巨体の人外に助けられて世話される話
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夜、あなた達の部屋にミザロが訪れた。
緊急の用だと言われ驚く。
ちょうど夕食後でルドガーは風呂上がりにタオル1枚で登場した。
「お前、そんなところで何をしている」
「あなた方二人に任務要請です」
黒ローブではなく、シャツとジャケットの珍しい佇まいのミザロは、食卓前に座り告げた。
あなたは目を丸くし、お茶を出して話を聞く。
ルドガーも服を着て彼の正面に座った。
「師匠、それってもしかして、私達二人が同じ任務に向かうんですか?」
「ええ。そうですよ名無しさん。本当はこれはあなたの任務で、騎士とペアにする予定だったんですがね。泊まりで数日間になります」
その時、ルドガーの表情が険しくなる。
ミザロも彼を平然と見やった。
「分かっていますよ、あなたの彼女への偏執的な愛情は。だから私が前もって、騎士ではなく護衛はあなたにと言っているのでしょう、ルドガー」
「ふん。分かればいい。騎士と泊まりだと? ふざけるな」
想定のことにもう切れてしまっているルドガーだが、あなたは正直ほっとした。
魔術師団に入って初任務で、見知らぬ騎士と泊りがけはさすがに緊張しすぎる。
「ほんとにルドガーと一緒でいいんですか? ああ嬉しい」
師に感謝し、隣の彼にも笑いかけると、彼はわずかに目を見開いたあと、柔らかな表情に変わった。
だが、肝心の任務内容を聞くと、二人の顔がだんだんと真剣になってくる。
今回は依頼主がいて、身分の高い貴族らしい。彼は使用人と山奥の邸宅に暮らしている。
彼が望むのは、思い出せない大事な記憶を、催眠魔法で見つけてほしいということだった。
かなり私的な内容だが、これまで何人かの魔術師に依頼をしても、成功しなかったのだという。
「なるほど、それを私に……。うまくいきますかね? なんか難しそう……」
「難しいですよ。あなたより格上の術者達が軒並み失敗していますから。でもこの人物が、なかなかの曲者のようでして。新しい突破口として、名無しさんを起用したいのです」
まるで斬新な感じで言われるけれど、大丈夫なのだろうか。
でも、ゲインにも術は一応かけられたし、今回は相手方が催眠をかけてほしいと言ってるため、状況的な難易度はクリアできそうだ。
「わかりました、やってみます。……師匠がこの間言ってくれたように、私なりのアプローチでいいんですよね?」
「ええ、ご自由にどうぞ。楽しみにしていますよ、名無しさん」
「はい!」
まずその滞在中に依頼主によく話を聞き、彼の思い出せないという記憶を探っていこうと決意する。
話がまとまり、ミザロはルドガーを見やる。
「それでですね……問題はあなたなんですよ。お二人とも、今回はただの護衛と魔術師という関係で過ごしてください。つまり他人です」
「なぜだ。意味がわからない。俺と名無しは番だ。隠すことはないだろう」
「いえ、隠してください。依頼主の心をほぐすためです。くれぐれも問題は起こさないように。相手は公爵ですからね、ルドガー。粗相のないようにお願いしますよ」
はっきりと言い残し、ミザロは用が済んだとばかりに立ち上がる。
公爵様が依頼主だなんて。
ルドガーの主人と同じ爵位をもった、まさしく高位な社会的立場だ。
軍人であるルドガーが歯向かえるはずもなかった。
「くそ……面倒な案件をよこしやがって……」
「あなたを配置するのは私の優しさです。本当は騎士でいいんですから。そこをお忘れなく」
ミザロは恩着せがましく言い、去り際に上からの笑みを見せた。
ルドガーは何も言わず、テーブルに置いた拳をぐっと握っていた。
◆
そして任務当日がやって来る。
あなたとルドガーは、馬に似た魔界の動物に乗っていた。
彼が手綱を引き、あなたがその懐に収まるように前に乗っている。
「怖くないか?」
「うん、大丈夫。面白い〜!」
山道をまあまあなスピードで駆けていくが、背中一面は彼に包まれてるし、安心感があった。
自然も美しく、ルドガーと馬に乗るなんて貴重な体験だ。
もうすぐ依頼主の邸宅に着きそうな道のりで、彼はいったん馬を止める。
また休憩かな?そう思って振り向くと、彼が周りを警戒し、突然ぎゅっと抱きしめてきた。
「名無し」
「ど、どうしたの?」
「最後のキスだ⋯⋯」
顔をそっと後ろに向かせられて、あなたは馬上で彼に口づけをされた。
ほんのり顔を赤くして瞳を開けると、精悍な顔立ちのルドガーの、せつなそうな表情があった。
「最後なんて言わないでよ⋯」
「3日間もお前と出来ないんだぞ。⋯待て、もう1回だ」
「ん⋯⋯っ」
なんてロマンチックなのだろう。
あなたはうっとりしながら、後ろから彼に抱かれて唇を寄せていた。
「⋯ふふっ。なんだかルドガー、騎士様みたいだね」
「⋯⋯騎士だと? お前、そういうのが好きなのか」
「いや、えっとぉ。だって素敵でしょうこういうの」
顔がふやけながら言うと、ルドガーも少し考える。
「そうか。じゃあ俺はお前の騎士になろう」
「ええっ? あなた騎士嫌いだよね?」
「奴らはな。だが俺はもう、お前の騎士みたいなものだろう。命をかけて守る存在だからな」
しれっと言ってまた唇を最後に奪ってくるルドガーに、くらくらした。
騎士はそんなことしないと思う。
そうして二人のひと時を過ごしたあと、また走り出した。
邸宅が見えてくると、緊張がつのる。
想像よりも大きい、横に広がる荘厳なマナーハウスのようだ。
山の開けた場所を広く使い、周りを庭園に囲まれている。
「わあ、すごいところ⋯⋯」
数人の使用人と執事らしき人が、門の前で出迎えてくれている。
先に馬から降りたルドガーは、もう顔つきが変わっていた。
「どうぞ」
「えっ」
あなたに手を差し伸べ、エスコートしてくれるらしい。
「どうも〜騎士さん」
自分は何を微笑み、彼に合わせているのだろうか。
今回は特別に騎士の制服をまとったルドガーにドキドキしながら、大きな手を持ってゆっくり降りる。
まさかもう芝居が始まっている?
戦々恐々としながら、二人で邸宅への一本道を歩んでいった。
ルドガーは馬を係の者に預け、二人は執事に顔を合わせる。
「ようこそお越しくださいました。ルラ・パルセ魔術師団の名無し様。ゼイラン公爵領騎士団のルドガー様。旦那様は中でお待ちです。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
あなた達は会釈し、彼についていく。
屋内は調度品や芸術作品が並び、長い歴史を感じさせる重厚な内装だった。
依頼主はまだ若い当主だと聞いていたが、奥にある応接間に通され、その美貌に驚いた。
「やあ、来たか。君が今回の担当の女魔術師だな。よろしく頼むよ。僕は公爵のディスターだ」
「名無しと申します。よろしくお願いいたします。公爵様」
「そんな堅苦しくせず、名前で構わない」
優雅に握手をされて、男性を見上げる。
まばゆい金髪を横に流し、真っ白な肌に鮮やかな緑の瞳が映える、本物の美形だ。
三十代ほどに見えたが、目つきや佇まいからは女性慣れした男の余裕が感じられる。
耳の尖った魔族の彼は、小柄なあなたを上から下まで眺めた。
「あの⋯⋯ディスター様?」
「君、いくつ? 可愛らしいな。今までの女達とは違うな。⋯⋯その耳当て、暑いだろう? 屋内では取るといい」
ピンクのローブとお揃いのふわっとした耳当てに、ゆったりしたシャツ姿の彼は手を伸ばした。
身をすくめようとしたそのとき、あなたの肩に後ろからそっと手が添えられ、そのまま引き寄せられる。
見ると、ルドガーが無表情で立っていた。
「公爵様。魔術師にむやみにお手を触れませんよう」
「んん⋯? なんだ君は。護衛騎士のぶんざいで、僕らの会話に入らないでもらえるか?」
公爵は高圧的な言葉とは裏腹に、口調は柔らかく、口元には笑みまで浮かべている。
ディスターは目の前に直立する、自分よりも大柄なルドガーをじっと見た。
とくに、黒髪から生えた黒い角へと視線を向ける。
「ふん、ゼイラン殿の騎士団もおかしな奴を入れるようになったのだな。多様性というやつか? 嘆かわしい。魔族の伝統を履き違えないでもらいたいものだ」
目の前で主人と自分をディスられ、あなたはルドガーの反応を恐れる。
だが軍人として任務に忠実な彼は、いっさい顔色を変えなかった。
長剣を携えたまま、静かに手を後ろに組み、待機している。
「ふっ。まあいい。⋯⋯さあ名無し。堅物騎士は置いといて、僕たちの会話を始めよう。君と仲良くなれるのが楽しみだよ」
態度をがらりと変え、公爵はあなたを奥の書斎室へと招こうとしていた。
緊急の用だと言われ驚く。
ちょうど夕食後でルドガーは風呂上がりにタオル1枚で登場した。
「お前、そんなところで何をしている」
「あなた方二人に任務要請です」
黒ローブではなく、シャツとジャケットの珍しい佇まいのミザロは、食卓前に座り告げた。
あなたは目を丸くし、お茶を出して話を聞く。
ルドガーも服を着て彼の正面に座った。
「師匠、それってもしかして、私達二人が同じ任務に向かうんですか?」
「ええ。そうですよ名無しさん。本当はこれはあなたの任務で、騎士とペアにする予定だったんですがね。泊まりで数日間になります」
その時、ルドガーの表情が険しくなる。
ミザロも彼を平然と見やった。
「分かっていますよ、あなたの彼女への偏執的な愛情は。だから私が前もって、騎士ではなく護衛はあなたにと言っているのでしょう、ルドガー」
「ふん。分かればいい。騎士と泊まりだと? ふざけるな」
想定のことにもう切れてしまっているルドガーだが、あなたは正直ほっとした。
魔術師団に入って初任務で、見知らぬ騎士と泊りがけはさすがに緊張しすぎる。
「ほんとにルドガーと一緒でいいんですか? ああ嬉しい」
師に感謝し、隣の彼にも笑いかけると、彼はわずかに目を見開いたあと、柔らかな表情に変わった。
だが、肝心の任務内容を聞くと、二人の顔がだんだんと真剣になってくる。
今回は依頼主がいて、身分の高い貴族らしい。彼は使用人と山奥の邸宅に暮らしている。
彼が望むのは、思い出せない大事な記憶を、催眠魔法で見つけてほしいということだった。
かなり私的な内容だが、これまで何人かの魔術師に依頼をしても、成功しなかったのだという。
「なるほど、それを私に……。うまくいきますかね? なんか難しそう……」
「難しいですよ。あなたより格上の術者達が軒並み失敗していますから。でもこの人物が、なかなかの曲者のようでして。新しい突破口として、名無しさんを起用したいのです」
まるで斬新な感じで言われるけれど、大丈夫なのだろうか。
でも、ゲインにも術は一応かけられたし、今回は相手方が催眠をかけてほしいと言ってるため、状況的な難易度はクリアできそうだ。
「わかりました、やってみます。……師匠がこの間言ってくれたように、私なりのアプローチでいいんですよね?」
「ええ、ご自由にどうぞ。楽しみにしていますよ、名無しさん」
「はい!」
まずその滞在中に依頼主によく話を聞き、彼の思い出せないという記憶を探っていこうと決意する。
話がまとまり、ミザロはルドガーを見やる。
「それでですね……問題はあなたなんですよ。お二人とも、今回はただの護衛と魔術師という関係で過ごしてください。つまり他人です」
「なぜだ。意味がわからない。俺と名無しは番だ。隠すことはないだろう」
「いえ、隠してください。依頼主の心をほぐすためです。くれぐれも問題は起こさないように。相手は公爵ですからね、ルドガー。粗相のないようにお願いしますよ」
はっきりと言い残し、ミザロは用が済んだとばかりに立ち上がる。
公爵様が依頼主だなんて。
ルドガーの主人と同じ爵位をもった、まさしく高位な社会的立場だ。
軍人であるルドガーが歯向かえるはずもなかった。
「くそ……面倒な案件をよこしやがって……」
「あなたを配置するのは私の優しさです。本当は騎士でいいんですから。そこをお忘れなく」
ミザロは恩着せがましく言い、去り際に上からの笑みを見せた。
ルドガーは何も言わず、テーブルに置いた拳をぐっと握っていた。
◆
そして任務当日がやって来る。
あなたとルドガーは、馬に似た魔界の動物に乗っていた。
彼が手綱を引き、あなたがその懐に収まるように前に乗っている。
「怖くないか?」
「うん、大丈夫。面白い〜!」
山道をまあまあなスピードで駆けていくが、背中一面は彼に包まれてるし、安心感があった。
自然も美しく、ルドガーと馬に乗るなんて貴重な体験だ。
もうすぐ依頼主の邸宅に着きそうな道のりで、彼はいったん馬を止める。
また休憩かな?そう思って振り向くと、彼が周りを警戒し、突然ぎゅっと抱きしめてきた。
「名無し」
「ど、どうしたの?」
「最後のキスだ⋯⋯」
顔をそっと後ろに向かせられて、あなたは馬上で彼に口づけをされた。
ほんのり顔を赤くして瞳を開けると、精悍な顔立ちのルドガーの、せつなそうな表情があった。
「最後なんて言わないでよ⋯」
「3日間もお前と出来ないんだぞ。⋯待て、もう1回だ」
「ん⋯⋯っ」
なんてロマンチックなのだろう。
あなたはうっとりしながら、後ろから彼に抱かれて唇を寄せていた。
「⋯ふふっ。なんだかルドガー、騎士様みたいだね」
「⋯⋯騎士だと? お前、そういうのが好きなのか」
「いや、えっとぉ。だって素敵でしょうこういうの」
顔がふやけながら言うと、ルドガーも少し考える。
「そうか。じゃあ俺はお前の騎士になろう」
「ええっ? あなた騎士嫌いだよね?」
「奴らはな。だが俺はもう、お前の騎士みたいなものだろう。命をかけて守る存在だからな」
しれっと言ってまた唇を最後に奪ってくるルドガーに、くらくらした。
騎士はそんなことしないと思う。
そうして二人のひと時を過ごしたあと、また走り出した。
邸宅が見えてくると、緊張がつのる。
想像よりも大きい、横に広がる荘厳なマナーハウスのようだ。
山の開けた場所を広く使い、周りを庭園に囲まれている。
「わあ、すごいところ⋯⋯」
数人の使用人と執事らしき人が、門の前で出迎えてくれている。
先に馬から降りたルドガーは、もう顔つきが変わっていた。
「どうぞ」
「えっ」
あなたに手を差し伸べ、エスコートしてくれるらしい。
「どうも〜騎士さん」
自分は何を微笑み、彼に合わせているのだろうか。
今回は特別に騎士の制服をまとったルドガーにドキドキしながら、大きな手を持ってゆっくり降りる。
まさかもう芝居が始まっている?
戦々恐々としながら、二人で邸宅への一本道を歩んでいった。
ルドガーは馬を係の者に預け、二人は執事に顔を合わせる。
「ようこそお越しくださいました。ルラ・パルセ魔術師団の名無し様。ゼイラン公爵領騎士団のルドガー様。旦那様は中でお待ちです。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
あなた達は会釈し、彼についていく。
屋内は調度品や芸術作品が並び、長い歴史を感じさせる重厚な内装だった。
依頼主はまだ若い当主だと聞いていたが、奥にある応接間に通され、その美貌に驚いた。
「やあ、来たか。君が今回の担当の女魔術師だな。よろしく頼むよ。僕は公爵のディスターだ」
「名無しと申します。よろしくお願いいたします。公爵様」
「そんな堅苦しくせず、名前で構わない」
優雅に握手をされて、男性を見上げる。
まばゆい金髪を横に流し、真っ白な肌に鮮やかな緑の瞳が映える、本物の美形だ。
三十代ほどに見えたが、目つきや佇まいからは女性慣れした男の余裕が感じられる。
耳の尖った魔族の彼は、小柄なあなたを上から下まで眺めた。
「あの⋯⋯ディスター様?」
「君、いくつ? 可愛らしいな。今までの女達とは違うな。⋯⋯その耳当て、暑いだろう? 屋内では取るといい」
ピンクのローブとお揃いのふわっとした耳当てに、ゆったりしたシャツ姿の彼は手を伸ばした。
身をすくめようとしたそのとき、あなたの肩に後ろからそっと手が添えられ、そのまま引き寄せられる。
見ると、ルドガーが無表情で立っていた。
「公爵様。魔術師にむやみにお手を触れませんよう」
「んん⋯? なんだ君は。護衛騎士のぶんざいで、僕らの会話に入らないでもらえるか?」
公爵は高圧的な言葉とは裏腹に、口調は柔らかく、口元には笑みまで浮かべている。
ディスターは目の前に直立する、自分よりも大柄なルドガーをじっと見た。
とくに、黒髪から生えた黒い角へと視線を向ける。
「ふん、ゼイラン殿の騎士団もおかしな奴を入れるようになったのだな。多様性というやつか? 嘆かわしい。魔族の伝統を履き違えないでもらいたいものだ」
目の前で主人と自分をディスられ、あなたはルドガーの反応を恐れる。
だが軍人として任務に忠実な彼は、いっさい顔色を変えなかった。
長剣を携えたまま、静かに手を後ろに組み、待機している。
「ふっ。まあいい。⋯⋯さあ名無し。堅物騎士は置いといて、僕たちの会話を始めよう。君と仲良くなれるのが楽しみだよ」
態度をがらりと変え、公爵はあなたを奥の書斎室へと招こうとしていた。
