巨体の人外に助けられて世話される話
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任務に無事合格し、四人は騎士団領内に帰ってきた。
夕暮れで人がいない休日の敷地を、あなたとルドガーは手を繋いで歩いている。
前にはセロとナザルが並んでいて、皆緩やかな雰囲気だ。
「ねえねえ、今度皆で合格お祝いパーティーしましょうよ、乾杯なんかしちゃったりして」
「おおいいねぇ、飲んで騒ごうぜ〜これから俺等はやつらの奴隷として働かされるんだからな、最後の無礼講だよ」
「ちょっとセロさん? さっきまで喜んでたじゃないですか、もう嫌になったんですか」
怪訝に突っ込むと、「それとこれとは別」と言われてしまった。
ゼイランが所有する魔術師団に入るのは、魔界の魔術師にとっても栄誉の道であるらしいが、やはりプレッシャーもすごいのだろうか。
「名無し、乾杯はいいがお前はまだ18だからジュースだぞ」
「そうなの? 魔界も結構厳しいんだねぇ。でもルドガーも乾杯する?」
「ああ、あんまり意味ないけどな。お前と一緒なら楽しいだろう」
どういう意味だろう。彼は飲んでもまったく酔わないし、酒は獣に毒だと言っていたが。
後ろで二人で話していると、セロが隣のナザルにこんな事を言った。
「ナザル、お前は飲食しねえから、なんか俺が特別にほしいもんやるよ。何がいい? 女以外な、俺魔界ではモテねえから」
微妙に悲しいことを言いながらも、セロは上機嫌な顔つきだった。
ナザルが飲食ができないのは、彼が半実体の幻獣だからだ。
ナザルは、ふと立ち止まる。セロをじっと見下ろしていた。
皆も彼に注目していると、やがて口を開いた。
「じゃあセロ、獣化した俺の体を洗ってくれねえか」
「⋯⋯⋯⋯えっ?」
セロは間の抜けた声を出し、固まっている。
「お、俺がお前の体を⋯⋯マジで言ってんのか?」
「おう」
「あっそう⋯⋯」
セロは瞬きをして挙動不審になっていたが、やがて真剣な顔に変わり、うんうんと頷き始めた。
「おし分かった! なんかよく分からんが、お前もこの主の俺に世話をしてもらいたいターンなんだな、いいぜいいぜ! 任せとけ!」
男気のあるセロは、かなり上の位置にあるナザルの肩に、無理やり手を引っ掛けて抱き寄せる。
ちらりと見えたナザルの横顔は、少し笑いをこらえた様子だった。
「わあ⋯⋯今の見た? すごい光景だよ。なんか嬉しいねえルドガー⋯」
「ああ。そうだな。良い光景だ」
温かな気持ちでいると、ルドガーがこんなことを二人に言った。
「なあ。部屋の風呂場じゃ狭いだろう。俺達の風呂場を使ったらどうだ? 名無しがよかったらだが」
彼のナイスな提案に、あなたは俄然瞳を輝かせる。
ルドガーがこだわりを持って二人のために作ってくれた風呂場だが、もちろんセロたちの素敵な時間に役立てるなら嬉しかった。
「まじでっ? いいのか? サンキューな! 助かるわ、お前らほんといい奴!」
「ふっ。俺達はもう仲間一歩手前だからな。このくらいは当然だ」
「まだ手前なのかよッ! 今日のことお前忘れた!?」
いつもの会話に笑っていると、セロがこっそり顔を向けて必死の形相で口をパクパクしてきた。
よく見ると「そんときお前らも一緒にいろよ!」と言っている。
どうやら二人きりなのは恥ずかしいらしい。
◆
数日後、あなた達はまた騎士団の敷地内で顔を合わせた。
整った芝生の上に建てられた広い小屋の中だ。
黒い大きな石桶に湯気の立つお湯がたまっている。作業着に鉢巻きを巻いたセロが慣れた手つきで棒を使いかき回していた。
それを見ていたナザルは、しらーっとした顔つきだった。
「オイなんだそのお笑いな格好は。お前ふざけてんのか?」
「俺は形から入るんだよ。ほらさっさと脱げよ、今一番湯がいいタイミングなんだから!」
急かすセロの前で、ナザルがぴたっとした半袖に首をくぐらせ、上半身裸になる。
一度見たことのある日に焼けた筋肉質な背中だ。
あなたの両目をルドガーの大きな手のひらがそっと後ろから覆った。
ドキドキする。ナザルが今から獣化するということは、あなた達もそれを見てもいいということなのだ。
それはナザルにとって、大きな意味をもつに違いなかった。
「終わった? 終わった?」
「待て。⋯⋯っ! うそだろ」
ルドガーの素の驚きの声が、頭上から聞こえてくる。
あなたはもう待ちきれなかった。
ナザルの獣の姿は、いったい――。
ゆっくりと手を外され、視界が開ける。
すると、瞳が釘付けになった。
眼の前に現れたのは、波のように曲がった茶色の角、まっすぐに立った三角の獣耳。
そしてルドガーより大人びた、鼻先が尖った狼のような顔つきだ。
すらりと整った筋肉質な体躯が、赤く艶めいた毛に覆われている、大型獣だった。
「えっ⋯⋯彼も⋯⋯やっぱり、あなたと同じ種族なの⋯⋯?」
「そのようだ⋯⋯信じられん」
あなたとルドガーは、荘厳に揺らめく炎のような獣に近づいていった。
するとナザルの茶色の涼しげな瞳が、静かに見つめてきた。
「よお、名無し。どうだ? 俺の姿は。まずあんたの感想が聞きたいな」
「⋯⋯あの、すごく素敵ですよ、ナザルさん」
「そうかい。嬉しいぜ」
本当に、獣になると雰囲気がかなり違う。
もっとクールで大人に見える。
彼はルドガーよりもかなり年上らしかった。
「えっ! 120歳!?」
「そうなのか? なら俺のことをガキ扱いするはずだな」
「へっ。俺もまだ若いけどな、脂の乗ったオスそのものだ。⋯⋯まあ幻獣だから、もう年はとんねえけどな」
あっけらかんと言う彼の謎は、ますます深まる。なぜルドガーと似た姿なのに、幻獣なのだろう。
話していると、セロが容赦なくナザルにお湯をぶっかけた。
「お〜。獣化したお前、数年ぶりに見たわ。あんま変わんねえな。前の覚えてねえけど」
「お前なぁ⋯⋯もっと優しくかけやがれ! 獣に対する労りを少しは見せろ!」
また喧嘩が始まるかと思ったが、セロの照れ隠しだというのはあなた達は気づいていた。
「へーへー。今洗ってやるよ。ほらこのシャンプー。ルドガー、お前もこれ最高だっただろ?」
「ああ、最高だった。気持ちよかったぞ。おすすめだ」
セロが手に泡をつけ、ナザルを洗い始める。
だが体力のない彼はすぐにその巨体にバテ始めた。
「はぁっ、はぁっ、なんだこのサイズ、デカすぎだろ、お前よく一人で出来たな名無し!」
「ふふっ。愛情込めてたらあっという間なんですよ。ほらブラシも使って」
アドバイスするも不器用なセロは苦戦している。
「お前らも手伝え!」と言われてあなたはちらっとルドガーを見た。
彼も頷き、一緒に洗おうとする。
すると赤毛のナザルは「お前はいい。鳥肌が止まらなくなる」と制止したので、あなたとセロは笑った。
結局2人で泡をつけて楽しくナザルを洗った。
ルドガーはお湯をかけて流してやっている。
なんだろう、この温かい空間は。
ちょっと前の自分達ならば、考えられなかった光景だ。
なによりルドガーの変化が、あなたにもこそばゆくて嬉しいものだった。
後日、小屋の看板は少しだけ手が加えられていた。
『名無し&ルドガーの大浴場』(+仲間用)と。
夕暮れで人がいない休日の敷地を、あなたとルドガーは手を繋いで歩いている。
前にはセロとナザルが並んでいて、皆緩やかな雰囲気だ。
「ねえねえ、今度皆で合格お祝いパーティーしましょうよ、乾杯なんかしちゃったりして」
「おおいいねぇ、飲んで騒ごうぜ〜これから俺等はやつらの奴隷として働かされるんだからな、最後の無礼講だよ」
「ちょっとセロさん? さっきまで喜んでたじゃないですか、もう嫌になったんですか」
怪訝に突っ込むと、「それとこれとは別」と言われてしまった。
ゼイランが所有する魔術師団に入るのは、魔界の魔術師にとっても栄誉の道であるらしいが、やはりプレッシャーもすごいのだろうか。
「名無し、乾杯はいいがお前はまだ18だからジュースだぞ」
「そうなの? 魔界も結構厳しいんだねぇ。でもルドガーも乾杯する?」
「ああ、あんまり意味ないけどな。お前と一緒なら楽しいだろう」
どういう意味だろう。彼は飲んでもまったく酔わないし、酒は獣に毒だと言っていたが。
後ろで二人で話していると、セロが隣のナザルにこんな事を言った。
「ナザル、お前は飲食しねえから、なんか俺が特別にほしいもんやるよ。何がいい? 女以外な、俺魔界ではモテねえから」
微妙に悲しいことを言いながらも、セロは上機嫌な顔つきだった。
ナザルが飲食ができないのは、彼が半実体の幻獣だからだ。
ナザルは、ふと立ち止まる。セロをじっと見下ろしていた。
皆も彼に注目していると、やがて口を開いた。
「じゃあセロ、獣化した俺の体を洗ってくれねえか」
「⋯⋯⋯⋯えっ?」
セロは間の抜けた声を出し、固まっている。
「お、俺がお前の体を⋯⋯マジで言ってんのか?」
「おう」
「あっそう⋯⋯」
セロは瞬きをして挙動不審になっていたが、やがて真剣な顔に変わり、うんうんと頷き始めた。
「おし分かった! なんかよく分からんが、お前もこの主の俺に世話をしてもらいたいターンなんだな、いいぜいいぜ! 任せとけ!」
男気のあるセロは、かなり上の位置にあるナザルの肩に、無理やり手を引っ掛けて抱き寄せる。
ちらりと見えたナザルの横顔は、少し笑いをこらえた様子だった。
「わあ⋯⋯今の見た? すごい光景だよ。なんか嬉しいねえルドガー⋯」
「ああ。そうだな。良い光景だ」
温かな気持ちでいると、ルドガーがこんなことを二人に言った。
「なあ。部屋の風呂場じゃ狭いだろう。俺達の風呂場を使ったらどうだ? 名無しがよかったらだが」
彼のナイスな提案に、あなたは俄然瞳を輝かせる。
ルドガーがこだわりを持って二人のために作ってくれた風呂場だが、もちろんセロたちの素敵な時間に役立てるなら嬉しかった。
「まじでっ? いいのか? サンキューな! 助かるわ、お前らほんといい奴!」
「ふっ。俺達はもう仲間一歩手前だからな。このくらいは当然だ」
「まだ手前なのかよッ! 今日のことお前忘れた!?」
いつもの会話に笑っていると、セロがこっそり顔を向けて必死の形相で口をパクパクしてきた。
よく見ると「そんときお前らも一緒にいろよ!」と言っている。
どうやら二人きりなのは恥ずかしいらしい。
◆
数日後、あなた達はまた騎士団の敷地内で顔を合わせた。
整った芝生の上に建てられた広い小屋の中だ。
黒い大きな石桶に湯気の立つお湯がたまっている。作業着に鉢巻きを巻いたセロが慣れた手つきで棒を使いかき回していた。
それを見ていたナザルは、しらーっとした顔つきだった。
「オイなんだそのお笑いな格好は。お前ふざけてんのか?」
「俺は形から入るんだよ。ほらさっさと脱げよ、今一番湯がいいタイミングなんだから!」
急かすセロの前で、ナザルがぴたっとした半袖に首をくぐらせ、上半身裸になる。
一度見たことのある日に焼けた筋肉質な背中だ。
あなたの両目をルドガーの大きな手のひらがそっと後ろから覆った。
ドキドキする。ナザルが今から獣化するということは、あなた達もそれを見てもいいということなのだ。
それはナザルにとって、大きな意味をもつに違いなかった。
「終わった? 終わった?」
「待て。⋯⋯っ! うそだろ」
ルドガーの素の驚きの声が、頭上から聞こえてくる。
あなたはもう待ちきれなかった。
ナザルの獣の姿は、いったい――。
ゆっくりと手を外され、視界が開ける。
すると、瞳が釘付けになった。
眼の前に現れたのは、波のように曲がった茶色の角、まっすぐに立った三角の獣耳。
そしてルドガーより大人びた、鼻先が尖った狼のような顔つきだ。
すらりと整った筋肉質な体躯が、赤く艶めいた毛に覆われている、大型獣だった。
「えっ⋯⋯彼も⋯⋯やっぱり、あなたと同じ種族なの⋯⋯?」
「そのようだ⋯⋯信じられん」
あなたとルドガーは、荘厳に揺らめく炎のような獣に近づいていった。
するとナザルの茶色の涼しげな瞳が、静かに見つめてきた。
「よお、名無し。どうだ? 俺の姿は。まずあんたの感想が聞きたいな」
「⋯⋯あの、すごく素敵ですよ、ナザルさん」
「そうかい。嬉しいぜ」
本当に、獣になると雰囲気がかなり違う。
もっとクールで大人に見える。
彼はルドガーよりもかなり年上らしかった。
「えっ! 120歳!?」
「そうなのか? なら俺のことをガキ扱いするはずだな」
「へっ。俺もまだ若いけどな、脂の乗ったオスそのものだ。⋯⋯まあ幻獣だから、もう年はとんねえけどな」
あっけらかんと言う彼の謎は、ますます深まる。なぜルドガーと似た姿なのに、幻獣なのだろう。
話していると、セロが容赦なくナザルにお湯をぶっかけた。
「お〜。獣化したお前、数年ぶりに見たわ。あんま変わんねえな。前の覚えてねえけど」
「お前なぁ⋯⋯もっと優しくかけやがれ! 獣に対する労りを少しは見せろ!」
また喧嘩が始まるかと思ったが、セロの照れ隠しだというのはあなた達は気づいていた。
「へーへー。今洗ってやるよ。ほらこのシャンプー。ルドガー、お前もこれ最高だっただろ?」
「ああ、最高だった。気持ちよかったぞ。おすすめだ」
セロが手に泡をつけ、ナザルを洗い始める。
だが体力のない彼はすぐにその巨体にバテ始めた。
「はぁっ、はぁっ、なんだこのサイズ、デカすぎだろ、お前よく一人で出来たな名無し!」
「ふふっ。愛情込めてたらあっという間なんですよ。ほらブラシも使って」
アドバイスするも不器用なセロは苦戦している。
「お前らも手伝え!」と言われてあなたはちらっとルドガーを見た。
彼も頷き、一緒に洗おうとする。
すると赤毛のナザルは「お前はいい。鳥肌が止まらなくなる」と制止したので、あなたとセロは笑った。
結局2人で泡をつけて楽しくナザルを洗った。
ルドガーはお湯をかけて流してやっている。
なんだろう、この温かい空間は。
ちょっと前の自分達ならば、考えられなかった光景だ。
なによりルドガーの変化が、あなたにもこそばゆくて嬉しいものだった。
後日、小屋の看板は少しだけ手が加えられていた。
『名無し&ルドガーの大浴場』(+仲間用)と。
