぱり私の隣はルドガーだよねえ。ほら真ん中においでよ、ねっ」
両手を伸ばして笑顔を向けると、目の前の凛々しい黒シャツ姿のルドガーも、同じ笑みを見せる。
「そうだよな、お前の隣はいつもこの俺だ。……ゼイラン様、ちょっと詰めてくれっ」
「おいっ押し出すな! …はあまったく!」
しばらくあなたとルドガーはカクテルを飲みながらイチャイチャしていた。
だが、向かい側にはちゃんとゲストたちもいる。
豪華なビュッフェの立食で、爆食する魔術師セロ。
派手な柄シャツ姿で使用人の女子に声をかけ、かわされている赤髪のナザル。
そして今まで色んな場面で支えてくれた騎士隊長のジュリス。
彼もカジュアルなスーツをまとい、グラス片手ににこりと微笑みかけてくる。
あなたも笑みを浮かべ立ち上がり、彼らのもとに向かった。
「ジュリスさん! 来てくれたんですね」
「当然さ、名無し。君の晴れ姿をちゃんとお祝いしたいからね。でもミザロのことは聞いたかい?」
「そうなんですよ、師匠ったら。パーティーは好きじゃないんですとか言って逃げられちゃいましたよ~」
金髪の美男子と一緒に、マイペースなミザロらしいと笑いあう。
ジュリスはこっそりあなたに教えてくれた。
「ゼイラン様も、今日はすごく上機嫌に見えるよな。君に選ばれて内心とても嬉しそうだ」
「はははっ。そうなんですかね?」
それはちょびっと自分も感じていた。
今日のルドガーの主人は生き生きとしてるし、いつもよりさらに気も大きくなっている。
会話をしていると、セロとナザルも首をつっこんできた。
「よお名無し。よかったな、うまくまとまって。あんた幸せそうじゃねえか」
「はいっ! ルンルンですよ~ナザルさん。でもお二人とも、どこ行ってたんですか? 守護者さまが現れてから、行方不明でしたよね」
あなたが首をかしげる姿に、セロは「けっ」とわざとらしく吐きだす。
「あたりめーだろが。あのババアがいる間は雲隠れしとかないとな。……つうか今日もサプライズ登場とかねえよな? マジやめてくれよ!」
大げさにふるまわれて皆は失笑気味だった。
しかしあなたはセロ達に顔を近づける。
「あの私、聞いてみたんですよ。セロさんたちのこと……守護者さまに」
この間城に招かれたときに、あなたはセロたちをなんとか自由にしてもらえないかと、尋ねてみたのだ。
彼らは自分の師の借金を背負わされ、魔界に来て働かされていた。
いくら守護者であるネメニアが、あなたにとっては優しく愛情のある女性とはいえ、仲間がそんなことになっていて放っておけなかった。
しかしネメニアはこう言った。
「名無し。いくら可愛いお前の頼みであろうと、それは出来ん。……私はあいつらの師と因縁がある。人間界で知り合い、ビジネスパートナーだったが、あの男の不義理にはもう我慢の限界だった。今回もそうだ」
「……ええっ。……そ、そうだったんですか……」
はっきりと断られ、事情まで聞いてしまえば、あなたもそれ以上は何も言えなかった。
でもあなたの気持ちも察したのか、ネメニアはこうも言った。
「あの男は、責任を負っている。セロとナザルにな。だからこそ、自分から奴らを迎えにくるまで、私が許すことはないだろう」
彼女の確固たる信念が明かされる。
その姿は、とても印象的に映った。
「――って、こんなことがあったんですよ。皆さん、どう思います?」
一幕を教えたあなたに、ジュリスは腕を組んで考えている。
対してセロとナザルはとくに驚きもなく、そもそも期待してない感じだ。
「君達の師匠って、そんなに破天荒なのかい?」
「つうかクズだな。人間のクズ。……でもな、あの人はそれでいいんだよ。すっげえ強い魔術師だから。それにさ、別にいいじゃん。今うまくいってんだから。もう忘れようぜ」
セロは生暖かい眼差しで、ワインを手に明るく言った。
ナザルもそんな彼を見て、軽くため息を吐くだけだ。
「ナザルさん……」
「まあこいつも期待してんだよ、おっさんが迎えに来てくれることをさ。任務試験のときも言っただろ? ⋯⋯それによ、ルドガー達とか、あんたと守護者のこともそうだ。……俺達とはちげえからさ」
若干寂しそうな赤髪の彼の笑みに、胸が痛む。
二人がこんなふうに本当は待ってるのだから、早く来てくれればいいのに。
その男の人は、何をしてるんだろう。
あなたも切々と考えていると、突然ゼイランの号令がかかった。
「おい皆、そろそろ始めるぞ! ここに集まれ!」
はっとなり、振り返る。
ピンクのソファから立ち上がり、華々しいオーラを放つ主人だ。
その横には、護衛のようにルドガーが凛々しく立っている。
そして彼は、あなたに向かって手を伸ばした。
あなたは表情を明るくして、そちらに駆けていく。
今日は自分にとっても、大事な加護を授けられる日なのだ。
「よし、行ってこい、名無し! 俺らは応援してるぜ、お前がゼイランの加護を受け取ったことをな!」
セロも拳を突き上げている。
ナザルも嬉しそうに微笑み、腕を組んで見守ってくれている。ジュリスもそうだ。
あなたはしっかりと頷き、皆に送り出された。
「お願いします、ゼイラン様!」
「ああ。さあここに来い……俺の庇護に入る者、名無しよ」
あなたは彼のそばに立つ。
近くで見ているルドガーには、自身の主従契約を思い出させる場面だったかもしれない。
小さな会場が見渡せるステージに乗り、あなたの額に向かって、ゼイランは手をかざした。
そして頭から足元へと、全身を滑るように呪文を唱えていく。
「…………!」
体の中に、力がみなぎる感覚がした。
一瞬のことだ。
そして頭の中心から目覚めるように、ドクッと四肢が熱くなった。
「……終わったの?」
呟くと、余裕の笑みで立っている銀髪のゼイランは、にやりと口角を上げた。
「これでお前は俺の加護を授かった。これから先も、安泰だな」
そう言われて、あなたは真っ先に、ルドガーに振り向く。
そして二人とも破顔して、抱き合った。
ぐっと力を込められ、彼に軽々と持ち上げられる。
「わあっ、ルドガー!」
「やったな、名無し! 嬉しいぞ、ゼイラン様の加護だ!」
そんなふうに子供みたいに喜ぶ彼のことが、一番嬉しかった。
この笑顔を見たくて、あなたは選んだのだと。それは、間違いなかったのだと。
「私も嬉しいー!」
くるくると回り、喜び合った。
皆の大きな拍手に包まれて、頭上には魔法の花火まで打ち上げられて。
本当にお祭りみたいになっていた。
ルドガーがあなたをゆっくりと下ろす。
彼の関心は、その小柄な体に注がれていた。
「ははっ。……それで、印はどこにあるんだ?」
「え? 印?」
ルドガーが真面目に探し出して、あなたも短いワンピースを見下ろしてみる。
すると、ジュリスとナザルが突然「あっ」と言った。
「名無し、君の脚に……」
「うわ、マジだわ。おいおいそれは~…」
「なんですかっ?」
あなたが見ようとすると、しゃがみこんだ大柄なルドガーが「あッ!」と大声をあげた。
立ち上がった彼の顔つきは、すぐさま険しくなっている。
「なっ、なっ、なんだこれは! 名無しの太ももに、あなたの印があるぞ!!」
ルドガーが怒り心頭でゼイランに近づくと、主人は視線をそらして普通の顔をしている。
「何か文句あるか? 俺は女に加護を与えるときはな、ここって決めてるんだよ」
「名無しはゼイラン様の女じゃない! 俺の番だ!! 早く違う場所に変えてくれ!」
確かに、太ももの裏側に怪しげな美しい紋章があるのは、ルドガーにとって許しがたい状況だろう。
あなたも汗が流れる中、ゼイランに言った。
「そうですね~。ちょっとこれ、おかしいでしょう。別のとこにしてください」
「あぁ? お前までそんなこと言うのか。面倒くさい奴らだな……じゃあどこがいいんだよ。そこのうるさい夫と決めたらどうだ?」
銀髪をかきながら無反省の主人に、ルドガーは苛立っていたが、あなたにすぐに向き直る。
「名無し、どこがいい? 首や脚は反対だ」
「そうだよね。うーん。……難しいなぁ。手の甲はどうかな? ⋯ていうかゼイラン様。普段は見えないように出来ないんですか?」
「出来るぞ」
しれっと言うゼイランに、じゃあ最初からそうしろよと皆思ったわけだが、話し合った結果、手の甲で収めることにした。
ひと悶着起こりつつ、結局そこに紋章を入れてもらうと、すーっと綺麗に消えていった。
「よし、これでうまくいったね! ルドガーも気に入った?」
「ああ、これならいいな。大成功だ!」
単純な獣の彼は心の底から胸をなでおろし、あなたを抱擁したまま微笑む。
ゼイランは呆れていたが、こうして事はうまく運んだ。
パーティーの最後は、皆で長テーブルにつき、お茶とケーキで締めることになる。
ワインを楽しんでいるゼイランは少し酔っているのか、中央席で機嫌がいい。
「本当によかったよな。もうすぐで俺達は、あのヴェルガロン家に喧嘩を売るところだったんだぞ。どう思う、ジュリス」
「ええ、危なかったですね。団長も毎日愚痴っていましたよ。どうなるんだって」
「ははは! さすがのあいつもビビったか。まあ分かるけどな⋯⋯俺だってな、書簡を受け取ったときはまさかと思い――」
上官と幹部がくだけた感じで話をしており、あなたも本当に苦労をかけたと、反省まじりに聞いている。
そんなゼイランは、近くにいた男の使用人を呼び止めた。
「おい、もう一杯注いでくれ。⋯ああ、そっちのブランデーだ」
優雅に命じると、金髪を後ろに結わえたガタイの良い制服の給仕は、言うことを聞いた。
グラスを置いたあと、彼は懐に手を差し入れる。
それを見たルドガーとジュリスは怪訝な表情を向けた。
すると給仕は、中から銀製のライターを取り出し、炎をぼっと灯らせる。
「おい、今はいい。下がれ」
うっとおしそうに払うゼイランの胸ぐらを、男は素早い動作で勢いよく引っ張った。
「貴様ッ、手を離せっ!」
ルドガーがテーブル越しに身を乗り出し、相手を掴もうとすると、鋭い飛び道具が放たれた。
2本、3本と高速で飛んでくる武器を、ルドガーはテーブルのナイフで次々と撃ち落とす。
「きゃあぁぁ!」
あなたは何が起きたのかと叫ぶ。
するとルドガーはナザルとセロを見やり、あなたをすぐに安全な場へ移動させた。
ジュリスとルドガーは剣を取り出し、相手に向かっていく。
「――無駄だよ馬鹿野郎! この公爵だけはなぁ、俺は許さねえからな!!」
豹変した男の姿が魔術で変化していく。
制服は時が止まったかのように剥がれ落ち、内側からマントをまとった鎧が現れた。
男は肩までの獅子のような金髪をなびかせ、ニヤリと笑い、剣をテーブルへ突き刺した。
紫色の晴天の下、開放されたテラスで楽しんでいる。
「ゼイラン様、これはどういうことだっ?」
「何がだ。ルドガー」
「……どうしてあなたが名無しの隣に座っているんだ! しかもペアルックで!」
騒ぎ出すルドガーをよそに、ゼイランは特注のピンクの革ソファに座り、鮮やかな同色のスーツをまとっていた。
口元には笑みを乗せ、隣に薄桃色のワンピースを着たあなたをはべらせている。
「早くどいてくれ! そこは俺の席だ!」
「いいや、今日は俺と名無しが主役なんだ。俺たちの加護パーティーなんだからな。なあ名無し?」
「は、はあ…」
授与される手前、強く反論できない。
風船や花々で可愛らしく飾り付けられた会場と、気合の入れ様。
気分も上がるし、嬉しいことではある。
「でもやっぱり私の隣はルドガーだよねえ。ほら真ん中においでよ、ねっ」
両手を伸ばして笑顔を向けると、目の前の凛々しい黒シャツ姿のルドガーも、同じ笑みを見せる。
「そうだよな、お前の隣はいつもこの俺だ。……ゼイラン様、ちょっと詰めてくれっ」
「おいっ押し出すな! …はあまったく!」
しばらくあなたとルドガーはカクテルを飲みながらイチャイチャしていた。
だが、向かい側にはちゃんとゲストたちもいる。
豪華なビュッフェの立食で、爆食する魔術師セロ。
派手な柄シャツ姿で使用人の女子に声をかけ、かわされている赤髪のナザル。
そして今まで色んな場面で支えてくれた騎士隊長のジュリス。
彼もカジュアルなスーツをまとい、グラス片手ににこりと微笑みかけてくる。
あなたも笑みを浮かべ立ち上がり、彼らのもとに向かった。
「ジュリスさん! 来てくれたんですね」
「当然さ、名無し。君の晴れ姿をちゃんとお祝いしたいからね。でもミザロのことは聞いたかい?」
「そうなんですよ、師匠ったら。パーティーは好きじゃないんですとか言って逃げられちゃいましたよ~」
金髪の美男子と一緒に、マイペースなミザロらしいと笑いあう。
ジュリスはこっそりあなたに教えてくれた。
「ゼイラン様も、今日はすごく上機嫌に見えるよな。君に選ばれて内心とても嬉しそうだ」
「はははっ。そうなんですかね?」
それはちょびっと自分も感じていた。
今日のルドガーの主人は生き生きとしてるし、いつもよりさらに気も大きくなっている。
会話をしていると、セロとナザルも首をつっこんできた。
「よお名無し。よかったな、うまくまとまって。あんた幸せそうじゃねえか」
「はいっ! ルンルンですよ~ナザルさん。でもお二人とも、どこ行ってたんですか? 守護者さまが現れてから、行方不明でしたよね」
あなたが首をかしげる姿に、セロは「けっ」とわざとらしく吐きだす。
「あたりめーだろが。あのババアがいる間は雲隠れしとかないとな。……つうか今日もサプライズ登場とかねえよな? マジやめてくれよ!」
大げさにふるまわれて皆は失笑気味だった。
しかしあなたはセロ達に顔を近づける。
「あの私、聞いてみたんですよ。セロさんたちのこと……守護者さまに」
この間城に招かれたときに、あなたはセロたちをなんとか自由にしてもらえないかと、尋ねてみたのだ。
彼らは自分の師の借金を背負わされ、魔界に来て働かされていた。
いくら守護者であるネメニアが、あなたにとっては優しく愛情のある女性とはいえ、仲間がそんなことになっていて放っておけなかった。
しかしネメニアはこう言った。
「名無し。いくら可愛いお前の頼みであろうと、それは出来ん。……私はあいつらの師と因縁がある。人間界で知り合い、ビジネスパートナーだったが、あの男の不義理にはもう我慢の限界だった。今回もそうだ」
「……ええっ。……そ、そうだったんですか……」
はっきりと断られ、事情まで聞いてしまえば、あなたもそれ以上は何も言えなかった。
でもあなたの気持ちも察したのか、ネメニアはこうも言った。
「あの男は、責任を負っている。セロとナザルにな。だからこそ、自分から奴らを迎えにくるまで、私が許すことはないだろう」
彼女の確固たる信念が明かされる。
その姿は、とても印象的に映った。
「――って、こんなことがあったんですよ。皆さん、どう思います?」
一幕を教えたあなたに、ジュリスは腕を組んで考えている。
対してセロとナザルはとくに驚きもなく、そもそも期待してない感じだ。
「君達の師匠って、そんなに破天荒なのかい?」
「つうかクズだな。人間のクズ。……でもな、あの人はそれでいいんだよ。すっげえ強い魔術師だから。それにさ、別にいいじゃん。今うまくいってんだから。もう忘れようぜ」
セロは生暖かい眼差しで、ワインを手に明るく言った。
ナザルもそんな彼を見て、軽くため息を吐くだけだ。
「ナザルさん……」
「まあこいつも期待してんだよ、おっさんが迎えに来てくれることをさ。任務試験のときも言っただろ? ⋯⋯それによ、ルドガー達とか、あんたと守護者のこともそうだ。……俺達とはちげえからさ」
若干寂しそうな赤髪の彼の笑みに、胸が痛む。
二人がこんなふうに本当は待ってるのだから、早く来てくれればいいのに。
その男の人は、何をしてるんだろう。
あなたも切々と考えていると、突然ゼイランの号令がかかった。
「おい皆、そろそろ始めるぞ! ここに集まれ!」
はっとなり、振り返る。
ピンクのソファから立ち上がり、華々しいオーラを放つ主人だ。
その横には、護衛のようにルドガーが凛々しく立っている。
そして彼は、あなたに向かって手を伸ばした。
あなたは表情を明るくして、そちらに駆けていく。
今日は自分にとっても、大事な加護を授けられる日なのだ。
「よし、行ってこい、名無し! 俺らは応援してるぜ、お前がゼイランの加護を受け取ったことをな!」
セロも拳を突き上げている。
ナザルも嬉しそうに微笑み、腕を組んで見守ってくれている。ジュリスもそうだ。
あなたはしっかりと頷き、皆に送り出された。
「お願いします、ゼイラン様!」
「ああ。さあここに来い……俺の庇護に入る者、名無しよ」
あなたは彼のそばに立つ。
近くで見ているルドガーには、自身の主従契約を思い出させる場面だったかもしれない。
小さな会場が見渡せるステージに乗り、あなたの額に向かって、ゼイランは手をかざした。
そして頭から足元へと、全身を滑るように呪文を唱えていく。
「…………!」
体の中に、力がみなぎる感覚がした。
一瞬のことだ。
そして頭の中心から目覚めるように、ドクッと四肢が熱くなった。
「……終わったの?」
呟くと、余裕の笑みで立っている銀髪のゼイランは、にやりと口角を上げた。
「これでお前は俺の加護を授かった。これから先も、安泰だな」
そう言われて、あなたは真っ先に、ルドガーに振り向く。
そして二人とも破顔して、抱き合った。
ぐっと力を込められ、彼に軽々と持ち上げられる。
「わあっ、ルドガー!」
「やったな、名無し! 嬉しいぞ、ゼイラン様の加護だ!」
そんなふうに子供みたいに喜ぶ彼のことが、一番嬉しかった。
この笑顔を見たくて、あなたは選んだのだと。それは、間違いなかったのだと。
「私も嬉しいー!」
くるくると回り、喜び合った。
皆の大きな拍手に包まれて、頭上には魔法の花火まで打ち上げられて。
本当にお祭りみたいになっていた。
ルドガーがあなたをゆっくりと下ろす。
彼の関心は、その小柄な体に注がれていた。
「ははっ。……それで、印はどこにあるんだ?」
「え? 印?」
ルドガーが真面目に探し出して、あなたも短いワンピースを見下ろしてみる。
すると、ジュリスとナザルが突然「あっ」と言った。
「名無し、君の脚に……」
「うわ、マジだわ。おいおいそれは~…」
「なんですかっ?」
あなたが見ようとすると、しゃがみこんだ大柄なルドガーが「あッ!」と大声をあげた。
立ち上がった彼の顔つきは、すぐさま険しくなっている。
「なっ、なっ、なんだこれは! 名無しの太ももに、あなたの印があるぞ!!」
ルドガーが怒り心頭でゼイランに近づくと、主人は視線をそらして普通の顔をしている。
「何か文句あるか? 俺は女に加護を与えるときはな、ここって決めてるんだよ」
「名無しはゼイラン様の女じゃない! 俺の番だ!! 早く違う場所に変えてくれ!」
確かに、太ももの裏側に怪しげな美しい紋章があるのは、ルドガーにとって許しがたい状況だろう。
あなたも汗が流れる中、ゼイランに言った。
「そうですね~。ちょっとこれ、おかしいでしょう。別のとこにしてください」
「あぁ? お前までそんなこと言うのか。面倒くさい奴らだな……じゃあどこがいいんだよ。そこのうるさい夫と決めたらどうだ?」
銀髪をかきながら無反省の主人に、ルドガーは苛立っていたが、あなたにすぐに向き直る。
「名無し、どこがいい? 首や脚は反対だ」
「そうだよね。うーん。……難しいなぁ。手の甲はどうかな? ⋯ていうかゼイラン様。普段は見えないように出来ないんですか?」
「出来るぞ」
しれっと言うゼイランに、じゃあ最初からそうしろよと皆思ったわけだが、話し合った結果、手の甲で収めることにした。
ひと悶着起こりつつ、結局そこに紋章を入れてもらうと、すーっと綺麗に消えていった。
「よし、これでうまくいったね! ルドガーも気に入った?」
「ああ、これならいいな。大成功だ!」
単純な獣の彼は心の底から胸をなでおろし、あなたを抱擁したまま微笑む。
ゼイランは呆れていたが、こうして事はうまく運んだ。
パーティーの最後は、皆で長テーブルにつき、お茶とケーキで締めることになる。
ワインを楽しんでいるゼイランは少し酔っているのか、中央席で機嫌がいい。
「本当によかったよな。もうすぐで俺達は、あのヴェルガロン家に喧嘩を売るところだったんだぞ。どう思う、ジュリス」
「ええ、危なかったですね。団長も毎日愚痴っていましたよ。どうなるんだって」
「ははは! さすがのあいつもビビったか。まあ分かるけどな⋯⋯俺だってな、書簡を受け取ったときはまさかと思い――」
上官と幹部がくだけた感じで話をしており、あなたも本当に苦労をかけたと、反省まじりに聞いている。
そんなゼイランは、近くにいた男の使用人を呼び止めた。
「おい、もう一杯注いでくれ。⋯ああ、そっちのブランデーだ」
優雅に命じると、金髪を後ろに結わえたガタイの良い制服の給仕は、言うことを聞いた。
グラスを置いたあと、彼は懐に手を差し入れる。
それを見たルドガーとジュリスは怪訝な表情を向けた。
すると給仕は、中から銀製のライターを取り出し、炎をぼっと灯らせる。
「おい、今はいい。下がれ」
うっとおしそうに払うゼイランの胸ぐらを、男は素早い動作で勢いよく引っ張った。
「貴様ッ、手を離せっ!」
ルドガーがテーブル越しに身を乗り出し、相手を掴もうとすると、鋭い飛び道具が放たれた。
2本、3本と高速で飛んでくる武器を、ルドガーはテーブルのナイフで次々と撃ち落とす。
「きゃあぁぁ!」
あなたは何が起きたのかと叫ぶ。
するとルドガーはナザルとセロを見やり、あなたをすぐに安全な場へ移動させた。
ジュリスとルドガーは剣を取り出し、相手に向かっていく。
「――無駄だよ馬鹿野郎! この公爵だけはなぁ、俺は許さねえからな!!」
豹変した男の姿が魔術で変化していく。
制服は時が止まったかのように剥がれ落ち、内側からマントをまとった鎧が現れた。
男は肩までの獅子のような金髪をなびかせ、ニヤリと笑い、剣をテーブルへ突き刺した。
