巨体の人外に助けられて世話される話
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任務初日の夜、あなたは皆より長く眠ってしまい反省した。
だがルドガーも交代してからきちんと休み、それぞれが体力回復出来たようだ。
また荷物をまとめ、最終目的地を目指して遺跡内を進む。
人工的な石床はどこまでも続き、ある地点で地下への階段へと潜っていった。
魔物の気配はなく、それどころか植物や虫なども見られない。
静かでひんやりとした、不思議な白い空間が続いていた。
「ここ、なんの目的なんだろうね」
「ああ……不気味だな。人の手が入っているように思えるが」
「やっぱ罠だろうな。……んっ? 見てみろ、宝箱だ!!」
罠と言いながらも、セロが奥にある装飾された箱へと突き進んでいく。
彼はすぐにこじ開けようとしたが、びくともしなかった。
宝箱らしきものがある場所は、いくつかの部屋に分けられていて、全部で六ケ所もあった。
部屋はそれぞれ装飾の種類、周りの棚などの規模が違う。でもどこも綺麗な様子だった。
「おい、なんだよここ。なんで宝がバラバラなんだ?」
「うーん、なんででしょう……ほんとに罠なのかな。でも開かないし、部屋に私達が入っても何も起こりませんよね…」
皆はまるで博物館に来たように、それぞれ殺風景な部屋の内観を見て回る。
そのとき、大きな音がした。セロがある部屋の宝箱を、攻撃魔法を使って無理やり開こうとしていたのだ。
「ちょっ、ちょっとセロさん! やめてくださいよ! もし箱が開いてあなたが食べられちゃったらどうするんですか!」
「んな漫画見たいなこと起こるかよ。おいナザル、お前も試してみろ」
ナザルは宝の中身というより、力試しの感覚で強い蹴りを入れた。
それでもビクともせず、闘争本能に火がついた彼は両手で殴り掛かっていた。
「や、やばいよこの二人! 嫌な予感がする!」
あなたが焦りから右往左往するも、ルドガーは顎に手を当ててその様子をじっと眺めていた。
だめだこの三人。
きっと倫理観とか情緒が自分とはズレているのだろう。
そう諦めかけたあなたは、他の部屋の宝箱に向かった。
すると箱の上に、昨日の黒い吸血獣がちょこんと乗っていた。
表情はないが、大きめのコウモリは、あなたのことを黒い瞳でじっと見つめてくる。
あなたはもう恐れることはなく、ゆっくり近づいていった。
そしてコウモリの前で、床に足を崩して座りこんだ。
「どうしたの、コウモリさん。あなたも疲れちゃった? もしかして、ここから出たいのかな?」
考えてみるが、自分たちですら出口が見つからないのにと、頭を抱える。
するとコウモリはその宝箱から下りて、あなたの膝の上にやって来た。
「ふふ、可愛いね。もう怖くないよ。……触っていいのかな」
任務中であることも忘れ、動物と戯れることを選ぶ。
するとルドガーが後ろから近づいてきた。
あなたは彼の気配に気づき振り返る。彼はむっとした表情だったが、あなたの隣にそっと腰を下ろした。
コウモリへの警戒を最小限におさえ、冷静に観察するにとどめる。
「そいつ、お前になついてるんだな。獣たちは皆お前の虜だ」
「……ふふ。そうかな。私はルドガーだけでいいけどね」
そう伝えると、彼は嬉しそうな笑顔を見せた。
思わず床についた彼の大きな手に、自分の手を重ねて繋いだ。
その間もコウモリは大人しくしている。
かと思ったら、羽を出してまたパタパタと宝箱に乗った。
それから、なんと箱の重い蓋がゆっくりと開いたのだった。
「あっ!!」
驚愕したあなたとルドガーは、中を覗き込む。すると、そこには骨が入っていた。
何かの動物の骨格らしきものが、その形のまま、上質な布の上に並んでいた。
それを見たあなたは、心臓がどくっと静かに鳴った。
ルドガーと顔を見合わせ、急いで立ち上がる。
他の部屋へ行き、セロ達を探した。
見つけると、彼らはもう諦め、そこにしゃがんで駄弁っていた。
「大変ですよ! これ、宝物じゃないです! ……あっ、いや、きっと誰かにとっての大切な宝物のような存在だと思うんですけど、これは、お墓みたいなものなんです、きっと!」
あなたがそう叫ぶと、二人は「あ?」という不明瞭な顔つきをした。
立ち上がった男二人に、あなた達が見たものを見せようとする。
だが、もうその棺は閉まっていた。
「おい、お前らな……んなセンシティブな嘘つかなくてもいいんだよ。俺らもう諦めたから」
「嘘じゃないですって! 信じてくださいよ!」
「そうだ。嘘じゃない。獣の骨が綺麗に横たわっていた。俺達は確かに見たんだ」
ルドガーは、いつもより暗い声で伝えた。
あなたもなんだか物悲しい気持ちになってくる。
昨日、あのコウモリがこの場所へ導く道を示してくれた。
短い時間だったが、偶然だとは思えない何かを感じた。
しんみりした空気をさすがのセロも感じ取る。あまり茶化せない雰囲気だと。
ナザルもあなたの優しさはもう知っていたが、同じ獣のルドガーが若干のダメージを負っているのを察した。
だから彼も腕を組み、めずらしく思いを巡らせる。
「……そういうことか。獣でも、そこまで大事にされることあるんだな」
ナザルはそう呟いたあと、こう続けた。
「じゃあここはもうやめとくか、セロ。さすがの無法者の俺達でも手だしたらやべーだろ」
「おう。そうだな。祟られたくないし。……よし、じゃあ皆でお参りして、許してもらおうぜ!」
主犯はこの二人だったが、あなた達も素直に彼らに従い、皆でお祈りを捧げることにした。
ひとつひとつの棺の前で、四人一列になって瞳を閉じて過ごした。
「ルドガー、大丈夫…?」
隣に佇んでいた彼が無口だったので、終わってから声をかけた。
すると彼は思慮深く頷いた。
「ここは霊廟だ、名無し」
「……霊廟?」
「ああ。きっとお前の言ったように、この六体の獣たちを誰かが大事に世話し、祀ったのだろう。静かで、畏敬を感じる場所だな」
ルドガーもまた心をこめて、彼らのことを悼んでいるのが印象的だった。
あのコウモリの姿はもうない。
あなたはもう一度会ってお礼が言いたかったが、もしかしたら、この遺跡に住む精霊のような存在なのかもしれないと感じた。
そして、四人が霊廟の奥へと進むと、白い石扉があった。
もしかして出口かと思ったが、別の広い空間に出る。
「おいおい……この部屋のでかさ……まさか最後の大ボスが出るとか言うんじゃねえぞ」
「つうか祟りのほうじゃねえか? 俺らやっちまったからな」
ナザルが赤髪をかいて反省をする。
あなたは大きな緊張が走り、魔物に襲い掛かられることを考えた。最後の最後まで気を抜けないと構えを取る。
ルドガーも皆もそうしている。
ここまで一緒に来れたのだ。このメンバーならば、きっとまた乗り越えられる――。
「行きましょう、皆さん!」
「おう!!」
最大級の警戒をしていると、部屋の中央に黒いオーラが充満し始めた。
ナザルの黒煙とはまた違う、どす黒い雷雲のようなものが渦を巻きながら、ゆっくりと上昇していく。
あなた達が固唾を飲んで見守る中、その黒い渦の奥から、ローブ姿の男が現れた。
背はまあまあ高く、フードから覗くのは青白い端正な顔立ちで、目の下にはうっすら隈が浮かんでいる。
それは黒魔術師ミザロだった。
「師匠!!」
「お疲れさまです、名無しさん。そして皆さんも」
ミザロが突然現れ、胸を撫で下ろしたあなたを筆頭に、皆気が抜けていた。
この瞬間、任務の終わりを察知したからである。
ミザロの前に、四人は並んだ。
手応えは確かにある中、結果発表を心待ちにしている。
「一泊二日の任務試験、じっくりと見させていただきましたよ。あなた方のチームワーク、思ったより良かったです。要注意の二人組がいたので、もっと仲間割れするかと思いましたが、見直しました。全員、私の想像よりも冷静な頭があるようですね」
ところどころチクリとしてくるが、全体的に褒められたのは嬉しかった。
「ではまず名無しさん。あなたに調査結果を報告してもらいましょうか」
「は、はい! 結論から言いますと、この遺跡は古代の力を持った誰かが、大切にしていた獣たちのために地下に霊廟を作った、という構造だと思われます。途中魔物が多く出ましたが、彼らがここを守っているのか自然発生したものなのかは、ちょっと分かりません」
「正直でよろしいですね。ルドガー、討伐した魔物の報告を。他に怪しいものについても」
ミザロが尋ねるとルドガーは遭遇した魔物の特徴やおよその数を報告した。
あの黒いコウモリについてもだ。
だが試験官であるミザロは、それについては知らないようだった。
「なるほど。そんな不思議な霊体がいたのですね。私も前もってここを軽く調べていましたが、現れませんでしたね」
驚くべきことに、ここは試験会場ではあったが、魔術師長のミザロは遺跡の構造について、本当に四人に調査を任せていたのだという。
「でもあのー、ミザロ師長。あの偽の呪符はあなたがやったんですよね?」
「そうですよセロさん、親切な目印だったでしょう。突破口を最初に開いたのはナザルさん、あなたでしたね」
「まあ待つのは性に合わないからな」
ミザロの視線はこの二人組に向かった。
「ではあなた方から聞きましょうか。今回の任務で気づいた、良かったこととは?」
「な、なんすかそのざっくりした質問。なんでもいいんですか」
「ええどうぞ。ただし一つだけです」
これが本当の試験なんじゃないかというぐらい、深遠のような青い瞳に見つめられ、セロは疑わしい目で考える。
「やっぱ、仲間がいるってことっすかね。フフっ、自分ひとりじゃここまでたどり着けなかったし。……だから、そのぉ……使役獣がいるってことの尊さを学びましたね」
「それでは二つですね。不合格です」
「なんでだよッ」
セロはせっかく心をさらけ出したのに冗談で返されて切れていた。
そして次はナザルだ。彼はセロのことを横目で見たあと、口を開いた。
「こいつにありがとうって言われたことだな。あれは何年かぶりに裏がなかった」
彼もまた正直に話すと、低い位置からセロの穴が開くような視線を感じたが、ナザルの口元はリラックスしている。
ミザロは「素敵なお話ですね」と評したあと、あなたに質問を振った。
「私が一番よかったのは、ルドガーが実際に戦闘しているところが見れたことです。彼の信念と力強さを改めて知りました」
一番服が汚れているルドガーを見上げて伝えると、彼は少し照れくさそうに微笑んだ。
そして皆は最後の功労者ルドガーに注目した。
彼がいなければ、この任務の成功はなかっただろう。
「俺は名無しが魔術師としてやっていけると、確信できたことがよかった。……お前はこれからも大丈夫だ、名無し。俺が保証する」
そう軍人として、番として言ってもらえたような気がして、あなたは必死に涙をこらえて顔をまっすぐ向けていた。
本当に嬉しかった。誰に認められるよりも、ルドガーが言ってくれたことが。
「……分かりました。私もあなたに同意しますよ、ルドガー。この調子なら、名無しさんは大丈夫でしょう」
ミザロの言葉に皆が顔を上げる。
「名無しさん、セロさん、ナザルさん。あなた方三人は全員合格です。ルラ・パルセ魔術師団への入団を認めましょう」
そう言って彼が美しく微笑んだ途端、あなたとセロは飛び上がった。
「やったーーー!!」
「ははははは! だから言っただろう、大丈夫だってな! おっしゃーー!!」
年の違う若い娘と青年が手を取り合って喜び、はしゃいでいる。
そんな様子を、二人の獣は穏やかに見守っていた。
「あーあ。マジで入っちまったな、ルドガー。お前の心労もすごいことになるだろうな」
「……そんなことはない。さっきの俺の宣言を、お前も聞いただろう」
「無理すんなよ。ほんとは全部の任務についていきたいんじゃねえか」
「まあな……俺はお前が羨ましい、ナザル」
初めてぽつりとルドガーのそんな心を聞き、赤髪の獣は目を丸くする。
だがナザルはセロを見やり、ルドガーの肩をなんとなく叩いた。
ルドガーはあなたがひとしきり同僚の魔術師と喜んだあと、自分のもとに飛び込んでくるのを待っていた。
「ルドガー、やったよ! ありがとう、あなたのおかげだよ!」
「お前のおかげだ、名無し!」
あなたがジャンプして自分の胸に掴まってきて、ルドガーの笑顔も爆発する。
心配は消えないだろうが、大事な大事な番のあなたの幸せは、そんなことには負けないのだ。
だから彼はこれからも、いつでもあなたのそばにいる。
だがルドガーも交代してからきちんと休み、それぞれが体力回復出来たようだ。
また荷物をまとめ、最終目的地を目指して遺跡内を進む。
人工的な石床はどこまでも続き、ある地点で地下への階段へと潜っていった。
魔物の気配はなく、それどころか植物や虫なども見られない。
静かでひんやりとした、不思議な白い空間が続いていた。
「ここ、なんの目的なんだろうね」
「ああ……不気味だな。人の手が入っているように思えるが」
「やっぱ罠だろうな。……んっ? 見てみろ、宝箱だ!!」
罠と言いながらも、セロが奥にある装飾された箱へと突き進んでいく。
彼はすぐにこじ開けようとしたが、びくともしなかった。
宝箱らしきものがある場所は、いくつかの部屋に分けられていて、全部で六ケ所もあった。
部屋はそれぞれ装飾の種類、周りの棚などの規模が違う。でもどこも綺麗な様子だった。
「おい、なんだよここ。なんで宝がバラバラなんだ?」
「うーん、なんででしょう……ほんとに罠なのかな。でも開かないし、部屋に私達が入っても何も起こりませんよね…」
皆はまるで博物館に来たように、それぞれ殺風景な部屋の内観を見て回る。
そのとき、大きな音がした。セロがある部屋の宝箱を、攻撃魔法を使って無理やり開こうとしていたのだ。
「ちょっ、ちょっとセロさん! やめてくださいよ! もし箱が開いてあなたが食べられちゃったらどうするんですか!」
「んな漫画見たいなこと起こるかよ。おいナザル、お前も試してみろ」
ナザルは宝の中身というより、力試しの感覚で強い蹴りを入れた。
それでもビクともせず、闘争本能に火がついた彼は両手で殴り掛かっていた。
「や、やばいよこの二人! 嫌な予感がする!」
あなたが焦りから右往左往するも、ルドガーは顎に手を当ててその様子をじっと眺めていた。
だめだこの三人。
きっと倫理観とか情緒が自分とはズレているのだろう。
そう諦めかけたあなたは、他の部屋の宝箱に向かった。
すると箱の上に、昨日の黒い吸血獣がちょこんと乗っていた。
表情はないが、大きめのコウモリは、あなたのことを黒い瞳でじっと見つめてくる。
あなたはもう恐れることはなく、ゆっくり近づいていった。
そしてコウモリの前で、床に足を崩して座りこんだ。
「どうしたの、コウモリさん。あなたも疲れちゃった? もしかして、ここから出たいのかな?」
考えてみるが、自分たちですら出口が見つからないのにと、頭を抱える。
するとコウモリはその宝箱から下りて、あなたの膝の上にやって来た。
「ふふ、可愛いね。もう怖くないよ。……触っていいのかな」
任務中であることも忘れ、動物と戯れることを選ぶ。
するとルドガーが後ろから近づいてきた。
あなたは彼の気配に気づき振り返る。彼はむっとした表情だったが、あなたの隣にそっと腰を下ろした。
コウモリへの警戒を最小限におさえ、冷静に観察するにとどめる。
「そいつ、お前になついてるんだな。獣たちは皆お前の虜だ」
「……ふふ。そうかな。私はルドガーだけでいいけどね」
そう伝えると、彼は嬉しそうな笑顔を見せた。
思わず床についた彼の大きな手に、自分の手を重ねて繋いだ。
その間もコウモリは大人しくしている。
かと思ったら、羽を出してまたパタパタと宝箱に乗った。
それから、なんと箱の重い蓋がゆっくりと開いたのだった。
「あっ!!」
驚愕したあなたとルドガーは、中を覗き込む。すると、そこには骨が入っていた。
何かの動物の骨格らしきものが、その形のまま、上質な布の上に並んでいた。
それを見たあなたは、心臓がどくっと静かに鳴った。
ルドガーと顔を見合わせ、急いで立ち上がる。
他の部屋へ行き、セロ達を探した。
見つけると、彼らはもう諦め、そこにしゃがんで駄弁っていた。
「大変ですよ! これ、宝物じゃないです! ……あっ、いや、きっと誰かにとっての大切な宝物のような存在だと思うんですけど、これは、お墓みたいなものなんです、きっと!」
あなたがそう叫ぶと、二人は「あ?」という不明瞭な顔つきをした。
立ち上がった男二人に、あなた達が見たものを見せようとする。
だが、もうその棺は閉まっていた。
「おい、お前らな……んなセンシティブな嘘つかなくてもいいんだよ。俺らもう諦めたから」
「嘘じゃないですって! 信じてくださいよ!」
「そうだ。嘘じゃない。獣の骨が綺麗に横たわっていた。俺達は確かに見たんだ」
ルドガーは、いつもより暗い声で伝えた。
あなたもなんだか物悲しい気持ちになってくる。
昨日、あのコウモリがこの場所へ導く道を示してくれた。
短い時間だったが、偶然だとは思えない何かを感じた。
しんみりした空気をさすがのセロも感じ取る。あまり茶化せない雰囲気だと。
ナザルもあなたの優しさはもう知っていたが、同じ獣のルドガーが若干のダメージを負っているのを察した。
だから彼も腕を組み、めずらしく思いを巡らせる。
「……そういうことか。獣でも、そこまで大事にされることあるんだな」
ナザルはそう呟いたあと、こう続けた。
「じゃあここはもうやめとくか、セロ。さすがの無法者の俺達でも手だしたらやべーだろ」
「おう。そうだな。祟られたくないし。……よし、じゃあ皆でお参りして、許してもらおうぜ!」
主犯はこの二人だったが、あなた達も素直に彼らに従い、皆でお祈りを捧げることにした。
ひとつひとつの棺の前で、四人一列になって瞳を閉じて過ごした。
「ルドガー、大丈夫…?」
隣に佇んでいた彼が無口だったので、終わってから声をかけた。
すると彼は思慮深く頷いた。
「ここは霊廟だ、名無し」
「……霊廟?」
「ああ。きっとお前の言ったように、この六体の獣たちを誰かが大事に世話し、祀ったのだろう。静かで、畏敬を感じる場所だな」
ルドガーもまた心をこめて、彼らのことを悼んでいるのが印象的だった。
あのコウモリの姿はもうない。
あなたはもう一度会ってお礼が言いたかったが、もしかしたら、この遺跡に住む精霊のような存在なのかもしれないと感じた。
そして、四人が霊廟の奥へと進むと、白い石扉があった。
もしかして出口かと思ったが、別の広い空間に出る。
「おいおい……この部屋のでかさ……まさか最後の大ボスが出るとか言うんじゃねえぞ」
「つうか祟りのほうじゃねえか? 俺らやっちまったからな」
ナザルが赤髪をかいて反省をする。
あなたは大きな緊張が走り、魔物に襲い掛かられることを考えた。最後の最後まで気を抜けないと構えを取る。
ルドガーも皆もそうしている。
ここまで一緒に来れたのだ。このメンバーならば、きっとまた乗り越えられる――。
「行きましょう、皆さん!」
「おう!!」
最大級の警戒をしていると、部屋の中央に黒いオーラが充満し始めた。
ナザルの黒煙とはまた違う、どす黒い雷雲のようなものが渦を巻きながら、ゆっくりと上昇していく。
あなた達が固唾を飲んで見守る中、その黒い渦の奥から、ローブ姿の男が現れた。
背はまあまあ高く、フードから覗くのは青白い端正な顔立ちで、目の下にはうっすら隈が浮かんでいる。
それは黒魔術師ミザロだった。
「師匠!!」
「お疲れさまです、名無しさん。そして皆さんも」
ミザロが突然現れ、胸を撫で下ろしたあなたを筆頭に、皆気が抜けていた。
この瞬間、任務の終わりを察知したからである。
ミザロの前に、四人は並んだ。
手応えは確かにある中、結果発表を心待ちにしている。
「一泊二日の任務試験、じっくりと見させていただきましたよ。あなた方のチームワーク、思ったより良かったです。要注意の二人組がいたので、もっと仲間割れするかと思いましたが、見直しました。全員、私の想像よりも冷静な頭があるようですね」
ところどころチクリとしてくるが、全体的に褒められたのは嬉しかった。
「ではまず名無しさん。あなたに調査結果を報告してもらいましょうか」
「は、はい! 結論から言いますと、この遺跡は古代の力を持った誰かが、大切にしていた獣たちのために地下に霊廟を作った、という構造だと思われます。途中魔物が多く出ましたが、彼らがここを守っているのか自然発生したものなのかは、ちょっと分かりません」
「正直でよろしいですね。ルドガー、討伐した魔物の報告を。他に怪しいものについても」
ミザロが尋ねるとルドガーは遭遇した魔物の特徴やおよその数を報告した。
あの黒いコウモリについてもだ。
だが試験官であるミザロは、それについては知らないようだった。
「なるほど。そんな不思議な霊体がいたのですね。私も前もってここを軽く調べていましたが、現れませんでしたね」
驚くべきことに、ここは試験会場ではあったが、魔術師長のミザロは遺跡の構造について、本当に四人に調査を任せていたのだという。
「でもあのー、ミザロ師長。あの偽の呪符はあなたがやったんですよね?」
「そうですよセロさん、親切な目印だったでしょう。突破口を最初に開いたのはナザルさん、あなたでしたね」
「まあ待つのは性に合わないからな」
ミザロの視線はこの二人組に向かった。
「ではあなた方から聞きましょうか。今回の任務で気づいた、良かったこととは?」
「な、なんすかそのざっくりした質問。なんでもいいんですか」
「ええどうぞ。ただし一つだけです」
これが本当の試験なんじゃないかというぐらい、深遠のような青い瞳に見つめられ、セロは疑わしい目で考える。
「やっぱ、仲間がいるってことっすかね。フフっ、自分ひとりじゃここまでたどり着けなかったし。……だから、そのぉ……使役獣がいるってことの尊さを学びましたね」
「それでは二つですね。不合格です」
「なんでだよッ」
セロはせっかく心をさらけ出したのに冗談で返されて切れていた。
そして次はナザルだ。彼はセロのことを横目で見たあと、口を開いた。
「こいつにありがとうって言われたことだな。あれは何年かぶりに裏がなかった」
彼もまた正直に話すと、低い位置からセロの穴が開くような視線を感じたが、ナザルの口元はリラックスしている。
ミザロは「素敵なお話ですね」と評したあと、あなたに質問を振った。
「私が一番よかったのは、ルドガーが実際に戦闘しているところが見れたことです。彼の信念と力強さを改めて知りました」
一番服が汚れているルドガーを見上げて伝えると、彼は少し照れくさそうに微笑んだ。
そして皆は最後の功労者ルドガーに注目した。
彼がいなければ、この任務の成功はなかっただろう。
「俺は名無しが魔術師としてやっていけると、確信できたことがよかった。……お前はこれからも大丈夫だ、名無し。俺が保証する」
そう軍人として、番として言ってもらえたような気がして、あなたは必死に涙をこらえて顔をまっすぐ向けていた。
本当に嬉しかった。誰に認められるよりも、ルドガーが言ってくれたことが。
「……分かりました。私もあなたに同意しますよ、ルドガー。この調子なら、名無しさんは大丈夫でしょう」
ミザロの言葉に皆が顔を上げる。
「名無しさん、セロさん、ナザルさん。あなた方三人は全員合格です。ルラ・パルセ魔術師団への入団を認めましょう」
そう言って彼が美しく微笑んだ途端、あなたとセロは飛び上がった。
「やったーーー!!」
「ははははは! だから言っただろう、大丈夫だってな! おっしゃーー!!」
年の違う若い娘と青年が手を取り合って喜び、はしゃいでいる。
そんな様子を、二人の獣は穏やかに見守っていた。
「あーあ。マジで入っちまったな、ルドガー。お前の心労もすごいことになるだろうな」
「……そんなことはない。さっきの俺の宣言を、お前も聞いただろう」
「無理すんなよ。ほんとは全部の任務についていきたいんじゃねえか」
「まあな……俺はお前が羨ましい、ナザル」
初めてぽつりとルドガーのそんな心を聞き、赤髪の獣は目を丸くする。
だがナザルはセロを見やり、ルドガーの肩をなんとなく叩いた。
ルドガーはあなたがひとしきり同僚の魔術師と喜んだあと、自分のもとに飛び込んでくるのを待っていた。
「ルドガー、やったよ! ありがとう、あなたのおかげだよ!」
「お前のおかげだ、名無し!」
あなたがジャンプして自分の胸に掴まってきて、ルドガーの笑顔も爆発する。
心配は消えないだろうが、大事な大事な番のあなたの幸せは、そんなことには負けないのだ。
だから彼はこれからも、いつでもあなたのそばにいる。
