巨体の人外に助けられて世話される話
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ルドガーが主人に報告すると決めてから、あなたは緊張して過ごしていた。
だが彼はその前にすべきことがあったようだ。
「あ、おかえり〜。ご飯出来てるよ。ルドガーの好きなシチューだよ」
「ただいま、名無し。すごく美味そうだ」
家事をこなし、少しでも役立とうと夕食を用意するあなたに、ルドガーが嬉しそうに笑む。
森のパトロールを終えた彼は着替えたあと、一緒に食卓を囲んだ。
食べ終わると隣の席にわざわざ移動してきて、まっすぐ瞳を見つめてくる。
「名無し、お前に聞きたいことがある。率直に答えてくれ」
「うん。なに?」
「古代種の大蛇の牙と、花、宝石。どれが一番欲しい?」
「⋯⋯⋯⋯えっ?」
一瞬なんの話か分からなかったが、彼の眼差しは真剣だ。じりじりと答えを望んでいる。
だからあなたも考えたあと、こう言った。
「その中だったら花がいいかなぁ。お花綺麗だし」
もしかして贈り物か何かだと思い、入手しやすそうなものを選んだ。
彼は固く了承し、やる気に満ちた表情に変わる。
牙を選んだらどうなったんだろうという関心は少なからずあったが、彼は獣的な思考をしているので、あまり深く考えないようにした。
それから一週間後。
報告にはまだ日がかかるようで、少しだけヤキモキしていたが、ルドガーとの日々は穏やかに進み、あなたは幸せを感じていた。
彼が仕事でいないときは、小屋の外に警護が二人ついていた。見た目は屈強な男だが、耳が尖っていたから魔族のようだ。
きっと軍人の権限を使って用意してくれたのだと思い、ありがたかった。
「よし。今日は出かけるぞ」
「⋯⋯えぇっ!? どこに?」
ある日の夕食後、ルドガーが初めてそんなことを言い出した。
出かける? 森が危険なのに?
あなたは落ち着かなくなるが、シャツとネクタイ、淡色のトラウザーという小綺麗な服に着替え始めた彼を見て、自分も慌てて可愛らしいワンピースと靴をはく。
メイク道具がないのが残念だけど、どうせ夜で見えないだろうと思った。
あ、でも彼は夜目が異様に利くんだっけ。
そんな取り留めもないことを、ひとり考えていた。
ルドガーと小屋の外で待っていると、突然紫の光の粒が現れる。
その中に超然と佇んでいたのは長い銀髪の麗しい男性で、あのゲアト医師だ。
粘流体種で普段どろっとした液体生物だが、今日はあらかじめ人の姿になってくれていた。
「先生! どうしたんですか?」
「久しぶりだね、名無しさん。元気そうで安心したよ。顔色もだいぶ良くなった。私は今日君達を迎えに来たんだ。さあおいで」
手招きをされ、二人とも魔法で転移させられる。
隊長のセヴァさんのときみたいに、家に招かれるのだろうか?
だからルドガーもよそ行きの服なのかな。
あなたは非日常感にわくわくしながらついていった。
到着したのは、様々な植物が生い茂った中庭である。暗闇に照明が点在し、幻想的にライトアップされている。
真ん中には広い池があり、鴨に似た動物や空を飛び光る小さな生き物などがいた。
「わあ⋯⋯綺麗なとこだね⋯⋯こんなの初めて見たよ。ここって公園? 静かで安全そうだけど」
「ああ、安全だから心配しないでいい。ここは先生の家の庭だ。今日は俺が借りた」
「ええ! そうなの? すごいなぁ。連れてきてくれてありがとう、ルドガー。先生にもだね」
あなたは心から喜んでお礼を言う。
彼にこんなロマンチックな面があったとは驚きだ。
きっと自由に移動できないあなたのことを考えて、ギリギリ可能なことを実現してくれたのだろうと感激する。
ぐるりと見渡してみると、確かに後方に大きな洋館があった。あれが医師の家なのだろう。
そして一階の窓辺に、いつの間にかゲアト先生とこの間服をくれた孫娘の少女セアがいた。
「あ、手振ってくれてる!」
彼女が照れた様子で手をひらひらさせたため、あなたも笑みを浮かべて振り返した。
こんなところを見られて少し恥ずかしいけれど、彼らも自分達の状況を応援してくれてる気がして、勝手に嬉しくなった。
ルドガーは他にも色々準備をしてくれたようだ。
池畔の絶景の前に案内され、お菓子や飲み物が置かれた布を見つける。二人はそこでピクニックのように腰を下ろした。
「すごいすごい。こういうの大好きだよ、どうしちゃったのルドガー。今日何かあるの? もしかして流れ星?」
焼き菓子をほおばりながら、満面の笑みで尋ねる。
夜空には星々と魔界の赤い月が二つ並んでいる。
隣には真剣な顔立ちの彼が座りこむ。
最初森で凍えていた時からは、考えられない光景だ。
「いや、今日は流れ星じゃない。そのときもまた連れて来よう。今日は⋯⋯お前に贈り物があるんだ」
大柄な体を向けてきて、背後からあるものを取り出した。
あなたは一目で釘付けになる。
それは透明なガラス箱に入った、青い生け花であった。
形はバラのようだが、角度によって光沢が変わり、キラキラと輝いている。
花びらに星空が反射したようで、うっとりと見つめた。
「きれい⋯⋯このお花、私にくれるの?」
「そうだ。受け取ってくれるか」
「もちろん。ありがとうね」
両手に抱えて眺めていると、じわりと涙がにじんでくる。なぜ泣きたくなるのか分からないが、彼とお花という意外な組み合わせに、きっと苦労して手に入れてくれたのかもと想像出来たからだ。
「これ、どうしたの? 絶対その辺で売ってるやつじゃないよね」
「まあな。こことは違う森で手にいれた。毎日違う色になるんだぞ。お前は綺麗なものが好きだから、きっと楽しめると思ったんだ」
「⋯⋯素敵⋯⋯なんて素晴らしい贈り物なんだろう。每日眺めるね」
あなたは体を起こして、彼の頬にちゅっとキスをする。
初めての試みだったが、自然にわきでた気持ちだった。
彼は瞳を柔らかくし、あなたの頬に口づけを返す。そしてそのまま、唇にも重ねた。
また優しいキスだ。最近のルドガーは、まるで壊れ物を扱うかのように、より大切にあなたに触れていた。
「名無し。お前にもうひとつ伝えたいことがある」
「なあに?」
「⋯⋯俺の番になってくれないか? 俺の心からの願いだ」
ルドガーは眉を切なく寄せて、あなたに乞うように両手を握った。手の甲に唇をつけて、もう一度見つめてくる。
あなたは驚きのあまり、言葉が出てこない。
まさかそこまで彼が今日、準備しているとは思わなかったのだ。
しかし間を開けるのは彼を不安にさせると思い、こう言った。
「番って⋯⋯結婚、ってことだよね? つまり」
「そうだ。人間風に言うならな」
「⋯⋯結婚⋯⋯」
あなたはぐるぐると思考が回り出す。
自分はまだ若く、実感がない。何よりここでどう生きていくのかも分からない。
元の世界に帰ったりするのかどうかも。
そんな責任が一気に押し寄せてくる。
「駄目か⋯⋯?」
「ルドガー⋯⋯」
あなたは彼に体を寄せて、瞳を上向かせて見つめた。
いつもは鋭い金の瞳の中に、小さな自分が映る。
その瞬間、ずっとこうして欲しいと、そう願ってしまった。
「私、記憶がないんだよ? 本当はすごい悪い奴かもしれないよ。素性が分からないままで本当にいいの?」
「お前は悪いやつじゃない。俺はよく知っている。今ここにいるのが確かなお前なんだ」
「でも、でも⋯⋯そんな簡単に決めていいの。まだ出会って一カ月ぐらいだよ。番って、一生そばにいるんでしょう? 死ぬまでだよ。ルドガーはそれでいいの」
「それがいい。お前以外の女はいらない。お前だけが欲しい。俺は名無しのことが何よりも好きだ」
抱きしめられて、何もない自分が認められた安心と喜びに包まれていく。
あなたはぐすぐすと鼻をすすりながら、もう彼にすべて任せてもいいかもと思い始めていた。
それは生きていくための本能なのかもしれない。
でも、ルドガーになら、身を預けられると感じた。それに、これから彼をもっと笑顔にしたいとも思った。
「じゃあずっと私のこと守って。お願いね、ルドガー」
「ああ、任せろ。⋯⋯ではいいのか? 俺の番になるか」
あなたが頬をほんのり染めて頷くと、彼は爆発的な笑顔を広げた。
力強く抱きすくめられて、この時ばかりはあなたも全身で受け止める。
「嬉しいぞ、名無し⋯⋯!」
「うん、私も⋯⋯!」
オーケーしてからは、こちらも気分が高まってきて、あなたの小柄な体になついてくる男を懸命になだめた。
尻尾があったら振ってる姿が思い浮かぶほど、まるでほんとに獣みたいだと微笑む。
そう考えていると、ふと疑問が思い出されていった。
「あっ! 大変、ルドガー!」
「なっなんだ」
「私まだあなたの本当の姿見てないよ、いつ見せてくれるの? 見てないのに番って決めていいの?」
たたみかけると、彼は急に現実に引き戻されたように視線をずらしてくる。
「ああ⋯⋯それか。今日見たいのか? せっかく良い雰囲気なのに⋯⋯」
「どういうこと? 別にマイナスにならないでしょう? 気になるよ、早く早く」
あなたは好奇心に駆られて彼にせがんだ。
するとようやくルドガーは重い腰を上げる。
そしてなんと服を脱ぎだした。彼の逞しい肉体美があらわになり、目を見張る。
「ちょっ、なんで脱ぐの!」
「獣化したら服が破れるだろう。この服は気に入ってるんだ」
あまり乗り気じゃない様子で全裸になられ、あなたは家の人達に見られてないかと焦る。
「もしお前が気に入らなかったらどうする。破談か? そんな悲しいことを今日の俺に経験させる気か」
「や、やだなぁ。そんなことしないよ」
「⋯⋯だが、お前は怖がりだ。すごく心配になってきたぞ」
一転して繊細にこぼす彼を、あなたは鼓舞しようと努めた。
「大丈夫、もし怖かったとしても段々慣れるから。今までだってそうでしょう? ルドガーの温かさ知ってるし、どんな姿でも全部あなたなんだから」
「⋯⋯そうだな。わかった。お前を信じるとしよう。もし嫌われても、もう一度好きになってもらうさ」
最後は男らしくそう言い、彼は目の前で獣化した。あっという間のことだ。
その姿は――まるで想像とは違った。
池の畔に、腕を2人分広げても間に合わないほどの大きさの、神秘的な獣が四つ足で立っている。
身体は黒光りする濃い青色で、もらった花のようにきらめいていた。
ピンと立った獣耳は美しく風になびき、その後ろに黒い龍角みたいな角が波を描くように生えている。
体にまとう毛は長く、腹と足元も覆いそうなぐらいだ。
だが体つきは筋骨隆々で引き締まっていて、顔は獅子にも狼にも似て凛々しかった。
「あ⋯⋯ルドガー⋯⋯なの?」
「⋯⋯そうだ。どうだ? やはり、駄目か⋯⋯」
「かっわいいー!!」
あなたは感動に打ち震える体を我慢できずに、彼のもふもふした毛に飛びついた。
顔を埋めて体まで埋め、毛の中に入ってしまいそうになる。
「なっ、なにをする、名無し!」
「こんなに可愛くて格好いい姿なの、ずっと黙ってたの? 大きな動物じゃない、あぁ気持ちいい〜。しっぽもふわふわ!」
まるで動物園で特殊な巨大生物を目にしたかのように、あなたは彼に興奮しながらまとわりついた。
「可愛いだと⋯? そんなことは誰にも言われたことがないぞ。俺は一応、獣化した姿は皆から恐れられているんだ」
「そうなの? やっぱり強いんだもんね。でも全然怖くないよ、変身したとこ間近に見たのもあるかもしれないけど」
彼の金色の瞳をじっと覗きこむ。当たり前だが人間の時よりもっと大きくて、黒いまつ毛もバサバサ長い。
瞳孔は猫のような形だが、一瞬で魅せられるほど美しく吸い込まれそうだった。
「ねえ座ってみて。一緒に寝転びたいな」
「あ、ああ⋯⋯」
戸惑いながらも、獣から聞こえてきたいつもと同じ声に嬉しくなる。
あなたは脚を曲げて寝そべる彼の毛並みを背にし、夜空を見上げた。
「⋯⋯ねえルドガー。あなたはずっと、一人だったの?」
「そうだ⋯⋯軍人で、戦闘種族だからな。戦うことが生業だ」
「そっか⋯⋯。それで番を探してたの⋯?」
彼は黙った。だがやがて「そういうわけじゃない」と明かした。
獣ではあるが、なんとなく一人でいるのだろうと思って生きてきて、種族的にも他とつるまない性質をもつのが当たり前だったのだそうだ。
「本当に私でいいの? 私は異種族だよ」
「いいんだ。俺はお前がいい。種族も出自も関係ない」
あなたは感情がこみ上げてきて目をぎゅっとつむる。
寝返りを打って彼の顔を撫で上げた。
獣の彼でも愛せるんじゃないかという気持ちが、確かに生まれていく。
「私もあなたのことが好き。素のままのルドガーが好きだよ。これから大変かもしれないけど、一緒にいてね」
そうお願いすると、彼は心と連動するように瞳を揺らし、頷く。
割れた赤い舌で、あなたの頬をぺろりと撫でてきた。
「ひゃあっ」
「悪い。嬉しくて我慢出来なかった。⋯⋯俺達はずっと一緒だぞ。俺はもうお前のものだから、好きにするといい。お前への愛をこの胸に誓おう、名無し」
獣の姿でも深い愛情を見せてくれたルドガーは、あなたを慈しむ瞳でずっと見つめていた。
だが彼はその前にすべきことがあったようだ。
「あ、おかえり〜。ご飯出来てるよ。ルドガーの好きなシチューだよ」
「ただいま、名無し。すごく美味そうだ」
家事をこなし、少しでも役立とうと夕食を用意するあなたに、ルドガーが嬉しそうに笑む。
森のパトロールを終えた彼は着替えたあと、一緒に食卓を囲んだ。
食べ終わると隣の席にわざわざ移動してきて、まっすぐ瞳を見つめてくる。
「名無し、お前に聞きたいことがある。率直に答えてくれ」
「うん。なに?」
「古代種の大蛇の牙と、花、宝石。どれが一番欲しい?」
「⋯⋯⋯⋯えっ?」
一瞬なんの話か分からなかったが、彼の眼差しは真剣だ。じりじりと答えを望んでいる。
だからあなたも考えたあと、こう言った。
「その中だったら花がいいかなぁ。お花綺麗だし」
もしかして贈り物か何かだと思い、入手しやすそうなものを選んだ。
彼は固く了承し、やる気に満ちた表情に変わる。
牙を選んだらどうなったんだろうという関心は少なからずあったが、彼は獣的な思考をしているので、あまり深く考えないようにした。
それから一週間後。
報告にはまだ日がかかるようで、少しだけヤキモキしていたが、ルドガーとの日々は穏やかに進み、あなたは幸せを感じていた。
彼が仕事でいないときは、小屋の外に警護が二人ついていた。見た目は屈強な男だが、耳が尖っていたから魔族のようだ。
きっと軍人の権限を使って用意してくれたのだと思い、ありがたかった。
「よし。今日は出かけるぞ」
「⋯⋯えぇっ!? どこに?」
ある日の夕食後、ルドガーが初めてそんなことを言い出した。
出かける? 森が危険なのに?
あなたは落ち着かなくなるが、シャツとネクタイ、淡色のトラウザーという小綺麗な服に着替え始めた彼を見て、自分も慌てて可愛らしいワンピースと靴をはく。
メイク道具がないのが残念だけど、どうせ夜で見えないだろうと思った。
あ、でも彼は夜目が異様に利くんだっけ。
そんな取り留めもないことを、ひとり考えていた。
ルドガーと小屋の外で待っていると、突然紫の光の粒が現れる。
その中に超然と佇んでいたのは長い銀髪の麗しい男性で、あのゲアト医師だ。
粘流体種で普段どろっとした液体生物だが、今日はあらかじめ人の姿になってくれていた。
「先生! どうしたんですか?」
「久しぶりだね、名無しさん。元気そうで安心したよ。顔色もだいぶ良くなった。私は今日君達を迎えに来たんだ。さあおいで」
手招きをされ、二人とも魔法で転移させられる。
隊長のセヴァさんのときみたいに、家に招かれるのだろうか?
だからルドガーもよそ行きの服なのかな。
あなたは非日常感にわくわくしながらついていった。
到着したのは、様々な植物が生い茂った中庭である。暗闇に照明が点在し、幻想的にライトアップされている。
真ん中には広い池があり、鴨に似た動物や空を飛び光る小さな生き物などがいた。
「わあ⋯⋯綺麗なとこだね⋯⋯こんなの初めて見たよ。ここって公園? 静かで安全そうだけど」
「ああ、安全だから心配しないでいい。ここは先生の家の庭だ。今日は俺が借りた」
「ええ! そうなの? すごいなぁ。連れてきてくれてありがとう、ルドガー。先生にもだね」
あなたは心から喜んでお礼を言う。
彼にこんなロマンチックな面があったとは驚きだ。
きっと自由に移動できないあなたのことを考えて、ギリギリ可能なことを実現してくれたのだろうと感激する。
ぐるりと見渡してみると、確かに後方に大きな洋館があった。あれが医師の家なのだろう。
そして一階の窓辺に、いつの間にかゲアト先生とこの間服をくれた孫娘の少女セアがいた。
「あ、手振ってくれてる!」
彼女が照れた様子で手をひらひらさせたため、あなたも笑みを浮かべて振り返した。
こんなところを見られて少し恥ずかしいけれど、彼らも自分達の状況を応援してくれてる気がして、勝手に嬉しくなった。
ルドガーは他にも色々準備をしてくれたようだ。
池畔の絶景の前に案内され、お菓子や飲み物が置かれた布を見つける。二人はそこでピクニックのように腰を下ろした。
「すごいすごい。こういうの大好きだよ、どうしちゃったのルドガー。今日何かあるの? もしかして流れ星?」
焼き菓子をほおばりながら、満面の笑みで尋ねる。
夜空には星々と魔界の赤い月が二つ並んでいる。
隣には真剣な顔立ちの彼が座りこむ。
最初森で凍えていた時からは、考えられない光景だ。
「いや、今日は流れ星じゃない。そのときもまた連れて来よう。今日は⋯⋯お前に贈り物があるんだ」
大柄な体を向けてきて、背後からあるものを取り出した。
あなたは一目で釘付けになる。
それは透明なガラス箱に入った、青い生け花であった。
形はバラのようだが、角度によって光沢が変わり、キラキラと輝いている。
花びらに星空が反射したようで、うっとりと見つめた。
「きれい⋯⋯このお花、私にくれるの?」
「そうだ。受け取ってくれるか」
「もちろん。ありがとうね」
両手に抱えて眺めていると、じわりと涙がにじんでくる。なぜ泣きたくなるのか分からないが、彼とお花という意外な組み合わせに、きっと苦労して手に入れてくれたのかもと想像出来たからだ。
「これ、どうしたの? 絶対その辺で売ってるやつじゃないよね」
「まあな。こことは違う森で手にいれた。毎日違う色になるんだぞ。お前は綺麗なものが好きだから、きっと楽しめると思ったんだ」
「⋯⋯素敵⋯⋯なんて素晴らしい贈り物なんだろう。每日眺めるね」
あなたは体を起こして、彼の頬にちゅっとキスをする。
初めての試みだったが、自然にわきでた気持ちだった。
彼は瞳を柔らかくし、あなたの頬に口づけを返す。そしてそのまま、唇にも重ねた。
また優しいキスだ。最近のルドガーは、まるで壊れ物を扱うかのように、より大切にあなたに触れていた。
「名無し。お前にもうひとつ伝えたいことがある」
「なあに?」
「⋯⋯俺の番になってくれないか? 俺の心からの願いだ」
ルドガーは眉を切なく寄せて、あなたに乞うように両手を握った。手の甲に唇をつけて、もう一度見つめてくる。
あなたは驚きのあまり、言葉が出てこない。
まさかそこまで彼が今日、準備しているとは思わなかったのだ。
しかし間を開けるのは彼を不安にさせると思い、こう言った。
「番って⋯⋯結婚、ってことだよね? つまり」
「そうだ。人間風に言うならな」
「⋯⋯結婚⋯⋯」
あなたはぐるぐると思考が回り出す。
自分はまだ若く、実感がない。何よりここでどう生きていくのかも分からない。
元の世界に帰ったりするのかどうかも。
そんな責任が一気に押し寄せてくる。
「駄目か⋯⋯?」
「ルドガー⋯⋯」
あなたは彼に体を寄せて、瞳を上向かせて見つめた。
いつもは鋭い金の瞳の中に、小さな自分が映る。
その瞬間、ずっとこうして欲しいと、そう願ってしまった。
「私、記憶がないんだよ? 本当はすごい悪い奴かもしれないよ。素性が分からないままで本当にいいの?」
「お前は悪いやつじゃない。俺はよく知っている。今ここにいるのが確かなお前なんだ」
「でも、でも⋯⋯そんな簡単に決めていいの。まだ出会って一カ月ぐらいだよ。番って、一生そばにいるんでしょう? 死ぬまでだよ。ルドガーはそれでいいの」
「それがいい。お前以外の女はいらない。お前だけが欲しい。俺は名無しのことが何よりも好きだ」
抱きしめられて、何もない自分が認められた安心と喜びに包まれていく。
あなたはぐすぐすと鼻をすすりながら、もう彼にすべて任せてもいいかもと思い始めていた。
それは生きていくための本能なのかもしれない。
でも、ルドガーになら、身を預けられると感じた。それに、これから彼をもっと笑顔にしたいとも思った。
「じゃあずっと私のこと守って。お願いね、ルドガー」
「ああ、任せろ。⋯⋯ではいいのか? 俺の番になるか」
あなたが頬をほんのり染めて頷くと、彼は爆発的な笑顔を広げた。
力強く抱きすくめられて、この時ばかりはあなたも全身で受け止める。
「嬉しいぞ、名無し⋯⋯!」
「うん、私も⋯⋯!」
オーケーしてからは、こちらも気分が高まってきて、あなたの小柄な体になついてくる男を懸命になだめた。
尻尾があったら振ってる姿が思い浮かぶほど、まるでほんとに獣みたいだと微笑む。
そう考えていると、ふと疑問が思い出されていった。
「あっ! 大変、ルドガー!」
「なっなんだ」
「私まだあなたの本当の姿見てないよ、いつ見せてくれるの? 見てないのに番って決めていいの?」
たたみかけると、彼は急に現実に引き戻されたように視線をずらしてくる。
「ああ⋯⋯それか。今日見たいのか? せっかく良い雰囲気なのに⋯⋯」
「どういうこと? 別にマイナスにならないでしょう? 気になるよ、早く早く」
あなたは好奇心に駆られて彼にせがんだ。
するとようやくルドガーは重い腰を上げる。
そしてなんと服を脱ぎだした。彼の逞しい肉体美があらわになり、目を見張る。
「ちょっ、なんで脱ぐの!」
「獣化したら服が破れるだろう。この服は気に入ってるんだ」
あまり乗り気じゃない様子で全裸になられ、あなたは家の人達に見られてないかと焦る。
「もしお前が気に入らなかったらどうする。破談か? そんな悲しいことを今日の俺に経験させる気か」
「や、やだなぁ。そんなことしないよ」
「⋯⋯だが、お前は怖がりだ。すごく心配になってきたぞ」
一転して繊細にこぼす彼を、あなたは鼓舞しようと努めた。
「大丈夫、もし怖かったとしても段々慣れるから。今までだってそうでしょう? ルドガーの温かさ知ってるし、どんな姿でも全部あなたなんだから」
「⋯⋯そうだな。わかった。お前を信じるとしよう。もし嫌われても、もう一度好きになってもらうさ」
最後は男らしくそう言い、彼は目の前で獣化した。あっという間のことだ。
その姿は――まるで想像とは違った。
池の畔に、腕を2人分広げても間に合わないほどの大きさの、神秘的な獣が四つ足で立っている。
身体は黒光りする濃い青色で、もらった花のようにきらめいていた。
ピンと立った獣耳は美しく風になびき、その後ろに黒い龍角みたいな角が波を描くように生えている。
体にまとう毛は長く、腹と足元も覆いそうなぐらいだ。
だが体つきは筋骨隆々で引き締まっていて、顔は獅子にも狼にも似て凛々しかった。
「あ⋯⋯ルドガー⋯⋯なの?」
「⋯⋯そうだ。どうだ? やはり、駄目か⋯⋯」
「かっわいいー!!」
あなたは感動に打ち震える体を我慢できずに、彼のもふもふした毛に飛びついた。
顔を埋めて体まで埋め、毛の中に入ってしまいそうになる。
「なっ、なにをする、名無し!」
「こんなに可愛くて格好いい姿なの、ずっと黙ってたの? 大きな動物じゃない、あぁ気持ちいい〜。しっぽもふわふわ!」
まるで動物園で特殊な巨大生物を目にしたかのように、あなたは彼に興奮しながらまとわりついた。
「可愛いだと⋯? そんなことは誰にも言われたことがないぞ。俺は一応、獣化した姿は皆から恐れられているんだ」
「そうなの? やっぱり強いんだもんね。でも全然怖くないよ、変身したとこ間近に見たのもあるかもしれないけど」
彼の金色の瞳をじっと覗きこむ。当たり前だが人間の時よりもっと大きくて、黒いまつ毛もバサバサ長い。
瞳孔は猫のような形だが、一瞬で魅せられるほど美しく吸い込まれそうだった。
「ねえ座ってみて。一緒に寝転びたいな」
「あ、ああ⋯⋯」
戸惑いながらも、獣から聞こえてきたいつもと同じ声に嬉しくなる。
あなたは脚を曲げて寝そべる彼の毛並みを背にし、夜空を見上げた。
「⋯⋯ねえルドガー。あなたはずっと、一人だったの?」
「そうだ⋯⋯軍人で、戦闘種族だからな。戦うことが生業だ」
「そっか⋯⋯。それで番を探してたの⋯?」
彼は黙った。だがやがて「そういうわけじゃない」と明かした。
獣ではあるが、なんとなく一人でいるのだろうと思って生きてきて、種族的にも他とつるまない性質をもつのが当たり前だったのだそうだ。
「本当に私でいいの? 私は異種族だよ」
「いいんだ。俺はお前がいい。種族も出自も関係ない」
あなたは感情がこみ上げてきて目をぎゅっとつむる。
寝返りを打って彼の顔を撫で上げた。
獣の彼でも愛せるんじゃないかという気持ちが、確かに生まれていく。
「私もあなたのことが好き。素のままのルドガーが好きだよ。これから大変かもしれないけど、一緒にいてね」
そうお願いすると、彼は心と連動するように瞳を揺らし、頷く。
割れた赤い舌で、あなたの頬をぺろりと撫でてきた。
「ひゃあっ」
「悪い。嬉しくて我慢出来なかった。⋯⋯俺達はずっと一緒だぞ。俺はもうお前のものだから、好きにするといい。お前への愛をこの胸に誓おう、名無し」
獣の姿でも深い愛情を見せてくれたルドガーは、あなたを慈しむ瞳でずっと見つめていた。
