巨体の人外に助けられて世話される話
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一年後、ルドガーは魔界の森にいた。
人化した褐色肌の少年は、しなやかで筋肉質な体つきに成長していた。見た目はもう、十五歳ほどだ。
だが彼は、全身血だらけで真っ赤だった。
手には魔物の頭がぶらさがり、浅く胸で呼吸をしている。
「ルドガー、よかったぞ。戦いではまず本能で敵を殺せ。そのためには何をしてもいい。自分のしたいように動くんだ」
「……わかった、ゼイラン様!」
汚れ一つない服をまとったゼイランは、宙に浮いていた体をゆっくり地面へつけた。
「よし。人型の訓練は今日はこのぐらいだな。獣化しろ」
命じられて、霧が深い森で獣の姿へ変わる。
黒光りする鮮やかな青毛がなびき、四つ足の凛々しい獣が現れた。
もう成獣の半分ほどの大きさになっている。
ルドガーは近くにあった水の樽に鼻先を突っ込み、喉の渇きを潤した。
「今日は特別な日だ。訓練が終わったら、ご馳走にしてやるぞ。何がいい?」
「本当か? たらふく肉の塊が食いたいな」
主人にそう告げながら、何が特別な日なのだろうと、まだ若いルドガーは不思議に思っていた。
屋敷に戻り、ルドガーは綺麗に体を洗った。
屋内では人化して過ごすため、いつも清潔にして見た目も整えることを執事から教わった。
他にもこの一年、食事や外出先での作法など、様々なことを使用人やゼイラン本人から学んだ。
「ゼイラン様。……このケーキはなんだ?」
呼ばれて大広間へやって来ると、食卓に並んだ豪勢な肉料理、そして菓子類にも驚く。
「そこへ座れ。今日はお前の誕生日だ。お祝いをしよう」
やたらと親身な声音で伝えられ、主人と同じくぱりっとしたシャツとズボンを履いたルドガーは、よく分からないまま椅子に座る。
大きな机の中央席に主人が、斜め前には自分がいた。
老執事は給仕をしたあと、邪魔をしないように姿を消した。
「誕生日……そうか。こんなに食事が豪華な日か」
「はははっ。そうとも言う。だがそれだけじゃない。お前が一年間成長したことを祝う日だ」
そう具体的に告げられて、ルドガーはようやく黒い瞳を輝かせ、喜びを浮かべた。
腹が減っていた二人は、すごい勢いで机の上のものを食いつくす。
食後にはゼイランがワインを楽しみ、ルドガーはぶどうジュースを飲んでいる。
「ルドガー。お前は三歳になったら、俺が指揮する軍に入るんだ。そこで軍人として俺に仕え、たくさんの戦闘をこなすことになる。いいな」
「ああ、分かった。俺は軍人になって、ゼイラン様の役に立つ」
言葉を繰り返すだけでなく、まだ若き少年は、瞳に確かな光を宿して答えた。
訓練でも知った主人の圧倒的な強さと、自分を導く力。
戦闘だけでなく、男として、人としてどう振るまうのか、主は手本を見せてくれた。
それに、出会いからすでにルドガーは、ゼイランに一生ついていくと決めていた。
彼は自分を救い、ここまで導いてくれた眩い明かりのような存在だからだ。
「ふっ、いい答えだ。お前はきっと強く逞しい、一番の闘獣になるだろう」
「ああ!」
「……ではそんなお前に、特別な証をやろう」
ゼイランは椅子を引き、獣を自身の隣に座らせた。
二人は向かい合い、近い距離で面を合わせる。
銀髪の主人の顔つきは真剣で、異様な雰囲気を放っている。
「今からお前と主従の契約を行う。これを結べば、お前は正式に俺の使役獣となる。俺が主人で、お前は俺のペットになるんだ」
ルドガーが首をひねる。
「ペット? もう少し良い言い方はないのか?」
「どうしてだよ。愛情深い呼び名だろう」
偉そうに言われて、まだ内面は幼いルドガーは、まあいいかと納得した。
愛情というのはなんだろうと思ったが、自分は主人に対して忠実な獣だというのは知らせたい。
「分かった。あなたの使役獣になろう。絶対に強く逞しいオスになって、あなたを助けてみせる!」
「よし。頼もしいぞルドガー。じゃあ契約成立だな。目をつぶれ」
ゼイランは彼の胸に向かって手を差し出した。二人とも瞳を閉じ、独特な響きの言語で長い詠唱をする。
ルドガーのまだ少年の薄い胸元に、底のほうから力がみなぎるのを感じた。
黒いオーラと青いオーラが渦のように重なり合い、集束して内側から爆発する感覚だ。
「……っ!!」
ドクンッ、と心臓が掴まれる勢いで、ルドガーは目を開けた。
すると銀髪の主人は、口端をにっと上げて獣を見ていた。
「……今、何が起きたんだ? この力は、いったい……」
「俺の力をほんの少し分け与えただけさ。……俺が悪魔族なのは知っているな?」
暗いオーラを醸し、陰りのある笑みで問われる。
ルドガーはごくりと喉を鳴らして頷いた。
「……俺も悪魔族になったのか?」
「はははッ。そんなことはさすがの俺にも出来ん。お前は特別な獣だ。自分の種族を大事にしろ」
そう言うものの、ルドガーは希少な戦闘種族の純血種だということしか判明していない。
ゼイランが施設から聞いた情報でも、自ら学者に調べさせた結果でも、変わらなかった。
「俺は……特別なのか? そんな気は全然していない」
「俺はしている。お前が特別だとな。なぜなら、俺がそう思っているからだ」
ゼイランは得意げに腕を組み、ルドガーに笑む。
自分を見つめる純粋な獣の瞳に、喜びが生まれていくことに、彼の心もくすぐられていた。
「あなたが、そう思っているから……」
自分は特別であるのだと。
それはルドガーにとって、何よりも自信につながることだった。
彼の誇りになれるように、生きればいい。
自分にとっての大きな目標が生まれた。
ルドガーの瞳には、自分を穏やかな眼差しで見つめる主人が、いつまでも映し出されていた。
人化した褐色肌の少年は、しなやかで筋肉質な体つきに成長していた。見た目はもう、十五歳ほどだ。
だが彼は、全身血だらけで真っ赤だった。
手には魔物の頭がぶらさがり、浅く胸で呼吸をしている。
「ルドガー、よかったぞ。戦いではまず本能で敵を殺せ。そのためには何をしてもいい。自分のしたいように動くんだ」
「……わかった、ゼイラン様!」
汚れ一つない服をまとったゼイランは、宙に浮いていた体をゆっくり地面へつけた。
「よし。人型の訓練は今日はこのぐらいだな。獣化しろ」
命じられて、霧が深い森で獣の姿へ変わる。
黒光りする鮮やかな青毛がなびき、四つ足の凛々しい獣が現れた。
もう成獣の半分ほどの大きさになっている。
ルドガーは近くにあった水の樽に鼻先を突っ込み、喉の渇きを潤した。
「今日は特別な日だ。訓練が終わったら、ご馳走にしてやるぞ。何がいい?」
「本当か? たらふく肉の塊が食いたいな」
主人にそう告げながら、何が特別な日なのだろうと、まだ若いルドガーは不思議に思っていた。
屋敷に戻り、ルドガーは綺麗に体を洗った。
屋内では人化して過ごすため、いつも清潔にして見た目も整えることを執事から教わった。
他にもこの一年、食事や外出先での作法など、様々なことを使用人やゼイラン本人から学んだ。
「ゼイラン様。……このケーキはなんだ?」
呼ばれて大広間へやって来ると、食卓に並んだ豪勢な肉料理、そして菓子類にも驚く。
「そこへ座れ。今日はお前の誕生日だ。お祝いをしよう」
やたらと親身な声音で伝えられ、主人と同じくぱりっとしたシャツとズボンを履いたルドガーは、よく分からないまま椅子に座る。
大きな机の中央席に主人が、斜め前には自分がいた。
老執事は給仕をしたあと、邪魔をしないように姿を消した。
「誕生日……そうか。こんなに食事が豪華な日か」
「はははっ。そうとも言う。だがそれだけじゃない。お前が一年間成長したことを祝う日だ」
そう具体的に告げられて、ルドガーはようやく黒い瞳を輝かせ、喜びを浮かべた。
腹が減っていた二人は、すごい勢いで机の上のものを食いつくす。
食後にはゼイランがワインを楽しみ、ルドガーはぶどうジュースを飲んでいる。
「ルドガー。お前は三歳になったら、俺が指揮する軍に入るんだ。そこで軍人として俺に仕え、たくさんの戦闘をこなすことになる。いいな」
「ああ、分かった。俺は軍人になって、ゼイラン様の役に立つ」
言葉を繰り返すだけでなく、まだ若き少年は、瞳に確かな光を宿して答えた。
訓練でも知った主人の圧倒的な強さと、自分を導く力。
戦闘だけでなく、男として、人としてどう振るまうのか、主は手本を見せてくれた。
それに、出会いからすでにルドガーは、ゼイランに一生ついていくと決めていた。
彼は自分を救い、ここまで導いてくれた眩い明かりのような存在だからだ。
「ふっ、いい答えだ。お前はきっと強く逞しい、一番の闘獣になるだろう」
「ああ!」
「……ではそんなお前に、特別な証をやろう」
ゼイランは椅子を引き、獣を自身の隣に座らせた。
二人は向かい合い、近い距離で面を合わせる。
銀髪の主人の顔つきは真剣で、異様な雰囲気を放っている。
「今からお前と主従の契約を行う。これを結べば、お前は正式に俺の使役獣となる。俺が主人で、お前は俺のペットになるんだ」
ルドガーが首をひねる。
「ペット? もう少し良い言い方はないのか?」
「どうしてだよ。愛情深い呼び名だろう」
偉そうに言われて、まだ内面は幼いルドガーは、まあいいかと納得した。
愛情というのはなんだろうと思ったが、自分は主人に対して忠実な獣だというのは知らせたい。
「分かった。あなたの使役獣になろう。絶対に強く逞しいオスになって、あなたを助けてみせる!」
「よし。頼もしいぞルドガー。じゃあ契約成立だな。目をつぶれ」
ゼイランは彼の胸に向かって手を差し出した。二人とも瞳を閉じ、独特な響きの言語で長い詠唱をする。
ルドガーのまだ少年の薄い胸元に、底のほうから力がみなぎるのを感じた。
黒いオーラと青いオーラが渦のように重なり合い、集束して内側から爆発する感覚だ。
「……っ!!」
ドクンッ、と心臓が掴まれる勢いで、ルドガーは目を開けた。
すると銀髪の主人は、口端をにっと上げて獣を見ていた。
「……今、何が起きたんだ? この力は、いったい……」
「俺の力をほんの少し分け与えただけさ。……俺が悪魔族なのは知っているな?」
暗いオーラを醸し、陰りのある笑みで問われる。
ルドガーはごくりと喉を鳴らして頷いた。
「……俺も悪魔族になったのか?」
「はははッ。そんなことはさすがの俺にも出来ん。お前は特別な獣だ。自分の種族を大事にしろ」
そう言うものの、ルドガーは希少な戦闘種族の純血種だということしか判明していない。
ゼイランが施設から聞いた情報でも、自ら学者に調べさせた結果でも、変わらなかった。
「俺は……特別なのか? そんな気は全然していない」
「俺はしている。お前が特別だとな。なぜなら、俺がそう思っているからだ」
ゼイランは得意げに腕を組み、ルドガーに笑む。
自分を見つめる純粋な獣の瞳に、喜びが生まれていくことに、彼の心もくすぐられていた。
「あなたが、そう思っているから……」
自分は特別であるのだと。
それはルドガーにとって、何よりも自信につながることだった。
彼の誇りになれるように、生きればいい。
自分にとっての大きな目標が生まれた。
ルドガーの瞳には、自分を穏やかな眼差しで見つめる主人が、いつまでも映し出されていた。
