巨体の人外に助けられて世話される話
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あなたはルドガーの血に染まった顔を、自分で作った水で拭いてあげた。
彼の体力は有り余ってるらしく、それから意を決して、皆で遺跡の奥に進んでいく。
広場には無残にバラバラになった死骸が置いてあったらしいが、そこだけ彼に抱き上げられ、あなたは目をつぶって移動するという気の使われようだ。
「着いたぞ。セロ、何か分かるか」
「……これは……明らかにヤべえ呪符だな。禍々しい魔力が練りこまれてやがる……」
植物のツタが絡む大きな石扉の周囲を、おびただしい数の札が取り囲んでいた。
「でもなんか……この古代文字の形が不自然なんだよな……」
「へえ? ただの紙じゃねえか。呪いとかバカバカしいだろ」
そう言ってナザルはピッと剥がして丸めて捨てた。
他の三人が唖然として見やる。
「なにやってんだ馬鹿野郎ッ、今から建物の均衡が崩れて崩落でもしたらどうすんだよ! 無知な獣のせいでな!」
「えええ、怖いよルドガー!」
「落ち着け名無し、お前は俺が守る! ここからすぐに脱出するぞ!」
騒ぎ出す者達をナザルは白けた顔で眺める。
現に何も起こらなかった。
訝しんだセロだが、札をもう一度調べてるうちに、唸り始めた。
「……いやマジでこれ偽物かもな。見てみろよ、このインクの色褪せ具合、なんか嘘っぽいんだよな。ナザル、骨とう品の盗品をたくさん見てきた俺達からすると――」
「見てきたというより盗んできただろ。……でも確かにこれ、なんか見た目が新しくね?」
二人の審美眼のおかげで、これはきっとミザロが仕掛けた罠だという結論に至った。
「はっ馬鹿が! 俺達の目を欺けると思うなよ青白クマ野郎!」
「ちょ、言いすぎですよセロさん。聞こえてたらどうするんですか」
「あいつは俺達を監視魔法で見張っているはずだ」
「うそっ。……あー今のはつい素が出ちゃっただけですから! 多めに見てくださいね!」
ナザルが皆の芝居に飽きてあくびをしていると、背後から何かを感じた。
振り向くとひときわ大きな吸血獣が、あなたに近づき狙っているのが分かった。
「くそッ」
彼はそれを掴んだはずだが、手が黒いコウモリの体を通り抜けた。
「なっ……名無し、避けろ!」
ナザルが叫ぶ前にルドガーもそれに手を突き出した。
だが彼のスピードに構わず一瞬消えたようにコウモリは避け、ぱたぱたとあなたの左肩に乗った。
顔より小さいぐらいの吸血獣である。
「名無し、動くな⋯⋯っ」
ここに来て初めて弱弱しいルドガーの声が届き、あなたは微動だにできなかった。
左肩がずしっと重い。
なぜこんなことに。
この間の休暇中に、鳥が懐き頭に乗ったことを思い出したが、今は嬉しくないどころの騒ぎではない。
「や、やばい……どうしよう……噛まれたら終わりだよね…」
「おい喋るな、マジで」
「どうすんだよっ」
飄々としていたセロとナザルでさえも青ざめている。
ルドガーがゆっくり近づこうとしたら、そのコウモリは、グワッと恐ろしい牙を出した。
まるで「近づいたら噛むぞ」と脅しているように。
ルドガーは肩を激しく上下させ、金の瞳の瞳孔を反転させた。
喉の奥を獣の咆哮のように低く震わせ、相手を威嚇している。
三人とも彼の殺気で全身に怖気が走るものの、コウモリには通用してないようだ。
あなたは覚悟を決めた。
ゆっくりと、そのコウモリに向かって、片手を差し出したのだ。
「やめろ、名無し……ッ」
ルドガーが一転して表情を崩し首を振ったが、このままでは根競べになってしまう。
「大丈夫だよ。……コウモリちゃーん、おいで~。肩から下りようね~……」
声を震わせないように試みると、コウモリは驚くべきことに、一歩ずつ歩き出した。
飛ぶでもなくリスのように四つ足で張って手の上に乗る。
そして重量のあるそれを、あなたは両手で支えた。
皆が引きつった顔で見ていると、コウモリは毛づくろいを始めた。
あなたの手の上でくつろいでいるようだ。
「今だ、殺すぞ」
「……だ、だめ、ルドガー」
剣に手をかけて機をうかがっている彼を、あなたは必死に制止する。
全員が汗をじっとりと感じていた。
「おいおい……そんなもん懐かせてもデメリットしかねえぞ名無し、捨ててこい…慎重にな…」
「でもこの子、噛む様子ないですよ。大丈夫みたい」
だんだん害獣には見えず、あなたは心を落ち着かせて毛づくろいが終わるのを待った。
するとコウモリは自分から羽ばたき、またあなたの肩に戻った。
「この野郎ッ」
ルドガーは憤慨し気が荒立っていたが、コウモリはその後、羽を広げて問題の扉に向かっていった。
そしてなんと、石を通り抜けて消えた。
「…………えっ? なに今の。……もしかして、あのコウモリも、幻獣ってやつ……?」
あなたがナザルを見やると、彼も眉間にしわをよせ、首を傾げた。
ナザルは自分を黒い煙のような気体に変えて、物体を通り抜けたりできるのだ。
「ナザル、お前もやってみるか?」
セロがわざとらしく優しい声で尋ねると、ナザルは「おう」と了承した。
でも危険はないのだろうか。
心配したあなたの近くには、ルドガーがいつの間にかそばにいた。
「大丈夫か。よく見せてみろ」
彼に肩や手のひら、肌が出ている部分を入念に調べられる。
何も異常はないと分かると、問答無用で抱きしめられた。
彼の心音のほうが速くなっていた。
「頼むから無茶はするな。俺だったら一撃で殺せた」
「ごめん。でも、なんか……普通の獣じゃなかったよね…?」
見上げて見つめ合うも、結論はでない。やはり古代遺跡は分からないことだらけだ。
一方ナザルは、黒いモヤ状になり、扉をすり抜けることにした。
皆で待機していると、彼の姿は消え、しばらくして向こうからくぐもった声が響いた。
「なんもねえ。大丈夫だ! 壊すぞ!」
そして彼の力強い拳が、いとも簡単に石扉を撃ち抜く。
ガラガラと崩れ落ちた石の向こうには、人化したナザルが余裕で手を振っていた。
しかしそこは、物がなさすぎて不自然な場所だった。
白く精巧につくられた硬質なタイルが敷き詰められ、縦長にずっと広がっている。
「ここ、なんだ…? 空間魔法か?」
セロが手触りを確かめながら呟くと、ルドガーも人工的な造りの匂いを感じていた。
その時だ、突然壊れたはずの石扉が再生したのは。
砕け散ったがれきが浮いて集まり、大きな音を出して元の壁に戻った。
あなた達は見開いた視線を合わせる。
そしてもっと不気味だったのは、その扉が黒く塗りつぶされて硬質な金属みたいに変形したことだった。
「ひっ、ひい、なんなのここ! 本当に魔法なのっ?」
あなたは混乱して辺りを見回すが、しんと静かになったままだ。
男三人は落ち着いた様子で、思案している。
ルドガーが口を開いた。
「このわけの分からなさが古代遺跡というものだ。……俺達はひとまず閉じ込められたようだな」
ため息を吐くと、セロ達も面倒くさそうに頷いていた。
あなただけが内心、阿鼻叫喚であった。
そして近くには、誰にも気づかれない気配で黒いコウモリが座っていた。
彼の体力は有り余ってるらしく、それから意を決して、皆で遺跡の奥に進んでいく。
広場には無残にバラバラになった死骸が置いてあったらしいが、そこだけ彼に抱き上げられ、あなたは目をつぶって移動するという気の使われようだ。
「着いたぞ。セロ、何か分かるか」
「……これは……明らかにヤべえ呪符だな。禍々しい魔力が練りこまれてやがる……」
植物のツタが絡む大きな石扉の周囲を、おびただしい数の札が取り囲んでいた。
「でもなんか……この古代文字の形が不自然なんだよな……」
「へえ? ただの紙じゃねえか。呪いとかバカバカしいだろ」
そう言ってナザルはピッと剥がして丸めて捨てた。
他の三人が唖然として見やる。
「なにやってんだ馬鹿野郎ッ、今から建物の均衡が崩れて崩落でもしたらどうすんだよ! 無知な獣のせいでな!」
「えええ、怖いよルドガー!」
「落ち着け名無し、お前は俺が守る! ここからすぐに脱出するぞ!」
騒ぎ出す者達をナザルは白けた顔で眺める。
現に何も起こらなかった。
訝しんだセロだが、札をもう一度調べてるうちに、唸り始めた。
「……いやマジでこれ偽物かもな。見てみろよ、このインクの色褪せ具合、なんか嘘っぽいんだよな。ナザル、骨とう品の盗品をたくさん見てきた俺達からすると――」
「見てきたというより盗んできただろ。……でも確かにこれ、なんか見た目が新しくね?」
二人の審美眼のおかげで、これはきっとミザロが仕掛けた罠だという結論に至った。
「はっ馬鹿が! 俺達の目を欺けると思うなよ青白クマ野郎!」
「ちょ、言いすぎですよセロさん。聞こえてたらどうするんですか」
「あいつは俺達を監視魔法で見張っているはずだ」
「うそっ。……あー今のはつい素が出ちゃっただけですから! 多めに見てくださいね!」
ナザルが皆の芝居に飽きてあくびをしていると、背後から何かを感じた。
振り向くとひときわ大きな吸血獣が、あなたに近づき狙っているのが分かった。
「くそッ」
彼はそれを掴んだはずだが、手が黒いコウモリの体を通り抜けた。
「なっ……名無し、避けろ!」
ナザルが叫ぶ前にルドガーもそれに手を突き出した。
だが彼のスピードに構わず一瞬消えたようにコウモリは避け、ぱたぱたとあなたの左肩に乗った。
顔より小さいぐらいの吸血獣である。
「名無し、動くな⋯⋯っ」
ここに来て初めて弱弱しいルドガーの声が届き、あなたは微動だにできなかった。
左肩がずしっと重い。
なぜこんなことに。
この間の休暇中に、鳥が懐き頭に乗ったことを思い出したが、今は嬉しくないどころの騒ぎではない。
「や、やばい……どうしよう……噛まれたら終わりだよね…」
「おい喋るな、マジで」
「どうすんだよっ」
飄々としていたセロとナザルでさえも青ざめている。
ルドガーがゆっくり近づこうとしたら、そのコウモリは、グワッと恐ろしい牙を出した。
まるで「近づいたら噛むぞ」と脅しているように。
ルドガーは肩を激しく上下させ、金の瞳の瞳孔を反転させた。
喉の奥を獣の咆哮のように低く震わせ、相手を威嚇している。
三人とも彼の殺気で全身に怖気が走るものの、コウモリには通用してないようだ。
あなたは覚悟を決めた。
ゆっくりと、そのコウモリに向かって、片手を差し出したのだ。
「やめろ、名無し……ッ」
ルドガーが一転して表情を崩し首を振ったが、このままでは根競べになってしまう。
「大丈夫だよ。……コウモリちゃーん、おいで~。肩から下りようね~……」
声を震わせないように試みると、コウモリは驚くべきことに、一歩ずつ歩き出した。
飛ぶでもなくリスのように四つ足で張って手の上に乗る。
そして重量のあるそれを、あなたは両手で支えた。
皆が引きつった顔で見ていると、コウモリは毛づくろいを始めた。
あなたの手の上でくつろいでいるようだ。
「今だ、殺すぞ」
「……だ、だめ、ルドガー」
剣に手をかけて機をうかがっている彼を、あなたは必死に制止する。
全員が汗をじっとりと感じていた。
「おいおい……そんなもん懐かせてもデメリットしかねえぞ名無し、捨ててこい…慎重にな…」
「でもこの子、噛む様子ないですよ。大丈夫みたい」
だんだん害獣には見えず、あなたは心を落ち着かせて毛づくろいが終わるのを待った。
するとコウモリは自分から羽ばたき、またあなたの肩に戻った。
「この野郎ッ」
ルドガーは憤慨し気が荒立っていたが、コウモリはその後、羽を広げて問題の扉に向かっていった。
そしてなんと、石を通り抜けて消えた。
「…………えっ? なに今の。……もしかして、あのコウモリも、幻獣ってやつ……?」
あなたがナザルを見やると、彼も眉間にしわをよせ、首を傾げた。
ナザルは自分を黒い煙のような気体に変えて、物体を通り抜けたりできるのだ。
「ナザル、お前もやってみるか?」
セロがわざとらしく優しい声で尋ねると、ナザルは「おう」と了承した。
でも危険はないのだろうか。
心配したあなたの近くには、ルドガーがいつの間にかそばにいた。
「大丈夫か。よく見せてみろ」
彼に肩や手のひら、肌が出ている部分を入念に調べられる。
何も異常はないと分かると、問答無用で抱きしめられた。
彼の心音のほうが速くなっていた。
「頼むから無茶はするな。俺だったら一撃で殺せた」
「ごめん。でも、なんか……普通の獣じゃなかったよね…?」
見上げて見つめ合うも、結論はでない。やはり古代遺跡は分からないことだらけだ。
一方ナザルは、黒いモヤ状になり、扉をすり抜けることにした。
皆で待機していると、彼の姿は消え、しばらくして向こうからくぐもった声が響いた。
「なんもねえ。大丈夫だ! 壊すぞ!」
そして彼の力強い拳が、いとも簡単に石扉を撃ち抜く。
ガラガラと崩れ落ちた石の向こうには、人化したナザルが余裕で手を振っていた。
しかしそこは、物がなさすぎて不自然な場所だった。
白く精巧につくられた硬質なタイルが敷き詰められ、縦長にずっと広がっている。
「ここ、なんだ…? 空間魔法か?」
セロが手触りを確かめながら呟くと、ルドガーも人工的な造りの匂いを感じていた。
その時だ、突然壊れたはずの石扉が再生したのは。
砕け散ったがれきが浮いて集まり、大きな音を出して元の壁に戻った。
あなた達は見開いた視線を合わせる。
そしてもっと不気味だったのは、その扉が黒く塗りつぶされて硬質な金属みたいに変形したことだった。
「ひっ、ひい、なんなのここ! 本当に魔法なのっ?」
あなたは混乱して辺りを見回すが、しんと静かになったままだ。
男三人は落ち着いた様子で、思案している。
ルドガーが口を開いた。
「このわけの分からなさが古代遺跡というものだ。……俺達はひとまず閉じ込められたようだな」
ため息を吐くと、セロ達も面倒くさそうに頷いていた。
あなただけが内心、阿鼻叫喚であった。
そして近くには、誰にも気づかれない気配で黒いコウモリが座っていた。
