巨体の人外に助けられて世話される話
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応接間の中央に置かれた一人がけのソファに腰かけ、団長キリングは静かに全員を見据えていた。
薄灰色の制服をきっちりと着込み、あいかわらずにこりともしない端正な顔立ちをしている。
「今日ここに集まってもらったのは、俺とミザロから、皆へのこれまでの評価と今後について話をしたいからだ」
そんなことを言われ、あなた達の間に驚きと緊張が広がった。
「まず、ルドガー。最近のお前の勤務態度は、著しく改善されている。無論まだ完璧ではないが、お前の努力は認めよう。この調子で頑張ってくれ」
「あ⋯⋯ああ。わかった。精進しよう」
ルドガーは優しすぎるほどの団長の台詞に戸惑いを浮かべつつ、手応えを感じて頷いた。
そして団長は、そのままあなたへ視線を移した。
鋭い眼差しに思わず背筋が伸びる。
「そして、名無し」
「は、はい団長!」
「そう身構えなくていい。率直に言おう。君の貢献は、この団にとって計り知れないものだ。上層部からも特別報奨が出ている。遠慮なく受け取ってくれ」
そんなふうに褒められたのは初めてだったため放心した。
ルドガーはあなたの手を握り、自分のことのように嬉しそうな顔をしている。
それを見て、現実なのだと実感した。
「わあ⋯⋯あの、本当に嬉しいんですけど、そんなに大したことしてないというか。ルドガーを少しでも助けたかっただけですし。頑張ったのは彼ですから」
「君達二人ともだ。そして君なしではここまでの変化はなかった。⋯⋯そこでな、俺は君に、正式に騎士団の職員になってほしいと考えていたんだが――」
まさかの団長の勧誘に、言葉を失う。
ここは女人禁制の騎士団だが、彼らとの円滑な連携のため事務職としてぜひ採用したいという話らしい。
けれどキリングは、話の途中で向かい側にあるソファ席に目を向けた。
静かに佇む黒ローブの魔術師ミザロである。
彼は今日、お疲れなのか青白い肌の目元のクマが深かった。
「ふふ。名無しさんはあなたには渡しませんよ。彼女はルラ・パルセ魔術師団に入ってもらいますから」
「⋯⋯えぇっ! そうなんですか師匠!」
彼はあなたに向かって、にこりと受容的な笑みで頷く。
とんでもないことになってきた。
つまり団長と魔術師長のミザロから、あなたは取り合いされてるのだ。
「ど、どうしよ〜。そんな大事なこと、今言われちゃっても。ねえルドガー」
へへ、と照れ笑いしたあなたの隣で、ルドガーは背を丸めてうつむき、背中から黒いオーラを放っている。
同席しているセロもナザルも、なんとなく彼の反応は分かっているため、神妙な顔つきで静観していた。
「名無しの進路を勝手に決めるな。どういうことだ、キリング⋯⋯」
ぎりり、と奥歯を噛み、さっきまでの朗らかな空気が一転して、ルドガーは団長を睨みつけた。
「これがお前の言った条件か。俺を騙したのか⋯⋯ッ」
「最後まで話を聞け。これはお前の風呂場の建設許可への条件ではない」
これ以上何があるのかと、ルドガーの怒りは収まらない。
けれどあなたは心配する彼の気持ちがわかるため、冷静に二人の幹部に尋ねた。
「あのう、師匠なら私が魔術を勉強したいってこと知ってますよね」
「ええ、もちろん。あなたは私のもとで学ぶことを選びますよね?」
「はい⋯⋯そう出来るならお願いしたいです」
ルドガーをちらりと見ると、彼は眉間をよせ、「行くな」という顔つきをしている。
心は揺れ、きっと騎士団で働かせてもらったほうが気持ち的にも軽い気はする。
そもそも魔術師団に、力がない自分なんかが入れるのかも分からない。
それでも、せっかく誘ってもらったチャンスを棒に振るなんてことは出来なかった。
あなたには心に秘めた願いがあるのだ。
「ルドガー、ごめんね。私、魔術の勉強もっとしてみたい。まだまだ役に立たないことも分かってる。でも、いつか助けてくれた人にも恩返ししたいし、なによりあなたの隣にいて胸張れるような人間になりたいの⋯!」
ルドガーは、金色の瞳を揺り動かし、いつもはびくともしない精神が、まるで崩れ落ちていくような面持ちを見せた。
「お前はすでに立派な人間だ。どのぐらい周りを、俺のことを幸せにしてくれてるか、分かってないのか⋯? お前は魔術師団なんて入らなくていいんだ⋯⋯きっと危険がつきまとう、もしお前が危ない目にあったらどうする⋯⋯俺は、嫌だぞ⋯!!」
ルドガーはまるですがりつくように、あなたのことを抱きしめた。
他の四人の男達がいても構わず、ぎゅうっと腕の中にしまいこんで離さない。
そんな彼の強い愛を、あなたは全て分かった上で抱きしめられる。
背中に手を伸ばして、優しくさすった。
「大丈夫だよ、危険なことなんてしないから。⋯⋯たぶん。⋯⋯ですよね師匠」
お願いだからうんと言ってくれと思いミザロを見ると、彼は表情を変えずに首を傾げた。
あなたが青ざめていると、見かねたセロが口を出す。
「しねえよ、ぜってえ。だってこいつ俺より弱いんだもん。俺がまだ戦闘に出てないのに、こいつが先に出るわけねえじゃん。お前もそう思うだろ、ナザル」
「おう。名無しにはまだ30年はええよ。セロ、お前は男なんだから率先して戦場に行け」
「てめー性差別すんなッ」
二人の軽妙な援護にあなたは笑みがこぼれる。
あなたに掴まるルドガーの力は、段々と弱まっていった。そしてあなたのことを力なく見つめる。
「名無し、お前が戦場に立つなんて想像しただけで、俺は気が狂うぞ。頼む⋯⋯無茶はするな」
「うん、しないよ。大丈夫。それに誰も私にそんなこと頼まないと思うよ。まだまだ足手まといなんだから。ひとつずつ修行しないとね」
だから、もしそんなことが起こったとして、本当に何十年先かもしれない。
その時のためにも、今から頑張ろう。
そう気持ちを伝えると、次第にルドガーの反対もしぼんでいった気がした。
「さあ、では。名無しさんは正式にうちの所属になるということで。いいですねキリング」
「⋯ああ、仕方ないな。名無し、悪いが君の出来る範囲で、ルドガーやマルグとの仲介役は必要なときに引き受けてほしい。報酬はもちろん用意する」
「わかりました、任せてください!」
こうして一旦は、話が収まったかに見えたが、ミザロが冷静に段取りを続けた。
「それから、セロさんとナザルさんの評価ですが」
「えっ。いや、もういいんじゃないですかね。今綺麗なとこでまとまったし。俺らのことはスルーしてくださいよ、任務で小金貰えれば全然OKなんで」
セロが嘘くさい笑顔を向けると、格上のミザロはそれを上回る笑顔で返した。
「いえいえ、そんな謙遜しないでくださいよ。あなた方の、意外にもきちんとした働きぶりはちゃんとトップの私の耳にも入ってますよ。納期を守り、魔術師にありがちな自分本位な暴力行為にも走らない。さすが、守護者に飼いならされていた方ですね」
嫌味っぽく伝えると、その話題には触れたがらないセロは悔しげに言葉をのみこんだ。
「守護者の件も、側近らしき紫髪の魔術師の件も、まだ解明されてないんですよ。残念なことに。私もゼイランも、苦心して調べ回ってはいるんですがねえ⋯⋯」
普段決して自分を弱くなど見せないミザロが、わざとらしくため息を吐いてくる。
あなたは森の別荘にいたときに、守護者の情報を簡潔にミザロに報告していた。
守護者の口ぶりからも、むしろ自分を見つけてほしい的な雰囲気も感じてるし、あなたもそうしたいからだ。
しかしそれでも、師の言うように調査は難航してるらしかった。
「フフ。まああなた方にもう情報を吐けなんていう脅しはしませんよ。これは我々への挑戦状ですからね。⋯⋯ですが、これまでの初歩的な任務は、さすがにセロさんたちには簡単すぎたようです」
ミザロはとくに赤髪の獣ナザルを、観察するようにじろりと見やった。
「なのでセロさん、ナザルさん、名無しさん。あなた方三人は、これから新たな任務に出向いてもらいます」
そう命令が下されたとき、あなたが驚愕すると同時に、机が大きく拳で叩かれた。
「ふざけるな!! お前、俺の話を聞いていたか!? 名無しは危険な任務には参加しないッ!」
憤怒で獣化しそうなほどのルドガーに、あなたは立ち上がって腕を握る。
「落ちついてルドガーっ、血管切れちゃうよ!」
「もう切れている! こいつらはダメだ、嘘つきの詐欺師だ!! 信じるな名無し! どうせお前を散々利用して捨てるんだッ!」
彼の激情をどうにか止めようとしていると、ミザロは立ち上がった。
珍しく能動的な男の挙動に、皆はいったん引く。
キリングでさえも、一瞬身構えた。
「はあ。勤務態度が少しはよくなったとはいえ、やっぱり獣ですね。⋯⋯ルドガー、最も大事なのは、名無しさんの意思では?」
ルドガーはあなたのことを出されると、弱い。もう感情がぐちゃぐちゃな様子で振り向いた。
「ええと、師匠⋯⋯それ、どんな任務なんですか?」
「任務内容は後から伝えます。ちなみにこの任務に三人が合格すれば、本当にルラ・パルセ魔術師団に加入が認められますよ」
「えっまだしてなかったのかよ!」とセロが叫ぶも、あなたの意思はさらにメラメラと燃えていった。
条件を突きつけられ、自分の前に初めて、越えなければならない高い壁を感じたのだ。
「私やります。絶対に任務を成功させて、魔術師になるんです」
「名無し⋯⋯っ」
「ルドガー、止めないで。私はこの世界で、これからもあなたと一緒に生きていきたいの。守られるだけじゃなくて、私も万が一のときに、あなたを守れるようになりたい。⋯⋯本気だよ。だって、あなたのことを誰よりも愛してるから。私達の生活を、守っていきたいから!」
それはずっと心にあった強い気持ちだ。
ルドガーはあなたの手に、自分の手を伸ばした。寂しさも深い愛情も、すべてが混ざり合った眼差しで。
彼の大きな手に握られて、あなたは心が落ち着く。この手の温もりのためなら、なんだってできるし、してみせると思った。
そんなやる気が、小さな体から溢れ出そうになっていく。
ルドガーは肩を落としうなだれる。
その時間は長かった。
だが、やがて彼は決心したように頭を上げた。
「わかった⋯⋯お前の気持ちを、俺も支える⋯⋯応援するぞ、名無し。だが⋯⋯俺もその任務に同行する!」
「ええぇっルドガーっ!?」
「いいだろう団長。許可しろ。しなければ俺は全ての任務を放棄するぞ」
滅茶苦茶なことを言い出して皆は混乱した。
だがそのぐらい、ルドガーにとってあなたという存在は、第一に優先されるのが当然なのだ。
キリングはじっと彼を見つめたが、意外なことを言った。
「許可も何も、それが今回の条件だ。お前は彼女の護衛をしろ。ゼイラン様の許可も下りている」
「なっ⋯⋯それを早く言えッ!」
「最初に全部説明して、お前は納得したか、獣。⋯⋯それにな、俺達は彼女自身から、気持ちを聞きたかった。なぜ魔術に関わりたいのかをな」
キリングはそう話し、ミザロと視線を合わせる。
あなたはまだ興奮が冷めやらず胸が上下していたが、ルドガーと顔を見合わせ、ようやくほっと脱力してきた。
「⋯⋯ルドガー、一緒に任務に行けるんだね」
「ああ、そうだ! 俺がいるから絶対に大丈夫だぞ、お前の初任務はうまくいく、何も心配することはない!」
さっきまで嫌だと言っていたのに、彼のこんな純粋なところが、あなたの張っていた心をいつもほぐし、笑みを引き出してくれる。
「ありがとう。頑張ろうね。⋯⋯セロさんとナザルさんもよろしくお願いします!」
目尻に涙を浮かべながら微笑むと、2人は温かい眼差しで手を上げてくれた。
こうして獣と人間、二組の奇妙な組み合わせは、初めて同じ任務へ挑むことになる。
薄灰色の制服をきっちりと着込み、あいかわらずにこりともしない端正な顔立ちをしている。
「今日ここに集まってもらったのは、俺とミザロから、皆へのこれまでの評価と今後について話をしたいからだ」
そんなことを言われ、あなた達の間に驚きと緊張が広がった。
「まず、ルドガー。最近のお前の勤務態度は、著しく改善されている。無論まだ完璧ではないが、お前の努力は認めよう。この調子で頑張ってくれ」
「あ⋯⋯ああ。わかった。精進しよう」
ルドガーは優しすぎるほどの団長の台詞に戸惑いを浮かべつつ、手応えを感じて頷いた。
そして団長は、そのままあなたへ視線を移した。
鋭い眼差しに思わず背筋が伸びる。
「そして、名無し」
「は、はい団長!」
「そう身構えなくていい。率直に言おう。君の貢献は、この団にとって計り知れないものだ。上層部からも特別報奨が出ている。遠慮なく受け取ってくれ」
そんなふうに褒められたのは初めてだったため放心した。
ルドガーはあなたの手を握り、自分のことのように嬉しそうな顔をしている。
それを見て、現実なのだと実感した。
「わあ⋯⋯あの、本当に嬉しいんですけど、そんなに大したことしてないというか。ルドガーを少しでも助けたかっただけですし。頑張ったのは彼ですから」
「君達二人ともだ。そして君なしではここまでの変化はなかった。⋯⋯そこでな、俺は君に、正式に騎士団の職員になってほしいと考えていたんだが――」
まさかの団長の勧誘に、言葉を失う。
ここは女人禁制の騎士団だが、彼らとの円滑な連携のため事務職としてぜひ採用したいという話らしい。
けれどキリングは、話の途中で向かい側にあるソファ席に目を向けた。
静かに佇む黒ローブの魔術師ミザロである。
彼は今日、お疲れなのか青白い肌の目元のクマが深かった。
「ふふ。名無しさんはあなたには渡しませんよ。彼女はルラ・パルセ魔術師団に入ってもらいますから」
「⋯⋯えぇっ! そうなんですか師匠!」
彼はあなたに向かって、にこりと受容的な笑みで頷く。
とんでもないことになってきた。
つまり団長と魔術師長のミザロから、あなたは取り合いされてるのだ。
「ど、どうしよ〜。そんな大事なこと、今言われちゃっても。ねえルドガー」
へへ、と照れ笑いしたあなたの隣で、ルドガーは背を丸めてうつむき、背中から黒いオーラを放っている。
同席しているセロもナザルも、なんとなく彼の反応は分かっているため、神妙な顔つきで静観していた。
「名無しの進路を勝手に決めるな。どういうことだ、キリング⋯⋯」
ぎりり、と奥歯を噛み、さっきまでの朗らかな空気が一転して、ルドガーは団長を睨みつけた。
「これがお前の言った条件か。俺を騙したのか⋯⋯ッ」
「最後まで話を聞け。これはお前の風呂場の建設許可への条件ではない」
これ以上何があるのかと、ルドガーの怒りは収まらない。
けれどあなたは心配する彼の気持ちがわかるため、冷静に二人の幹部に尋ねた。
「あのう、師匠なら私が魔術を勉強したいってこと知ってますよね」
「ええ、もちろん。あなたは私のもとで学ぶことを選びますよね?」
「はい⋯⋯そう出来るならお願いしたいです」
ルドガーをちらりと見ると、彼は眉間をよせ、「行くな」という顔つきをしている。
心は揺れ、きっと騎士団で働かせてもらったほうが気持ち的にも軽い気はする。
そもそも魔術師団に、力がない自分なんかが入れるのかも分からない。
それでも、せっかく誘ってもらったチャンスを棒に振るなんてことは出来なかった。
あなたには心に秘めた願いがあるのだ。
「ルドガー、ごめんね。私、魔術の勉強もっとしてみたい。まだまだ役に立たないことも分かってる。でも、いつか助けてくれた人にも恩返ししたいし、なによりあなたの隣にいて胸張れるような人間になりたいの⋯!」
ルドガーは、金色の瞳を揺り動かし、いつもはびくともしない精神が、まるで崩れ落ちていくような面持ちを見せた。
「お前はすでに立派な人間だ。どのぐらい周りを、俺のことを幸せにしてくれてるか、分かってないのか⋯? お前は魔術師団なんて入らなくていいんだ⋯⋯きっと危険がつきまとう、もしお前が危ない目にあったらどうする⋯⋯俺は、嫌だぞ⋯!!」
ルドガーはまるですがりつくように、あなたのことを抱きしめた。
他の四人の男達がいても構わず、ぎゅうっと腕の中にしまいこんで離さない。
そんな彼の強い愛を、あなたは全て分かった上で抱きしめられる。
背中に手を伸ばして、優しくさすった。
「大丈夫だよ、危険なことなんてしないから。⋯⋯たぶん。⋯⋯ですよね師匠」
お願いだからうんと言ってくれと思いミザロを見ると、彼は表情を変えずに首を傾げた。
あなたが青ざめていると、見かねたセロが口を出す。
「しねえよ、ぜってえ。だってこいつ俺より弱いんだもん。俺がまだ戦闘に出てないのに、こいつが先に出るわけねえじゃん。お前もそう思うだろ、ナザル」
「おう。名無しにはまだ30年はええよ。セロ、お前は男なんだから率先して戦場に行け」
「てめー性差別すんなッ」
二人の軽妙な援護にあなたは笑みがこぼれる。
あなたに掴まるルドガーの力は、段々と弱まっていった。そしてあなたのことを力なく見つめる。
「名無し、お前が戦場に立つなんて想像しただけで、俺は気が狂うぞ。頼む⋯⋯無茶はするな」
「うん、しないよ。大丈夫。それに誰も私にそんなこと頼まないと思うよ。まだまだ足手まといなんだから。ひとつずつ修行しないとね」
だから、もしそんなことが起こったとして、本当に何十年先かもしれない。
その時のためにも、今から頑張ろう。
そう気持ちを伝えると、次第にルドガーの反対もしぼんでいった気がした。
「さあ、では。名無しさんは正式にうちの所属になるということで。いいですねキリング」
「⋯ああ、仕方ないな。名無し、悪いが君の出来る範囲で、ルドガーやマルグとの仲介役は必要なときに引き受けてほしい。報酬はもちろん用意する」
「わかりました、任せてください!」
こうして一旦は、話が収まったかに見えたが、ミザロが冷静に段取りを続けた。
「それから、セロさんとナザルさんの評価ですが」
「えっ。いや、もういいんじゃないですかね。今綺麗なとこでまとまったし。俺らのことはスルーしてくださいよ、任務で小金貰えれば全然OKなんで」
セロが嘘くさい笑顔を向けると、格上のミザロはそれを上回る笑顔で返した。
「いえいえ、そんな謙遜しないでくださいよ。あなた方の、意外にもきちんとした働きぶりはちゃんとトップの私の耳にも入ってますよ。納期を守り、魔術師にありがちな自分本位な暴力行為にも走らない。さすが、守護者に飼いならされていた方ですね」
嫌味っぽく伝えると、その話題には触れたがらないセロは悔しげに言葉をのみこんだ。
「守護者の件も、側近らしき紫髪の魔術師の件も、まだ解明されてないんですよ。残念なことに。私もゼイランも、苦心して調べ回ってはいるんですがねえ⋯⋯」
普段決して自分を弱くなど見せないミザロが、わざとらしくため息を吐いてくる。
あなたは森の別荘にいたときに、守護者の情報を簡潔にミザロに報告していた。
守護者の口ぶりからも、むしろ自分を見つけてほしい的な雰囲気も感じてるし、あなたもそうしたいからだ。
しかしそれでも、師の言うように調査は難航してるらしかった。
「フフ。まああなた方にもう情報を吐けなんていう脅しはしませんよ。これは我々への挑戦状ですからね。⋯⋯ですが、これまでの初歩的な任務は、さすがにセロさんたちには簡単すぎたようです」
ミザロはとくに赤髪の獣ナザルを、観察するようにじろりと見やった。
「なのでセロさん、ナザルさん、名無しさん。あなた方三人は、これから新たな任務に出向いてもらいます」
そう命令が下されたとき、あなたが驚愕すると同時に、机が大きく拳で叩かれた。
「ふざけるな!! お前、俺の話を聞いていたか!? 名無しは危険な任務には参加しないッ!」
憤怒で獣化しそうなほどのルドガーに、あなたは立ち上がって腕を握る。
「落ちついてルドガーっ、血管切れちゃうよ!」
「もう切れている! こいつらはダメだ、嘘つきの詐欺師だ!! 信じるな名無し! どうせお前を散々利用して捨てるんだッ!」
彼の激情をどうにか止めようとしていると、ミザロは立ち上がった。
珍しく能動的な男の挙動に、皆はいったん引く。
キリングでさえも、一瞬身構えた。
「はあ。勤務態度が少しはよくなったとはいえ、やっぱり獣ですね。⋯⋯ルドガー、最も大事なのは、名無しさんの意思では?」
ルドガーはあなたのことを出されると、弱い。もう感情がぐちゃぐちゃな様子で振り向いた。
「ええと、師匠⋯⋯それ、どんな任務なんですか?」
「任務内容は後から伝えます。ちなみにこの任務に三人が合格すれば、本当にルラ・パルセ魔術師団に加入が認められますよ」
「えっまだしてなかったのかよ!」とセロが叫ぶも、あなたの意思はさらにメラメラと燃えていった。
条件を突きつけられ、自分の前に初めて、越えなければならない高い壁を感じたのだ。
「私やります。絶対に任務を成功させて、魔術師になるんです」
「名無し⋯⋯っ」
「ルドガー、止めないで。私はこの世界で、これからもあなたと一緒に生きていきたいの。守られるだけじゃなくて、私も万が一のときに、あなたを守れるようになりたい。⋯⋯本気だよ。だって、あなたのことを誰よりも愛してるから。私達の生活を、守っていきたいから!」
それはずっと心にあった強い気持ちだ。
ルドガーはあなたの手に、自分の手を伸ばした。寂しさも深い愛情も、すべてが混ざり合った眼差しで。
彼の大きな手に握られて、あなたは心が落ち着く。この手の温もりのためなら、なんだってできるし、してみせると思った。
そんなやる気が、小さな体から溢れ出そうになっていく。
ルドガーは肩を落としうなだれる。
その時間は長かった。
だが、やがて彼は決心したように頭を上げた。
「わかった⋯⋯お前の気持ちを、俺も支える⋯⋯応援するぞ、名無し。だが⋯⋯俺もその任務に同行する!」
「ええぇっルドガーっ!?」
「いいだろう団長。許可しろ。しなければ俺は全ての任務を放棄するぞ」
滅茶苦茶なことを言い出して皆は混乱した。
だがそのぐらい、ルドガーにとってあなたという存在は、第一に優先されるのが当然なのだ。
キリングはじっと彼を見つめたが、意外なことを言った。
「許可も何も、それが今回の条件だ。お前は彼女の護衛をしろ。ゼイラン様の許可も下りている」
「なっ⋯⋯それを早く言えッ!」
「最初に全部説明して、お前は納得したか、獣。⋯⋯それにな、俺達は彼女自身から、気持ちを聞きたかった。なぜ魔術に関わりたいのかをな」
キリングはそう話し、ミザロと視線を合わせる。
あなたはまだ興奮が冷めやらず胸が上下していたが、ルドガーと顔を見合わせ、ようやくほっと脱力してきた。
「⋯⋯ルドガー、一緒に任務に行けるんだね」
「ああ、そうだ! 俺がいるから絶対に大丈夫だぞ、お前の初任務はうまくいく、何も心配することはない!」
さっきまで嫌だと言っていたのに、彼のこんな純粋なところが、あなたの張っていた心をいつもほぐし、笑みを引き出してくれる。
「ありがとう。頑張ろうね。⋯⋯セロさんとナザルさんもよろしくお願いします!」
目尻に涙を浮かべながら微笑むと、2人は温かい眼差しで手を上げてくれた。
こうして獣と人間、二組の奇妙な組み合わせは、初めて同じ任務へ挑むことになる。
