巨体の人外に助けられて世話される話
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森に現れた金髪オールバックの男が、こちらへ歩みを進めてくる。
黒く長いローブには銀の刺繍が入り、男の表情は凍えるように閉ざされていた。
「……こっ、来ないで!」
あなたは張り詰めた空気が恐ろしくなり、ローブから短剣を取り出して身構えた。
ルドガーが焦った目つきを向け、魔術師らしき男もあなたを視界に入れる。
赤い瞳に捕らえられた瞬間、あなたの身の回りを包み込むように、赤い膜のドームが形成されていく。
一人閉じ込められたあなたは混乱に陥り、両手で激しく叩いた。
「なにするのよ! 出して!」
「……名無し!!」
ルドガーは長剣を握ったまま駆けよろうとするが、その巨体が瞬間的に動きを封じられた。
見えない拘束魔法を全身に受け、体躯が硬直する。
「ウ、グ……ッ」
うめき声を上げながらも、あなたから目を離さない。
「……なぜ人間を連れている?」
男はルドガーには目もくれず、独り言のように呟きながらあなたへ近づき、見下ろす。
まるで研究対象でも見るかのように、不気味に据わった赤い瞳で探ってきた。
「や、めろ……ッ」
ルドガーのこめかみに血管が浮かび、怒りの滲んだ形相で男の行動を追う。
すると金髪オールバックの男は、大柄な体を振り向かせた。
「ふむ。……彼女に執着しているのか。どれ……」
前方に手をかざすと、森の景色が瞬く間に変わった。
木々は消え、緑が揺らめく平原が広がっていく。
空間魔法で別空間を作り出した男は、そのまま両手を組み合わせて詠唱を始めた。
するとルドガーの前に、黒く大きな召喚獣が現れた。
地獄の番犬のような凶暴な顔つきだ。
大口の牙からは涎が滴り、禍々しい姿で咆哮を上げている。
獣はかろうじて見えない首輪に引っ張られていて、今にもルドガーに襲いかかりそうだった。
「やめてえ!! なにするの! 離してよ、ここから出して、……ルドガーっ!!」
あなたは思いきり叫ぶが、声がくぐもって外には届かない。
男はそれを無視し、標的を定めていた。
「さあ。お前の力を見せてみろ。どれほど強くなった?」
淡々と言うと、召喚獣を解き放つ。
同時にルドガーの拘束も解け、両者は戦わざるを得なくなった。
「くッ……貴様は誰だ、なぜこんなことをする!」
ルドガーは二本の長剣を構え、獣を殺しにかかる。
金髪の魔術師は、それをただ冷静に眺めていた。
そして自らはあなたの近くに佇み、直立したまま動かない。
敵の猛攻に耐え、高く跳躍したルドガーは、獣の首根っこを羽交い絞めにして剣を突き刺す。
そして召喚獣の息の根を止めた。
血しぶきを浴びた彼は浅く呼吸をしながら、男に向かって歩いてくる。
「名無しを離せ……名無しは俺の番だ!!」
男は片方の眉を怪訝そうに上げ、口を開く。
「番? 人間と交わっては、強い獣は生まれないぞ」
「黙れ……俺達の間に余計な口を挟むなッ!」
ルドガーの怒号が響く。
男はそれを聞くと、新たな獣を召喚した。
今度はさらに巨大で、邪悪な煙を全身から吹き出している。
あなたはそれを見て震え上がった。
魔術師は、なぜこんなことをするのか。
獣のルドガーのことを知っている口ぶりで、どんどん強敵を出現させている。
召喚獣は男の魔法によって強化され、全身に魔法陣の光線が張り巡らされていた。
赤くほとばしる目つきからして、普通の魔獣とは一線を画している。
「これは人化では厳しいだろう。獣化しろ」
「……うるさい……ッ! 俺に命令するな……ッッ!!」
ルドガーは青く気高い獣の姿に変化し、空間を突き破るような咆哮を上げる。
これを倒さなければ、奴の戦力を削らなければ、あなたを奪われる。
彼の闘争心と恐怖心が、獣のルドガーの全身を支配する。
そして、猛突進していった。
男はルドガーの獣化した姿を見て、初めて表情をわずかに変えた。
波打つ黒い角に、獰猛な表情。
見開かれた男の赤い瞳は、それらに引きつけられていた。
「ほう。いい動きだ。やはり……あの公爵は良い腕を持っているな」
男は満足そうに呟き、戦いを眺めていた。
あなたはそれを呆然と見ている。
獣をいたぶっても何とも思わない、その魔術師の姿から、あることを連想した。
「……あなた、ルドガーのことを知っているの? ……もしかして、彼がいた施設の人……?」
震える声で問うと、男はこちらを見やる。
人を人とも思わなそうな冷酷な目つきに、鼓動が音を立てた。
「そうだが。君は何か特別なのか? 何がそんなに、あの獣を惹きつけている?」
逆に問われ、赤い瞳から逸らせないでいると、あなたは突然その場に崩れ落ちた。
意識がなくなり、ピンクのローブがぱたりと地面に倒れる。
その瞬間を、獣の猛攻を受けていたルドガーが直視した。
「あ…………名無しッ!」
彼の叫び声が、平原に鳴り響く。
ルドガーは同時に召喚獣の攻撃を食らい、かばった腕が血で裂けた。
流血し、そのまま腹部も大きな爪で切りつけられる。
「グッ……!」
防御の姿勢で受け止めようとしたが、彼の体は地面に叩きつけられた。
「……ふ。何を油断しているんだ。本気でやれ」
上から諭すように告げると、魔術師は意識のないあなたを抱き上げ、その場から離れようとした。
ルドガーはあなたを失う恐怖から、戦意が徐々に揺らいでいく。
それでも地面から起き上がり、召喚獣の攻撃を再び片腕で受け止める。流血は止まらない。
彼の血に濡れた眼差しは、遠ざかるあなたから逸らせなかった。
「名無し、やめろ、名無し……ッ」
ルドガーの獣化がゆっくりと解除され、人の姿に変わっていく。
金髪オールバックの男が背中を見せ、姿を消そうとした、その瞬間――。
空間魔法に異変が起きた。
その場を覆っていた巨大な召喚獣が、時を止められたかのように、一瞬で灰になる。
そして、そのまま消失した。
黒い風が吹き、魔術師はすぐに宙を見上げた。
緑の平原が、色褪せるようにさらさらと崩れていく。
「…………っ!」
そして再び森の風景に戻されたとき、魔術師の男はその場に膝をついた。
あなたを両腕に抱えたまま、正面を見つめる瞳は大きく見開かれている。
声を発することもできないようだ。
その森が――通称、赤い森が偉大な影を祝福しているのを、初めて肌で感じ取った。
ぞわり、と肌を無数のミミズが這うような感覚がした。
頭ごと乗っ取られたように、魔術師の思考が支配されていく。
「……その者を離せ」
女の声が、遠くからした。
森の奥から響く声に、金髪オールバックの男は、かすかな力であなたを地面に置く。
すると体の強張りが解け、魔術師はそのまま視線を落としてひざまずいた。
「お前は行け」
「⋯⋯はっ。失礼いたしました。閣下」
男の表情は硬く沈んでいる。
あなたにも、現れた存在にも、そして痛めつけたルドガーにも目をくれず、その場から姿を消した。
ルドガーは四肢から血を流したまま、あなたに近寄ろうとする。
「……名無し……」
彼は目から光を半分失い、力を振り絞ってあなたを求めた。
だが、その前に大人の女が現れた。
真っ白な肌に、赤い唇。
赤い瞳は大きく、目鼻立ちは恐ろしいほどに整っている。
黒くまっすぐな艶めく黒髪は、黒のヒールの足元まで長い。
胸元が大胆に開いた黒ドレスをまとい、長い脚でゆっくりと歩いてくる。
「…………っ」
ルドガーは、女がまとう冷たさと底知れぬ威圧感に、身がしびれるような感覚を覚えた。
彼女はあなたを切なげに見下ろしたあと、そばにしゃがみ込む。
そして、あなたを抱き上げた。
「やめろっ……」
ルドガーは、その場に立ち上がろうと力を入れる。
呼吸は荒く、片脚を引きずっていた。
女の赤い瞳は、彼のこともまた、思案するように眺めた。
「お前が……守護者なのか……?」
そう問われて、女は間を置いたあと、「そうだ」と告げた。
ルドガーの金の瞳が揺れ動き、力なく手を伸ばす。
「頼む、名無しを奪わないでくれ。……俺から、奪わないでくれ……! ……頼む……っ」
彼がそんなふうに乞う姿は、初めてだった。
自分から、離れていく。
ずっと抱いていた恐ろしいイメージが、今こそ現実になるような気がした。
だが守護者は、吐息のようなため息を吐く。
胸の前のあなたをじっと見下ろし、こう言った。
「私がお前達を、引き離すはずがないだろう。お前も来るがいい」
そう言って守護者は、皆を同時に転移させた。
黒く長いローブには銀の刺繍が入り、男の表情は凍えるように閉ざされていた。
「……こっ、来ないで!」
あなたは張り詰めた空気が恐ろしくなり、ローブから短剣を取り出して身構えた。
ルドガーが焦った目つきを向け、魔術師らしき男もあなたを視界に入れる。
赤い瞳に捕らえられた瞬間、あなたの身の回りを包み込むように、赤い膜のドームが形成されていく。
一人閉じ込められたあなたは混乱に陥り、両手で激しく叩いた。
「なにするのよ! 出して!」
「……名無し!!」
ルドガーは長剣を握ったまま駆けよろうとするが、その巨体が瞬間的に動きを封じられた。
見えない拘束魔法を全身に受け、体躯が硬直する。
「ウ、グ……ッ」
うめき声を上げながらも、あなたから目を離さない。
「……なぜ人間を連れている?」
男はルドガーには目もくれず、独り言のように呟きながらあなたへ近づき、見下ろす。
まるで研究対象でも見るかのように、不気味に据わった赤い瞳で探ってきた。
「や、めろ……ッ」
ルドガーのこめかみに血管が浮かび、怒りの滲んだ形相で男の行動を追う。
すると金髪オールバックの男は、大柄な体を振り向かせた。
「ふむ。……彼女に執着しているのか。どれ……」
前方に手をかざすと、森の景色が瞬く間に変わった。
木々は消え、緑が揺らめく平原が広がっていく。
空間魔法で別空間を作り出した男は、そのまま両手を組み合わせて詠唱を始めた。
するとルドガーの前に、黒く大きな召喚獣が現れた。
地獄の番犬のような凶暴な顔つきだ。
大口の牙からは涎が滴り、禍々しい姿で咆哮を上げている。
獣はかろうじて見えない首輪に引っ張られていて、今にもルドガーに襲いかかりそうだった。
「やめてえ!! なにするの! 離してよ、ここから出して、……ルドガーっ!!」
あなたは思いきり叫ぶが、声がくぐもって外には届かない。
男はそれを無視し、標的を定めていた。
「さあ。お前の力を見せてみろ。どれほど強くなった?」
淡々と言うと、召喚獣を解き放つ。
同時にルドガーの拘束も解け、両者は戦わざるを得なくなった。
「くッ……貴様は誰だ、なぜこんなことをする!」
ルドガーは二本の長剣を構え、獣を殺しにかかる。
金髪の魔術師は、それをただ冷静に眺めていた。
そして自らはあなたの近くに佇み、直立したまま動かない。
敵の猛攻に耐え、高く跳躍したルドガーは、獣の首根っこを羽交い絞めにして剣を突き刺す。
そして召喚獣の息の根を止めた。
血しぶきを浴びた彼は浅く呼吸をしながら、男に向かって歩いてくる。
「名無しを離せ……名無しは俺の番だ!!」
男は片方の眉を怪訝そうに上げ、口を開く。
「番? 人間と交わっては、強い獣は生まれないぞ」
「黙れ……俺達の間に余計な口を挟むなッ!」
ルドガーの怒号が響く。
男はそれを聞くと、新たな獣を召喚した。
今度はさらに巨大で、邪悪な煙を全身から吹き出している。
あなたはそれを見て震え上がった。
魔術師は、なぜこんなことをするのか。
獣のルドガーのことを知っている口ぶりで、どんどん強敵を出現させている。
召喚獣は男の魔法によって強化され、全身に魔法陣の光線が張り巡らされていた。
赤くほとばしる目つきからして、普通の魔獣とは一線を画している。
「これは人化では厳しいだろう。獣化しろ」
「……うるさい……ッ! 俺に命令するな……ッッ!!」
ルドガーは青く気高い獣の姿に変化し、空間を突き破るような咆哮を上げる。
これを倒さなければ、奴の戦力を削らなければ、あなたを奪われる。
彼の闘争心と恐怖心が、獣のルドガーの全身を支配する。
そして、猛突進していった。
男はルドガーの獣化した姿を見て、初めて表情をわずかに変えた。
波打つ黒い角に、獰猛な表情。
見開かれた男の赤い瞳は、それらに引きつけられていた。
「ほう。いい動きだ。やはり……あの公爵は良い腕を持っているな」
男は満足そうに呟き、戦いを眺めていた。
あなたはそれを呆然と見ている。
獣をいたぶっても何とも思わない、その魔術師の姿から、あることを連想した。
「……あなた、ルドガーのことを知っているの? ……もしかして、彼がいた施設の人……?」
震える声で問うと、男はこちらを見やる。
人を人とも思わなそうな冷酷な目つきに、鼓動が音を立てた。
「そうだが。君は何か特別なのか? 何がそんなに、あの獣を惹きつけている?」
逆に問われ、赤い瞳から逸らせないでいると、あなたは突然その場に崩れ落ちた。
意識がなくなり、ピンクのローブがぱたりと地面に倒れる。
その瞬間を、獣の猛攻を受けていたルドガーが直視した。
「あ…………名無しッ!」
彼の叫び声が、平原に鳴り響く。
ルドガーは同時に召喚獣の攻撃を食らい、かばった腕が血で裂けた。
流血し、そのまま腹部も大きな爪で切りつけられる。
「グッ……!」
防御の姿勢で受け止めようとしたが、彼の体は地面に叩きつけられた。
「……ふ。何を油断しているんだ。本気でやれ」
上から諭すように告げると、魔術師は意識のないあなたを抱き上げ、その場から離れようとした。
ルドガーはあなたを失う恐怖から、戦意が徐々に揺らいでいく。
それでも地面から起き上がり、召喚獣の攻撃を再び片腕で受け止める。流血は止まらない。
彼の血に濡れた眼差しは、遠ざかるあなたから逸らせなかった。
「名無し、やめろ、名無し……ッ」
ルドガーの獣化がゆっくりと解除され、人の姿に変わっていく。
金髪オールバックの男が背中を見せ、姿を消そうとした、その瞬間――。
空間魔法に異変が起きた。
その場を覆っていた巨大な召喚獣が、時を止められたかのように、一瞬で灰になる。
そして、そのまま消失した。
黒い風が吹き、魔術師はすぐに宙を見上げた。
緑の平原が、色褪せるようにさらさらと崩れていく。
「…………っ!」
そして再び森の風景に戻されたとき、魔術師の男はその場に膝をついた。
あなたを両腕に抱えたまま、正面を見つめる瞳は大きく見開かれている。
声を発することもできないようだ。
その森が――通称、赤い森が偉大な影を祝福しているのを、初めて肌で感じ取った。
ぞわり、と肌を無数のミミズが這うような感覚がした。
頭ごと乗っ取られたように、魔術師の思考が支配されていく。
「……その者を離せ」
女の声が、遠くからした。
森の奥から響く声に、金髪オールバックの男は、かすかな力であなたを地面に置く。
すると体の強張りが解け、魔術師はそのまま視線を落としてひざまずいた。
「お前は行け」
「⋯⋯はっ。失礼いたしました。閣下」
男の表情は硬く沈んでいる。
あなたにも、現れた存在にも、そして痛めつけたルドガーにも目をくれず、その場から姿を消した。
ルドガーは四肢から血を流したまま、あなたに近寄ろうとする。
「……名無し……」
彼は目から光を半分失い、力を振り絞ってあなたを求めた。
だが、その前に大人の女が現れた。
真っ白な肌に、赤い唇。
赤い瞳は大きく、目鼻立ちは恐ろしいほどに整っている。
黒くまっすぐな艶めく黒髪は、黒のヒールの足元まで長い。
胸元が大胆に開いた黒ドレスをまとい、長い脚でゆっくりと歩いてくる。
「…………っ」
ルドガーは、女がまとう冷たさと底知れぬ威圧感に、身がしびれるような感覚を覚えた。
彼女はあなたを切なげに見下ろしたあと、そばにしゃがみ込む。
そして、あなたを抱き上げた。
「やめろっ……」
ルドガーは、その場に立ち上がろうと力を入れる。
呼吸は荒く、片脚を引きずっていた。
女の赤い瞳は、彼のこともまた、思案するように眺めた。
「お前が……守護者なのか……?」
そう問われて、女は間を置いたあと、「そうだ」と告げた。
ルドガーの金の瞳が揺れ動き、力なく手を伸ばす。
「頼む、名無しを奪わないでくれ。……俺から、奪わないでくれ……! ……頼む……っ」
彼がそんなふうに乞う姿は、初めてだった。
自分から、離れていく。
ずっと抱いていた恐ろしいイメージが、今こそ現実になるような気がした。
だが守護者は、吐息のようなため息を吐く。
胸の前のあなたをじっと見下ろし、こう言った。
「私がお前達を、引き離すはずがないだろう。お前も来るがいい」
そう言って守護者は、皆を同時に転移させた。
