巨体の人外に助けられて世話される話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朗らかな公園の空気が一変するほど、その場は緊迫していた。
紫髪の女が目の前まで来ると、セロとナザルはきつく睨みつける。
二人はあなたの前に立ち、魔術師がそれ以上近づけないようにした。
「てんめえ……ここで何してやがる!」
「私は彼女に用があるの。どいて」
「……どくわけねえだろ、何が目的だよ。先に言え」
セロより冷静なナザルだが、獣の彼は明らかに殺気立っていた。
あなたは二人の背に隠れて、おそるおそる女性を見やる。
すると彼女は、にこっと控えめに微笑んだ。
あのお手洗いで出会ったときのような優しい面影だ。
「あ、あの、二人とも。落ち着いてください。危険なことはされませんよね…?」
「するに決まってんだろ! こいつの目を見るんじゃねえ! 炎で焼かれるぞ!」
「ええっ!?」
とんでもないことを言われ慄くが、女性は冷たい瞳をセロに向けた。
「あなた、役目を忘れたの? あの御方を裏切ったのね」
そう言って彼に一歩ずつ近寄っていく。
自分よりも背の高いヒールの女に見下ろされ、セロはぐぐっと唸った。
だが彼の瞳には以前と違う力が宿っている。
「俺は最初からお前らの仲間じゃねえッ。……いいか、こいつに手出したら、俺らが許さねえからな……あいつの貴重な信頼を、こんなところで奪われてたまるかッ!」
心のこもった吐きだしに、ナザルも頷く。
彼は戦闘態勢のまま、茶色の瞳を鋭くして女を見下ろした。
「そうだよ……俺とセロはもうお前らの言いなりじゃねえ。今は仲間がいるんだ。……それにな、ルドガーは俺らよりもっとやべえぞ? お前殺されるぞ」
獣の彼はルドガーの力を認め、身震いをしながら挑戦的に笑った。
黒ドレスの女の瞳が、初めてぴくりと反応する。
そして彼女は、あなたをまっすぐに見つめた。
まるで小動物を目に映すように、怖がらせないよう少しずつ眼差しを柔らかくして。
「名無しさん……」
セロが「来るな!」と叫ぶ。
あなたも身構えたが、彼女は守護者に繋がる唯一の人物だ。
困惑していると、一瞬セロに苛立った女は彼を見据えた。
「邪魔をするな。お前⋯⋯また底なし沼に落とされたいのか」
どこから出したのか、低い唸り声みたいなものを可憐な口元から聞き、怖気が走る。
セロも肩をびくりと揺らし、後ずさった。
そしてなんと彼は、バッと踵を返した。
そのまま一目散に、公園から逃げていく。
「えええっちょっと!?」
あなたは彼の背に驚きをぶつけるが、もう姿はなくなっていた。
ナザルは自然に、あなたの隣に来て肩を抱いた。
「ふ……結局ああいうやつよね」
馬鹿にしたように女はこぼし、気を取り直してあなたに微笑みかける。
「今のは冗談ですよ。私はあなた達に、危害を与えたりしません」
「……ほ、本当ですか?」
「ええ。もちろんです。守護者さまの大切な名無しさんのためですから」
妖艶な表情と優しい声色に、あなたは戸惑った。
ルドガーがいつも言っている、魔術師は嘘つきだ、信用するなという言葉が、頭の中を駆け巡る。
あなたは隣のナザルの腕に、自分の腕を絡ませた。
彼のことを、自分も信用していた。
ナザルは一瞬瞬きをして見下ろしたが、離さないようにぐっと脇腹に近づけてくれた。
「ほら、話があるならこのまま話せ。名無しは必要以上にお前には近づかねえ」
彼がそう言うと、女性は反論せず、静かに受け入れた。
彼女と目が合ったので、あなたも深呼吸をしたあとに口を開く。
「セロさんとナザルさんにも、もう酷いことはしないでくれますか?」
そう問うと、二人とも驚いた様子だった。
だがそれは、あなたにとって今一番大事なことだ。
彼女は怒り出すこともなく、瞳を無意識に揺らしたあと、こくりと頷いた。
「あなたがそう望むのならば。……彼らにもう手出しはしません」
「……よかった。お願いします」
そうはっきりと告げると、彼女は胸に手をあてて頭をさげた。
そしてその場にひざまずく。あなたのことをどこか信奉するような、追いすがるような眼差しで見上げた。
「あ、あの⋯⋯あなたの名前を教えてもらえますか」
「私はデシエと申します。守護者さまに仕える者です」
彼女の名を知り、そのなぜだか敬虔で正直な姿勢から、あなたは瞳を逸らせなくなる。
ナザルの腕にしっかりと絡ませたまま、話を続けた。
「なぜ私をそんなふうに……普通にしてください」
「いいえ。あなたは守護者さまにとって、特別なお方ですので」
彼女は頭を下げ、もう一度あなたのことをじっくりと見つめた。
「今日は名無しさんにお願いがあるのです」
彼女はゆっくりと立ち上がり、あなたの手を握ろうとした。
「どうか、ゼイラン公爵ではなく、守護者さまのご加護をお選びに――」
そう言いかけたとき、後ろからけたたましい声と走る音が聞こえた。
「おいッ! ルドガー呼んだぞッ! ミザロも来るぜ!!」
セロが通話魔石を振り回して満身創痍で向かってきて、あなたは目を見開いた。
彼は援護を呼ぶために姿を消していたのだと。
紫髪の魔術師は、焦りを浮かべるもまだあなたに言いたいことがあったようだ。
「どうか、お願いです名無しさん。守護者さまはあなたに唯一無二の加護を授けることを、心から願っておられます。だから――」
そこへセロが滑り込んできて、息をぜえぜえと切らす。
「バーカっ!! お前はもう終わりだクソババアッ! ヘッ初めて負けた面が見れんだからな、そこで反省して正座しとけッッ」
急に元気を得て偉そうに指をさし始める彼に、ナザルもあなたも引いていたが、驚きはここからだった。
もうすぐルドガーが来てくれるのだと、彼の姿を探そうとすると、怒鳴り声がした。
「――名無しッ!!」
誰よりも大きな声であなたを呼んだのは、憤怒の形相で現れた軍服姿のルドガーだ。
「ルドガーっ!?」
彼は公園にいた人々の間を猛スピードで走り抜けてきた。
なんとそのまま、獣化して服がちぎれ飛び、獣の姿に変貌した。
驚いたのはあなただけではない。
黒光りする青い獣毛がなびき、黒角の大型獣が突進してくる。
人々は悲鳴をあげて逃げ出し、彼の獣化姿を初めて見たセロとナザルも唖然としていた。
ルドガーはあなた達のもとにたどりつくと、食って殺す勢いで表情を歪ませ、地響きが鳴るような低音で唸りだした。
「貴様ッ、名無しに近づくなッ! お前の喉を引きちぎってやるぞッ!!」
そう怒号を上げ、おびただしい殺気を放ち、皆を震え上がらせた。
魔術師の女も手を下ろし、彼から一歩ずつ遠ざかろうとする。
「お、落ち着きなさい。私は彼女に危害は……」
「黙れ、名無しに何をしようとした、俺達に不用意に接触するなッ!」
ルドガーは、あなたとセロ、ナザルの前に立ちはだかり、女から守るように獣の体でその場を動く。
大きな尻尾を逆立てて、彼の威嚇は止まらなかった。
優しく落ち着いた獣の姿しか知らないあなたは、放心するが、すぐに皆でルドガーの後ろにとどまる。
彼を落ち着かせることが出来るのは、あなたしかいない。
「ルドガー、来てくれたんだね、ありがとう。もう大丈夫だよ」
「名無し、動くな、俺の後ろにいろ」
毛を撫でて彼の温もりを確かめる。
デシエはその様子を、喉をごくりと鳴らし見つめていたが、形勢が悪くなったと感じたのだろう。
その場で両手を組み術式を唱えようとした。
するとセロ自身も術式を唱え、対抗しようとする。
「…セロ、お前ごときがこの私を止められると思うな!」
「うっせえババア! こんなのただの時間稼ぎだ!」
焦り顔のセロが、やがて小ずるく口元を上げたのを見て、女は公園の向こうに目を向けた。
すると黒ローブの男が歩いてきた。
皆はもうその不気味に淀んだ気配を知っている。
振り返ると、ミザロはこれまで見たことのないような恐ろしく冷酷な表情を浮かべていた。
口元を素早く動かしながら、彼はゆっくりと右手を上げる。
それから地面に向かって力強く下ろした。
「……ぐ、ぅウッッ!」
すると紫髪のデシエは、突然地面に体をひれ伏す。なにか強大なものに押さえつけられているかのごとく、這うようにもがいた。
それでも彼女は諦めず、口元で呪文を唱えようとする。
だがミザロは近くまでやってきて、手を伸ばしたまま彼女の顔に向けた。
そしてぐっと、掴むようにして捻り上げる。
「あ、ああ、ぐ、ぐ、や、やめ、ろ˝」
女のもがき苦しむ声が聞こえて、あなたはミザロに向かった。
「師匠! 苦しそうです、やめてください!」
「苦しめてるんです。これでいいんですよ」
師の恐ろしい文言には、その場の誰も口を挟むことはできなかった。
やがてデシエは力尽き、地面でうつぶせになり意識を失う。
獣のルドガーと、セロとナザル、あなたは皆頭が冷えた様子だった。
誰も何も言わず、ミザロの動きを待った。
黒ローブの彼は、ナザルを見やる。
「彼女を運んでください。目覚めたら尋問ですよ、皆さん」
「……あ、ああ。わかった……」
ナザルは言う通りにし、女を肩に担いだ。
あなたは心配したが、セロが「殺しちゃいねえ。あいつはこんなんじゃ死なねえアマだ」とまだ警戒しながら吐き捨てた。
あなたは落ち着きを取り戻したルドガーを見やった。
買い物に来ただけで、こんなふうになるとは。
しかも、彼とこんな劇的な形で再会するとは。
「ルドガー……」
「大丈夫だ、名無し。終わった。俺たちも帰ろう」
「……うん。そうだね。一緒に帰ろう」
獣の彼の隣で、あなたはひとまず頷いた。
紫髪の女が目の前まで来ると、セロとナザルはきつく睨みつける。
二人はあなたの前に立ち、魔術師がそれ以上近づけないようにした。
「てんめえ……ここで何してやがる!」
「私は彼女に用があるの。どいて」
「……どくわけねえだろ、何が目的だよ。先に言え」
セロより冷静なナザルだが、獣の彼は明らかに殺気立っていた。
あなたは二人の背に隠れて、おそるおそる女性を見やる。
すると彼女は、にこっと控えめに微笑んだ。
あのお手洗いで出会ったときのような優しい面影だ。
「あ、あの、二人とも。落ち着いてください。危険なことはされませんよね…?」
「するに決まってんだろ! こいつの目を見るんじゃねえ! 炎で焼かれるぞ!」
「ええっ!?」
とんでもないことを言われ慄くが、女性は冷たい瞳をセロに向けた。
「あなた、役目を忘れたの? あの御方を裏切ったのね」
そう言って彼に一歩ずつ近寄っていく。
自分よりも背の高いヒールの女に見下ろされ、セロはぐぐっと唸った。
だが彼の瞳には以前と違う力が宿っている。
「俺は最初からお前らの仲間じゃねえッ。……いいか、こいつに手出したら、俺らが許さねえからな……あいつの貴重な信頼を、こんなところで奪われてたまるかッ!」
心のこもった吐きだしに、ナザルも頷く。
彼は戦闘態勢のまま、茶色の瞳を鋭くして女を見下ろした。
「そうだよ……俺とセロはもうお前らの言いなりじゃねえ。今は仲間がいるんだ。……それにな、ルドガーは俺らよりもっとやべえぞ? お前殺されるぞ」
獣の彼はルドガーの力を認め、身震いをしながら挑戦的に笑った。
黒ドレスの女の瞳が、初めてぴくりと反応する。
そして彼女は、あなたをまっすぐに見つめた。
まるで小動物を目に映すように、怖がらせないよう少しずつ眼差しを柔らかくして。
「名無しさん……」
セロが「来るな!」と叫ぶ。
あなたも身構えたが、彼女は守護者に繋がる唯一の人物だ。
困惑していると、一瞬セロに苛立った女は彼を見据えた。
「邪魔をするな。お前⋯⋯また底なし沼に落とされたいのか」
どこから出したのか、低い唸り声みたいなものを可憐な口元から聞き、怖気が走る。
セロも肩をびくりと揺らし、後ずさった。
そしてなんと彼は、バッと踵を返した。
そのまま一目散に、公園から逃げていく。
「えええっちょっと!?」
あなたは彼の背に驚きをぶつけるが、もう姿はなくなっていた。
ナザルは自然に、あなたの隣に来て肩を抱いた。
「ふ……結局ああいうやつよね」
馬鹿にしたように女はこぼし、気を取り直してあなたに微笑みかける。
「今のは冗談ですよ。私はあなた達に、危害を与えたりしません」
「……ほ、本当ですか?」
「ええ。もちろんです。守護者さまの大切な名無しさんのためですから」
妖艶な表情と優しい声色に、あなたは戸惑った。
ルドガーがいつも言っている、魔術師は嘘つきだ、信用するなという言葉が、頭の中を駆け巡る。
あなたは隣のナザルの腕に、自分の腕を絡ませた。
彼のことを、自分も信用していた。
ナザルは一瞬瞬きをして見下ろしたが、離さないようにぐっと脇腹に近づけてくれた。
「ほら、話があるならこのまま話せ。名無しは必要以上にお前には近づかねえ」
彼がそう言うと、女性は反論せず、静かに受け入れた。
彼女と目が合ったので、あなたも深呼吸をしたあとに口を開く。
「セロさんとナザルさんにも、もう酷いことはしないでくれますか?」
そう問うと、二人とも驚いた様子だった。
だがそれは、あなたにとって今一番大事なことだ。
彼女は怒り出すこともなく、瞳を無意識に揺らしたあと、こくりと頷いた。
「あなたがそう望むのならば。……彼らにもう手出しはしません」
「……よかった。お願いします」
そうはっきりと告げると、彼女は胸に手をあてて頭をさげた。
そしてその場にひざまずく。あなたのことをどこか信奉するような、追いすがるような眼差しで見上げた。
「あ、あの⋯⋯あなたの名前を教えてもらえますか」
「私はデシエと申します。守護者さまに仕える者です」
彼女の名を知り、そのなぜだか敬虔で正直な姿勢から、あなたは瞳を逸らせなくなる。
ナザルの腕にしっかりと絡ませたまま、話を続けた。
「なぜ私をそんなふうに……普通にしてください」
「いいえ。あなたは守護者さまにとって、特別なお方ですので」
彼女は頭を下げ、もう一度あなたのことをじっくりと見つめた。
「今日は名無しさんにお願いがあるのです」
彼女はゆっくりと立ち上がり、あなたの手を握ろうとした。
「どうか、ゼイラン公爵ではなく、守護者さまのご加護をお選びに――」
そう言いかけたとき、後ろからけたたましい声と走る音が聞こえた。
「おいッ! ルドガー呼んだぞッ! ミザロも来るぜ!!」
セロが通話魔石を振り回して満身創痍で向かってきて、あなたは目を見開いた。
彼は援護を呼ぶために姿を消していたのだと。
紫髪の魔術師は、焦りを浮かべるもまだあなたに言いたいことがあったようだ。
「どうか、お願いです名無しさん。守護者さまはあなたに唯一無二の加護を授けることを、心から願っておられます。だから――」
そこへセロが滑り込んできて、息をぜえぜえと切らす。
「バーカっ!! お前はもう終わりだクソババアッ! ヘッ初めて負けた面が見れんだからな、そこで反省して正座しとけッッ」
急に元気を得て偉そうに指をさし始める彼に、ナザルもあなたも引いていたが、驚きはここからだった。
もうすぐルドガーが来てくれるのだと、彼の姿を探そうとすると、怒鳴り声がした。
「――名無しッ!!」
誰よりも大きな声であなたを呼んだのは、憤怒の形相で現れた軍服姿のルドガーだ。
「ルドガーっ!?」
彼は公園にいた人々の間を猛スピードで走り抜けてきた。
なんとそのまま、獣化して服がちぎれ飛び、獣の姿に変貌した。
驚いたのはあなただけではない。
黒光りする青い獣毛がなびき、黒角の大型獣が突進してくる。
人々は悲鳴をあげて逃げ出し、彼の獣化姿を初めて見たセロとナザルも唖然としていた。
ルドガーはあなた達のもとにたどりつくと、食って殺す勢いで表情を歪ませ、地響きが鳴るような低音で唸りだした。
「貴様ッ、名無しに近づくなッ! お前の喉を引きちぎってやるぞッ!!」
そう怒号を上げ、おびただしい殺気を放ち、皆を震え上がらせた。
魔術師の女も手を下ろし、彼から一歩ずつ遠ざかろうとする。
「お、落ち着きなさい。私は彼女に危害は……」
「黙れ、名無しに何をしようとした、俺達に不用意に接触するなッ!」
ルドガーは、あなたとセロ、ナザルの前に立ちはだかり、女から守るように獣の体でその場を動く。
大きな尻尾を逆立てて、彼の威嚇は止まらなかった。
優しく落ち着いた獣の姿しか知らないあなたは、放心するが、すぐに皆でルドガーの後ろにとどまる。
彼を落ち着かせることが出来るのは、あなたしかいない。
「ルドガー、来てくれたんだね、ありがとう。もう大丈夫だよ」
「名無し、動くな、俺の後ろにいろ」
毛を撫でて彼の温もりを確かめる。
デシエはその様子を、喉をごくりと鳴らし見つめていたが、形勢が悪くなったと感じたのだろう。
その場で両手を組み術式を唱えようとした。
するとセロ自身も術式を唱え、対抗しようとする。
「…セロ、お前ごときがこの私を止められると思うな!」
「うっせえババア! こんなのただの時間稼ぎだ!」
焦り顔のセロが、やがて小ずるく口元を上げたのを見て、女は公園の向こうに目を向けた。
すると黒ローブの男が歩いてきた。
皆はもうその不気味に淀んだ気配を知っている。
振り返ると、ミザロはこれまで見たことのないような恐ろしく冷酷な表情を浮かべていた。
口元を素早く動かしながら、彼はゆっくりと右手を上げる。
それから地面に向かって力強く下ろした。
「……ぐ、ぅウッッ!」
すると紫髪のデシエは、突然地面に体をひれ伏す。なにか強大なものに押さえつけられているかのごとく、這うようにもがいた。
それでも彼女は諦めず、口元で呪文を唱えようとする。
だがミザロは近くまでやってきて、手を伸ばしたまま彼女の顔に向けた。
そしてぐっと、掴むようにして捻り上げる。
「あ、ああ、ぐ、ぐ、や、やめ、ろ˝」
女のもがき苦しむ声が聞こえて、あなたはミザロに向かった。
「師匠! 苦しそうです、やめてください!」
「苦しめてるんです。これでいいんですよ」
師の恐ろしい文言には、その場の誰も口を挟むことはできなかった。
やがてデシエは力尽き、地面でうつぶせになり意識を失う。
獣のルドガーと、セロとナザル、あなたは皆頭が冷えた様子だった。
誰も何も言わず、ミザロの動きを待った。
黒ローブの彼は、ナザルを見やる。
「彼女を運んでください。目覚めたら尋問ですよ、皆さん」
「……あ、ああ。わかった……」
ナザルは言う通りにし、女を肩に担いだ。
あなたは心配したが、セロが「殺しちゃいねえ。あいつはこんなんじゃ死なねえアマだ」とまだ警戒しながら吐き捨てた。
あなたは落ち着きを取り戻したルドガーを見やった。
買い物に来ただけで、こんなふうになるとは。
しかも、彼とこんな劇的な形で再会するとは。
「ルドガー……」
「大丈夫だ、名無し。終わった。俺たちも帰ろう」
「……うん。そうだね。一緒に帰ろう」
獣の彼の隣で、あなたはひとまず頷いた。
