巨体の人外に助けられて世話される話
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ネメニア・ヴェルガロンは齢1500歳を超える吸血族の女性だ。
始祖の血を引く最後の者で、ヴェルガロン公爵家の当主を務めたこともあった。
今は隠居した身であり、静かに過ごしている。
彼女はときおり、人間がいる地上へと降りた。
澄んだ空気は健康によくないが、自身の長命を嫌い、わざと毒を食らうような思いもあった。
もっとも、強靭な肉体と圧倒的な強さの前では、あまり意味のないことだったが。
「……あの娘、今日も熱心に動物の世話をしているな」
ここしばらく彼女は廃墟の村で、一人の人間を眺めていた。
5人の子供たちと生活する、過去のあなただ。
焼け跡のついた小屋には家畜がいて、一生懸命話しかけながら笑顔で育てている。
そんなとき、外から子どもが数人やってきた。
「名無しー! お勉強の時間だよー!」
「……あっ本当だ、もうそんな時間! 待って今行くから、準備しといてねー」
「「うん!」」
小さい子らが元気よく返事し、あなたも汗を拭いて微笑み立ち上がる。
動物を見て少しせつなげな表情に変わったが、意識をすっと戻し、子供たちのもとへ向かった。
その後は子供に勉強を教えて、夕食の準備をする。
ところどころ壊れた家の外には、耕した家庭菜園があった。
種類も数も多くはないが、そこから日々の分を採って、暮らしに活用している。
「いただきまーす! 今日もご飯が美味しいな~」
「本当? よかったぁ。皆で育てたお野菜のおかげだね」
木の食卓を子供たちと囲み、笑顔を絶やさずお喋りした。
片付けのあとは、皆を広い部屋のベッドにそれぞれ寝かしつけた。
それから掃除をしたり、裁縫をしたり、動物を見に行ったりする。
「はー。今日も星が綺麗だなぁ。……空って、広いなあ。私達って、小さい存在だなぁ」
柔らかい夜風に吹かれながら、外のベンチに座り、お茶を飲んで呟く。
台詞はもの侘しくても、あなたの心は寂しくはなかった。充実もしていた。
あなたは十七歳になったばかりの女の子で、孤児である。
最初は孤児院で育ったが、成長するにつれて出ていかなければならなくなり、そのあとはある村で住み込みの仕事をした。
だがその村が火事に見舞われ、多くの家が焼けてしまい、途方にくれる。
大きくもない村だったが、身よりをなくした子供たちをあなたは見つけた。
他の街まで歩き、里親を探そうとしたけれど、どこも余裕がなく断られた。
「ごめんね。うちでは無理だよ。……あんたもさっさとどこかに押し付けて、自分の人生歩んだほうがいいよ、まだ若いんだからさ」
ある女性にそう言われ、外で待っている子供たちのことを思う。
あなたはそれから、焼けた村に残り、自分達で生活を始めることにした。
お金は少しあったため、必要最低限のものを買い、他に拾ったものも使った。
でも、大人には頼ることができない。
だから自分で数年かけて家畜を増やし、植物を育て、彼らの世話をした。
あなたは夜空に浮かぶ月と、月明かりに照らされた群雲の美しさを満喫した。
そして一瞬、冷たい顔になる。
「よし、やろう」
そう言って準備をする。
割烹着に着替え、手袋をし、目だけが出る状態で家畜小屋とは別の小屋に現れた。
愛情をかけながらも、他の家畜とは離して、しばらく一匹だけにして育てた動物が寝ている。
それを、あなたは一人で手にかけた。
「……っ」
すべてを受け止め、その行為を行う。
言葉をかけることもせず、自分と子供たちが生きていくための行いを、済ませる。
もちろん辛かった。
最初の頃は、間違っているとも苦悩した。
でも、それが生きるということなのだと、あなたはいつしか自分自身で学んでいた。
そんな姿を、何週間にもわたって眺めている者がいた。
ネメニア・ヴェルガロンである。
彼女は透明になり、遠くから気配を消してあなたを見ていた。
家畜に愛情をかけるあなたと、それを迷いなく手にかける姿に、関心がわいていたのだ。
そんなある日、近くの森から火が出た。
山火事だ。
村に近づいてくるのを見ても、女の冷たく赤い瞳は変わらない。
一度目をつけた人間たちの様子を、ただ観察していた。
「……なっ、なに? 煙……? 皆、起きて!」
あなたは夜の寝室で異変に気付き、子供たちを起こす。
また火事なのか。
怯えた瞳で、皆は家の外に出た。
泣きだす子もいれば、わけもわからずぼうっとしている幼い子もいる。
「早く逃げて! あっちに!」
一番年上の子と一緒に、皆を村の外へ避難させる。
出来るだけ遠くに逃げ、この先の別の村に向かうように告げた。
「名無し、どこに行くの!」
「先に行って、すぐに追うから!」
あなたは皆が去ったのを確認すると、動物たちの小屋に戻った。
扉を開けて中に入り、柵をひとつずつ開けて逃がそうとする。
「さあ早く、出て!」
煙が充満する中、一心不乱だった。
そうして作業をしているうちに、あなたは苦しそうにせき込み、その場に倒れ伏せた。
動物たちは駆けて出て行く。
ひとり残され、顔や手足にすすがつき、意識を失っていく。
そこに、黒いドレスに毛皮を着た女が現れた。
女には、空洞のような瞳があった。
しかし、感情を少し動かされたように、小さな少女を見下ろした。
「⋯⋯なぜこんなことをした? 早く逃げればいいものを」
そう言いながら、女はあなたを抱き上げ、外に出る。
そして、村の外に迫った火のなかへ入っていった。
火は女の体を避けるように道を開き、女はやがてその場から、こつ然と姿を消した。
始祖の血を引く最後の者で、ヴェルガロン公爵家の当主を務めたこともあった。
今は隠居した身であり、静かに過ごしている。
彼女はときおり、人間がいる地上へと降りた。
澄んだ空気は健康によくないが、自身の長命を嫌い、わざと毒を食らうような思いもあった。
もっとも、強靭な肉体と圧倒的な強さの前では、あまり意味のないことだったが。
「……あの娘、今日も熱心に動物の世話をしているな」
ここしばらく彼女は廃墟の村で、一人の人間を眺めていた。
5人の子供たちと生活する、過去のあなただ。
焼け跡のついた小屋には家畜がいて、一生懸命話しかけながら笑顔で育てている。
そんなとき、外から子どもが数人やってきた。
「名無しー! お勉強の時間だよー!」
「……あっ本当だ、もうそんな時間! 待って今行くから、準備しといてねー」
「「うん!」」
小さい子らが元気よく返事し、あなたも汗を拭いて微笑み立ち上がる。
動物を見て少しせつなげな表情に変わったが、意識をすっと戻し、子供たちのもとへ向かった。
その後は子供に勉強を教えて、夕食の準備をする。
ところどころ壊れた家の外には、耕した家庭菜園があった。
種類も数も多くはないが、そこから日々の分を採って、暮らしに活用している。
「いただきまーす! 今日もご飯が美味しいな~」
「本当? よかったぁ。皆で育てたお野菜のおかげだね」
木の食卓を子供たちと囲み、笑顔を絶やさずお喋りした。
片付けのあとは、皆を広い部屋のベッドにそれぞれ寝かしつけた。
それから掃除をしたり、裁縫をしたり、動物を見に行ったりする。
「はー。今日も星が綺麗だなぁ。……空って、広いなあ。私達って、小さい存在だなぁ」
柔らかい夜風に吹かれながら、外のベンチに座り、お茶を飲んで呟く。
台詞はもの侘しくても、あなたの心は寂しくはなかった。充実もしていた。
あなたは十七歳になったばかりの女の子で、孤児である。
最初は孤児院で育ったが、成長するにつれて出ていかなければならなくなり、そのあとはある村で住み込みの仕事をした。
だがその村が火事に見舞われ、多くの家が焼けてしまい、途方にくれる。
大きくもない村だったが、身よりをなくした子供たちをあなたは見つけた。
他の街まで歩き、里親を探そうとしたけれど、どこも余裕がなく断られた。
「ごめんね。うちでは無理だよ。……あんたもさっさとどこかに押し付けて、自分の人生歩んだほうがいいよ、まだ若いんだからさ」
ある女性にそう言われ、外で待っている子供たちのことを思う。
あなたはそれから、焼けた村に残り、自分達で生活を始めることにした。
お金は少しあったため、必要最低限のものを買い、他に拾ったものも使った。
でも、大人には頼ることができない。
だから自分で数年かけて家畜を増やし、植物を育て、彼らの世話をした。
あなたは夜空に浮かぶ月と、月明かりに照らされた群雲の美しさを満喫した。
そして一瞬、冷たい顔になる。
「よし、やろう」
そう言って準備をする。
割烹着に着替え、手袋をし、目だけが出る状態で家畜小屋とは別の小屋に現れた。
愛情をかけながらも、他の家畜とは離して、しばらく一匹だけにして育てた動物が寝ている。
それを、あなたは一人で手にかけた。
「……っ」
すべてを受け止め、その行為を行う。
言葉をかけることもせず、自分と子供たちが生きていくための行いを、済ませる。
もちろん辛かった。
最初の頃は、間違っているとも苦悩した。
でも、それが生きるということなのだと、あなたはいつしか自分自身で学んでいた。
そんな姿を、何週間にもわたって眺めている者がいた。
ネメニア・ヴェルガロンである。
彼女は透明になり、遠くから気配を消してあなたを見ていた。
家畜に愛情をかけるあなたと、それを迷いなく手にかける姿に、関心がわいていたのだ。
そんなある日、近くの森から火が出た。
山火事だ。
村に近づいてくるのを見ても、女の冷たく赤い瞳は変わらない。
一度目をつけた人間たちの様子を、ただ観察していた。
「……なっ、なに? 煙……? 皆、起きて!」
あなたは夜の寝室で異変に気付き、子供たちを起こす。
また火事なのか。
怯えた瞳で、皆は家の外に出た。
泣きだす子もいれば、わけもわからずぼうっとしている幼い子もいる。
「早く逃げて! あっちに!」
一番年上の子と一緒に、皆を村の外へ避難させる。
出来るだけ遠くに逃げ、この先の別の村に向かうように告げた。
「名無し、どこに行くの!」
「先に行って、すぐに追うから!」
あなたは皆が去ったのを確認すると、動物たちの小屋に戻った。
扉を開けて中に入り、柵をひとつずつ開けて逃がそうとする。
「さあ早く、出て!」
煙が充満する中、一心不乱だった。
そうして作業をしているうちに、あなたは苦しそうにせき込み、その場に倒れ伏せた。
動物たちは駆けて出て行く。
ひとり残され、顔や手足にすすがつき、意識を失っていく。
そこに、黒いドレスに毛皮を着た女が現れた。
女には、空洞のような瞳があった。
しかし、感情を少し動かされたように、小さな少女を見下ろした。
「⋯⋯なぜこんなことをした? 早く逃げればいいものを」
そう言いながら、女はあなたを抱き上げ、外に出る。
そして、村の外に迫った火のなかへ入っていった。
火は女の体を避けるように道を開き、女はやがてその場から、こつ然と姿を消した。
