巨体の人外に助けられて世話される話
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森の暮らしから騎士団へ帰ってきて、また日常が始まる。
あなたは近頃ルドガーにまとわりつき、ベタベタすることが多くなっていた。
「おかえりルドガー、今日早いね。嬉しい〜」
「おおっ、ただいま名無し。俺も嬉しいぞ。…最近お前からのスキンシップがもっと増えてるな」
あなたを抱き上げてキスしてくる彼の笑顔に、こちらも照れる。
獣のルドガーとの日々はそれは素晴らしいものだったが、やはりこうして触れ合えることは大きな喜びなのだ。
「そりゃそうだよ。あなたとイチャイチャできるし……でももふもふにも時々触りたくなるけどねぇ」
甘えるように首に手を回し、頬にちゅっとお返しする。
ルドガーは金の瞳を細め、そのどちらの愛情にも満足しているようだった。
「そうか。じゃあもうすぐお前の願いを叶えてやれるな。――よし、じゃあ明日お前に見せたいものがあるんだ。一緒に来てくれるか?」
「……えっ? うん、行く行く!」
もしかしてサプライズで獣化したルドガーにまたハグできるのかな?
なんて想像をして、あなたはワクワクした。
翌日、彼は早めに仕事から帰ってきた。
制服を脱いで私服に着替え、あなたも連れ立って騎士団領内を歩く。
まだ夕方で紫の空は明るい。
寮舎の裏とは違う、整った芝生のスペースへやって来た。
敷地の隅のほうは木々が囲み、静かな憩いの場のようだ。
そして驚いたのは、真ん中にどーんと建っている木造の小屋だった。
「わあ、こんな所あったっけ? 結構大きくて立派だね。何が入ってるんだろう?」
「俺達の風呂だぞ」
「…………ええ!?」
腕を組み、胸を張っているルドガーを二度見する。
話を聞くと、なんと彼はあなたの「獣のルドガーとお風呂に入りたい」という純粋無垢な夢を、まっすぐに受けとった。
そして、帰ってきてから十日ほどしか経ってないのに、彼は毎日一人で仕事終わりの30分を、木工作業に充てていたのだという。
「ちょっ、すごすぎだよルドガー! ほんとに自分だけで作ったのっ?」
「当然だ。俺達の風呂なんだからな。ほら、中を見てみよう」
彼は機嫌よさそうにあなたの手を握り、屋内へ招いた。
きちんと木目の揃った壁に、三角屋根の天井。そして中央には、巨大な黒石の丸い桶が置いてあった。
まさに10人以上も入れそうな、立派な石材のお風呂である。
近くには脱衣できるベンチと棚まで飾ってあり、あなたは脱帽した。
「ルドガー、あなた天才なの? 器用すぎでしょう……それに、すっごく素敵!! ありがとう、こんなに素晴らしい浴場作ってくれて!」
有言実行の彼は嬉しそうに、感涙しそうなあなたを抱きしめる。
「ほんとか? 喜んでくれて嬉しいぞ。二人の大事な時間のためなら、俺はなんでもしよう」
二人は愛と感動に包まれて抱擁を交わし、見つめ合った。
ふと、あなたに疑問が下りてくる。
「ねえねえ、でもここって騎士団内だよね? こんな場所に作っちゃって大丈夫かな?」
「それも大丈夫だ。ちゃんと団長に許可をもらった」
「うそ! あの厳しそうな団長さんが?」
あなたはにわかには信じられなかった。
きちんと段取りを行ったルドガーもとても偉いが、なんでも団長には条件付きで、ここに風呂場を建設する許可を得たらしい。
あなたは条件という言葉に少し不穏を感じたけれど、彼は気にしていないようだった。
二人は外に出て、寄り添いながら小屋を眺めている。
「きっと俺の任務関連のことだろう。もっと働けとか、そういうことだ。問題ない」
「そうなのかなぁ。お風呂はとっても嬉しいけど、無理しないでよルドガー。体が一番大事だからね」
「分かってる。大丈夫だ、名無し」
あなたを隣で見下ろし、優しく頭を撫でられて、彼の腕に手を絡ませた。
すると後ろから、突然不穏な気配を感じた。
あなたがバッと振り向くと、そこには平凡な顔立ちの黒髪の青年が立っていた。
ひとりでニヤつき、あなた達を好奇の瞳で見てくる。
「なんだ、セロさんか。こんばんは〜。お久しぶりですね」
「おう。久々だな。お前らが妙な特別休暇で突然消えてる間に、さっそく俺も任務に出てたんでな。……あ〜いいよなぁ、あいつの毛も抜けねえかなぁ」
いつもの軽口を叩き、ゆるい普段着で近づいてくる。
ルラ・パルセ魔術師団に正式に加入したセロと赤髪ナザルは、もう依頼を受けてデビューしていたらしい。
「そんなに大変だったんですか? 初任務って」
「いいや全然。街の人助けみたいなもんだよ。下っ端がやるやつだな、俺等を馬鹿にしやがって。でも弱く見せといたほうが得だし。期待されると困るからさぁ〜」
ははっと上から目線で笑いながら、あなたに自慢をしてくる様子だ。
けれどルドガーはいつもの調子で腕を組み、セロをじろりと見下ろした。
「お前は実際弱いだろ。ナザルはどうした?」
「うっせぇ! お前基準なら誰でもよええわ! ……あーあいつか。知らね。女でも漁ってんだろ。金入ったからな」
興味なさそうに教え、セロの関心はあなたたちの背後にある小屋に向かった。
彼はこれを見に来たのだ。
「ていうかよ、お前らほんとにやりたい放題だな。こんなとこに風呂なんか作りやがって。特別扱いはいいよなぁ。……おっすげえ、大浴場じゃねえか! んで、水はどうすんだ? なんかアテあんのか?」
まるで営業マンのように巨体のルドガーと小柄なあなたの真ん中に入ってくる。
「そっか、まだお水の問題があったよね。ルドガー、どうする? 私には見当もつかないんだけど」
寮舎の水回りのように、水道の蛇口をどこからか借りてホースを使い、水を貯めるのはできるかもしれない。
しかしどうやって温めればいいのだろう。
「水の中に炎魔石を入れればいい。そうすると温かい湯になる」
「あーそれね、いい案だけど、ものすごく高くつくぞ。しかもこんな巨大な浴槽だとなぁ〜週1回でも月に12000フロンかかるだろうなー」
「……えっ!? そんなに?」
ルドガーの稼ぎは知らないが、食事を作ったり家事をしたり、家計を守る一端を担うあなたは震撼した。
自分のわがままのせいで、生活に負担が出るのは避けたいことだ。
「そのぐらいの金、なんでもない。俺が1回の任務でどれぐらい稼いでいるのか知ってるのか?」
「はぁ? いきなりマウント取ってくるわけこの獣。でもお前、節約は大事だと思わないか? 女連れっていうのはな、何かと金がかかるもんだ。……そこでだ! 俺が知り合いのよしみとして、お前らに月々7000フロンでお湯をわかしてやろう!」
あなたはその金額の差に、すぐに目を輝かせてしまった。
「えっ……? そんなにお安くなるんですか?」
「おうよ奥さん。絶対俺に頼んだほうがお得だね。実は俺、手からお湯出せるから。ほら見てみろ。特別に体験させてやる」
彼はそう言って手のひらを上に向け、あなたに向かって結構強い水流のお湯をかけた。
「きゃあっ。ほ、ほんとだ。温かいお湯が出てる……すごいよルドガー! 魔術師ってこんなこともできるのっ?」
「名無し。簡単に信じるな、魔術師は詐欺師だ」
ルドガーがあなたをかばい、服の袖で濡れたとこを拭いてくれている。
しかし、セロの手から水魔法が発現し、お湯が作られたのは彼も確かに目視していた。
「ふん。まあ試しに1回やってみろ。それが上手くいけば、月々の契約を考えてやらなくもない。だが異常が発生したらすぐにおしまいだ。お前の命も危ぶまれるからな、覚悟しとけよ」
「はいはい。なんで風呂ひとつで命まで脅かされなきゃいけねんだよ。……まあいっか、貴重な副収入だぜ〜」
彼は両拳を握って喜び、見事営業に成功していた。
「本当にいいの? お金かかっちゃうよ、ルドガー」
「大丈夫だ。手近で済ませられるなら越したことはないしな。それにあいつは腐っても魔術師として生きてきたやつだ。そのぐらいできるだろう」
彼は目を光らせていたが、セロのことをなんだかんだ認めているようだった。
あなたは自分の手を見て、ぽつりとこんなことを思う。
もし自分も彼みたいに手からお湯が出せたらな。
二人の生活にも役立つし、ルドガーも素直に喜んでくれるかもしれない。
魔界に来てからすでに芽生えていた「自分も力になりたい」という想いが、むくむくとさらに大きくなっていくのを感じた。
あなたは近頃ルドガーにまとわりつき、ベタベタすることが多くなっていた。
「おかえりルドガー、今日早いね。嬉しい〜」
「おおっ、ただいま名無し。俺も嬉しいぞ。…最近お前からのスキンシップがもっと増えてるな」
あなたを抱き上げてキスしてくる彼の笑顔に、こちらも照れる。
獣のルドガーとの日々はそれは素晴らしいものだったが、やはりこうして触れ合えることは大きな喜びなのだ。
「そりゃそうだよ。あなたとイチャイチャできるし……でももふもふにも時々触りたくなるけどねぇ」
甘えるように首に手を回し、頬にちゅっとお返しする。
ルドガーは金の瞳を細め、そのどちらの愛情にも満足しているようだった。
「そうか。じゃあもうすぐお前の願いを叶えてやれるな。――よし、じゃあ明日お前に見せたいものがあるんだ。一緒に来てくれるか?」
「……えっ? うん、行く行く!」
もしかしてサプライズで獣化したルドガーにまたハグできるのかな?
なんて想像をして、あなたはワクワクした。
翌日、彼は早めに仕事から帰ってきた。
制服を脱いで私服に着替え、あなたも連れ立って騎士団領内を歩く。
まだ夕方で紫の空は明るい。
寮舎の裏とは違う、整った芝生のスペースへやって来た。
敷地の隅のほうは木々が囲み、静かな憩いの場のようだ。
そして驚いたのは、真ん中にどーんと建っている木造の小屋だった。
「わあ、こんな所あったっけ? 結構大きくて立派だね。何が入ってるんだろう?」
「俺達の風呂だぞ」
「…………ええ!?」
腕を組み、胸を張っているルドガーを二度見する。
話を聞くと、なんと彼はあなたの「獣のルドガーとお風呂に入りたい」という純粋無垢な夢を、まっすぐに受けとった。
そして、帰ってきてから十日ほどしか経ってないのに、彼は毎日一人で仕事終わりの30分を、木工作業に充てていたのだという。
「ちょっ、すごすぎだよルドガー! ほんとに自分だけで作ったのっ?」
「当然だ。俺達の風呂なんだからな。ほら、中を見てみよう」
彼は機嫌よさそうにあなたの手を握り、屋内へ招いた。
きちんと木目の揃った壁に、三角屋根の天井。そして中央には、巨大な黒石の丸い桶が置いてあった。
まさに10人以上も入れそうな、立派な石材のお風呂である。
近くには脱衣できるベンチと棚まで飾ってあり、あなたは脱帽した。
「ルドガー、あなた天才なの? 器用すぎでしょう……それに、すっごく素敵!! ありがとう、こんなに素晴らしい浴場作ってくれて!」
有言実行の彼は嬉しそうに、感涙しそうなあなたを抱きしめる。
「ほんとか? 喜んでくれて嬉しいぞ。二人の大事な時間のためなら、俺はなんでもしよう」
二人は愛と感動に包まれて抱擁を交わし、見つめ合った。
ふと、あなたに疑問が下りてくる。
「ねえねえ、でもここって騎士団内だよね? こんな場所に作っちゃって大丈夫かな?」
「それも大丈夫だ。ちゃんと団長に許可をもらった」
「うそ! あの厳しそうな団長さんが?」
あなたはにわかには信じられなかった。
きちんと段取りを行ったルドガーもとても偉いが、なんでも団長には条件付きで、ここに風呂場を建設する許可を得たらしい。
あなたは条件という言葉に少し不穏を感じたけれど、彼は気にしていないようだった。
二人は外に出て、寄り添いながら小屋を眺めている。
「きっと俺の任務関連のことだろう。もっと働けとか、そういうことだ。問題ない」
「そうなのかなぁ。お風呂はとっても嬉しいけど、無理しないでよルドガー。体が一番大事だからね」
「分かってる。大丈夫だ、名無し」
あなたを隣で見下ろし、優しく頭を撫でられて、彼の腕に手を絡ませた。
すると後ろから、突然不穏な気配を感じた。
あなたがバッと振り向くと、そこには平凡な顔立ちの黒髪の青年が立っていた。
ひとりでニヤつき、あなた達を好奇の瞳で見てくる。
「なんだ、セロさんか。こんばんは〜。お久しぶりですね」
「おう。久々だな。お前らが妙な特別休暇で突然消えてる間に、さっそく俺も任務に出てたんでな。……あ〜いいよなぁ、あいつの毛も抜けねえかなぁ」
いつもの軽口を叩き、ゆるい普段着で近づいてくる。
ルラ・パルセ魔術師団に正式に加入したセロと赤髪ナザルは、もう依頼を受けてデビューしていたらしい。
「そんなに大変だったんですか? 初任務って」
「いいや全然。街の人助けみたいなもんだよ。下っ端がやるやつだな、俺等を馬鹿にしやがって。でも弱く見せといたほうが得だし。期待されると困るからさぁ〜」
ははっと上から目線で笑いながら、あなたに自慢をしてくる様子だ。
けれどルドガーはいつもの調子で腕を組み、セロをじろりと見下ろした。
「お前は実際弱いだろ。ナザルはどうした?」
「うっせぇ! お前基準なら誰でもよええわ! ……あーあいつか。知らね。女でも漁ってんだろ。金入ったからな」
興味なさそうに教え、セロの関心はあなたたちの背後にある小屋に向かった。
彼はこれを見に来たのだ。
「ていうかよ、お前らほんとにやりたい放題だな。こんなとこに風呂なんか作りやがって。特別扱いはいいよなぁ。……おっすげえ、大浴場じゃねえか! んで、水はどうすんだ? なんかアテあんのか?」
まるで営業マンのように巨体のルドガーと小柄なあなたの真ん中に入ってくる。
「そっか、まだお水の問題があったよね。ルドガー、どうする? 私には見当もつかないんだけど」
寮舎の水回りのように、水道の蛇口をどこからか借りてホースを使い、水を貯めるのはできるかもしれない。
しかしどうやって温めればいいのだろう。
「水の中に炎魔石を入れればいい。そうすると温かい湯になる」
「あーそれね、いい案だけど、ものすごく高くつくぞ。しかもこんな巨大な浴槽だとなぁ〜週1回でも月に12000フロンかかるだろうなー」
「……えっ!? そんなに?」
ルドガーの稼ぎは知らないが、食事を作ったり家事をしたり、家計を守る一端を担うあなたは震撼した。
自分のわがままのせいで、生活に負担が出るのは避けたいことだ。
「そのぐらいの金、なんでもない。俺が1回の任務でどれぐらい稼いでいるのか知ってるのか?」
「はぁ? いきなりマウント取ってくるわけこの獣。でもお前、節約は大事だと思わないか? 女連れっていうのはな、何かと金がかかるもんだ。……そこでだ! 俺が知り合いのよしみとして、お前らに月々7000フロンでお湯をわかしてやろう!」
あなたはその金額の差に、すぐに目を輝かせてしまった。
「えっ……? そんなにお安くなるんですか?」
「おうよ奥さん。絶対俺に頼んだほうがお得だね。実は俺、手からお湯出せるから。ほら見てみろ。特別に体験させてやる」
彼はそう言って手のひらを上に向け、あなたに向かって結構強い水流のお湯をかけた。
「きゃあっ。ほ、ほんとだ。温かいお湯が出てる……すごいよルドガー! 魔術師ってこんなこともできるのっ?」
「名無し。簡単に信じるな、魔術師は詐欺師だ」
ルドガーがあなたをかばい、服の袖で濡れたとこを拭いてくれている。
しかし、セロの手から水魔法が発現し、お湯が作られたのは彼も確かに目視していた。
「ふん。まあ試しに1回やってみろ。それが上手くいけば、月々の契約を考えてやらなくもない。だが異常が発生したらすぐにおしまいだ。お前の命も危ぶまれるからな、覚悟しとけよ」
「はいはい。なんで風呂ひとつで命まで脅かされなきゃいけねんだよ。……まあいっか、貴重な副収入だぜ〜」
彼は両拳を握って喜び、見事営業に成功していた。
「本当にいいの? お金かかっちゃうよ、ルドガー」
「大丈夫だ。手近で済ませられるなら越したことはないしな。それにあいつは腐っても魔術師として生きてきたやつだ。そのぐらいできるだろう」
彼は目を光らせていたが、セロのことをなんだかんだ認めているようだった。
あなたは自分の手を見て、ぽつりとこんなことを思う。
もし自分も彼みたいに手からお湯が出せたらな。
二人の生活にも役立つし、ルドガーも素直に喜んでくれるかもしれない。
魔界に来てからすでに芽生えていた「自分も力になりたい」という想いが、むくむくとさらに大きくなっていくのを感じた。
