巨体の人外に助けられて世話される話
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転移した先は、闇夜に浮かぶ古城だった。
ルドガーが慎重に瞳を開けると、女の子らしい広い部屋にいた。
開け放った窓に、薄ピンク色のカーテンがなびいている。
中央には黒い天蓋つきのベッドがあり、守護者はそこにあなたを寝かせた。
ルドガーは負傷した体であなたを見下ろし、頬を指でなぞる。
顔つきは焦燥と不安に支配されていた。
「服を着ろ」
守護者の女は彼に男物の服を投げる。
自らは冷たい暖炉に向かい、息を吹きかけるように火を灯した。
それから近くの椅子にゆったりと座り、ルドガーが座るまで見ている。
ルドガーは険しい眼差しを外さないまま従った。
すると部屋の外から、男の従者が入って来た。
森で会った金髪オールバックと同じ、銀の刺繍入りの黒いローブをまとっている。
「やめろ…ッ」
「手当をさせろ。名無しのためだ」
その名を出されると、悔しくても受け入れるしかなかった。
黒ドレスの守護者は長い脚を組み、冷気をまとう表情で佇んでいる。
その赤い瞳と心を感じない気配から、さっきの男と同族だと推測できた。
治療が済み、従者が退席する。
ルドガーはじりじりと距離を保ち、口を開いた。
「あの男はなんだ。どうしてお前にひれ伏した」
「……ああ。あいつはヴェルガロン家、現当主の側近だ。お前達を侵入者だと思ったのだろう」
ルドガーは激しく睨みつける。
「……それだけじゃない、俺を知ってるような素振りで、試すように獣と戦わせた……あいつは施設の関係者じゃないのか」
「そうさ。名はダーリス。お前がいた保護育成施設の管理者だ」
憎しみの感情が、淡々とした女にぶつけられる。
「お前の正体はなんだ。名無しをどうするつもりだ……ッ」
女の瞳が一瞬伏せられ、そのまま天蓋の奥へと向けられた。
「そう敵視するな。この子を傷つける意図はない。……私はただ、この一族の隠居した身なのだよ」
ふっと諦めに似た笑みで告げ、ルドガーを捉えた。
もてあそぶような瞳は居心地を悪くさせる。威圧感は影を潜めていたが、まるで主人のゼイランのように底知れなさを漂わせていた。
「ルドガーよ。この子の記憶を消してほしいか」
そう問われたとき、ルドガーの心臓が鷲掴まれ、苦痛が走った。
守護者は彼の弱点を分かったつもりで、かつ純粋な問いだった。
「いい、そんなことは望んでいない。それはあいつが生きた大事な過去だ」
膝を両手で握り、頭を振って吐きだす。
「ほう? その過去が恐ろしくないのか。記憶を取り戻せば、お前との日々もなくなるかもしれんぞ」
女は非情な揺さぶりをしてくる。
「そうしたら俺は⋯⋯もう一度名無しに好きになってもらえるように、頑張る。何度でも、俺は名無しを手に入れるために、やるしかないんだ」
ルドガーの焦がれる瞳は、眠るあなたを映した。
「俺はずっと、小屋に名無しを隠していた。守りたかったからだが、一番は自分だけのものにしておきたい気持ちが強かった」
苦しげに言い、手に力がこめられる。
「名無しは色んなものを見つけた。あんたのことも、仲間も、魔術だって。俺は正直、寂しくなった。怖くなった。それでも名無しは、そんなオスのくせに情けない俺の姿を見ても、愛してくれるんだ。俺のどんな面でも良いと言ってくれる」
ルドガーの瞳は、優しく和らぐ。
これまでの日々を思い出すように。
それはすべて、彼が初めて手にした宝物だった。
「だから俺も、名無しのすべてを受け止める。どんなあいつでも、俺の最愛の女だ。一生大切にすると、誓っているんだ!」
守護者は納得した顔つきで、静かに聞いていた。
忘れていた感情を、噛みしめるように。
そして、何かに気づいたように、彼女はベッドを見やった。
「⋯⋯ルドガー?」
可憐な音色が、空間に小さく響く。
「起きたのかっ!?」
ルドガーはすぐさま天蓋の中に入った。
起き上がるあなたを見つけると、しっかりと抱き合う。
「どこ⋯⋯? 今、あなたの声が聞こえたの」
目をこすったあと、ルドガーの姿を見て安心する。
「⋯⋯ありがとう。今すごい、熱い告白されちゃったみたい」
目の前で、照れた笑顔が咲いた。
ルドガーは感極まり、壊れるほどに抱きしめる。
「⋯⋯んっ? 待って、なんで私ベッドにいるのっ? ⋯⋯あの男は!? ルドガー、怪我は!? 大丈夫なの!!」
動転してルドガーの服を確かめるが、それは彼が持っている服ではなかった。
「俺は大丈夫だ。守護者の仲間が、治してくれた」
「⋯⋯はっ?」
「名無し。ここは守護者の城だ。俺達は⋯⋯助けられたんだ」
眉を寄せ、あなたの腕をぎゅっと握って告げられる。
恐る恐る、天蓋の外を見やった。
透けた黒いカーテンの裏に、椅子に座る人影がある。
あなたは目を見開きながらも、勝手に身体が動きだそうとする。
心臓は鳴っていて、色んな感情に埋もれそうだが、まずは好奇心だった。
「⋯⋯守護者さまっ!? いるんですか!」
「⋯⋯ああ。いるぞ。⋯⋯お前は、直だと声がけたたましいな」
初めて脳内ではなくリアルに彼女の声が響く。
深みはあるが思ったより柔らかく、女性らしい声だ。
あなたはベッドから降りようとし、ルドガーを振り返る。
なぜ今こんなことになってるか分からないが、彼がそばにいてくれて、本当によかった。
「る、ルドガー」
「ああ。俺もここにいる。大丈夫だぞ。見てこい。⋯⋯とんでもなそうな女だ」
くっと吐き出した彼に驚くものの、あなたはドキドキを抑えて天蓋を開けた。
そして待ちに待った、あの守護者と対面する。
「⋯⋯あっ⋯⋯」
「どうした⋯⋯予想外か?」
目の前にいたのは、漆黒の超ロングヘアで、胸元が目のやり場に困る黒ドレスをきた美女だった。
「すっ⋯⋯すっごい美人!! 守護者さま⋯⋯っ!!」
あなたが素直な感想を漏らすと、彼女は一瞬肩がずり落ちたような素振りをしたが、ゆっくり立ち上がった。
その背の高さにびっくりする。
ルドガーやゼイランほどではないが、見上げるほどの抜群のスタイルだ。
「ひえ~っどこが化け物なんですか? ひどいですよセロさんてば。⋯⋯綺麗だし、思ったより優しそう! いい匂いもする〜」
あなたが彼女のまわりではしゃいでると、守護者は呆れた顔をした。
「お前⋯⋯厳格な雰囲気をぶち壊しているぞ。⋯⋯感動の再会だ、抱擁ぐらいしないか」
彼女は厳しい台詞のわりに、あなたに手を広げ、懐に招いてくれた。
いいのかと一瞬緊張したが、遠慮なくハグをする。
体温は高くないけれど、不思議と心の中が安らぎ、温もりが広がっていった。
そして振り向いて、立ったまま所在のなさそうなルドガーを呼んだ。
「ルドガー、見てみて! 守護者さま、全然怖くないよ! あなたもこっち来てよ!」
「⋯⋯あ、ああ⋯⋯」
近くに来たら、やはり彼のほうが全然大きかった。
ルドガーの目つきはまだ疑わしいが、あなたを間にすると、空気が崩れるから不思議だ。
「名無し⋯⋯お前の警戒心のなさが、俺は心配になる。⋯⋯この女が、怖くないのか? 相当強い奴だ」
そして彼は続けて、彼女があの戦っていた金髪オールバックを従えさせていたことを告げた。
「ど、どういうことですか守護者さま。だってあの人、ルドガーがいた施設の人なんじゃないんですか?」
予想をぶつけると、彼女は認めた。
ますます分からない。
そこでさっきルドガーが聞いたという話を教えられる。
「ヴェルガロン公爵家⋯⋯師匠が言ってた⋯口にするのも恐ろしいという、格上の存在、ですよね⋯? あなたがほんとにそんな家の偉い人なんですか」
守護者はあっさりと頷いた。
そして彼女にとっては、特別に誇ることでもなく、興味のなさそうな事柄のようだ。
「守護者。さっきあんたは、名無しと再会したって言ったな。⋯⋯やっぱり、あんたがこいつを人間界から連れてきたのか?」
核心に対し、あなたも喉を1回飲み込む。
「そうだ⋯⋯私がお前を魔界に連れてきた。⋯⋯さあ、昔話をしようじゃないか。⋯⋯といっても、私にとっては、つい最近のことだがな」
守護者は懐かしげに笑み、若き二人に対して語り始めるつもりだった。
ルドガーが慎重に瞳を開けると、女の子らしい広い部屋にいた。
開け放った窓に、薄ピンク色のカーテンがなびいている。
中央には黒い天蓋つきのベッドがあり、守護者はそこにあなたを寝かせた。
ルドガーは負傷した体であなたを見下ろし、頬を指でなぞる。
顔つきは焦燥と不安に支配されていた。
「服を着ろ」
守護者の女は彼に男物の服を投げる。
自らは冷たい暖炉に向かい、息を吹きかけるように火を灯した。
それから近くの椅子にゆったりと座り、ルドガーが座るまで見ている。
ルドガーは険しい眼差しを外さないまま従った。
すると部屋の外から、男の従者が入って来た。
森で会った金髪オールバックと同じ、銀の刺繍入りの黒いローブをまとっている。
「やめろ…ッ」
「手当をさせろ。名無しのためだ」
その名を出されると、悔しくても受け入れるしかなかった。
黒ドレスの守護者は長い脚を組み、冷気をまとう表情で佇んでいる。
その赤い瞳と心を感じない気配から、さっきの男と同族だと推測できた。
治療が済み、従者が退席する。
ルドガーはじりじりと距離を保ち、口を開いた。
「あの男はなんだ。どうしてお前にひれ伏した」
「……ああ。あいつはヴェルガロン家、現当主の側近だ。お前達を侵入者だと思ったのだろう」
ルドガーは激しく睨みつける。
「……それだけじゃない、俺を知ってるような素振りで、試すように獣と戦わせた……あいつは施設の関係者じゃないのか」
「そうさ。名はダーリス。お前がいた保護育成施設の管理者だ」
憎しみの感情が、淡々とした女にぶつけられる。
「お前の正体はなんだ。名無しをどうするつもりだ……ッ」
女の瞳が一瞬伏せられ、そのまま天蓋の奥へと向けられた。
「そう敵視するな。この子を傷つける意図はない。……私はただ、この一族の隠居した身なのだよ」
ふっと諦めに似た笑みで告げ、ルドガーを捉えた。
もてあそぶような瞳は居心地を悪くさせる。威圧感は影を潜めていたが、まるで主人のゼイランのように底知れなさを漂わせていた。
「ルドガーよ。この子の記憶を消してほしいか」
そう問われたとき、ルドガーの心臓が鷲掴まれ、苦痛が走った。
守護者は彼の弱点を分かったつもりで、かつ純粋な問いだった。
「いい、そんなことは望んでいない。それはあいつが生きた大事な過去だ」
膝を両手で握り、頭を振って吐きだす。
「ほう? その過去が恐ろしくないのか。記憶を取り戻せば、お前との日々もなくなるかもしれんぞ」
女は非情な揺さぶりをしてくる。
「そうしたら俺は⋯⋯もう一度名無しに好きになってもらえるように、頑張る。何度でも、俺は名無しを手に入れるために、やるしかないんだ」
ルドガーの焦がれる瞳は、眠るあなたを映した。
「俺はずっと、小屋に名無しを隠していた。守りたかったからだが、一番は自分だけのものにしておきたい気持ちが強かった」
苦しげに言い、手に力がこめられる。
「名無しは色んなものを見つけた。あんたのことも、仲間も、魔術だって。俺は正直、寂しくなった。怖くなった。それでも名無しは、そんなオスのくせに情けない俺の姿を見ても、愛してくれるんだ。俺のどんな面でも良いと言ってくれる」
ルドガーの瞳は、優しく和らぐ。
これまでの日々を思い出すように。
それはすべて、彼が初めて手にした宝物だった。
「だから俺も、名無しのすべてを受け止める。どんなあいつでも、俺の最愛の女だ。一生大切にすると、誓っているんだ!」
守護者は納得した顔つきで、静かに聞いていた。
忘れていた感情を、噛みしめるように。
そして、何かに気づいたように、彼女はベッドを見やった。
「⋯⋯ルドガー?」
可憐な音色が、空間に小さく響く。
「起きたのかっ!?」
ルドガーはすぐさま天蓋の中に入った。
起き上がるあなたを見つけると、しっかりと抱き合う。
「どこ⋯⋯? 今、あなたの声が聞こえたの」
目をこすったあと、ルドガーの姿を見て安心する。
「⋯⋯ありがとう。今すごい、熱い告白されちゃったみたい」
目の前で、照れた笑顔が咲いた。
ルドガーは感極まり、壊れるほどに抱きしめる。
「⋯⋯んっ? 待って、なんで私ベッドにいるのっ? ⋯⋯あの男は!? ルドガー、怪我は!? 大丈夫なの!!」
動転してルドガーの服を確かめるが、それは彼が持っている服ではなかった。
「俺は大丈夫だ。守護者の仲間が、治してくれた」
「⋯⋯はっ?」
「名無し。ここは守護者の城だ。俺達は⋯⋯助けられたんだ」
眉を寄せ、あなたの腕をぎゅっと握って告げられる。
恐る恐る、天蓋の外を見やった。
透けた黒いカーテンの裏に、椅子に座る人影がある。
あなたは目を見開きながらも、勝手に身体が動きだそうとする。
心臓は鳴っていて、色んな感情に埋もれそうだが、まずは好奇心だった。
「⋯⋯守護者さまっ!? いるんですか!」
「⋯⋯ああ。いるぞ。⋯⋯お前は、直だと声がけたたましいな」
初めて脳内ではなくリアルに彼女の声が響く。
深みはあるが思ったより柔らかく、女性らしい声だ。
あなたはベッドから降りようとし、ルドガーを振り返る。
なぜ今こんなことになってるか分からないが、彼がそばにいてくれて、本当によかった。
「る、ルドガー」
「ああ。俺もここにいる。大丈夫だぞ。見てこい。⋯⋯とんでもなそうな女だ」
くっと吐き出した彼に驚くものの、あなたはドキドキを抑えて天蓋を開けた。
そして待ちに待った、あの守護者と対面する。
「⋯⋯あっ⋯⋯」
「どうした⋯⋯予想外か?」
目の前にいたのは、漆黒の超ロングヘアで、胸元が目のやり場に困る黒ドレスをきた美女だった。
「すっ⋯⋯すっごい美人!! 守護者さま⋯⋯っ!!」
あなたが素直な感想を漏らすと、彼女は一瞬肩がずり落ちたような素振りをしたが、ゆっくり立ち上がった。
その背の高さにびっくりする。
ルドガーやゼイランほどではないが、見上げるほどの抜群のスタイルだ。
「ひえ~っどこが化け物なんですか? ひどいですよセロさんてば。⋯⋯綺麗だし、思ったより優しそう! いい匂いもする〜」
あなたが彼女のまわりではしゃいでると、守護者は呆れた顔をした。
「お前⋯⋯厳格な雰囲気をぶち壊しているぞ。⋯⋯感動の再会だ、抱擁ぐらいしないか」
彼女は厳しい台詞のわりに、あなたに手を広げ、懐に招いてくれた。
いいのかと一瞬緊張したが、遠慮なくハグをする。
体温は高くないけれど、不思議と心の中が安らぎ、温もりが広がっていった。
そして振り向いて、立ったまま所在のなさそうなルドガーを呼んだ。
「ルドガー、見てみて! 守護者さま、全然怖くないよ! あなたもこっち来てよ!」
「⋯⋯あ、ああ⋯⋯」
近くに来たら、やはり彼のほうが全然大きかった。
ルドガーの目つきはまだ疑わしいが、あなたを間にすると、空気が崩れるから不思議だ。
「名無し⋯⋯お前の警戒心のなさが、俺は心配になる。⋯⋯この女が、怖くないのか? 相当強い奴だ」
そして彼は続けて、彼女があの戦っていた金髪オールバックを従えさせていたことを告げた。
「ど、どういうことですか守護者さま。だってあの人、ルドガーがいた施設の人なんじゃないんですか?」
予想をぶつけると、彼女は認めた。
ますます分からない。
そこでさっきルドガーが聞いたという話を教えられる。
「ヴェルガロン公爵家⋯⋯師匠が言ってた⋯口にするのも恐ろしいという、格上の存在、ですよね⋯? あなたがほんとにそんな家の偉い人なんですか」
守護者はあっさりと頷いた。
そして彼女にとっては、特別に誇ることでもなく、興味のなさそうな事柄のようだ。
「守護者。さっきあんたは、名無しと再会したって言ったな。⋯⋯やっぱり、あんたがこいつを人間界から連れてきたのか?」
核心に対し、あなたも喉を1回飲み込む。
「そうだ⋯⋯私がお前を魔界に連れてきた。⋯⋯さあ、昔話をしようじゃないか。⋯⋯といっても、私にとっては、つい最近のことだがな」
守護者は懐かしげに笑み、若き二人に対して語り始めるつもりだった。
