巨体の人外に助けられて世話される話
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ネメニアはすべてを話し終えた。
正面に座るあなたは、目を見開いたまま放心している。
「……こうして私は、お前たちをわざと引き合わせた。これはすべて、私の身勝手な思いから生まれた行いだ。すまなかったな、名無し。そしてルドガー」
彼女はまっすぐに話し、どんな批判も受け入れる表情だった。
あなたは思わず、首をふるふると振る。
だが、その不安げな瞳は、隣にいるルドガーへと向けられた。
「ルドガーっ⋯⋯じゃあ私達は……っ」
彼はどう思ったのか。鼓動が鳴りやまず、体が宙に浮く感覚がした。
ルドガーはそんなあなたの手を、力強く握った。
「⋯⋯そんなのは関係ない! 出会いがどうであっても、お前を好きになったのは俺の心で、俺の気持ちだ!」
あなたはそう言ってもらえた瞬間、ぶわっと感情があふれていった。
「……うんっ! そうだよね!」
泣きそうな顔が、彼の肩にぎゅっとしまわれる。
自分という存在が、丸ごと抱きしめられた瞬間だった。
彼だから愛した。
ここまで二人でやってきた。
紛れもない真実が、ずっと守ってくれている。
あなたはネメニアに振り返る。彼女はただ、静かにその時を見ていた。
「守護者さま……私を、魔界に連れてきてくれたんですね」
「そうだ……勝手にお前の記憶を消した。すまない」
「いいえ……それでよかったんです。今、全部教えてもらったし」
あなたは小さく笑う。
ルドガーを見つめると、自分を思いやるように頷いてくれた。
「俺もちゃんと聞いた。お前がどう生きてきたか。……お前はやっぱり、心の優しい娘だった。今と同じだ」
あなたは瞳が濡れていった。彼にそう認められたことが、安心を広げた。
ずっと怖かった記憶の中の自分。
彼も守護者も、そんな自分がいたことを忘れないと言ってくれた。
だから涙がぐすぐすと出てきた。
不安から解き放たれたように。
あなたが白いハンカチで顔を拭いている姿を、ネメニアも愛情のこもった、せつない瞳で見つめている。
「ううっ……よかった……私、あなたのそばにいていいんだね……これからも!」
「……っ、当然だろう、名無し! 俺のそばにいてくれ、頼む……!」
二人で思いを通わせ、抱き合う。
「守護者さま、ありがとうございます。彼に出会わせてくれて…」
「何を言うのだ。⋯⋯私はお前たち二人を悩ませた。⋯⋯とくにお前にはな、ルドガー。許せ」
本音をもらす声に、ルドガーの瞳が揺れる。
彼はもう、前と同じようにはネメニアを見れなかった。
そうして真摯に頷く。
「あんたが名無しを思っていることはよく分かった。……俺も必死だったんだ」
ネメニアは互いにしか通じない特別な思いを、ルドガーと一瞬共有した。
椅子に座っていた彼女は立ち上がる。
長い黒髪を整え、二人にも促した。
「さあ、ではそろそろお前達を送っていかねばな。皆が心配するだろう」
部屋を出るネメニアに、あなた達もおずおずとついていく。
廊下に出ると、古城の雰囲気に驚いた。
ひんやりと冷たく、とても広い。
回廊になっていて、おとぎ話に出てきそうな、古めかしく荘厳な雰囲気だ。
「守護者さま、ここに住んでるんですか? 一人で?」
「一人ではない。今はデシエがいる」
そう言って彼女が視線を向こうにやると、静かに佇んでいた女性がいた。
黒いレースの服をまとった、紫髪の魔術師だ。
「デシエさん!」
「……名無しさん、お二人とも、お久しぶりですね」
彼女は遠慮がちに頭を下げ、現れた。
あの話を聞いたあとだからか、今ではまったく印象が変わってしまった。
「……あんなにお世話になったのに、本当にすみません! あなたのことを縛り上げたり、とんでもないことを…!」
あなたは平謝りする。彼女は控えめに笑んだ。
「いえ、すべて私の暴走が招いたことですから。申し訳ございませんでした」
深々と平伏するデシエに、あなたは困ってしまう。
ルドガーも彼女を見る目が変わったように、口を開いた。
「俺もあんたを疑っていた。悪かったな。……俺達は、あんたにも守護者にも、世話になっていた。感謝している」
率直に言われてデシエは目を丸くするが、二人を見て微笑んだ。
「それが私達の、守護者さまの第一の願いでしたので。⋯⋯そうですよね、閣下」
「ああ、そうだ。……つまり、皆名無しのことが大事だということだな。それでいいではないか」
彼女は肩をすくめ、結局はそこに集結させた。
あなたはかしこまってしまったが、その思いに今は甘えることにした。
「デシエ。ゼイラン公爵に書簡のほうは送ったか」
「はい。迅速に」
「あれも持っておるか」
「ええ。こちらに、どうぞ」
二人のやり取りに、あなた達は何事かと見やる。
ネメニアは説明した。
「突然現れれば、困らせると思ってな。あらかじめ事情を伝えておいたのだ。……そしてこれを見ろ。これがあれば、嫌でも信じるだろう」
その手の中には、側近から受け取った黒い布があった。
細長く包まれていて、守護者の紋章も刻まれている。
中からは黒色に光る、刃渡りの十分な短剣が現れた。
「これはヴェルガロン家に伝わる、由緒ある霊剣のひとつだ。残り数本しかない」
あまりの輝きと重厚さが、煌々と物語っている。
とくにルドガーにはその特別さが伝わったようで、目の色が変わっていた。
「ふふ。触ってみるか?」
「……いいのか?」
ネメニアはそれをルドガーに持たせた。
彼は柄を握り、まじまじと刃の輝きを確かめている。
「大事にしろよ」
「……えっ?」
突然そう言われて、ルドガーは目を剥いた。
「武器はいくつあっても、よいだろう?」
艶やかな口元を上げて、告げられる。
ネメニアは優しい目つきであなたを見やる。
ルドガーは彼女の言わんとしてることを悟った。
自分の使命を後押しするかのような、守護者の信頼と支えに。
そして彼は、覚悟を決めたように剣を手にした。
「わかった。有り難く頂こう。大事にする」
そんなやり取りを見上げていたあなたは、彼の気持ちにつられるように、感動的な瞳をしていた。
「では行くか。お前たちの帰る場所に」
そう大人びた笑みを見せたネメニアに、あなたは声をかける。
「守護者さまっ、またここに遊びに来てもいいですか?」
「もちろんだ、いつでも来い。お前たちの部屋は、さっき見ただろう?」
ルドガーとあなたは顔を見合わせて、笑顔を広げる。
そうしてネメニアは、今度は三人で騎士団へと転移した。
正面に座るあなたは、目を見開いたまま放心している。
「……こうして私は、お前たちをわざと引き合わせた。これはすべて、私の身勝手な思いから生まれた行いだ。すまなかったな、名無し。そしてルドガー」
彼女はまっすぐに話し、どんな批判も受け入れる表情だった。
あなたは思わず、首をふるふると振る。
だが、その不安げな瞳は、隣にいるルドガーへと向けられた。
「ルドガーっ⋯⋯じゃあ私達は……っ」
彼はどう思ったのか。鼓動が鳴りやまず、体が宙に浮く感覚がした。
ルドガーはそんなあなたの手を、力強く握った。
「⋯⋯そんなのは関係ない! 出会いがどうであっても、お前を好きになったのは俺の心で、俺の気持ちだ!」
あなたはそう言ってもらえた瞬間、ぶわっと感情があふれていった。
「……うんっ! そうだよね!」
泣きそうな顔が、彼の肩にぎゅっとしまわれる。
自分という存在が、丸ごと抱きしめられた瞬間だった。
彼だから愛した。
ここまで二人でやってきた。
紛れもない真実が、ずっと守ってくれている。
あなたはネメニアに振り返る。彼女はただ、静かにその時を見ていた。
「守護者さま……私を、魔界に連れてきてくれたんですね」
「そうだ……勝手にお前の記憶を消した。すまない」
「いいえ……それでよかったんです。今、全部教えてもらったし」
あなたは小さく笑う。
ルドガーを見つめると、自分を思いやるように頷いてくれた。
「俺もちゃんと聞いた。お前がどう生きてきたか。……お前はやっぱり、心の優しい娘だった。今と同じだ」
あなたは瞳が濡れていった。彼にそう認められたことが、安心を広げた。
ずっと怖かった記憶の中の自分。
彼も守護者も、そんな自分がいたことを忘れないと言ってくれた。
だから涙がぐすぐすと出てきた。
不安から解き放たれたように。
あなたが白いハンカチで顔を拭いている姿を、ネメニアも愛情のこもった、せつない瞳で見つめている。
「ううっ……よかった……私、あなたのそばにいていいんだね……これからも!」
「……っ、当然だろう、名無し! 俺のそばにいてくれ、頼む……!」
二人で思いを通わせ、抱き合う。
「守護者さま、ありがとうございます。彼に出会わせてくれて…」
「何を言うのだ。⋯⋯私はお前たち二人を悩ませた。⋯⋯とくにお前にはな、ルドガー。許せ」
本音をもらす声に、ルドガーの瞳が揺れる。
彼はもう、前と同じようにはネメニアを見れなかった。
そうして真摯に頷く。
「あんたが名無しを思っていることはよく分かった。……俺も必死だったんだ」
ネメニアは互いにしか通じない特別な思いを、ルドガーと一瞬共有した。
椅子に座っていた彼女は立ち上がる。
長い黒髪を整え、二人にも促した。
「さあ、ではそろそろお前達を送っていかねばな。皆が心配するだろう」
部屋を出るネメニアに、あなた達もおずおずとついていく。
廊下に出ると、古城の雰囲気に驚いた。
ひんやりと冷たく、とても広い。
回廊になっていて、おとぎ話に出てきそうな、古めかしく荘厳な雰囲気だ。
「守護者さま、ここに住んでるんですか? 一人で?」
「一人ではない。今はデシエがいる」
そう言って彼女が視線を向こうにやると、静かに佇んでいた女性がいた。
黒いレースの服をまとった、紫髪の魔術師だ。
「デシエさん!」
「……名無しさん、お二人とも、お久しぶりですね」
彼女は遠慮がちに頭を下げ、現れた。
あの話を聞いたあとだからか、今ではまったく印象が変わってしまった。
「……あんなにお世話になったのに、本当にすみません! あなたのことを縛り上げたり、とんでもないことを…!」
あなたは平謝りする。彼女は控えめに笑んだ。
「いえ、すべて私の暴走が招いたことですから。申し訳ございませんでした」
深々と平伏するデシエに、あなたは困ってしまう。
ルドガーも彼女を見る目が変わったように、口を開いた。
「俺もあんたを疑っていた。悪かったな。……俺達は、あんたにも守護者にも、世話になっていた。感謝している」
率直に言われてデシエは目を丸くするが、二人を見て微笑んだ。
「それが私達の、守護者さまの第一の願いでしたので。⋯⋯そうですよね、閣下」
「ああ、そうだ。……つまり、皆名無しのことが大事だということだな。それでいいではないか」
彼女は肩をすくめ、結局はそこに集結させた。
あなたはかしこまってしまったが、その思いに今は甘えることにした。
「デシエ。ゼイラン公爵に書簡のほうは送ったか」
「はい。迅速に」
「あれも持っておるか」
「ええ。こちらに、どうぞ」
二人のやり取りに、あなた達は何事かと見やる。
ネメニアは説明した。
「突然現れれば、困らせると思ってな。あらかじめ事情を伝えておいたのだ。……そしてこれを見ろ。これがあれば、嫌でも信じるだろう」
その手の中には、側近から受け取った黒い布があった。
細長く包まれていて、守護者の紋章も刻まれている。
中からは黒色に光る、刃渡りの十分な短剣が現れた。
「これはヴェルガロン家に伝わる、由緒ある霊剣のひとつだ。残り数本しかない」
あまりの輝きと重厚さが、煌々と物語っている。
とくにルドガーにはその特別さが伝わったようで、目の色が変わっていた。
「ふふ。触ってみるか?」
「……いいのか?」
ネメニアはそれをルドガーに持たせた。
彼は柄を握り、まじまじと刃の輝きを確かめている。
「大事にしろよ」
「……えっ?」
突然そう言われて、ルドガーは目を剥いた。
「武器はいくつあっても、よいだろう?」
艶やかな口元を上げて、告げられる。
ネメニアは優しい目つきであなたを見やる。
ルドガーは彼女の言わんとしてることを悟った。
自分の使命を後押しするかのような、守護者の信頼と支えに。
そして彼は、覚悟を決めたように剣を手にした。
「わかった。有り難く頂こう。大事にする」
そんなやり取りを見上げていたあなたは、彼の気持ちにつられるように、感動的な瞳をしていた。
「では行くか。お前たちの帰る場所に」
そう大人びた笑みを見せたネメニアに、あなたは声をかける。
「守護者さまっ、またここに遊びに来てもいいですか?」
「もちろんだ、いつでも来い。お前たちの部屋は、さっき見ただろう?」
ルドガーとあなたは顔を見合わせて、笑顔を広げる。
そうしてネメニアは、今度は三人で騎士団へと転移した。
