巨体の人外に助けられて世話される話
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ミザロの部屋を出て、あなたとゲインは和やかに喋っていた。
「もう師匠ったら、私が超格上のゲインさんに催眠術かけてペラペラ喋ってもらおうなんて、何年かかるか分かりませんよ~」
「はは、本当だよな。さすがに俺も防護結界に命かけてきた中年魔術師だ。新人のあんたにそう簡単に破られるわけにはいかねえよ」
重みのある言葉が背中にずしっとのしかかる。
「さっすが~。ですよね~。……じゃあこの話は置いといて、今度うちに来てくださいよ。まだ部屋の防音魔法のお礼してなかったですし、今日の感謝も兼ねて。おもてなしさせてください!」
「おおっいいのか? 酒盛りしようって言ってたもんな。楽しみだぜ」
ゲインは軽快に笑い、上機嫌に煙草を取り出す。
ぷかぷかと吸い出し、二人で約束をした。
「ルドガーも楽しみにしてますよ。もうお酒買ってるんで!」
「そりゃあいい。俺も持ってくから、飲み比べだな。つまみ用意しといてくれよ」
「はい! じゃあお疲れさまでした~また~」
あなたは手をあげて去っていくゲインの背を、じっとりと見つめた。
ピンク色のローブをまとった一見可憐な少女は、ゆっくりと不気味な薄笑いを浮かべていく。
対してゲインも、横目であなたの気配をじっと最後まで感じ取っていた。
二人とも、その日が勝負の日になる予感がしていた。
ゲインを誘ったのはいいものの、家に帰って和やかに夕食を取っていると、また頭が悩んでくる。
ルドガーはそんなあなたを、ご飯をかきこみながら気にしていた。
「どうした名無し。お前のその案、いいじゃないか。あいつをここに呼びつけて、酔いつぶれさせて催眠魔法をかければいい」
すでに事情を知っている、戦闘では容赦ないルドガーにそう言われると、あなたは尻込みしてくる。
「そうなんだけどさ……卑怯だよね。三人で楽しく飲もうっていう時間を利用しちゃって……何してもいいとは言われたけど」
「まあな。だがゲインが相手となると、お前の力じゃ正攻法では難しいと思う。裏をかいたり、敵の弱点をつくのは戦いの基本だ」
はっきり言ってくれた彼にあなたは顔を上げる。
「それにな、安心しろ。あいつも本気でくると思うぞ。もし油断して新人に術をかけられてみろ。あっという間に噂が広がって、ベテランの面目丸つぶれだ。俺が軍に入りたての若造に足を引っかけられて転ぶようなものさ」
鼻で笑い、ルドガーは水をがぶ飲みする。
あなたはぴくっと可愛らしく眉を上げた。
「ちょっと。あなたにしては毒が効いてるよ今の。私だってルドガーの足ぐらい引っかけられるんだからね」
「ははは! 確かにお前にやられたら俺はすぐすっ転ぶな。……悪い、少し気が立ってるんだ。⋯わかるだろ?」
彼はなぜか少し挑発的な眼差しであなたを見やった。
こっちは反対にドキっとする。自分は何かしただろうか。
「なあに? どうしたのルドガー。任務で何かあったの?」
甘い声を出して、食べ終わっていたあなたは彼のほうに向かう。
そして無遠慮に膝の上にお尻を乗せた。
首に手を回して上目遣いで寄りかかると、ルドガーはまんざらでもない顔つきで見つめ返し、あなたの腰を片腕で抱える。
「お前が入った魔術師団は陰気な男共の巣窟だ。なぜ女のお前がそこにいるのか、俺には理解できん」
「ふふふっ。確かに。私もびっくりしちゃったよ。それにさ、変な人がいっぱいいるね」
あなたは面白おかしく出会った人たちのことを話した。
あの眼鏡の人の名刺のことは言わなかった。
ルドガーも騎士団と提携する魔術師団のメンバーと、何度か仕事をしたことがあるようだ。
「ああ、あの黒い奴か。あいつは頭がおかしい。近寄るなよ。それに他の細々とした奴らもだ。ゲイン以外は無視しろ」
「もう、それって全部じゃない。仕事出来ないでしょ」
ルドガーは瞳を逸らし、当然のように要求してくる。
いつもと変わらない彼の様子に、あなたは顔がほころんでいた。
「そういえばさ、師匠にこんなこと言われたの。私の価値って副産物を連れてくることなんだって。どう思う?」
尋ねると、彼は大きな声で笑いだした。
あなたは呆れて彼を見上げる。
「くくくっ……すまん。ミザロらしいな。…でも俺は悪いことだとは思わないぞ。奴の見方は正しい。お前がいなければ、セロやナザルとも出会わなかった。それだけじゃない。今も仲が悪いままだろう」
俺がな、と付け加えた彼はせき込みながら笑いを抑えようとしている。
「そうかなぁ。皆がいい人だったからでしょう。私だってさすがに悪い人とは仲良くならないよ」
確かに潤滑油的な役割は果たしたかもしれないが、ルドガーがいたからこそ輪が生まれたのだ。
あなたは悪い人、という単語に自分で引っかかり、彼を見つめる。少し寂しそうにだ。
「どうした、名無し。そんな悲しい顔して」
「……ううん。私、どんな魔術師になればいいのかなって」
ほんとは過去が気になるのに、今日の出来事もあったし、ルドガーの反応が知りたくなった。
そもそも魔術師を目指そうと思ったのだって、彼の役に立ちたいと思ったのが始まりだ。
「お前はお前のままでいいと思うぞ。むしろそれがいい」
「……本当?」
「ああ」
ルドガーは慈しむような眼差しで、あなたの頬を指の腹で撫でる。
「俺が見てきた魔術師というのは、皆狡猾なんだ。あいつらは体力がなく、物理に弱い。……ああ、施設にいたような体格に優れた武闘派もいるけどな、それは例外だ」
話しながら、思い出したように肩をすくめる。
「だからな、自分の弱さをカバーするように、奴らは頭を使う。ずるい手も容赦なく使う。セロを見てみろ、あいつが生き残ってきたのはずる賢いからだ」
面白い話にあなたはくすくすと笑った。
「だがお前はそうはならないと思う。俺の知ってる魔術師像じゃないんだ、名無しは。遥か格上のゲインの心配をするようなやつだぞ? そんなに優しい奴がいるか」
「もうっわかったってばっ」
ルドガーにからかわれてあなたは赤くなった。
でも二人は笑いだす、気づけば心が温まって。
「わかったよ。とにかく、考えずにやれってことだね。ゼイラン様の教えみたいだね」
「その通りだ。一番大事なのは本能だからな。俺が学んできたことをお前にも伝授してやろう」
「ええ~やだ~。そしたら私、とんでもない魔術師になりそう」
冗談にしていたが本当にそう思うので若干怖い。
そうやってルドガーと話していたら、気持ちも軽くなってきた。
やっぱり彼はすごいなぁと思う。尊敬できるのはもちろんだが、いつも互いの目線になって寄り添ってくれるのだ。
胸にぴたりとくっついていると、こんなことを言われた。
「じゃあ腹は決まったな。ゲインのことなら任せろ。俺に考えがある」
「えっ? どんなの?」
ルドガーは昼のあなたのように、怪しげな笑みを浮かべた。
「でもルドガー。いつもあなたに助けてもらってるし。ずっと頼ってたらダメじゃないかな。チートだよねそれ」
「ミザロに言われたばかりだろ、使えるものは使えと。それにお前は、俺の使い手だと言われたんだろ?」
そういえばさっきそんなことも話したが、彼のプライド的に大丈夫なのだろうか。
「お前になら使われてもいい。俺はお前のことしか助けない。だからその日は……楽しみにしておけ」
やけにやる気を出して口元を吊り上げた様子は、いつも本能的な彼にしてはめずらしく、企みをする姿だった。
「もう師匠ったら、私が超格上のゲインさんに催眠術かけてペラペラ喋ってもらおうなんて、何年かかるか分かりませんよ~」
「はは、本当だよな。さすがに俺も防護結界に命かけてきた中年魔術師だ。新人のあんたにそう簡単に破られるわけにはいかねえよ」
重みのある言葉が背中にずしっとのしかかる。
「さっすが~。ですよね~。……じゃあこの話は置いといて、今度うちに来てくださいよ。まだ部屋の防音魔法のお礼してなかったですし、今日の感謝も兼ねて。おもてなしさせてください!」
「おおっいいのか? 酒盛りしようって言ってたもんな。楽しみだぜ」
ゲインは軽快に笑い、上機嫌に煙草を取り出す。
ぷかぷかと吸い出し、二人で約束をした。
「ルドガーも楽しみにしてますよ。もうお酒買ってるんで!」
「そりゃあいい。俺も持ってくから、飲み比べだな。つまみ用意しといてくれよ」
「はい! じゃあお疲れさまでした~また~」
あなたは手をあげて去っていくゲインの背を、じっとりと見つめた。
ピンク色のローブをまとった一見可憐な少女は、ゆっくりと不気味な薄笑いを浮かべていく。
対してゲインも、横目であなたの気配をじっと最後まで感じ取っていた。
二人とも、その日が勝負の日になる予感がしていた。
ゲインを誘ったのはいいものの、家に帰って和やかに夕食を取っていると、また頭が悩んでくる。
ルドガーはそんなあなたを、ご飯をかきこみながら気にしていた。
「どうした名無し。お前のその案、いいじゃないか。あいつをここに呼びつけて、酔いつぶれさせて催眠魔法をかければいい」
すでに事情を知っている、戦闘では容赦ないルドガーにそう言われると、あなたは尻込みしてくる。
「そうなんだけどさ……卑怯だよね。三人で楽しく飲もうっていう時間を利用しちゃって……何してもいいとは言われたけど」
「まあな。だがゲインが相手となると、お前の力じゃ正攻法では難しいと思う。裏をかいたり、敵の弱点をつくのは戦いの基本だ」
はっきり言ってくれた彼にあなたは顔を上げる。
「それにな、安心しろ。あいつも本気でくると思うぞ。もし油断して新人に術をかけられてみろ。あっという間に噂が広がって、ベテランの面目丸つぶれだ。俺が軍に入りたての若造に足を引っかけられて転ぶようなものさ」
鼻で笑い、ルドガーは水をがぶ飲みする。
あなたはぴくっと可愛らしく眉を上げた。
「ちょっと。あなたにしては毒が効いてるよ今の。私だってルドガーの足ぐらい引っかけられるんだからね」
「ははは! 確かにお前にやられたら俺はすぐすっ転ぶな。……悪い、少し気が立ってるんだ。⋯わかるだろ?」
彼はなぜか少し挑発的な眼差しであなたを見やった。
こっちは反対にドキっとする。自分は何かしただろうか。
「なあに? どうしたのルドガー。任務で何かあったの?」
甘い声を出して、食べ終わっていたあなたは彼のほうに向かう。
そして無遠慮に膝の上にお尻を乗せた。
首に手を回して上目遣いで寄りかかると、ルドガーはまんざらでもない顔つきで見つめ返し、あなたの腰を片腕で抱える。
「お前が入った魔術師団は陰気な男共の巣窟だ。なぜ女のお前がそこにいるのか、俺には理解できん」
「ふふふっ。確かに。私もびっくりしちゃったよ。それにさ、変な人がいっぱいいるね」
あなたは面白おかしく出会った人たちのことを話した。
あの眼鏡の人の名刺のことは言わなかった。
ルドガーも騎士団と提携する魔術師団のメンバーと、何度か仕事をしたことがあるようだ。
「ああ、あの黒い奴か。あいつは頭がおかしい。近寄るなよ。それに他の細々とした奴らもだ。ゲイン以外は無視しろ」
「もう、それって全部じゃない。仕事出来ないでしょ」
ルドガーは瞳を逸らし、当然のように要求してくる。
いつもと変わらない彼の様子に、あなたは顔がほころんでいた。
「そういえばさ、師匠にこんなこと言われたの。私の価値って副産物を連れてくることなんだって。どう思う?」
尋ねると、彼は大きな声で笑いだした。
あなたは呆れて彼を見上げる。
「くくくっ……すまん。ミザロらしいな。…でも俺は悪いことだとは思わないぞ。奴の見方は正しい。お前がいなければ、セロやナザルとも出会わなかった。それだけじゃない。今も仲が悪いままだろう」
俺がな、と付け加えた彼はせき込みながら笑いを抑えようとしている。
「そうかなぁ。皆がいい人だったからでしょう。私だってさすがに悪い人とは仲良くならないよ」
確かに潤滑油的な役割は果たしたかもしれないが、ルドガーがいたからこそ輪が生まれたのだ。
あなたは悪い人、という単語に自分で引っかかり、彼を見つめる。少し寂しそうにだ。
「どうした、名無し。そんな悲しい顔して」
「……ううん。私、どんな魔術師になればいいのかなって」
ほんとは過去が気になるのに、今日の出来事もあったし、ルドガーの反応が知りたくなった。
そもそも魔術師を目指そうと思ったのだって、彼の役に立ちたいと思ったのが始まりだ。
「お前はお前のままでいいと思うぞ。むしろそれがいい」
「……本当?」
「ああ」
ルドガーは慈しむような眼差しで、あなたの頬を指の腹で撫でる。
「俺が見てきた魔術師というのは、皆狡猾なんだ。あいつらは体力がなく、物理に弱い。……ああ、施設にいたような体格に優れた武闘派もいるけどな、それは例外だ」
話しながら、思い出したように肩をすくめる。
「だからな、自分の弱さをカバーするように、奴らは頭を使う。ずるい手も容赦なく使う。セロを見てみろ、あいつが生き残ってきたのはずる賢いからだ」
面白い話にあなたはくすくすと笑った。
「だがお前はそうはならないと思う。俺の知ってる魔術師像じゃないんだ、名無しは。遥か格上のゲインの心配をするようなやつだぞ? そんなに優しい奴がいるか」
「もうっわかったってばっ」
ルドガーにからかわれてあなたは赤くなった。
でも二人は笑いだす、気づけば心が温まって。
「わかったよ。とにかく、考えずにやれってことだね。ゼイラン様の教えみたいだね」
「その通りだ。一番大事なのは本能だからな。俺が学んできたことをお前にも伝授してやろう」
「ええ~やだ~。そしたら私、とんでもない魔術師になりそう」
冗談にしていたが本当にそう思うので若干怖い。
そうやってルドガーと話していたら、気持ちも軽くなってきた。
やっぱり彼はすごいなぁと思う。尊敬できるのはもちろんだが、いつも互いの目線になって寄り添ってくれるのだ。
胸にぴたりとくっついていると、こんなことを言われた。
「じゃあ腹は決まったな。ゲインのことなら任せろ。俺に考えがある」
「えっ? どんなの?」
ルドガーは昼のあなたのように、怪しげな笑みを浮かべた。
「でもルドガー。いつもあなたに助けてもらってるし。ずっと頼ってたらダメじゃないかな。チートだよねそれ」
「ミザロに言われたばかりだろ、使えるものは使えと。それにお前は、俺の使い手だと言われたんだろ?」
そういえばさっきそんなことも話したが、彼のプライド的に大丈夫なのだろうか。
「お前になら使われてもいい。俺はお前のことしか助けない。だからその日は……楽しみにしておけ」
やけにやる気を出して口元を吊り上げた様子は、いつも本能的な彼にしてはめずらしく、企みをする姿だった。
