巨体の人外に助けられて世話される話
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いよいよ任務当日。四人は魔術師団の職員により、転移魔法でその場所へ送られた。
内容は数日前に教えられた、魔界の山奥の遺跡調査だ。
朝早くに出発し、残された一行は、互いをじろじろ見つめ合っていた。
「セロさん、そんな大荷物で行くんですか?」
「おうよ。俺いつもの枕じゃねえと寝れないからさ。お前こそなんだよその分厚い本。修学旅行じゃねーんだぞ」
「モンスター図鑑ですよ、まだ全部頭に入ってなくて」
あなたは昨日も緊張からすぐに寝付けず、ギリギリまで準備していた。
皆動きやすい服装にリュックを背負う中、ルドガーがあなたの荷物を確認する。
「名無し、魔物図鑑は置いていけ。俺が覚えている。それから荷物も少し減らそう。長くても明日の夜には帰れるだろう」
「あっ、そっか。じゃあこれも⋯⋯」
あなたが化粧品ボトルを取り出すと、ルドガーは頷いた。
「ああ。野営では必要最低限でいい」
ルドガーは全員の荷物から不要なものを集め、袋にいれて土に埋めた。
さすが野営任務にも慣れている軍人である。
「んじゃもう行こーぜ。名無し、今日はあんたに俺の格好いいとこ見せてやるからな」
「はい、よろしくお願いしますねナザルさん」
「つうか俺らに任せときゃ楽勝だよ! こう見えて師匠に遺跡に100回ぐらい閉じ込められてるからさぁ俺」
「えぇ!?」
なんの緊張感もないセロが異常なことを言っていたが、あなたは先頭の二人についていく。
ルドガーも隣をしっかりと守り、周囲を警戒しながら進んだ。
この遺跡は森林に点在する廃墟群のひとつで、最近見つかった場所らしい。
管轄の騎士団は、遺跡の構造調査をあなた達のグループに任せた。
土の深い段差に入口の石門があり、洞窟のような内部へ入っていく。
入ってからあなたは身震いがしてきて、ルドガーの袖を握った。
「うう⋯⋯真っ暗で何も見えない⋯」
「名無し、これに火をつけろ。俺とナザルは夜目がきくが、お前とセロには必要だ」
松明を渡されて頷く。火魔法で明かりをつけると、内部が見えてきた。
気合を入れ直し、狭い土壁を進んでいく。
すると開けたところへ出た。
こんな建造物があったのかと見上げるほど、吹き抜けの石造りの平地だ。
植物や苔が時間を覆うように自由に生え、息をのむほどの光景だった。
「わぁ〜! 声が響く! ここ、なんだろう? ⋯⋯きゃあっ!」
突然コウモリか何かが顔のそばを飛んでいき、あなたは飛び退った。もっと驚いたのは、ルドガーがそれを掴んだことだ。
「あぁッなにやってんだよお前! むやみに触んじゃねえよっ」
やばい生き物だったらどうするんだとセロは注意したが、ルドガーとナザルはそれをじろじろと見た。
「おい。この牙と喉、吸血種じゃねえか?」
「ああ。普通の森にはいないものだ」
獣同士が調べていて、あなたは背筋が冷える。
モンスター図鑑にはない動物の一種らしいが、人の血も吸うのだそうだ。
ちなみに1カ月肌が膨れ上がる毒を持っている。
「ね、ねえ! 触らないほうがいいよルドガー!」
「大丈夫だ。俺に大抵の毒は効かない。⋯お前もか? ナザル」
「効かねえけど、俺は幻獣だからな。毒どころか攻撃も効かねえよ」
彼がそう言うと、セロはにやりと笑った。
なんだか任務を通して、たくさんの新情報が舞い込みあなたは混乱する。
ルドガーもいったい、どんな体をしてるのだろう。
まるで誘導するような狭い道のときは、先頭をナザルが行き、セロ、あなたが続いた。ルドガーは後ろを守り、全体に目を光らせている。
この入り組んだ遺跡の奥には、宝物庫のようなものがあると考えられていた。
ほかの廃墟群もそういった構造だったからだ。
「なんかこう、宝物とか魔導書があったらいいんだけどなー」
「セロ。お前パクるつもりだろ」
「あたりめーだろ。堂々とこんな遺跡入れるチャンスあるかよ」
前にいる二人の会話に、倫理観のあるあなたは耳を疑う。
「ちょっと、何恐ろしいこと言ってるんですか? 冗談ですよね。私達一緒に特訓してきたチームじゃないですか!」
「だから皆で山分けして懐にいれようぜ。へっへっへ」
悪い主人に対し、ナザルも反対せずあっけらかんとしている。
「嘘でしょ、やばいよこの人達、こんな本性だったんだ、ねえルドガー!」
「俺は知ってたけどな。⋯⋯待て、止まれ。名無し」
急に彼に肩を引かれ、胸板に密着する。声をださないよう、そっと口を大きな手で塞がれてドキリとした。
さっきまでふざけていたナザルとセロも、じっと立ち止まり耳を澄ませている。
――まさか、魔物が出たのだろうか。
あなたの震えに気づいているルドガーは、前の男二人にこう言う。
「デカいのが一匹いる。四つ足だ。俺が仕留めよう。ナザル、ここで二人を守れ。セロは防御魔法を張れ」
「おう、わかった」
二人は当然のように頷き、その狭い石壁の道で守りの体勢に入った。
装備していた二つの長剣を抜き出し、ルドガーが前へ行こうとする。
「ルドガーっ⋯⋯」
「すぐに終わるからな。安心しろ、あのときの任務と同じだ」
彼はあなたに向かってふっと笑った。
そして分厚い体を好戦的なオーラに切り替え、走り出していった。
あのときの任務とは、ゼイランがあなたの見舞いに訪れた夜、ルドガーを召喚した時のことだ。
確かに彼は無事だったが、血まみれだった。
「⋯⋯っ」
あなたは途端に恐れがわき、手をぎゅっと握り合わせる。
セロはその場に防御結界のドームを張り、ナザルは辺りを警戒しながら構えている。
すると物音が轟いた。大きな物体が打ち付けられたり、壁が壊れたり、物を引きずるような音だ。
「だ、大丈夫なの⋯!?」
あなたはきょろきょろして二人に尋ねるが二人とも「大丈夫」としか言わなかった。
ひとりでパニックになるわけにもいかず、ずっと耳を澄ませて耐えていたが、やがて音が静まった。
でもルドガーは帰ってこない。
「どうしよう、勝ったの? ルドガーっ⋯⋯!」
あなたが泣きそうな目元で探すと、ナザルは「勝ってる」と言った。一瞬ほっとするものの、なぜ戻ってこないのだろう。
その防御魔法から出ようとしたとき、セロがあなたを掴んで戻した。
「セロさん! ルドガーが!」
「大丈夫だ、あいつがやられるわけねー、もう少し待ってろ、あいつの強さ信じろよ」
彼がやたら落ち着いた声で言うため、逆に緊張が伝わってきた。
一方でナザルは「絶対平気」と断言したので、あなたは二人のことを信じようとした。
不安になることは簡単なのに、信じて待つのは難しいことだ。
大切な人なら、尚更だった。
するとナザルは突然、しびれを切らしたように大声を出した。
「おい! 今どこにいんだ!」
彼が問うと、しばらくして遠くから声が反響してきた。
「……待て、今戻る! ここは片付いた! ――奥に続く道があるようだ!」
あなたはその声を聞き、全身から力が抜けていった。
よかった。生きてた。
放心していると、セロ達もほっとして胸を撫で下ろしていた。
やがて曲がり角から、いきなり全身真っ赤な男が現れる。
「あああぁぁッ」
「げッ何だお前それきったねえな!」
「すまん。奥から二匹新たに出てきたんだ」
向かってきたルドガーは、あなたが涙ぐんでるのを見つけた。
「悪かった、集中しすぎてしまって。あぁ泣くな名無し、もう大丈夫だぞ。――おっとすまん、汚れるな」
「大丈夫だよ!」
あなたは血だらけの彼に抱きついた。
今は任務中だから涙をこらえる。
皆それぞれのことをしていた。
だから今は冷静でいることが自分にできることだと思った。
「怪我はない?」
「ないぞ。だが⋯⋯これを見ろ」
ルドガーは破れた袖から、腕を見せた。三人がのぞきこむと、噛み跡がいくつもある。
「噛まれちゃったのっ? もしかしてさっきの吸血動物?」
「ああ、何匹も俺に絡んできてな。いったいなんなんだ。⋯⋯だが、あいつらが奥に消えそうになったから、ついていったんだ。そしたら――」
ルドガーは不思議な出来事を語った。
大型の獣と戦ってた広場から、導かれるように細い道に入り込むと、まだ奥にどこかに続く場所があるらしかった。
「植物が絡みついた壁をつたっていくと、妙な札がたくさん張ってあった。おそらく何かが奥に隠されているのだろう」
「⋯うーん、怪しいな。でも行くしかねえか」
経験のある魔術師セロは頷いた。
きな臭い話になってきたが、もしかしてそれが今回の任務の目標物なのだろうか。
「おい名無し、あんたは大丈夫か? 少し休むか」
「いえ! 大丈夫ですよ、ありがとうございますナザルさん」
「本当かよ? 無理すんなよ」
気遣ってくれる彼に、珍しくセロも素直に同調していた。
「そうだよ、お前初めてでこんなヤバい任務なんだからさ。可哀想に」
「⋯⋯えっ? これってやっぱりやばいんですか⋯?」
「おい」
ルドガーがあなたを怖がらせるなとセロに目をやる。
「あっうそ。普通普通。まあとにかくよ、怖いに決まってるよな。俺も一瞬ルドガーがやられたかと思ったもん、ハハ」
「やっぱりそう思ったんですか!?」
「だってほんとの任務だからな。何が起きてもおかしくないだろ。⋯⋯だからな、お前ら絶対やられんじゃねえぞ! 俺達人間がどのくらい心配してんのか、これで分かっただろう!」
なぜかセロは少し追い詰められた様子で、本音を叫び出した。
「そうですよね、ほんとはすごく心配で⋯⋯あなたが戻ってきてくれてよかった、ルドガー」
「⋯⋯名無し! すまん⋯⋯!」
任務中だから一定の距離を保とうとしていた二人だったが、セロの一言により、思いが溢れ出す。
あなたは彼と、ぐっと抱きしめあった。
任務だろうが、人間関係は変わらない。
気持ちを抑え込まなきゃいけないわけじゃない。
ナザルは二人の姿を、前よりは素直な思いで眺めていた。
そしてセロがいつもと違う言い方をしたことも、少し心に留まっていた。
こうして四人は、引き続き任務を遂行していく。
内容は数日前に教えられた、魔界の山奥の遺跡調査だ。
朝早くに出発し、残された一行は、互いをじろじろ見つめ合っていた。
「セロさん、そんな大荷物で行くんですか?」
「おうよ。俺いつもの枕じゃねえと寝れないからさ。お前こそなんだよその分厚い本。修学旅行じゃねーんだぞ」
「モンスター図鑑ですよ、まだ全部頭に入ってなくて」
あなたは昨日も緊張からすぐに寝付けず、ギリギリまで準備していた。
皆動きやすい服装にリュックを背負う中、ルドガーがあなたの荷物を確認する。
「名無し、魔物図鑑は置いていけ。俺が覚えている。それから荷物も少し減らそう。長くても明日の夜には帰れるだろう」
「あっ、そっか。じゃあこれも⋯⋯」
あなたが化粧品ボトルを取り出すと、ルドガーは頷いた。
「ああ。野営では必要最低限でいい」
ルドガーは全員の荷物から不要なものを集め、袋にいれて土に埋めた。
さすが野営任務にも慣れている軍人である。
「んじゃもう行こーぜ。名無し、今日はあんたに俺の格好いいとこ見せてやるからな」
「はい、よろしくお願いしますねナザルさん」
「つうか俺らに任せときゃ楽勝だよ! こう見えて師匠に遺跡に100回ぐらい閉じ込められてるからさぁ俺」
「えぇ!?」
なんの緊張感もないセロが異常なことを言っていたが、あなたは先頭の二人についていく。
ルドガーも隣をしっかりと守り、周囲を警戒しながら進んだ。
この遺跡は森林に点在する廃墟群のひとつで、最近見つかった場所らしい。
管轄の騎士団は、遺跡の構造調査をあなた達のグループに任せた。
土の深い段差に入口の石門があり、洞窟のような内部へ入っていく。
入ってからあなたは身震いがしてきて、ルドガーの袖を握った。
「うう⋯⋯真っ暗で何も見えない⋯」
「名無し、これに火をつけろ。俺とナザルは夜目がきくが、お前とセロには必要だ」
松明を渡されて頷く。火魔法で明かりをつけると、内部が見えてきた。
気合を入れ直し、狭い土壁を進んでいく。
すると開けたところへ出た。
こんな建造物があったのかと見上げるほど、吹き抜けの石造りの平地だ。
植物や苔が時間を覆うように自由に生え、息をのむほどの光景だった。
「わぁ〜! 声が響く! ここ、なんだろう? ⋯⋯きゃあっ!」
突然コウモリか何かが顔のそばを飛んでいき、あなたは飛び退った。もっと驚いたのは、ルドガーがそれを掴んだことだ。
「あぁッなにやってんだよお前! むやみに触んじゃねえよっ」
やばい生き物だったらどうするんだとセロは注意したが、ルドガーとナザルはそれをじろじろと見た。
「おい。この牙と喉、吸血種じゃねえか?」
「ああ。普通の森にはいないものだ」
獣同士が調べていて、あなたは背筋が冷える。
モンスター図鑑にはない動物の一種らしいが、人の血も吸うのだそうだ。
ちなみに1カ月肌が膨れ上がる毒を持っている。
「ね、ねえ! 触らないほうがいいよルドガー!」
「大丈夫だ。俺に大抵の毒は効かない。⋯お前もか? ナザル」
「効かねえけど、俺は幻獣だからな。毒どころか攻撃も効かねえよ」
彼がそう言うと、セロはにやりと笑った。
なんだか任務を通して、たくさんの新情報が舞い込みあなたは混乱する。
ルドガーもいったい、どんな体をしてるのだろう。
まるで誘導するような狭い道のときは、先頭をナザルが行き、セロ、あなたが続いた。ルドガーは後ろを守り、全体に目を光らせている。
この入り組んだ遺跡の奥には、宝物庫のようなものがあると考えられていた。
ほかの廃墟群もそういった構造だったからだ。
「なんかこう、宝物とか魔導書があったらいいんだけどなー」
「セロ。お前パクるつもりだろ」
「あたりめーだろ。堂々とこんな遺跡入れるチャンスあるかよ」
前にいる二人の会話に、倫理観のあるあなたは耳を疑う。
「ちょっと、何恐ろしいこと言ってるんですか? 冗談ですよね。私達一緒に特訓してきたチームじゃないですか!」
「だから皆で山分けして懐にいれようぜ。へっへっへ」
悪い主人に対し、ナザルも反対せずあっけらかんとしている。
「嘘でしょ、やばいよこの人達、こんな本性だったんだ、ねえルドガー!」
「俺は知ってたけどな。⋯⋯待て、止まれ。名無し」
急に彼に肩を引かれ、胸板に密着する。声をださないよう、そっと口を大きな手で塞がれてドキリとした。
さっきまでふざけていたナザルとセロも、じっと立ち止まり耳を澄ませている。
――まさか、魔物が出たのだろうか。
あなたの震えに気づいているルドガーは、前の男二人にこう言う。
「デカいのが一匹いる。四つ足だ。俺が仕留めよう。ナザル、ここで二人を守れ。セロは防御魔法を張れ」
「おう、わかった」
二人は当然のように頷き、その狭い石壁の道で守りの体勢に入った。
装備していた二つの長剣を抜き出し、ルドガーが前へ行こうとする。
「ルドガーっ⋯⋯」
「すぐに終わるからな。安心しろ、あのときの任務と同じだ」
彼はあなたに向かってふっと笑った。
そして分厚い体を好戦的なオーラに切り替え、走り出していった。
あのときの任務とは、ゼイランがあなたの見舞いに訪れた夜、ルドガーを召喚した時のことだ。
確かに彼は無事だったが、血まみれだった。
「⋯⋯っ」
あなたは途端に恐れがわき、手をぎゅっと握り合わせる。
セロはその場に防御結界のドームを張り、ナザルは辺りを警戒しながら構えている。
すると物音が轟いた。大きな物体が打ち付けられたり、壁が壊れたり、物を引きずるような音だ。
「だ、大丈夫なの⋯!?」
あなたはきょろきょろして二人に尋ねるが二人とも「大丈夫」としか言わなかった。
ひとりでパニックになるわけにもいかず、ずっと耳を澄ませて耐えていたが、やがて音が静まった。
でもルドガーは帰ってこない。
「どうしよう、勝ったの? ルドガーっ⋯⋯!」
あなたが泣きそうな目元で探すと、ナザルは「勝ってる」と言った。一瞬ほっとするものの、なぜ戻ってこないのだろう。
その防御魔法から出ようとしたとき、セロがあなたを掴んで戻した。
「セロさん! ルドガーが!」
「大丈夫だ、あいつがやられるわけねー、もう少し待ってろ、あいつの強さ信じろよ」
彼がやたら落ち着いた声で言うため、逆に緊張が伝わってきた。
一方でナザルは「絶対平気」と断言したので、あなたは二人のことを信じようとした。
不安になることは簡単なのに、信じて待つのは難しいことだ。
大切な人なら、尚更だった。
するとナザルは突然、しびれを切らしたように大声を出した。
「おい! 今どこにいんだ!」
彼が問うと、しばらくして遠くから声が反響してきた。
「……待て、今戻る! ここは片付いた! ――奥に続く道があるようだ!」
あなたはその声を聞き、全身から力が抜けていった。
よかった。生きてた。
放心していると、セロ達もほっとして胸を撫で下ろしていた。
やがて曲がり角から、いきなり全身真っ赤な男が現れる。
「あああぁぁッ」
「げッ何だお前それきったねえな!」
「すまん。奥から二匹新たに出てきたんだ」
向かってきたルドガーは、あなたが涙ぐんでるのを見つけた。
「悪かった、集中しすぎてしまって。あぁ泣くな名無し、もう大丈夫だぞ。――おっとすまん、汚れるな」
「大丈夫だよ!」
あなたは血だらけの彼に抱きついた。
今は任務中だから涙をこらえる。
皆それぞれのことをしていた。
だから今は冷静でいることが自分にできることだと思った。
「怪我はない?」
「ないぞ。だが⋯⋯これを見ろ」
ルドガーは破れた袖から、腕を見せた。三人がのぞきこむと、噛み跡がいくつもある。
「噛まれちゃったのっ? もしかしてさっきの吸血動物?」
「ああ、何匹も俺に絡んできてな。いったいなんなんだ。⋯⋯だが、あいつらが奥に消えそうになったから、ついていったんだ。そしたら――」
ルドガーは不思議な出来事を語った。
大型の獣と戦ってた広場から、導かれるように細い道に入り込むと、まだ奥にどこかに続く場所があるらしかった。
「植物が絡みついた壁をつたっていくと、妙な札がたくさん張ってあった。おそらく何かが奥に隠されているのだろう」
「⋯うーん、怪しいな。でも行くしかねえか」
経験のある魔術師セロは頷いた。
きな臭い話になってきたが、もしかしてそれが今回の任務の目標物なのだろうか。
「おい名無し、あんたは大丈夫か? 少し休むか」
「いえ! 大丈夫ですよ、ありがとうございますナザルさん」
「本当かよ? 無理すんなよ」
気遣ってくれる彼に、珍しくセロも素直に同調していた。
「そうだよ、お前初めてでこんなヤバい任務なんだからさ。可哀想に」
「⋯⋯えっ? これってやっぱりやばいんですか⋯?」
「おい」
ルドガーがあなたを怖がらせるなとセロに目をやる。
「あっうそ。普通普通。まあとにかくよ、怖いに決まってるよな。俺も一瞬ルドガーがやられたかと思ったもん、ハハ」
「やっぱりそう思ったんですか!?」
「だってほんとの任務だからな。何が起きてもおかしくないだろ。⋯⋯だからな、お前ら絶対やられんじゃねえぞ! 俺達人間がどのくらい心配してんのか、これで分かっただろう!」
なぜかセロは少し追い詰められた様子で、本音を叫び出した。
「そうですよね、ほんとはすごく心配で⋯⋯あなたが戻ってきてくれてよかった、ルドガー」
「⋯⋯名無し! すまん⋯⋯!」
任務中だから一定の距離を保とうとしていた二人だったが、セロの一言により、思いが溢れ出す。
あなたは彼と、ぐっと抱きしめあった。
任務だろうが、人間関係は変わらない。
気持ちを抑え込まなきゃいけないわけじゃない。
ナザルは二人の姿を、前よりは素直な思いで眺めていた。
そしてセロがいつもと違う言い方をしたことも、少し心に留まっていた。
こうして四人は、引き続き任務を遂行していく。
